2021年02月10日
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「レトロトレンド」対「デザインイノベーション」― 時計ファンは習慣の生き物?

Tim Breining
「レトロトレンド」対「デザインイノベーション」― 時計ファンは習慣の生き物?

「レトロトレンド」対「デザインイノベーション」― 時計ファンは習慣の生き物?

文字盤色はブルーからグリーンへ、時計素材はステンレスからブロンズやバイカラーへと、時計市場におけるトレンドは次々と移り変わっているが、特別に根強い人気を誇っているのがレトロデザイン。このレトロトレンドの中で各ブランドは次々と「一体型メタルブレス搭載ステンレス製スポーツウォッチ」をリリースしている。それが安価なタイメックス製クォーツ時計かA.ランゲ&ゾーネのオート・オルロジュリー ウォッチであるかに関係なく、このトレンドを無視できるブランドはいない。そして、素直に言って、ロイヤルオークノーチラスの代替モデルを求めるファンの期待を裏切ることは、経済的にも賢明とは言い難いのである。

Patek Philippe 3700
永遠の名機: パテック フィリップ ノーチラス、写真: Bert Buijsrogge

明らかに新鮮味のないトレンドについて非難することは可能だろうが、そのような議論にどのような意味があるのだろうか?それに、私自身もこのトレンドに加担している一人。この点に関して私は単純な人間で、今まで何度も見てきた「ステンレス製スポーツウォッチ」を見て、またしても「ワオ!実に素晴らしい時計だ」と思ってしまう。基本的に外見上の「陳腐さ」や後ろ向きなトレンドに非難するところはない。結局のところ、商品は売れ、メーカーも消費者も満足しているのだ。また、製品の開発が平凡であることを、トレンドの陳腐さから結論することは決してできない。

A. Lange & Söhne Odysseus
A.ランゲ&ゾーネ オデュッセウス

ここまではいいとして、他に議論すべき点はどこにあるのだろうか?おそらくお気付きの通り、ブランドは全く新しいデザインを成功させる上で大きな問題を抱えている。この点に関して、他の業界では実験的な試みに対してより開かれていると思われる。時計業界においては、近年、レトロ風デザインと復刻モデル (レトロモデルのレプリカ) が安全牌としてみなされる一方で、進歩的デザインが批判の嵐を招くことが示された。

この理由は何なのだろうか?私たち時計ファンは習慣の生き物で、同じ旧知のモデルと慣れ親しんだデザインのバリエーションを絶えず堂々巡りしているのだろうか?現在伝説的名機としてみなされている多くの時計が、発売された当時なかなか評価されなかったことを知っていながらも、新しいスタイルのデザインに対して性急な判断を下しているのだろうか?この記事では、現在支配的なレトロトレンドと、デザインにおける新しい発展への私たちの対応について批判的に見ていく。

レトロ、復刻&古艶

レトロブームには数多くのサブトレンドも含まれる。そして、時が経つとともに、レトロまたはヴィンテージとしてみなされるモデルの範囲も当然変化していく。しばらく前から人気が再熱しているのが、80年代の派手なコンビデザインだ。

Breitling Navitimer Re-Edition 1959, Image: Bert Buijsrogge
ブライトリング ナビタイマー リ・エディション 1959、写真: Bert Buijsrogge

「復刻」モデルとは、過去のモデルをわずかな細部に至るまで完璧に再現したモデルのことをいう。新作コレクションでファンから否定的な反応を受けたブライトリングなどのブランドも、このような復刻モデルによって再び批評家から好評を得ることができた。客観的に見て愚の骨頂としか思えない「古艶もどき」時計もそのようなモデルのひとつで、これは新品状態でへこみ、傷、古びた文字盤などを含む、使い古された外観を呈している。工房の職人が新品のケースにできる限り本物らしいダメージを正確に付けていく姿は、想像するだけでも滑稽ではないか。

しかし、レトロブームに関して上記の観点は単なる些細な問題。ここで無視できないのは、ロイヤルオーク / ノーチラススタイルの高級ステンレス製スポーツウォッチだ。この時計の人気は絶大で、予想もしていなかったブランドからも類似のモデルがリリースされるほど。いくつかのメーカーは古いモデルを引っ張り出し、サイズを少々調整するだけで、新作を () リリースする準備完了だ。メディアはそのような確かに成功していることが多い、復刻または再解釈されたステンレス製スポーツウォッチに対して、しばしば多大な賛辞を送っている。

暗雲が垂れ込めるのは、レトロブームに飛びつかずに、デザイン的に新しいアプローチを取ろうと試みるとき。これに関する両極端な好例を見てみよう。

新しいデザインが生まれにくい理由

Audemars Piguet [Re]Master01
オーデマ・ピゲ リマスター01
オーデマ・ピゲは今年のリリースで、私の論拠を裏付けるための素晴らしい機会を提供してくれている。非常に肯定的に受け入れられた リマスター01 クロノグラフは、一見したところ20 世紀中頃に作られた時計とほとんど見分けがつかない。この時計は大きなケース径と、全く歴史的ではない超最先端な構造を持つムーブメントによって、リマスターとしての正体を現す。このような最新式ムーブメントはリマスター01 のクラシックな外観に全くそぐわないように思われるが、それもそのはず。このムーブメントのオリジナルバージョンは非難の嵐に見舞われたコレクション「CODE 11:59 」において初めて搭載されているのだ。それによって オーデマ・ピゲがついに長年熱望してきた自社製クロノグラフムーブメントをリリースしたことは、新コレクションに関する批判の中で陰に隠れてしまった。ちなみに、このムーブメントデザインは40 年代または50 年代スタイルの時計よりも、明らかにCODE 11:59 モデルに似つかわしい。

むしろ象徴的であるのは、CODE 11:59コレクションと比較したリマスター01の受け入れられ方で、これはブランドがデザインの新境地を切り開く際に業界の人々が反応する姿を現している。この点に関して私が指摘したいことは、CODE 11:59のデザイン的功績ではない。少なくとも、私たちがここで問題とすべきは腕時計デザインの奇抜性ではなく、多くのオーデマ・ピゲファンを失望させているデザインなのである。

Audemars Piguet Code 11.59 Selfwinding, Image: Bert Buijsrogge
オーデマ・ピゲ CODE 11:59 自動巻、写真: Bert Buijsrogge

客観的に見て、新しいコレクションは大仕事である。ケースは複雑な形状を持っており、数多くの斜角面や凹部があるためその表面仕上げも同様に複雑になる。挑発的に聞こえるかもしれないが、リマスター01に対して必要であったのは、単に大昔のデザインを再利用し、リサイズし、ケース内部を最新のムーブメントに調整することだけであった。

オーデマ・ピゲにとっては大きな冒険であったCODE 11:59コレクションが引き続き失敗作として語られていることは、周知の通りだろう。それとは逆に、低リスクなレトロデザインや復刻モデル「リマスター01」は、期待通りコレクターとファンの歓声を獲得している。多くのブランドがこのローリスク・ハイリターン戦略に倣うのは当然だろう。しかし、これは私たちが新しい時計に期待することなのだろうか?計画に従って型どおりにデザインするのは、私たち愛好家がそれを求め、デザインにおける革新を受け入れないからなのだろうか?繰り返しになるが、ここで問題にしているのはCODE 11:59ではなく、大手ブランドの時計デザインにおける一般的なイノベーションの欠如なのである。少し反省し、どれだけの大手ブランドが画期的な新デザインを世に送り出してきたか、そして、レトロ風デザインや復刻モデルのリリースを好むブランドがどれだけいるのかを自問してみてほしい。おそらく、その答えははっきりしているだろう。

ファンの傲慢

機械式時計のファンは、現在「名作」と見なされている時計を発売時にどれだけ安く手に入れたか、そして当時誰もその時計を欲しがっていなかったことを喜んで語る。これはこれで、唖然としながら当時のコレクターについて驚くしかない。彼らは誰もが認める伝説的時計を目の前にしており、後はそれに手を伸ばせばよかったのだ。同時に、私たちは新作に対してすぐに成功作や失敗作の烙印を押すことができると思い上がっている。初めに失敗作として扱われ、後ほど名作として評価されるようになった無数の時計の歴史によって反証されるこの自信は、一体どこから来るのだろうか?

AP Royal Oak

例を挙げると、1972年に発表されたロイヤルオークに関して、世間ではオーデマ・ピゲがこの製品によって倒産するのではないかとまで言われていた。しかし現在は、オーデマ・ピゲ全体がロイヤルオークとそのモデルバリエーションによって支えられているといっても過言ではないのである。ロイヤルオークが個人的に好みではない、という時計ファンがいても不思議ではない。しかし、ロイヤルオークのデザインが酷く、オーデマ・ピゲが近々破産するなどと言う人は、現在どこにもいない。

1972年と現在の批判の嵐は何が違うのだろうか?20世紀中頃、「コンピューターの世界市場は一握りほど」だと言われた。もちろん私たちは後から見て当時の批評家の「明らかな」誤算をからかうことができる。しかし、私たちは過去から学ぶことができ、新作に対する反応に関して、この歴史はすでに人気のトレンドだけを頑なに追い求めるだけではない時計の、失敗と成功に関する性急な判断に慎重にならなければいけないことを教えてくれる。今日誰にも見向きされていない時計が、明日ブームを引き起こすかもしれないのだから。

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