2023年01月05日
 9 分

カスタムウォッチとファクトリーセットウォッチの違いとは?

Chrono24
Cartier-iced-out-2-1-B

ゲストライター、Avi & Co. NYのトビー・L・シゴーナ著  

カスタムウォッチとファクトリーセットウォッチはどちらも、同じようなサイズ、品質、量の本物のダイヤモンドや宝石があしらわれた時計だが、この2つのタイプの時計には多くの異なる特徴がみられる。 

ファクトリーセットウォッチ  

ファクトリーセットウォッチとは、時計ブランドの製造部門の技術者によって、直接宝石がセッティングされたものであり、第3者の手が一切入っていないものである。すべてのインサートや部品はオリジナルデザインの一部として意図されている。宝石の配列、向き、位置、安定性、プロポーションは正確だ。これらの高級なタイムピースの価格が非常に高額で入手が困難なのは、それだけ多くの時間が費やされ、細部にまでこだわった仕上がりがほどこされているからなのだ。  

ニューヨークのようなスピード感のある環境とは異なり、時計業界は決して素早いものではない。職人たちは高級時計を手作業で製造する技術を、10年近くかけて習得するのだ。彼らの出費は、すべてのタイムピースを作り上げるために何時間もの骨の折れる仕事の結果なのである。ファクトリーセットウォッチを購入する顧客数は通常少ないが、そのためにこそ、宝石をあしらわれた非の打ちどころのない文字盤、ブレスレット、ベゼルを持つタイムピースが作られるのだ。一流の時計ブランド各社もまた、供給が需要に決して追いつかように気を付けている。高い需要は、贅沢で他に例のないものを購入しているという考えを強めるからである。  

Rolex Daytona ref. 116599RBOW
ロレックス デイトナ Ref. 116599RBOW

カスタムウォッチ 

カスタムウォッチ、またはアフターマーケットウォッチと呼ばれるものは、ブランドに認定されていない第3者によって既存のタイムピースにダイヤモンドが後付けされたものである。業界で “アイスアウト” や “ブリングアウト” などとも呼ばれる、カスタマイズされたタイムピースにはレプリカのパーツが使われることがあり、ブレスレット、ケースや、時計にセットされたダイヤモンドはオリジナルではない。 

ブランド各社はめったにカスタムウォッチを発表しないにもかかわらず、顧客のオリジナルデザインに敬意を払うために、カスタムセットウォッチは頻繁に製造されている。それぞれの時計に応じて、時計にはカスタマイズできる部品がたくさんある。ケース、ラグ、または文字盤に宝石を加えることも可能だ。裏蓋にメッセージを刻印したり、大手の時計ブランドではキャリバーを特別なカラーや部品でカスタマイズすることもできる。カスタマイズの一般的な方法のひとつとして、金属をすべてブラックに変えてしまうDLCやPVDコーティングがあげられる。 

Rolex Milgauss with a PVD/DLC Coating
PVD/DLCコーティングを施されたロレックス ミルガウス

カスタムウォッチのメリット 

時計にダイヤモンドを後付けしてカスタマイズすることの素晴らしい点は、よりきらびやかな外観、そして自分のスタイルに合わせた外観にできるということだ。テクノロジーの発展と最新のトレンドに追随したいという一般的な願いから、自分自身のテイストに合わせた時計が欲しいと考えるのはごく自然なことである。自分の欲しいものという点について言うなら、カスタムウォッチをデザインすることは完全な創造的自由を可能にし、それにより永遠の感情的な繋がりを築きあげる。後付けダイヤのあしらわれたアフターマーケットウォッチを購入すれば、同じダイヤモンドを持つファクトリーセットウォッチに比べて大幅に低い価格で、あなたを際立たせてくれる。   

ゼニスのCEO、ジュリアン・トルナーレは「カスタマイズの個別のアプローチは、ハイエンドの顧客、特にオートオルロジュリーの強い好みを持つ顧客にとって、非常に重要だ」と言っている。「このサービスに対する需要は高く、これを提供することは顧客の期待を満たすという我々の責任の一部なのだ。弊社では一般に販売されている時計に興味のない顧客向けのカスタムウォッチを製造している。彼らは時計作りのユニークな作品を好み、それはタイムピースを生み出すことへ積極的に関わる彼ら独自の方法なのだ。そして、この傾向は衰えていないどころか、むしろ高まってきている」。 

高級時計の裏に刻印をすることは、どんな贈り物をもさらに印象的なものにしてくれる。特別な人の特別な日のために、あなたがさらに一層の努力をしたことを示してくれるのだから。多くの人が時計をコレクションするために購入する、あるいはただ時刻を知るためだけに購入する中で、時計を本当に意味深いものにしてくれる多くのものは、その裏にあるストーリーだ。人の名前、何か特別な日付、あるいは短いメッセージでも、個人的な最後の仕上げに、エングレービングを裏蓋に施すことをお勧めしたい。 

Iced-out Cartier Santos
アイスアウト カルティエ サントス

カスタムウォッチのデメリット 

時計にダイヤモンドを付け加えると豪華になる一方で、それはその時計のオリジナルの形とサイズを完全に変えてしまう。カスタマイズを行う人は時計の一部を削ったり、全体の品質を損ねるような必要が出てくるかもしれない。   

もし高級時計を将来売るまたは貸すことを考えているなら、カスタマイズはお勧めできない。カスタマイズは高いコストのかかるプロセスであり、一般に信じられているのとは反対に、より高い金額での再販売にはつながらない。新品同様の何も変えられていない時計は、後から付け加えられたダイヤモンドの物的価値よりもはるかに高い価値を持つのだ。 

ことロレックスに関して言うなら、ブランドからすると後から付け加えられた装飾パーツはフェイクとみなされ、カスタムパーツを持つ時計の修理・メンテナンスは行なっていない。これは、時計の修理をしたいが評判の良い時計師を見つけられないロレックスの所有者にとっては問題だ。 

最後に、時計の品質はオリジナルのファクトリーセットウォッチとは同じにはならない。時計メーカーではそれぞれの宝石を注意深く選別しているが、例えば地元のジュエラーでは、予算のきつい顧客のニーズに合わせてエコノミークラスのダイヤモンドをセットするかもしれない。  

アフターマーケットウォッチを見分ける方法  

手作業で仕上げられたファクトリーセットウォッチのように、それぞれのダイヤモンドや宝石は一定方向に配置されていなければならい。アイスアウトウォッチならおそらく、どこかしっくりこないプロポーションであるかもしれない。その時計はもともとダイヤモンドをつけない想定でデザインされているからだ。ダイヤモンドのアクセサリーもまた、クラックが入っていたり、曇っていたり、ホワイト以外の石が使われていたりすることもある。それでも確かでなければ、時計のリファレンスナンバーを確認してみて欲しい。それでこの時計が宝石がもともとセットされたものだったのかどうかを知ることができる。 

高級時計ブランドと各社のカスタマイズウォッチ  

多くの一流時計ブランドが、これまでに自社の重要顧客のためにユニークな時計を作ってきた。最も感動的な例のひとつが、銀行家であり芸術収集家のヘンリー・グレーブスがパテック フィリップに依頼した史上最も複雑な時計だろう。この懐中時計は56年もの間、世界で最も複雑な持ち運び可能な機械式時計という記録を保っていた。  

今日ある象徴的な時計コレクションの多くは、もともとは顧客からのリクエストで作られたものだ。1931年、ポロの試合中に着用できる時計が欲しいというポロ選手からの依頼を受けて、ジャガー・ルクルト レベルソが生まれた。IWC ポルトギーゼは1939年に、2人のポルトガル人ビジネスマンが、マリンクロノメーターと同じ正確さを持つ非常に読みやすい時計を依頼したところから作られた。 

IWC Portugieser Automatic ref. IW500701
IWC ポルトギーゼ オートマティック Ref. IW500701

過去、こういったタイプのカスタマイズタイムピースはブランドを発展させる誠実な方法だったのだ。しかし、テクノロジーの進歩に伴い、時計メーカーにとってカスタマイズのオーダーの需要に答えていくことはより難しくなった。細部にまでこだわった時計を作るのに費やされる時間が、このような時計を手に入れることが難しい理由である。例えば、リシャール・ミルは年間で約3000本ほどの時計しか製造しないが、それは1本を作るのに非常に細かいところまでこだわりぬく12週間もの時間が必要だからである。 

小規模な時計ブランドと各社のカスタマイズウォッチ 

小規模なブランドは、より伝統的ではない時計作りの方法を追い求め、既成概念にとらわれない試みをしている。大手のブランドでは個別のカスタマイズウォッチ用に製造過程を調整する時間が取れないが、より小規模な会社では大手ができないことを提供する動きが出てきている。例えばジェイコブを見てみると、レオナルド・ディカプリオのチャリティー活動のためにアストロノミア スカイ ウォッチを作った。ジェイコブの創設者、ジェイコブ・アラボは「オーダーメイドの製品を作ることは、そもそもの始まりから私の会社の一部だった」と言う。「それは自分自身を目立たせる方法であり、今日でもそれを続けている。最近では真のラグジュアリーとは独占性のことであり、オーダーメイドの時計を持つこと以上に独占的なものはない。顧客の夢を叶えることに大きな喜びを感じているし、弊社はこういったユニークな時計をつくる準備ができている」 

過去には、カスタマイズのオプションはストラップや裏蓋の刻印くらいに限られていた。今日ではもっとさまざまなことが可能であり、クリックを何度かするだけでカスタムウォッチを注文できる。雑誌『Sharp』によれば、カスタマイズを提供するトップブランドは以下のとおりである: 

カスタマイズのオプションを提供する他のブランド:  

  • ボーム 
  • ビスポーク ウォッチ プロジェクト 
  • ブルッグラー 
  • EONIQ 
  • LABコペンハーゲン 
  • ミント エボリューティブ  
  • ポルシェデザイン 
  • レボロ ウォッチ 
  • サルトリー ビラール 
  • シャッフェン ウォッチ 
  • スウォッチ 
  • UNDONE 
  • UNITY 
  • フォン フォーゲル  

結局のところ、これは個人的な好みの問題だ。ファクトリーセットウォッチは100%オリジナルで、その他のどんなカスタマイズも、時計の価値を下げるために時計コレクターからは否定的あるいは魅力が劣ると見なされる。しかし、自分の時計は自分に合わせた独特のものであって欲しいと思うのなら、カスタムウォッチこそが最適のチョイスである。 


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