ドイツのフランクフルトを拠点とする特殊時計メーカーのジンは、1995年にダイビング クロノグラフ 203 St を初めて発表した。逆回転防止ベゼルと300m (30気圧) の防水性を備えたこのモデルは、1960年代に初めて日の目を見たジン 103パイロットウォッチの潜水用バージョンだった。見た目はとても魅力的な上に、頑丈で精度に信頼性を置ける時計であったが、103の人気に完全にマッチすることができず、ついには生産終了となった。
ジン 203 Stの重要なこと全て
元パイロット兼飛行インストラクターであったヘルムート・ジンは、1961年にドイツのフランクフルトにて「ヘルムート・ジン特殊時計」という会社を創業した。ジンは、モータースポーツ、ダイビングスポーツ、またはフライングスポーツ用の高品質な計器を現在でも製造している。
ジンは、特にパイロット クロノグラフのシリーズ101、102、103でその知名度をあげることに成功した。これらのシリーズは、時計愛好家やコレクターの間で今日まで高い評価を得ている。現行の103系のいくつかは潜水に適しているが、それでもパイロットウォッチと見なされている。203 Stと103 Stの外観的な違いの一つは、203にはオベリスク形の針が使用されていることだ。それ以外にも、103 Stのベゼルインサートにはブラックアルミニウムが素材として使用されている。また、203 Stはステンレス製でメインマーカーが発光する。防水性にも違いがある。ケースバックがステンレス製の203 Stは300m (30気圧) の防水性を備え、103 Stの防水性は200m (20気圧) だ。ケースバックがサファイアガラス製の203 Stの場合、防水性は200mとなる。私は1999年に発売されたこのバージョンを数ヶ月前から所有しており、この記事を寄稿する基となっている。
私は、2020年2月にこのクロノグラフをオンラインで発見した。「今すぐ購入」する場合の価格は、オリジナルのステンレス製ブレスレットではなかったので、お買い得とは言わないが、それでも妥当な額だった。販売者と取った簡単な連絡から得た情報は、彼はこの203 Stを新品で購入し、ほとんど着用しなかったため、ほぼ新品の状態であるとのこと。さらには、オリジナルの請求書とサービス証明書が付属してくるとのこと。すぐに購入するべきと判断し、「今すぐ購入」ボタンを押した。
ジン 203 Stの技術仕様
ケース
コンプレッサーケースと呼ばれるこのケースは、ポリッシュ仕上げが完全に施されたステンレス製である。ジンで典型的なのは、仕上げの精度がとても高く、完璧にポリッシュされていることだ。1999年以降、ザクセン時計技術社グラスヒュッテ (SUG) がジンのすべてのケースを製造している。私の203 Stは、SUGによって製造されているかどうかは、残念ながら知ることはできなかった。通常、ジンはこのモデルをねじ付きのステンレス製ケースバックで提供しており、これは前述の300m (30気圧) の防水性を誇るものである。販売者は、この時計を購入する際にサファイアガラスのケースバックを選んだようだ。私が購入した時計は、実際に防水性は200m (20気圧) となっている。
しかし、これは普通の着用者が普通に生活する中においては、ほとんど重要ではない。どちらにせよシースルーのケースバックからは、バルジュー7750の自動巻きキャリバーが見える。プッシュボタンとリューズはどちらともねじ込み式となっており、これは何らかの理由で予想外に調整されてしまうことを防ぎ、また水の侵入を防ぐ。ドイツ工業規格 (DIN) で規定された時計の防水性に関する規格 (DIN 8310) に従ったテストが行われており、小型時計においての耐水性に関するこの規格の要件を満たしている。
サイズ、重量、着心地
ジンは、203 Stのケースの直径を41mmと指定している。ベゼルのサイズは、ほぼジャスト40mmとなっている。全体的にこのクロノグラフは、細めの手首でもバランスよく着用できるサイズとなっている。また、ラグからラグまでの寸法が約47mmであるということも、良いバランスを作っている要因だ。手首にあるラグは、ケース構造、印象的とも言える16mmの厚み、そしてドーム型のサファイアガラスのケースバックにより、手首から十分離れた場所にくるようになっている。これはもちろん好みの問題だが、構造上避けることはできない。ブレスレットのない状態での重量は90グラムあり、これは決して軽くはないが重すぎることでもない。比較のために述べると、プレキシガラスのオメガ スピードマスターは約65グラムある。
203 Stは、接触面積が非常に小さいため、NATOストラップや他の貫通するベルトは適していないようだ。軽く着用できる金属製のブレスレットでは、時計の重さと厚みのため、私の好みには合わない。なので、私は時計にぴったり合うレザーストラップを使用するようお勧めする。純粋性を追求する人にとっては、レザーストラップはダイバーズウォッチに適さないと異議を申し立てるかもしれないが、私は個人的にこのような組み合わせを受け入れることができる。この時計を着用しながら泳いだり潜水したいのであれば、カウチュークラバーのストラップがある。ラグの幅はスリムな20mmで、非常に幅広い種類のブレスレットを選ぶことが可能だ。たまに、様々なブレスレットを交換して着用するのは愉しいことだ。
バルジュー7750 – 長く稼働するキャリバー
時計の中では、スイスの時計機構を製造する会社ETAによる自動巻きクロノグラフ・キャリバー 7750が時を刻んでいる。このキャリバーは1973年に既に完成されており、堅牢の上に精度の信頼性が高く、メンテナンスが比較的簡単と言われている。ETAはエラボレ、トップ、クロノメーターと言った3つの異なる品質レベルでキャリバーを製造している。私の時計の品質レベルは、調べたところトップにある。これはつまり、キャリバーは5つの位置で調整され、精度は+/– 4秒ということだ。私の時計の精度は、これに完全に満たしていないが、最後にメンテナンスが行われたのが2004年であった。
通常7750には25個の赤いルビーが備えられており、テンプ周波数は1時間あたり2万8800振動である。ここでジンは、個々のキャリバーのコンポーネントに装飾を施さなかった。その理由は、おそらくキャリバーを眺めることなどできないステンレス製のケースバックが、このシリーズに採用されることとなっていたからであろう。
ジン 203 Stにはどのような機能が備えられているのか?
時計の機能については、もちろんまずはムーブメントの機能によって決まる。バルジュー7750には、クロノグラフ、日付と曜日表示の3つのコンプリケーション機能が備えられている。スモールセコンドとクロノグラフ機能は、6時、9時、12時位置にあり、曜日と日付表示は3時位置にある。時・分・秒 (スモールセコンド) は時計の中心に設置されている。文字盤は、典型的なパイロットウォッチまたは古いナビゲーション・ダッシュボード時計のように設計されている。
マットブラックの文字盤には、アラビアインデックスと蓄光材が施された正方形のインデックスが特徴的だ。この蓄光材は、ジンが当時まだ使用していたトリチウムであるが、のちにスーパールミノバが代わって使用されるようになる。トリチウムは、長い間ほとんど機能せず、非常に弱い光量でしか輝かない。トリチウムの文字盤は、「Swiss Made」の文字の左右にある2つの「T」の記号から見識できる。当時のジンの時計はまだスイスで製造されており、この製造国を表記することが許可されていた。
時計の操作方法は?
機能的な特殊時計のメーカーとして、ジンは完璧な視認性、簡単な操作性、また長い耐久性のある時計を製造することをいつも重視してきた。私はダイバーではないため、21年前に製造された私の時計が水中でどれほどまで機能するか報告することはできない。だが、乾いた環境では全く問題なく機能していることは言える。プッシュボタン、リューズ、ベゼル、クロノグラフ機能について特に文句を言うようなことはない。全てスムーズに切り替わり、高品質な時計という感じがする。小さな問題点をあげるとすれば、ねじ込み式プッシュボタンにある。これは中型の指にとっても小さすぎで、手間がかかる。さらに、これらを所定の位置にロックしたあと、また取り外すのはとても難しい。
ジン 203の他のバリエーション
ジン 203 Stの他の興味深いバージョンは、ベル&ロス by ジンだ。この時計は1990年代半ばに発売されたものだが、実際にはほぼ同じ時計である。違いは、ジンの会社名表記が「Bell & Ross by Sinn」となっており、針の種類も異なったセットが施されている。このコラボレーションは、ベル&ロスの創業者である一人がジンで働いていたことによる。彼ら自身の名前で最初のモデルを発表できるようになるために、当時まだジンの経営者であったヘルムート・ジンに、限定された本数だけプロデュースしてもらっていた。
ジンは、1999年に203 アークティスを発表した。このモデルの特徴は、203 Stのものといくつか異なる。アークティスの文字盤は、ブルーにめっき化されており、よってより耐紫外線の効果がある。さらに、ジンが独自開発したARドライテクノロジーが搭載されている。これは、時計を湿気から守る除湿機構で、時計に信頼性の高い精度を保証する。精度の信頼性は、マイナス45度からプラス80度の温度範囲で試されている。203 アークティスを後継するモデルは、2019年に誕生した206 アークティス IIだ。これは、外観と技術的な部分においては203 アークティスとほぼ同一だが、ケースの直径が2mm大きくなり、43mmとなっている。
ステンレス製の203 Stに加えて、ジンは203 Tiというモデル名でチタン製のモデルも製造した。これらのモデルもARドライテクノロジーが搭載されている。203の特別版は、2006年に創業45周年を記念として製造されたチタン クロノグラフがある。この時計は、白いインダイヤルを備えた、いわゆる逆パンダの文字盤になっている。
入手できる可能性と価格
203シリーズはもう生産されていないため、未使用品を見つけるのはとても難しい。中古品はまだ見つけられる状況にある。現在203 Stは、時計の状態と装備の違いによって、17万円~24万円の価格で見つけられる。203 アークティスはそれより若干高く、明らかに24万円より高い価格帯で販売されている。同じく45周年記念のモデルも203 Stより高く、Chrono24では36万円未満の価格で販売されている。203 「ベル&ロス by ジン」は、Stモデルのように17万円~24万円の価格帯で売られている。
まとめ
ジン 203 Stは、大きな弱点を持たない頑丈なクロノグラフだ。その信頼性や堅牢性に関して言うと、この時計は有名ブランドのより高価な時計と同等な評価を与えられる。不滅のバルジュー 7750は、排他性の節目とまでは言わないが、その精度と耐久性はとても優れている。この時計が潜水中も簡単に操作ができ、視認性に長けているかどうかは、実際のダイバーだけが判断できるものだ。やや小さいリューズ、ねじ込み式のプッシュボタン、そしてダイバーズウォッチにしてはさほど整頓されていない文字盤がゆえに、多くの方は他のメーカーによる時計の方が好みだと言われることも想像できる。いずれにせよ、この時計の外観はとても美しく、豊富にあるブレスレットの種類によって、机の上でも見栄えがよくなる。全体的な厚さとこの記事で紹介したドーム型のサファイアガラスのケースバックを備えるこの時計にはレザーストラップが最も調和する。
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