“時計の世界で高い精度と指折りの名声を誇るパテック フィリップ。この名前を聞いて、その超高額な価格や高級品、著名人や富裕層からなる顧客層を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。
しかし、その輝かしいラインアップには、最高峰のクラフツマンシップと受け継がれてきた伝統を体現するだけでなく、パテック フィリップというブランドを深く理解したいと願う時計愛好家たちにとって、その入り口となるような、知る人ぞ知るリーズナブルなモデルがいくつもある。パテックと言えば高価で複雑機構を搭載した時計を思い浮かぶかもしれないが、今回は価値と精巧さが見事に融合した、手の届く価格の3本を見ていきたい。”
パテック フィリップ ゴールデン・エリプス&ゴンドーロ
最初に挙げるのは、パテック フィリップの中で最も過小評価され、かつ手頃な価格の2つのコレクション2つ。1つではなく2つまとめて紹介するのは、ズルいと思われるかもしれないが、この2つは深いつながりがあると言える。そのコレクションとは、ゴールデン・エリプスとゴンドーロだ。この2つには見過ごしてはおけない注目ポイントがいくつもあり、またとても似ているため、まとめて紹介したい。しかし、その価値を理解するには、背後にある歴史をまず押さえておきたい。
“ゴールデン・エリプスとゴンドーロはどちらも豪華で控えめな上品なドレスウォッチだが、ゴンドーロの歴史の方がよりカ興味深いと言える。
ゴンドーロは、ブラジルのゴンドーロ&ラブリオ社が、180人の時計コレクターたちから成る「ゴンドーロ・ギャング」というグループのメンバーへ販売する懐中時計として作られ、実質的にこのクラブの会員証という役割を持って生まれた。この時計の支払いは分割払いで、抽選に当たればその時点で支払い終了となり、時計を入手することができた。ゴンドーロ・ギャングは1920年代後半までにブラジル国内で非常に人気が高まり、パテック フィリップはブラジルのコレクターたちに2万2000個以上のゴンドーロ懐中時計を販売した。
1990年代初頭、パテックはこのストーリーを利用し、ゴンドーロコレクションを腕時計の形で復活させた。滑らかなラインと、弧を描くレクタンギュラーケースを持ち、同社ならではの高いクラフツマンシップが特徴だった。すぐさまヒットとなったが、時間が経つにつれ、ゴンドーロは世間から忘れ去られ、そのサイズとドレスウォッチというスタイルのために完全に見過ごされるようになってしまった。Ref. 4224やRef. 3494など、貴金属製の機械式モデルは、150万円前後ですぐに入手可能である。 ”
1968年にユニセックスモデルとして発表されたゴールデン・エリプスも同様だ。新鮮さがありつつも、パテックらしさを持つこのモデルは、ゴンドーロと全く同じ理由で過小評価されるようになった。珍しいオーバル形、豊かな歴史、そして文字盤や素材、仕上げにさまざまなバリエーションを持つゴールデン・エリプスは、たとえ多くのコレクターたちがまだその存在を知らないとしても、パテック フィリップのようなブランドの時計を収集するとは一体何なのかということを最も良く体現している。その知名度の低さから、Ref. 3548など、機械式の貴金属製ゴールデン・エリプスの多くは150万円前後で購入可能だ。
個性的な形、小さめのサイズ、独特のデザインを持つヴィンテージウォッチに対する市場の評価が高まっていることを考えると、ゴンドーロとゴールデン・エリプスの両コレクションは、コレクターたちから大きく見過ごされているように思える。このような時計に注目が集まり始めると、価格が大幅に上昇し、特に特定のサイズや文字盤を探している場合には、ますます入手が困難になることは間違いないだろう。
パテック フィリップ カラトラバ
次は、パテック フィリップの中で最も知られていないモデルから、最もお馴染みのモデルへと話を進めたい。パテックの象徴的なドレスウォッチ、カラトラバだ。1932年にデビューし、パテックのエレガントで洗練されたデザインの真髄を体現するカラトラバは、新たな経営者がブランドを財政難から救うために考案したと言われ、パテック フィリップのすべてを象徴するコレクションへと成長した。しかし、その歴史に関係なく、ドレスウォッチというカテゴリーはかなりの間、トレンドから離れており、結果として36mmより大型のカラトラバ、例えばRef. 5119Jなら、250万円以下で入手可能だ。
カラトラバのルーツにより忠実でありたいと思い、33〜35mmのサイズを考慮している場合、Ref. 3468などは120万円以下で購入可能だ。世界最高峰の時計ブランドの一つによって作られた時計にしては、それほど大金ではない。特に、デビュー以来90年以上が経つカラトラバがどれほどタイムレスな存在であるかを考えればなおさらだ。
パテック フィリップ ネプチューン
今回の最後を飾るのは、今日まで最も知られていないパテック フィリップの一つだ。事実、この半年間ほどでコレクターたちの関心がわずかに高まっただけでも、はっきりとした価格上昇という結果につながったため、この無名さはプラスでもマイナスでもある。その知名度の低さは、この時計が常にパテック フィリップのもう一つの一体型ブレスレットを持つモデル(筆者は今その名前が思い出せないのだが、読者のみなさんならきっと知っているだろう)の影に隠れていることも意味している。その時計とは、1996年にアクアノートと共にデビューを飾り、2005年まで生産された、一体型ブレスレット付きスポーツウォッチのネプチューンである。
“エンジンターンドベゼル付きのラウンドケースに、珍しい7連リンクのブレスレットを持つネプチューンは、控えめに言ってもユニークなスタイルである。
超高額なノーチラス(やっと名前が思い出せた!)ではない一体型ブレスレット付きの別の時計を手に入れたい人にとっては最高の選択肢だ。350万円以下という価格で、これ以上ないほど会話のきっかけになるような、パテックの自動巻き式一体型ブレスレットのスポーツウォッチが手に入る。その存在を知る人が限られているこの時計なら、人々の視野を広げることになるだろう。確かに高額だが、手に入るものを考えれば、ネプチューンはパテックモデルの中でも最も過小評価されているものの一つであり、パテック フィリップ ノーチラスに代わる安価な代替モデルである。 ”
まとめ
ある特定のブランドのどの時計が過小評価され、結果として価格が比較的手頃になっているということを観察するのは、非常に興味深い。もちろん、パテック フィリップと「お手頃価格」は現実の世界では密接に結びつくものではないが、ゴンドーロ、ゴールデン・エリプス、カラトラバ、そしてネプチューンは、時計業界の需要と供給というシステムにおいて、通常は高価格帯で知られるブランドの中にも、手頃な選択肢を見つけることができるということを示すものだと言える。