いつか手に入れたい「聖杯たる時計」や、いわゆる「上がり時計」は時計コレクターの夢だ。しかし、この言葉は具体的にはどういう意味なのだろうか。どのような時計のことなのだろう。ここでは、時計コレクターたちのコレクションの主役としてお勧めしたい時計10本をご紹介しよう。
いつか手に入れたい「聖杯たる時計」とはどのような時計だろうか?
時計をコレクションしていくうちに、人気の掲示板やフォーラムで「グレイル・ウォッチ (聖杯たる時計)」という言葉を目にすることもあるだろう。今回はこの言葉に光をあててみよう。「聖杯」という言葉で語られる時計について、まずはこの言葉の意味からアプローチしてみたい。本来の聖杯は、イエス・キリストが最後の晩餐で弟子たちと分かち合った杯のことだ。この聖杯が備える特徴は、あなたが夢見る時計にも当てはまるかもしれない。それは絶対的な希少性、貴重な価値、そして忘れてはならない神聖な神通力だ。
あなたの「聖杯時計」は水をワインに変えることはできないとしても、あなたにとっては神聖な、本当に希少価値を持つ時計のことだ。この時計はスイスの最も伝統ある名門メーカーの製品であり、これらの特別な時計をいわゆる「雲上御三家」や「世界三大ブランド」と呼ぶことも珍しくない。御三家あるいは世界三大とはパテック・フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ・ピゲのことで、時計製造技術の絶対的なエリートとされている。雲上時計を手にするまでには、数年、数十年という時間がかかることも珍しくない。聖杯を懸命に探し続けて伝説にまでなったアーサー王のことを考えれば、うなずける。
しかし、「これこそ聖杯時計だ」などというものは存在しない。あなたの大きな夢の対象が現在の限定エディションであれ、希少なアンティークモデルであれ、どのリファレンスを時間と恐らくはお金もかけて探し求めるかはあなた自身が決めることだ。あなたの「聖杯時計」を探す旅が、『アーサー王伝説』で本物の聖杯を探し求めた王の旅のように絶望をもたらすものでないことを祈りたい。
「上がり時計」は「聖杯時計」と同じなのだろうか?
あなたの「上がり時計」には名前にこそ神聖な要素はないが、「聖杯時計」とは違うものである必要はない。この二つが同じものであるなら理想的だ。「聖杯時計」が、あなたが時計コレクターとしての生涯をかけて熱望する時計だとしたら、「上がり時計」はあなたが決して手放さない時計のことだ。恐らくあなたは子供たちにこの特別な宝物を譲り渡すことだろう。
この唯一無二の時計を手に入れるために長い時間を費やし、おそらくいくつかの時計を売買し、やっとこれからの人生を共にする完璧な時計を手にすることができた。そういう「上がり時計」は非常に希少で、そのためとても高価な時計であることが多い。例えばロレックスのデイトナ ポール・ニューマンのような時計だ。しかし、どの時計が「上がり時計」としてあなたのコレクションに加わるかを決めるのはあなただ。チューダー ブラックベイのことを、あなたのコレクションの大きな目標であり頂点となるモデルで絶対に手放すことはないと考えるならば、億万長者にならなくても、家を売らなくても、あるいは他の方法で8桁以上の金額を用意しなくても、「上がり時計」を手に入れることができる。
ここではライターのアイザック・ウィンゴールドが個人的に選んだ「いつかは手に入れたい聖杯たる時計トップ10」を紹介しよう。
パテック フィリップ Ref.5270 永久カレンダー クロノグラフ

まず始めに、パテック フィリップでも特に印象的な時計を紹介しよう。コレクターや愛好家の間では単に「リファレンス5270」と呼ばれているクロノグラフ付きパーペチュアルカレンダーだ。5270は伝説的なグランドコンプリケーションシリーズの代表的なモデルの一つであり、このモデルの特徴は同社が独自に開発したキャリバー29-535PSにある。Ref.5270はこのムーブメントが搭載された初めての腕時計だ。
かつて、クロノグラフ付き永久カレンダーには、レマニアの伝説的なキャリバーを大幅に改良したバージョンが搭載されていた。つまり、Ref.5270の登場はパテック フィリップの歴史の中でも画期的な出来事だったのだ。
A.ランゲ&ゾーネ ツァイトヴェルク
A.ランゲ&ゾーネのツァイトヴェルクは21世紀有数の優れた腕時計だが、それには理由がある。この時計の特徴は、ランゲの代表的な書体を用いたデジタル時刻表示であり、アバンギャルドでありながら伝統的な美学を感じさせる。その上、非常に視認性が高く、時間を素早く把握できる。
しかし、A.ランゲ&ゾーネの他の時計と同様に、一番の魅力はケースの裏側にある。サファイアクリスタルのケースバックからキャリバーL043.1を眺められるのだ。このムーブメントは完璧な仕上げの部品416個で構成されている。技術的にも美学的にも世界最高水準のキャリバーであり、コレクターがA.ランゲ&ゾーネというブランドに高い関心を寄せる理由の一つでもある。
ヴァシュロン・コンスタンタン トラディショナル 14デイズ トゥールビヨン

実用性があるかないかにかかわらず、トゥールビヨンに視覚的な魅力があることは疑う余地がない。トゥールビヨンは懐中時計が重力の影響で精度が下がるのを防ぐため、18世紀末に開発されたものだ。ヴァシュロン・コンスタンタンのトラディショナル 14デイズ トゥールビヨンは特にコレクターの間での人気が高い。ファンはキャリバー2260の美しさと、完璧な仕上げの部品一つひとつを崇拝している。
このムーブメントには4つの香箱が使用されており、14日間という驚異的なパワーリザーブを実現している。そのためトラディショナル トゥールビヨンは格調高いだけでなく、使用感もかなり快適なものになっている。巨額の価格を支払えるなら、の話だが。
オーデマ・ピゲ ロイヤルオーク パーペチュアル カレンダー
ジェラルド・ジェンタが史上屈指の時計デザイナーであることは間違いない。パテック・フィリップの「ノーチラス」やオーデマ・ピゲの「ロイヤルオーク」などの伝説的なデザインで高級時計に独自のカテゴリーを確立した。また、ケースやブレスレットの素材としてステンレススチールをオートオルロジュリーの世界で普及させたのもジェンタだ。
ロイヤルオークはそもそも見事な時計なのだが、永久カレンダー付きのバージョンはさらにもうひとつ上をゆき、「聖杯」のステータスにふさわしいものとなった。このモデルはクラシックな2針モデルの魅力を維持した数少ない永久カレンダー付きバージョンのひとつだ。しかし、これはロイヤルオークのオリジナルデザインの強みによるものでもあることも確かだ。
ジャガー・ルクルト デュオメトル クロノグラフ

投資対象としての高級時計に関しては「割安」という形容詞が比較的よく使われるが、ジャガー・ルクルト デュオメトルには特にこの表現が、他のどの時計よりも当てはまる。デュオメトル クロノグラフにはモノプッシャー クロノグラフ、いわゆるジャンピングセコンド、独立した香箱2つ、パワーリザーブ表示2つが備わっている点が特に魅力的だ。
決してお買い得というわけではないが、このようなキャリバーのメーカーで、同じような複雑系の腕時計をこの価格で見つけるのは難しいだろう。だからこそ、デュオメトル クロノグラフはオートオルロジェリーの世界に足を踏み入れたい人なら誰にとっても、魅力的な選択肢なのだ。
ロレックス デイトナRef.116506
恐らくあなたはロレックス デイトナについて様々な逸話を聞き、この時計のことはだいたいなんでも知っている。スポーツクロノグラフの分野でこのモデルは代表的な存在であり、デザインに関しては、これほどまでにアイコニックなステータスを持つ時計は他にない。そう考えると、特別なデイトナモデルが注目されるのも理解できる。50周年を記念して2013年に発表されたリファレンスナンバー115606のプラチナバージョンも例外ではない。
チョコレートブラウンとアイスブルーのコンビネーションはあまりピンとこないかもしれないが、プラチナのケースと組み合わせると、このコントラストが驚くほどいい味を出すのだ。ロレックスの現在のモデルやアンティークモデルのコレクターたちはみな、このデイトナが真に価値あるものだと認められるだろうと考えている。その価値は年を追って上がっていくに違いない。
IWC シャフハウゼン ポルトギーゼ パーペチュアルカレンダーRef.5033
昔の腕時計はかなり小さかったので、直径44mmを超えるIWC ポルトギーゼ パーペチュアル カレンダーはあなたの祖父の時代の時計のようだ、というわけではないが、古典的な永久カレンダーモデルをスタイリッシュかつモダンに解釈し直したものだ。そしてメカニカルな観点から言えば、最先端の時計だ。永久カレンダーの調整の際通常はケースサイドの埋め込み式プッシュボタンを使わなくてはならないが、この時計では各表示機能が同期し、リューズを回すだけで簡単に調整できる。
ポルトギーゼは手頃な価格で入手できる永久カレンダーを搭載した(機械式)時計の一つであり、グランドコンプリケーションの世界に足を踏み入れる最初の一歩に最適なモデルだ。
F.P.ジュルヌ クロノメーター レゾナンス
F.P.ジュルヌというブランドは1999年に設立されたばかりの若い会社だが、すでに革新的な時計を数多く発表している。F.P. ジュルヌの時計は、独自のやり方で現代の時計業界に挑戦しており、その一つが、2000年にF.P.Journeのセカンドモデルとして登場した「クロノメーター レゾナンス」だ。
このモデルの特徴は、2つのテンプが互いに共振する革新的なシステムにある。この構造によって極めて高い精度が確保されている。2つのテンプを隣り合わせに配置し、共通のテン真で繋ぐことで高い精度を実現しているのだ。共通のテン真と共振効果により、ふたつのテンプの振動数がまったく同じになっている。
MB&F レガシー・マシン LM1

2011年にMB&Fがレガシー・マシン・シリーズの発売を発表したとき、このブランドは自らの戦略を変えた。従来のモデルに比べてレガシー・マシン・シリーズは 「伝統的」な外観となっているが、デザインは他の多くの時計とは全く違う。
この種の時計が時計メディアで高く評価されることは珍しくないが、レガシー・マシンLM1の場合は、高評価を得るのは当然以外のなにものでもない。LM1が発表されるまでは、時計業界でMB&Fのような外観の時計を作る者はまったくおらず、LM1は独立系時計ブランドの間で、すぐに現代の定番となった。
10年経った今でも、LM1は発売当時と変わらぬ美しさを保ち、多くの時計メーカーにとって美的にも機械的にもインスピレーションの源となっている。MB&Fのデザイン思想はすでにしっかり確立されていて、ブランドの名を有名にしたのはまさにこのデザイン思想そのものなのだが、それにさらに磨きをかけることで、このブランドとこのマーケットに対する人々の関心を新たに呼び起こすことに成功した。
パテック フィリップ Ref.5370 ラトラパンテ クロノグラフ

パテック フィリップの時計の中でも非常に希少で魅力的なものには、比較的知られていないカテゴリーも含まれる。いわゆるラトラパンテ・クロノグラフまたはダブルクロノグラフだ。一見すると目立たないこの時計は、まさに最高の時計芸術そのものなのだ。
基本的にラトラパンテ・クロノグラフは製造するのに非常に手間がかかり、それ相応に価格も高い。そのため、ラトラパンテ・クロノグラフを提供するメーカーは非常に少なく、パテック フィリップでさえ毎年数えるほどしか生産していない。
唯一無二のメカニズムに加えて、深みのあるブラックエナメルに伝統的なブレゲ数字を配した素晴らしい文字盤は愛好家を魅了する。エナメル文字盤の製造だけでも非常に手間がかかるため、ごくわずかなブランドが最高級の時計のためだけに採用している。リファレンス5370がパテック フィリップのコレクションの中でも特別な位置を占めていることを示すもうひとつの証と言えるだろう。