2022年08月08日 | 更新日: 2024年03月15日
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セリタ vs ETA:ムーブメント製造におけるイノベーションとその歴史・評価

Chrono24
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ETAと共にセリタは最も重要で有名な機械式時計ムーブメントメーカーといえる。タグ・ホイヤー、ジン、オリスなど多くの人気ブランドが、スイスのラ・ショー・ド・フォンで設計・製造されたセリタ製ムーブメントに信頼を置いている。今回Chrono24マガジンは、幸運にもセリタのイノベーション・マーケティング責任者、セバスティアン・チャルモンテ博士に話を伺う機会を得た。さらには、私たちChrono24のSNSでファンの皆さまから寄せられた質問にも答えてもらうことができた。セリタ製ムーブメントはETA社製と同じくらい優れたものなのか、ムーブメントメーカーは互いをどれぐらい意識しているのか、セバスティアン・チャルモンテ博士の意見を聞いてみることにしよう。ちなみに、クロノグラフファンである彼は、自身で1000本以上の腕時計をコレクションしており、セリタの時計業界における最新のイノベーションとチャレンジについても説明してくれた。

セリタが発明した革新的な時計技術とは?

セバスティアン・チャルモンテ博士(以下、チャルモンテ):セリタは70年の歴史を持つため、これまでの特許やイノベーションを全て説明すると長くなりすぎます。しかしセリタが特別なのは、ムーブメント自体のイノベーションだけではなく、生産手段のイノベーションも扱っている点です。つい最近のイノベーションで私が非常に誇りに思っているものは、フライバック・コラムホイール・クロノグラフです。これは業界内でも非常にユニークなものです。これによって時計メーカーは、ムーブメントがすでに針もセットされケースに収められた後で、ムーブメントのスムーズさを調整できるのです。これはすでに機能しているムーブメントを調整できるので、非常に便利です。機械式クロノグラフに共通する問題は、常にパワーリザーブとスムーズさの間で調整をしなければならないこと。弊社のこのシステムを使えば、微細な調整を行い、ムーブメントを顧客の好みに合わせて適応させることができるのです。   

TAG Heuer uses the Sellita SW1000 movement in its Calibre 9 watches.
タグ・ホイヤーはセリタ SW1000ムーブメントをキャリバー9の時計に使用している。

ETAとセリタのムーブメントはなぜそっくり?その歴史と評価に迫る。

チャルモンテ:セリタがETAのコピーを作ると思われている理由を理解するために、少々歴史の説明から入りましょう。ETAは1950年に創業しており、その時はムーブメントメーカーとは異なるキットメーカーでした。当時、キットは組み立てられていない状態で届き、購入者は使用する前に自分で組み立てて、脱進機などの追加部品を付け加えるなどする必要がありました。ムーブメントメーカーは一切調整不要で、そのまま時計に組み込める完成したムーブメントを提供することが一般的でした。2000年代初頭までは、ETAはキットを製造し、セリタはこれらのキットを組み立てて最終的にできあがったムーブメントを販売していました。そしてスウォッチグループがこれまでとは異なり、ETAは完全サービスの時計ムーブメントメーカーになるべきとの決断を下します。これにより、セリタは問題を抱えました。弊社はETAという主要なキットサプライヤーを失いましたが、まだクライアントがいましたし、これまでに培った業界知識を持っていました。そのために弊社は自社のビジネスモデルを根本的に変えることができたのです。というわけで、以前のセリタムーブメントはETAムーブメントのコピーではなく、ETAから提供されたパーツをセリタで仕上げたものだったのです。今では、弊社は完全に独立したフルサービスの時計ムーブメントサプライヤーとして活動しています。  

The movement of the Oris 65 series is based on a Sellita movement.
オリス 65シリーズのムーブメントはセリタムーブメントをベースにしている。

セリタとETAのムーブメント、その品質に差はあるのか?

チャルモンテ:品質という点に関して言えば、弊社はETAと同等です。しかし、顧客には選択の自由があり、どちらの品質レベルを選ぶのかは、私たちが決めることではありません。弊社にはたくさんの異なる仕上げレベルの製品があり、スタンダードなムーブメントには若干ラフな仕上げのものも、ハイエンドなモデルもあります。そのレベルの違いは言うまでもなく価格に反映されます。もし若干ラフな仕上げのセリタ製ムーブメントを搭載した時計がいくつかあるとしても、それは弊社の生産品質の一般的なレベルの証明にはなりません。顧客の一部は、過去に最低価格を求めるためによりラフな仕上げのものを注文する傾向にあったのです。  

パワーリザーブをめぐる、セリタとETAの激しい競争について。

チャルモンテ:私たちは常にムーブメントのパワーリザーブに取り組んでいます。SW300は今ではパワーリザーブが42時間から56時間になり、自動巻クロノグラフは40時間が62時間になる、という具合に常に自社のムーブメントを改良して、できうる限り最高のパワーリザーブを達成しようと努力しています。弊社で現在製造している最新ムーブメントのほとんどは、少なくとも80時間のパワーリザーブを誇っています。弊社ではまた、SW200のようなスタンダードなムーブメントのパワーリザーブを、現行の40時間から最低62時間へと引き上げようとしています。  

セリタ製ムーブメントの製造拠点と、その未来。

チャルモンテ:セリタは製品をスイスのラ・ショー・ド・フォンで製造しています。時計作りがスイス国内で行われ続けていくことを願いたいものです。これは別に時計メーカー自身がスイス産でなくてはならないという意味ではありません。しかしスイスは、他の多くの産業が国外へと移ってしまったにもかかわらず、過去数十年以上の間、時計作りにおいて重要な地であり続けてきました。私たちは世界中から時計作りに対する情熱を持つ人々を惹きつけ、同じ品質と価値を保つことができているのです。  

Sellita movements are produced in La Chaux-de-Fonds, Switzerland.
セリタ製ムーブメントはスイスのラ・ショー・ド・フォンで製造されている。

ハミルトン、ティソなどに使用される人気のキャリバー、ETAパワーマティック80。セリタはその対抗馬を開発するのか。

チャルモンテ:その答えは、イエスであり、ノーでもあります。もちろん、弊社にはいくつかの自動巻ムーブメントがありますし、引き続き自社キャリバーのパワーリザーブを改良しています。ETAのパワーマティック80によって、入門レベルの顧客向けに、非常に手頃な価格で長時間のパワーリザーブを持つ時計を作ることが可能になりました。しかし私たちは、ETA パワーマティック80のコピーあるいはそれに似たものを作ろうとは考えていません。私たちもまたパワーリザーブにフォーカスしてはいますが、全く違うデザインを考えています。私たちのプランは、モダンなムーブメントがどうあるべきかを体現する、新しい世代のムーブメントを作り出すことです。  

最後に、セリタにとっての次なる挑戦とは?

チャルモンテ:最大の挑戦は、異なる優先事項をまとめることでしょうか。一方で、顧客は常により手頃なムーブメントを求めています。それに対して、私たちは常にパワーリザーブという点だけでなく、正確性という点においても品質を改善しようとしています。加えて、私たちはより持続可能な生産モデルを構築しようと、またより多くのものをリサイクルしようと取り組んでいます。イノベーションは私たちの日常的なビジネスです。弊社は新しい複雑機構を作り出す方法を探すか、あるいは既存の機構の信頼性を上げる方法を探すかしているのです。私たちは腕時計の使用事例にも非常に注目しており、業界全体の問題を解決する方法を探っています。  


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