2022年03月18日
 8 分

なぜオーデマ・ピゲはこんなに高いのか

René Herold
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オーデマ・ピゲの時計について、多くの時計愛好家が「なぜオーデマ ピゲはこれほどに高いのか?」と疑問を持つ。新品はもちろん、中古取引相場も相当高くなっている。Chrono24においても、2021年に最も価格が高騰したのはオーデマ・ピゲのロイヤルオークだった。オーデマ・ピゲの腕時計が、平均してミドルクラスの新車と同じくらいの値段であることを考えると、妥当な疑問と言えるだろう。最高級モデルは言うに及ばず、車が数台簡単に買えるような値段で取引されている。この天文学的ともいえる価格はどのようにして生まれるのか、そしてその価格は正当なものなのか、見ていこう。 

APではどのように値段が決まるのか

オーデマ・ピゲは世界屈指の有名な時計メーカーだ。パテック フィリップヴァシュロン・コンスタンタンとともに「世界三大ブランド」と呼ばれるマニュファクチュールで、1875年の創業以来、創業家の手に委ねられてきた唯一のスイス時計メーカーである。APの時計は当初から、富裕層や麗人、権力者のアクセサリーとして人気があった。つまり、オーデマ・ピゲというブランドにはカリスマ性があり、伝統、経験、他の追随を許さない高級感を象徴しているのだ。それだけが価格が高い理由だろうか。恐らく違う。しかし、いずれにせよブランドの名前にもお金を支払っていることは疑いの余地がない。 

オーデマ・ピゲはそのビッグネームとは裏腹に、従業員数約1200人の比較的小さな会社だ。相応に生産本数も少ない。年間約4万本の時計がAPの生産工場から出荷されている。比較としてあげれば、業界大手のロレックスでは、約3万人の従業員が毎年70万本から100万本の時計を生産している。生産本数が少ない理由は簡単だ。ロレックスオメガブライトリングとは異なり、オーデマ・ピゲでは生産の大部分が手作業で行われている。もちろん、これには時間がかかる。ムーブメント、ケース、針、インデックスの仕上げだけでも、数日から数週間を要する。オーデマ・ピゲははっきりと「量より質」をモットーにしている。当然、価格も高くなる。  

ムーブメントについて言えば、オーデマ・ピゲは真のマニュファクチュールとして、自社でキャリバーを開発、製造している。高度に専門化したスタッフの手による、非常に手間も時間もかかる気の長いプロセスだ。例えば、同社の時計職人とエンジニアは、新型キャリバー7121を市場に投入するまでに、5年もの時間を開発に費やしたという。念のために言うが、これは時、分、日付を表示するかなりシンプルなキャリバーの話だ。永久カレンダーやソヌリなどの複雑機構を追加したムーブメントの場合、開発の手間は何倍にもなる。その結果かかるコストも同様だ。高品質なキャリバーの開発費用は、すぐに数百億円になる。こうしたコストが当然ながら時計の価格に反映される。  

トップクラスのキャリバー: AP自社製ムーブメント4302
トップクラスのキャリバー: AP自社製ムーブメント4302

もう一つのコスト要因は、使用されている素材だ。金やプラチナなどの貴金属は、当然ながら高価だ。しかし、チタンやステンレスのような一見ありふれた素材でも、オーデマ・ピゲが求める品質の高いものであれば、決して安価だなどということはない。さらに、セラミック、カーボンファイバーなどの新しい素材には、まったく新しい製造プロセスを開発し、導入する必要がある。新たな機械が必要になることも多く、そのために多額の開発作業費が必要になる。一般的に、時計製造において材料研究はますます大きな役割を果たすようになってきている。航空宇宙飛行分野で生まれる最新ハイテク素材が、時計の製造にどこでどのように役立つかということだけではない。金やプラチナを用いた合金も、耐久性を高めるためなど、常に試行錯誤が繰り返されている。 

オーデマ・ピゲがこれらすべての課題を克服するには、高い職業教育を受けた従業員の力が必要だ。よく知られているように、スイスは低賃金国ではないため、価格を算出する際には人件費も大きな影響を与える要素のひとつとなっている。 

これらを総合すると、オーデマ・ピゲの時計の希望小売価格は極めて適正であり、少なくとも納得がいく計算がなされていると言えるだろう。 

オーデマ・ピゲの価格: 希望小売価格 VS 自由市場

残念ながら、メーカーが推奨する小売価格と自由な取引で提示される市場の価格は全く異なることが多く、オーデマ・ピゲも例外ではない。ロイヤルオーク ”ジャンボ” エクストラシン 15202STを例に見てみよう。このモデルはAPの中でも絶対的な名作で、1972年にジェラルド・ジェンタがデザインしたオリジナルモデルに特に近いことから、時計愛好家の間でも非常に人気が高い。2022年3月時点で15202STの公式な希望小売価格は385万円だ。しかし、自由市場では約2000万円あるいはそれ以上の価格が提示されている。ほんの1年半前なら、同じ時計が「たったの」530万円で入手できただろう。2018年3月まで遡れば、15202STはわずか300万円ほどで購入できた。 

オーデマ・ピゲのロイヤルオークの3針モデル、ロイヤルオーク オートマティック 15500STにも同じことが言える。このモデルのメーカー希望小売価格は現在291万5000円だ。しかし、市場価格は1030万円前後となっている。ここでも、この2年間で価格が大きく上昇している。2020年3月の時点では、15500STはまだ平均約300万円だったのだ。 

時計界の名作: ロイヤルオーク ”ジャンボ” エクストラシン 15202ST
時計界の名作: ロイヤルオーク ”ジャンボ” エクストラシン 15202ST

しかし、このような法外な価格の上昇はどう説明すればいいのだろうか。オーデマ・ピゲの場合、いくつかの要因が重なっている。すでに見てきたように、ル・ブラッシュに拠点を置くこのマニュファクチュールは、年間約4万本しか時計を生産していない。一方で、AP社の時計の需要は生産量より多く、販売店での購入は待ち時間が長くなる。また、オーデマ・ピゲは数年前から「ダイレクト・トゥ・カスタマー」戦略を推進している。つまり、オーデマ・ピゲの時計を当面、オーデマ・ピゲのブティックでのみ販売し、従来のマルチブランドの小売店では販売しないことが目標だ。結果として、APの時計はこれまでよりも手に入りにくくなる。需要が多くて供給が少ない。それが市場価格の高騰につながるのは誰にでも分かることだ。 

しかし、この2年間の青天井の価格高騰の理由は、それでは説明がつかない。そのためには、パテック フィリップとノーチラスについて見てみる必要がある。ノーチラスはロイヤルオークと同様、デザイナーのジェラルド・ジェンタが手がけたモデルだ。両者とも同じようにカルトな人気を誇っている。特にステンレス製のノーチラス 5711/1Aは、多くの時計愛好家にとって、いつかは手に入れたい究極の時計だ。しかし、パテックはこのリファレンスの生産をいつも極めて少数に抑えてきたため、何年も待ちの行列ができ、自由市場での価格も上昇し続けてきた。2021年にパテックがこのリファレンスを代替品なしで製造中止すると発表してからは、ただでさえべらぼうに高い価格が、さらに目もくらむような高さにまで跳ね上がった。 

ノーチラスをめぐる狂乱の末、多くの時計コレクターがロイヤルオークに代わる手頃な価格のモデルを求めるようになった。ここでも需要が急増し、価格が高騰することになった。 

APの「Code 11.59」はこれまでのところ、ファンや批評家を納得させることができていない
APの「Code 11.59」はこれまでのところ、ファンや批評家を納得させることができていない

しかし、オーデマ・ピゲの場合、熱狂はロイヤルオークと、そのタフな姉妹モデルであるロイヤルオーク オフショアだけに集中しており、その他の製品ラインには影響がない。それどころか一部にはその逆のことが起こっている。例えば、2020年に発売された「Code 11.59」コレクションは、ファンや批評家の評価が優れず、現在、このシリーズの時計はほぼいつでも定価以下で手に入れることができる。ドレスウォッチシリーズ「ミレネリー」も低調だ。例えば、フロステッド ローズゴールドのリファレンス77244OR.GG.1272OR.01は、Chrono24では平均約480万円で、公式の希望小売価格である742万5000円よりだいぶ安くなっている。 

まとめ: オーデマ・ピゲの時計は高すぎるのか?

オーデマ・ピゲの時計が高価であることは間違いない。しかし、メーカー希望小売価格と市場価格は区別する必要がある。特にロイヤルオークについてはそうだ。そのクオリティを考えると、APの希望小売価格は十分に理解できる。もしあなたがロイヤルオークに目をつけていて、正規販売店と良いコネクションがあり、数ヶ月あるいは数年の待ち時間を厭わないのであれば、適正な価格でこの名作を手に入れることができる。自由市場では、待ち時間を我慢することなく、ロイヤルオークを購入することができるが、高額なプレミア価格を受け入れなければならない。それが正当なものかどうかは、最終的にあなたが決めることだ。 


記者紹介

René Herold

こんにちは、レネー・へロルドです。Chrono24には求人情報を見て応募しました。正直言うと、時計というテーマは当時私にとってそれほど大きな意味合いを持っ …

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