2018年08月17日
 11 分

ジェームス・ボンド・ウォッチ ― 歴代モデル、ロレックスからオメガまで

Jorg Weppelink
James Bond Watches JP
写真: Danjaq LLC, Sony Pictures Entertainment

ジェームス・ボンド ― エキゾチックな場所を旅し、絶世の美女に囲まれ、人生の喜びを享受し、世界を危機から救うハンサムで洗練された英国スパイ。彼の生き方に憧れを抱かない男はいるのだろうか?

ジェームス・ボンドが過去50年間で着用してきた時計について知っている人は多い。いくつかのブランドやモデルは、ボンドの名前によって世に知られるようになった。そして、ボンドが続く映画の中でどの時計を着用するか、ということを見るのも非常に興味深い。

伝説的キャラクターと代表的な時計

イアン・フレミングによる「ジェームス・ボンド」シリーズ第1作となる『カジノ・ロワイヤル』は1952年に発表された。作家は車とファッションに非の打ち所のないセンスを持つ男を描き出したが、時計に関してはまだ触れられていなかった。1954年の『死ぬのは奴らだ』の中で初めてロレックスが現れたが、時計の詳細までは分からなかった。

ロレックス エクスプローラー 1016 写真: Christopher Beccan

ロレックス エクスプローラー 1016 写真: Christopher Beccan – Chrono24で出品商品を見る

その数年後、1963年に発売された小説『女王陛下の007』の中で、フレミングは再度ボンドウォッチを描写した。しかし今回は「大きな夜光数字」を持つ「幅広の金属製ブレスレットを備えた重厚なロレックス オイスターパーペチュアル」と詳細な描写であった。おそらくフレミング自身が同時計を所有していたためにボンドにもロレックス エクスプローラーを着用させたのだろう、と多くの人々は推測している。

しかし、ボンド映画の1作目ではそれとは違うロレックスが使用されている。ショーン・コネリーが『ドクター・ノオジェームス・ボンドを演じた時に着用していたのは、ロレックス サブマリーナであった。これは日付表示を持たず、リューズガードなしのデカリューズを搭載している初期のロレックス サブマリーナ6538であった。この映画の専門家は、この時計が実際にプロデューサーもしくは監督の所有物であり、予算が厳しかったために映画の中で使用されることになったのではないか、と考えている。

ジェームス・ボンド ロレックス・サブマリーナ 6538 写真: Danjaq LLC, Sony Pictures Entertainment

ジェームス・ボンド ロレックス・サブマリーナ 6538 写真: Danjaq LLC, Sony Pictures Entertainment

ジェームス・ボンドは『ドクター・ノオ』やその他の「007」シリーズの中で、別の時計も着用していることを付け加えておかなければいけない。それは、金のグリュエン プレシジョン510ドレスウォッチだ。しかし、当然のことながら伝説的なロレックスのダイビングウォッチの方が世間の注目を集め、世界で最も有名な秘密諜報員のタフな生活にもよりふさわしかった。

エージェント007は『ロシアより愛をこめて』、『ゴールドフィンガー』、『サンダーボール作戦』でも前作同様にロレックス サブマリーナを着用しているが、『サンダーボール作戦』では別のボンドウォッチも登場している。それは、(特別製ブライトリング トップタイムである。ボンドはガイガーカウンターが必要である時にその時計を使用した。数年後、ジョージ・レーゼンビーが『女王陛下の007』で主役を務めた時、彼の腕にはロレックス サブマリーナとロレックス クロノグラフ6238が巻かれていた。

ジェームズ・ボンド ブライトリング トップタイム 写真: Danjaq LLC, Sony Pictures Entertainment

ジェームズ・ボンド ブライトリング トップタイム 写真: Danjaq LLC, Sony Pictures Entertainment

ロジャー・ムーアとセイコー・ボンドウォッチ

ロジャーがボンド役を引き受けた時、大きな変更点が1つあった。ボンドは『死ぬのは奴らだ』の中でもサブマリーナを使用しているのだが、オープニングのシーンではハミルトン パルサーLEDを着用して登場した。このデジタル時計にはクォーツショックによる影響が見て取れるわけだが、ボンドのキャラクターにふさわしいとは言い難かった。ロレックスもボンド映画から完全に消え去ったわけではないが、ロジャー・ムーアは軽く改造が施されたセイコーの時計を身に着け、それによって困難な状況を乗り越えていった。

セイコー 0674LC 写真: Danjaq LLC, Sony Pictures Entertainment

セイコー 0674LC 写真: Danjaq LLC, Sony Pictures Entertainment

私を愛したスパイ』で、ボンドはセイコー0674LCを着用している。これはMとボンドの間の重要なメッセージを送ることができる特殊な時計だ。『ムーンレイカー』ではセイコーM354メモリーバンクカレンダーが爆薬として使用され、これによってボンドは自由への道を切り開く。『ユア・アイズ・オンリー』では本部との連絡にセイコーハイブリッドH357が使用された。この映画はセイコーの新シリーズであるセイコー7549-7009プロフェッショナル ダイバーズウォッチを有名にするきっかけとなった。そして、日本ブランドの多様性を印象付け、映画の中でジェームス・ボンドが使用するダイバーズウォッチとしてサブマリーナに取って代わった。

興味深いことに、ボンドは『美しき獲物たち』の潜水シーンにおいてセイコー ダイバーズ150mを着用し、その他のシーンではサブマリーナを使用している。そして『オクトパシー』ではセイコー テレビウォッチがロジャー・ムーアの腕に巻かれている。繰り返しになるが、「007」において時計はファッションアイテムと言うよりも任務を遂行するための道具であり、それは主人公ボンドにふさわしいものだ。

ティモシー・ダルトンは『リビング・デイライツ』で初めてこのシリーズに出演し、その腕にはタグ・ホイヤープロフェッショナル・ナイトダイブが巻かれていた。しかし1989年に公開されたダルトンの2作目のボンド映画『消されたライセンス』では、再びロレックス サブマリーナへと変更された。そして、これがボンドが映画の中で着用した最後のロレックスとなった。

オメガ・シーマスターの時代

ピアース・ブロスナンは『ゴールデンアイ』からボンド役として登場し、それと同時に「007」において様々なオメガ シーマスター モデルが使用されるようになった。『ゴールデンアイ』ではクォーツモデルのシーマスター プロフェッショナル300Mが使用され、それが『トゥモロー・ネバー・ダイ』では同時計のオートマチックモデルにアップデートされている。そして、ブロスナンはこの時計を『ワールド・イズ・ノット・イナフ』と『ダイ・アナザー・デイ』でも着用している。

ダニエル・クレイグは『カジノ・ロワイヤル』で初めてボンド役を演じ、そこで2つの異なるオメガ シーマスター モデルを着用している。その1つであるシーマスター プロフェッショナル300Mコーアクシャルは、ピアース・ブロスナンが映画の中で着用していた時計のアップデートモデルである。2つ目はシーマスター プラネットオーシャン ビッグサイズだ。ジェームス・ボンドは『慰めの報酬』でもこれと同じシリーズのシーマスター プラネットオーシャン600Mを着用している。そして『スカイフォール』ではこの同じ時計の一回り小さなモデル(45.5mm→42mm)が腕に巻かれている。また『スカイフォール』では、フォーマルな場面で初めてシーマスター アクアテラが登場する。

オメガ・シーマスター 300M 写真: Bert Buijsrogge

オメガ・シーマスター 300M 写真: Bert Buijsrogge – Chrono24で出品商品を見る

クレイグは『スペクター』のオープニングシーンでもアクアテラを着用しているが、真の目玉はオメガがこの映画のために製作した限定モデルのシーマスター300″スペクター”だ。この時計のベースとなっているのは1957年に発売されたオリジナル シーマスター300であり、60年台にイギリス海軍が着用していたシーマスターモデルで使われていた特徴的なNATOストラップがこれに組み合わせられている。ボンドが持つイギリス海軍の過去、またオメガと、さらにイギリス海軍の歴史がここでリンクする。

ジェームス・ボンド・ウォッチを見つける

新たなボンドウォッチの探索

ロレックス サブマリーナはいつの時代もジェームス・ボンドを代表する時計であり続けるだろう。この時計は最も多くの「007」シリーズでボンドが身に付けてきたのだ。ここ20年間でオメガはシーマスターによってボンドとの深い絆を作り上げてきた。そして、引き続きボンドのスタイルとキャラクターを引き立てる時計を開発していくだろう。しかし、それ以外の時計が次の映画で現れるとしたら一体どの時計がふさわしいのだろうか、と少しばかり空想してみようではないか。

ボンドは自身のスタイルと流儀を持つ男だ。彼が身に付けるものはすべて高級ブランドであるが、それが過度であったり特別すぎるということは一度もない。ボンドは危機的状況において役に立つ最先端テクノロジーも好む。ボンドウォッチは実用的かつ頑丈でなくてはいけない。ジェームス・ボンド自身と彼のミッションがそうであるように。

簡単なのは、ロレックス サブマリーナやオメガ シーマスター300と同じようなカテゴリーの時計を有名なブランドから探すことだ。しかしそこで問題なのは、そうやって探し出した時計は過去のボンドウォッチと類似する可能性が高く、そうすると特に新しいものを付け加えることにならない。新しいボンドウォッチを選ぶとしたら、それは新しい展開を付け加えなくてはいけない。

ダイバーズウォッチの中で選ぶとしたら、IWCアクアタイマー クロノグラフはどうだろうか。この時計は現代的な形状に大柄な文字を持ち、特定のミッションにおいて役立つかもしれないストップウォッチ機能も備えている。そして、この時計はあらゆる状況に対応することができる。ボンドは海に潜水することもあれば異国の地で高速追跡を繰り広げることもある。そのような物理的負荷の高い状況において、この時計は最高のパフォーマンスを発揮するだろう。

もう一つの選択肢は、ロレックスのプロフェッショナル品質を備えながらもロレックスではない時計、チュードル ペラゴスだ。チュードルがロレックスに属して以来、このメーカーもロレックスと同じ品質水準を守り続けている。ペラゴスはサブマリーナを凌ぐ最大500mの防水性能を誇り、素材にはスチールよりも大幅に軽く頑丈なチタンが使用されている。イアン・フレミングは、重いスチール製の腕時計は格闘シーンにおいて実用的ではないと危惧していたようだが、その点においてもチュードル ペラゴスは次のボンドウォッチとして最適だろう。

少し違うアプローチとしてヴィンテージ時計はどうだろうか。ボンドはしばしばタキシードを着ることで有名だが、それには華麗なヴィンテージドレスウォッチがよく似合うだろう。ヴィンテージのパテック・フィリップ ― もしかしたらそれは家族の中で代々受け継がれている一本かもしれない ― はボンドウォッチのコレクションに新たな観点を与えるだろう。例えば、1950年代に作られたイエローゴールドモデルのパテック・フィリップ カラトラバ(リファレンス2584)と黒のレザーストラップの組み合わせなどはどうだろうか。そのような時計であれば、ボンドの家族にまつわる物語を描くための完璧な一本となるだろう。しかし、そのようなボンドの過去や家族に関する物語を抜きにしても、パテックのドレスウォッチを腕に巻きタキシードやディナージャケットを着こなす姿は様になるに違いない。もしくはボンドのキャラクターを鑑みて、よくあるドレスウォッチの正しいスタイルを無視したオーデマ・ピゲ ロイヤルオーク「ジャンボ」やパテック・フィリップ ノーチラス クロノグラフなどの選択肢も考えられる。

多くのボンド映画は、007が美女とともにヨットに乗り岸辺から遠くへ離れていく、というようなシーンで幕を閉じる。このシーンに完璧に合う時計といえば、IWCポルトギーゼ ヨットクラブ クロノグラフだろう。この時計においては、セーリングのスポーティーな性質と見事なスタイルが完璧に融合している。

もちろん、未来のボンドウォッチ候補はまだまだ多くある。少しの創造力で可能性は無限大に広がる。ここで挙げた時計がその諸端となれば幸いである。


記者紹介

Jorg Weppelink

こんにちは、ヨルグです。2016年からChrono24で記者として執筆しています。しかし、Chrono24との関係はそれ以前からあって、時計好きになったのは2003年頃からです。私の友人 …

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