世界を旅するということは、どこかロマンチックでワクワクするものだ。少なくとも、昔はそうだった。今日では、世界各国を旅して回るということは多くの人にとって普通のことになったが、1950年代や60年代に世界中を探検して回ることはまさに冒険だった。民間航空機での旅行が普及したことで、これまで訪れることができなかったような遠い未知なる場所が旅の目的地となった。世界が突然身近なものとなり、別のタイムゾーンの時間がわかる新しい時計が必要になったのである。
GMT時計とは?
GMT時計とはホームタイムとローカルタイムの両方を表示できる時計のことだ。回転式24時間ベゼルを使い、3番目のタイムゾーンの時刻を表示することも可能である。多くの人が知っているように、ロレックスはGMTマスターを1954年に発表した。このモデルは現代のGMT時計特有のデザインのお手本となった。しかし、実はGMT時計を作った初めてのブランドはロレックスではない。グライシンは、すでに1953年にエアマンを発表していたのだが、その翌年にロレックスがGMTマスターを発表し、注目を奪ってしまったというわけだ。
GMTマスターのデザインは時計業界において、そのスタンダードとなった。基本は、12時間表示のダイヤルにGMT針が付いているもので、GMT針には明るいカラーが使われることが多い。この針が2色に分けられたベゼルの上で第2タイムゾーンの時刻を示すという仕組みだ。GMTマスターのベゼルはもともとはブルー&レッドだったが、時とともに、ロレックスや他のブランド各社はさまざまなカラーを使うようになった。2色を使うのは、昼夜を区別するためで、6時から18時までを昼としている。
トラベルGMT VS オフィスGMT
何十年もの間、数多くのブランドが独自のGMT時計を発表し、GMT時計は非常に人気の高いカテゴリーとなった。しかし、現代の旅行者のニーズもまた変わり、GMT時計は2つのタイプに区別されるようになった。1つ目は、「フライヤー」あるいはトラベルGMTで、2つ目のタイプが「コーラー(発信者、実際に旅に出るというよりも海外に頻繁に電話を掛けるという意味)」あるいはオフィスGMTだ。この2つの違いはトラベルGMTがローカルタイムの時針を独立して調整できるという点で、頻繁に旅行をする人には便利な機能である。中央の時針を正しい時刻に合わせるだけでいいのだ(もちろん、24時間針をホームタイムに合わせなくてはならない)。時計に日付表示があるなら、同時に日付も合わせられるようになっているものが多い。
反対にオフィスGMTは、24時間GMT針を独立して調整することは可能だが、中央でローカルタイムを表示したいという場合には、まずその調整を行ってから、必要に応じて日付を直す。最後に、24時間針をホームタイムに合わせる。つまり、より多くの調整作業が必要なのだ。実際にあちこちへ頻繁に旅行をする人なら、トラベルGMTの実用性が欲しいところだが、親戚が住んでいる国などある特定の場所の時刻だけを表示しておきたいという場合には、オフィスGMTで十分間に合うはずである。
GMT時計が高価な理由
長い間、GMT時計はかなり高価だった。その理由は何よりも時計が複雑であり、ベースのムーブメントに加えてGMTコンプリケーションが必要だったからである。トラベルGMTはさらに複雑であるために、特に高額になっている。しかしながら、どのブランドでも利用できる、多くの汎用GMTムーブメントが導入されてから、価格は大幅に下がった。
筆者を含めて、ほとんどの人が、“真の” トラベルGMT時計を好むが、手頃なトラベルGMTムーブメントを提供するメーカーはそれほど多くはない。しかし間違いなく、数社は存在する。確かにロレックス GMTマスターはいまだにGMTの王者ではあるものの、美しいGMT時計を手に入れるのに140万円以上も払う必要はない。では、どんなものがあるのだろうか。コストパフォーマンスが非常に高く魅力的なGMT時計の中から、いくつか見ていこう。
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グライシン エアマン ヴィンテージ “チーフ” 40 GMT
前述した1953年に発表された世界初のGMT時計を覚えているだろうか?グライシンは現在もエアマンを製造し続けている。1950年代のオリジナルの時計へのオマージュとして、同ブランドはエアマン ヴィンテージ “チーフ” GMTをコレクションに加えた。この時計は36mm径、40mm径で展開され、オリジナルの時計を思わせる美しいヴィンテージスタイルだ。内部には、この後にも登場するセリタのオフィスGMTムーブメントであるSW330-1をベースにしたGL293キャリバーが搭載されている。エアマンの公式定価は28万円以下だが、二次流通市場ではもっと低い価格でオリジナルのGMT時計が入手可能である。
クリストファー・ワード C65 アキテーヌ GMT
クリストファー・ワードは、幅広い品揃えと高いコストパフォーマンスで知られるブランドである。現行コレクションには、3種類のGMT時計があり、その全てが非常に魅力的で、およそ17万円から購入可能だ。今回紹介するC65 アキテーヌ GMTは、同ブランドらしさが加わったクラシックなデザインのGMT時計。ケースサイズが41mm径のこの美しい時計には、セリタのSW330-2 オフィスGMTムーブメントが搭載されている。価格はレザーストラップ付きが約20万円、ステンレススチール製ブレスレット付きが約22万円となっている。
バルチック アクアスカーフ GMT
フランスのブランド、バルチックは急速に人気を伸ばしたマイクロブランドだ。バルチックのサクセスストーリーは、クラシックなダイバーズウォッチスタイルを称えたアクアスカーフから始まった。その後、このコレクションに美しいGMTモデルが作られ、ケースサイズ39mm径、べセルは3つのカラーバリエーションから選ぶことができる。ムーブメントには、ソプロード社製C125 オフィスGMTムーブメントが採用されている。ラバーストラップの場合、およそ17万円で入手可能だが、ステンレススチール製ブレスレットの場合、若干高くなる。
トラスカ ベンチュラー GMT
多くの時計ファンから注目を浴びるもうひとつのマイクロブランドがトラスカであり、良質で手頃な価格の時計をいくつか展開している。そのうちの1つがベンチュラー GMTで、38.5mm径のケースに4つの文字盤カラーから好きなものを選ぶことができる。自動巻きミヨタ 9075 GMTムーブメントが搭載されており、ローカルタイムの時針を独立して調節できるトラベルGMTである。スチール製ブレスレット付きのGMT時計が10万円弱で購入できるということで、多くのファンを獲得している。
セイコー 5スポーツ SBSC001
2022年セイコーはセイコー 5スポーツ GMTシリーズを発表している。そのシリーズは、かの有名な、そして今は廃盤となったSKXモデルのデザインからインスピレーションを得た3つのモデルを揃えたものだ。インスピレーションの元となったSKXモデルは長い間ファンに愛されてきたもので、その有名なシルエットが見事に現行のセイコー 5スポーツに落とし込まれている。5スポーツのGMTシリーズでは、好みでブラック、ブルー、オレンジの文字盤から選べる。ケースサイズは42.5mm径でステンレススチール製ケースとブレスレットを持つ。内部に搭載されているのは自社製のオフィスGMTキャリバー 4R34。価格はそれぞれ6万3800円であり、コストパフォーマンスに優れながらも本格的なGMT時計だ。
ミドー オーシャンスター GMT
ミドーは有名なスウォッチグループの傘下にあり、それはすなわちETA社製ムーブメントを利用できるということを意味している。ティソ、ハミルトン、ミドー、サーチナなどの時計に搭載されている人気のパワーマティック80ムーブメントがETAによるものだということをご存じの人もいるだろう。また、ETAはこのムーブメントのトラベルGMTバージョンも作っており、それがミドー オーシャンスター GMTに採用されている。ケースサイズ44mm径のGMTダイバーは、その際立ったスペックのおかげでファンのお気に入りモデルとなった。何よりもまずダイバーズウォッチであることから、通常のGMTとは一線を画している。オーシャンスターは伝統的な60分表示のダイビングベゼルを持ち、文字盤の外周部分に24時間スケールが備わっている。この時計は4バージョンで展開されており、ファブリック製ストラップ付きのものが18万3700円、ローズゴールドPVD加工を施したステンレススティール製のものは21万4500円だ。
サーチナ DS アクション GMT
サーチナ DS アクション GMTは、ミドーと同じムーブメントを使ったもう1つの時計である。この時計はとてもクールで、一体化された24時間ベゼルが独特のデザインだ。4つのバージョン全てが43.1mm径のステンレススチール製ケースを持ち、そのうち2つは通常のステンレススチール、もう2つはブラックPVDコーティングが施されたものである。通常のステンレススチールのものは、NATOストラップまたはステンレススチール製ブレスレットから選択できる。ブラックPVDバージョンはファブリックまたはレザーストラップから選択できる。価格は、約14万円〜16万円。
ゾディアック スーパーシーウルフ GMT
ゾディアックはそのスタイリッシュなGMTで時計ファンに知られている。ゾディアック スーパーシーウルフ GMTはこのブランドの最も有名で最も人気のラインだ。現行コレクションには、フルステンレスバージョンと、ステンレススチールとゴールドPVDコーティングが施されたケースとブレスレットのバージョンがある。ホワイト&オレンジや、ホワイト&ブライトグリーンのような、明るい配色のベゼルを持つより古いバージョンを探してみるといい。前述のソプロード C125ムーブメントのおかげで、独特のスタイルと堅実なテクノロジーを備え、どちらも最高に夏らしいGMT時計である。通常のステンレススチールバージョンはロレックス エクスプローラー Ⅱに似たデザインで、価格は約24万円である。
ロンジン スピリット ズールータイム GMT
価格帯を若干上げると、ロンジン スピリット ズールータイム GMTを見つけることができる。2022年に発表された3つのカラーバリエーションの42mm径サイズのモデルは、すぐさまヒットとなった。2023年、同ブランドは新たに少し小さめの4つの39mm径バージョンを発表した。この時計には、クロノメーター認定を受けたロンジンのL844.4 トラベルGMTムーブメントが搭載されている。価格はレザーストラップ付きの時計が43万6700円から、そしてステンレスブレスレット付きのものが45万3200円である。ゴールド&ステンレスバージョンをお求めなら、価格はレザーストラップ付きが60万3900円、ブレスレット付きが61万9300円となっている。この価格帯の中で、最高クラスの美しい時計と言えるだろう。
チューダー ブラックベイ GMT
同様の価格帯で最高クラスと言えば、チューダーに触れないわけにはいかない。2023年に新作モデルがラインナップに加わったブラックベイ GMTを見ていこう。新バージョンはアイコニックなブルー&レッドのベゼル、ホワイトのオパーリンダイヤル、41mm径のステンレススチール製ケースを持ち、ファブリックストラップまたはステンレススチール製ブレスレットから選ぶことができる。チューダーはこの時計に、クロノメーター認定MT5652 GMTキャリバーを採用した。価格はブレスレット付きが55万1100円、ファブリックストラップ付きが51万400円となっている。
今回、手頃な価格のおすすめGMT時計トップ10を紹介した。「手頃な」という言葉の意味は、自分の予算によって変わる。したがって筆者としては、異なる価格帯のものをいくつかピックアップした。もし、トラベルGMTの購入を考えてい場合は、それが本当に必要なのかどうか自身に問いかけてみて欲しい。トラベルGMTは手頃な価格でより広く出回るようになってきてはいるものの、最も手頃なGMT時計はいまだにオフィスGMTである。もしそれほど頻繁に旅行をするのでなければ、オフィスGMTが最高のオプションかもしれない。