2021年03月25日
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「ドイツ製」時計ブレスレット: アリスト フォルマー訪問

Tim Breining
「ドイツ製」時計ブレスレット: アリスト フォルマー訪問

「ドイツ製」時計ブレスレット: アリスト フォルマー訪問

ドイツ時計産業のサプライヤーはどのような状況にあるのだろうか、としばしば考えることがある。時計の生産地に関する議論のほとんどが最終組立とムーブメントの製造が行われた場所を巡るものであるのに対し、残りのコンポーネントがどこで作られたのかについて注目が集まることはほとんどない。ケースや文字盤、リューズ、ブレスレットがどこで作られたのか、などが問われることは稀で、時計ブランドはサプライヤーに関する情報を必ずしも進んで提供しない。いずれにせよ顧客があまり関心を持っていないため、時計産業が密かに安価な輸入製品を使用しているのではないかと考える人もいるかもしれない。 

しかし、賃金の高いドイツに拠点を置き続け、品質にこだわる顧客のために高品質なコンポーネントを製造する会社はまだ存在している。これらの会社は私たちが愛する製品のために重要な役割を果たしているにも関わらず、ルポルタージュや記事の焦点になることはほとんどない。そのため、私はアリスト フォルマー社の社長であるハンスヨルグ・フォルマー氏を取材するために、プフォルツハイムにある生産施設を訪れた。 

アリスト フォルマーについて

アリスト フォルマーは時計ブランドであり部品サプライヤーでもある。同社はメタルブレスメーカーとして約100年の歴史を持っており、現在のオーナーの祖父によって1922年に創業された。 

プフォルツハイムの工場では異なるタイプのメタルブレス、とりわけメタルメッシュブレス (ミラネーゼブレス)、およびステンレス製、チタン製、そして同社が得意とするカーボン製のリンクブレスが製造されている。また、同社はアリスト、メッサーシュミット、エルブプリンツというブランド名で時計も製造および販売している。 

この記事の第1部では、ブレスレット製造に関する私の印象をお伝えする。それに続き、どのようにして時計ブランドとサプライヤーの組み合わせが生まれたのかという会社の歴史に焦点を当て、「ドイツ製」時計の意義についてフォルマー氏と議論する。 

ブレスレット製造の見学

最初の部屋に入るとすぐに、いい意味で過去にタイムスリップしたような気分になる。ずっしりとした鋳造部品、作業台とプレス機、壁面のケーブル、さらには古い機械式タイムレコーダーなどの機器が、素晴らしい雰囲気を作り出している。 

Marcatempo meccanico
機械式タイムレコーダー

穿孔機はリンクブレスの製造用に一定の間隔でブレスレット材料のロールから部材を切り出す。一般的に、ブレスレットは無垢と半無垢に区別される。前者ではコマが無垢材だけで作られており、半無垢ブレスレットのコマは内部が空洞になっている。無垢ブレスレットの最終的な形は、1階にある150トンプレス機によって作られる。それに対し、半無垢リンクブレスの切り出されたセグメントは最終的に組み立てられる前にさらに曲げたり、成形したりする必要がある。 

Ausgestanztes Bandmaterial
切り出されたブレスレット材料
150 t-Presse
150トンプレス機

フォルマーはバングルタイプのブレスレットも製造している。これは材料厚が3mmの硬いステンレスの一枚板から作られており、曲げ機で一定の直径にされる。このタイプのブレスレットはクラスプ周りのコマを取り外す、または追加することで長さを調整できる。 

Glieder eines Bandes in Rollo-Optik
ブラインドのような外観を持つブレスレットのコマ

アリスト社の職人はプレス機を用いた手作業で、クラスプ (およびアリスト時計のケース裏蓋) にロゴと文字の刻印を付けている。隣接する工具倉庫には広範な工具のストックが用意されており、さらにリンクブレス用の原料 (業界用語では中間材料とも呼ばれる) が保管されている材料倉庫も置かれている。ここに保管されているのは主にスチールとチタンであるが、真鍮やジャーマンシルバー、シルバーなどもある。 

メッシュブレス用の材料はロール状で供給される。この材料はその後一定のサイズに切断され、さらに加工される。もしこれで終わりだと思ったならば、それは大間違い。ラグを取り付けるのも一苦労なのだ。メッシュブレスにバネ棒を入れるための穴を開けることは難しい。そのため、個別のラグがメッシュの厚みに応じて手作業でスポット溶接、またははんだ付けされる。 

Das Werkzeuglager
工具倉庫

フォルマーが得意とし、同社の売りでもあるのは間違いなく炭素繊維複合材製カーボンブレスである。同社は数年にわたる開発プロジェクトにおいて時計および時計ブレスレットにおける炭素繊維複合材の使用を研究し、その結果が製品化への道をつけた。 

カーボンブレス用の中間材料は、いわゆるプリプレグ (前もって樹脂を含浸させた材料) として筒状でフォルマー社に届けられる。プリプレグの利点は、機械を使用してさらに加工することができ、自社でコストのかかる処理設備を必要としないこと。プリプレグは切断され、ピン用のガイド穴が開けられる。アリストは必要に応じてブレスレットを2つのタイプで仕上げている。1つは主に湾曲した部品を用いたバングルタイプ。もう1つは追加のスチール製コマを取り付けたタイプ。後者は高い可動性を持っているが、より手間がかかるため、その分高額になる。 

Band aus poliertem Edelstahl und Carbon
ポリッシュ仕上げのステンレスとカーボンで作られたブレスレット

次の部屋にはいくつかの作業台が置かれており、続く組立工程が行われる。この組立工程には先述したブレスのはんだ付けや研磨、および、つや出しが含まれている。ブレスレットに文字通り最後の磨きをかける前に、部品はドラム内でデバリングされる。異なる粒度と性質の研磨顆粒を加えることで、望みの効果を部材と素材に応じて調整することができる。 

Schleifgranulate verschiedener Geometrie und Körnung
異なる形状と粒度の研磨顆粒
Polierstation
研磨ステーション

フリーハンドで仕上げられる高光沢研磨もしくはつや出しは、興味深いことにカーボンブレスの表面にもかけることができ、フォルマー氏がその場で自身の時計を用いて実演してくれた。 

アリスト ― アリスト フォルマー社の時計ブランド

Aristo 7H95 mit Carbonzifferblatt
カーボンダイヤルを搭載するアリスト 7H95

ブレスレット製造を一通り見学した後、私たちが次に向かったのはアリスト フォルマーの時計製造。時計製造が行われている部屋は建物の1階にあり、ここで自社ブランドであるアリスト、メッサーシュミット、エルブプリンツの時計が作り出されている。 

ここで湧く当然の疑問、それは同社が一方で時計用部品を製造しながら、他方で自社の時計ブランドを市場に展開しているのはなぜなのかということ。このユニークな組み合わせは、2000年以前に顧客がだんだんと減少していったことをきっかけとしている。時計メーカーに部品を供給していたフォルマーおよびその他のサプライヤーの多くは、これらの取引先に大きく依存していた。日本メーカーの台頭と、かつての大手プライベートブランドの衰退によって、プフォルツハイムのサプライヤーの多くは顧客を失った。その後、スイスの老舗ブランドは巧みなマーケティングと広く知られた歴史によって復活を遂げたが、プフォルツハイムでは第一に時計の製造に重点が置かれた。 

フォルマーは自社ブランドを第二の柱とすることで自社製品の供給先を確保し、それによってサプライヤーとしても変化した市場で持ちこたえられることを悟った。そして1998年、同社はかつての長年の取引先であり、すでによく知られていたブランドでもあるアリストの買収を決めた。これは十分にうなずける決定であった。なにしろアリストには1930年代にすでにフォルマー社のブレスレットが供給されていたのだ。第二次世界大戦の時代のアリスト パイロットウォッチは現在でも人気のコレクターズアイテムである。 

というわけで、私が次に来たのはアリストの時計組立を行うコンパクトな部屋。ここには自社ブランドであるアリストの部分組立モデルおよび完成モデルがたくさん置かれており、パッド印刷機を使用して未加工の文字盤にロゴと文字の刻印を付けることができる。また、アリストはパイロットウォッチを「ノーブランド」、つまりロゴなしでも提供しており、これはパイロットウォッチの純粋なデザインを楽しみたいファンに評価されている。手頃な価格帯の時計でETAまたはセリタムーブメント以外の選択肢を探しているのであれば、非常に新しくあまり目にすることのないスイス製ムーブメント、ロンダ R150を搭載するアリストモデルをチェックしてみるといいだろう。 

ドイツのサプライヤー産業について: ハンスヨルグ・フォルマー氏にインタビュー

見学後、私はブレスレット・時計ショールームでフォルマー氏と落ち合い、時計部品サプライヤーであり時計ブランドでもあるアリスト フォルマー社の特別な立ち位置について話を伺った。フォルマー氏は社長であるだけでなく、WPG (Watchparts from Germany) の会長も務めている。この協会には時計業界の多くのドイツサプライヤーが名を連ねており、「ドイツ製」品質を保証し、宣伝している。ドイツのサプライヤー産業の状況についてこの記事の最初に投げかけた問いに答えられる、彼以上の適任者がいるだろうか。 

私たちはまず一般的な「ドイツ製」時計の魅力と、ドイツサプライヤーから部品を仕入れることに関して、時計ブランドにおける反響がどれほどポジティブであるかについて話をした。しかし、前置きしておかなければいけないのは、「ドイツ製」の厳密な定義があるわけではないこと。それは少なくとも部品から「時計が最高品質で組み立てられる」ことを意味している、とフォルマー氏は言う。その場合に部品が必ずしもドイツ製である必要はない。 

しかし彼は、ほぼすべての部品をドイツで製造させることは可能であり、それは単にコストの問題であるとも断言する。意図的にドイツ製の部品を使用しているブランドも数多く存在するが、そのためには顧客がある程度の価値を見いだしており、とりわけ対価を支払う意思を持っていなくてはいけない。逆に、自社で消費するために製造しているだけでは決して達しない膨大な個数でしか経済的に製造できない部品は、海外で委託製造したほうがよいとフォルマー氏は考えている。そのような部品にはバネ棒や特定のクラスプなどが挙げられる。 

ケース、文字盤、ブレスレット、針、一部のガラスとリューズ、その他いくつかのコンポーネントは、今後もドイツで仕入れることができる。WPGのメンバーはこれらの製品全体をカバーしているため、ある種のフルサービス・プロバイダとして展開しないのだろうか、という疑問が自ずと胸に湧いてくる。フォルマー氏が説明するところでは、これは以前にいくつかのブランドによって試みられ、その一部は成功も収めたが、結局のところ大手ブランドは自身でサプライヤーを厳選したがることも分かった、とのことであった。 

近年グラスヒュッテ・オリジナルおよび時計メディアによって脚光が当てられた文字盤メーカーの例は、外部に依存しすぎてしまうことが好まれないことをよく示している。この文字盤メーカーもかつては独立したメーカー (Th. Müller) で、東西にドイツが分断されていた時代に、グラスヒュッテ国営時計会社に部品を供給していた。この取引関係は同社の民営化後も続き、後ほどスウォッチグループによって吸収され、最終的にグラスヒュッテ・オリジナル社に完全に統合された。それ以前、Th. MüllerもWPGのメンバーであった。  

このような大手ブランドによる吸収は、中規模企業に大きなチャンスを提供してくれる。なぜなら、それによって売上と職場をはるかに安全に確保することができるからだ。もしくは、アリストのような選択を取り、自社ブランドを作ることで確実な売上の基盤を確保することもできる。 

印象に残ったこと

アリスト フォルマーを訪れた後、私の胸にはとりわけ驚きが残っていた。長年時計業界に身を置いていたとしても聞いたことがない中規模下請け企業の多くが、まだ私たちのすぐ近くに存在しているのだ。大手時計ブランドがキャンペーンで意図的に宣伝しないことを、私たちはすぐに「重要ではない」ことと思い込んでしまう。しかし、その背後には時計メーカー自身に劣らず興味深く魅力的な会社が隠れているかもしれないのだ。ただ、それを知るためには、すべてのコンポーネントがどこで作られたのかについての情報が欠けている。透明性は、長年決して時計業界の美徳として見なされてこなかった。しかし、現在においてそれはデメリットではなく、大きな競争上の優位性であり得るのだ。特に新しいブランドはコンポーネントの仕入先に関してますます頻繁にアナウンスしており、それは顧客が情報に精通し、果てしないほど多くのブランドが存在する時代において歓迎されている。 

私は国内サプライヤーの巧みな演出において、高品質な時計のマーケティングに関するまだ多くの可能性があることを確信している。もしかしたら、これまであまり話題にされなかった中規模サプライヤーに、今後より多くの時計ファンとコレクターの注目が集まるかもしれない。 

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