スイスは時計製造発祥の地としてみなされており、スイス製時計は何世紀も前から高い名声を誇っている。時計愛好家がスイス製高級時計について語る時、彼らはしばしば夢中になって話をする。スイス時計は特に精度が高く、最高の品質を提供しており、人気のステータスシンボルでもある。現在非常に有名なブランドの多くは特に1950年代以降、技術革新によって時計業界の基準を作り出し、現在まで最も人気を集めている時計のデザインを生み出した。ダイバーズウォッチとクロノグラフは非常に人気が高いが、ロレックス サブマリーナやオメガ スピードマスターなども、そのルーツは同じく1950年代にまで遡る。
そのため、アイコニックな時計を製造し、それを唯一無二のストーリーと結びつけているブランドが現在最も人気を博しており、スイス時計ブランドのトップ10に名を連ねている多くの名前は幅広い層の人々に知られている。頂点に君臨するブランドの名前は、全く時計に詳しくない人々でも知っているほどだ。
この記事では、スイス時計業界をリードするトップ10ブランドや、その高額な価格設定の背景など、市場のデータとともに紹介していきたい。
スイスにはいくつの時計ブランドがあるのか?
スイスには100社以上の時計メーカーがあり、その中にはもちろん多くの小規模ブランドやマイクロブランドも含まれている。有名で、かつては独立していたメーカーの多くは、現在大手企業グループの傘下に入っている。
スイス時計業界のグループ
企業グループ | ブランド | 市場シェア |
スウォッチグループ | ブレゲ、ブランパン、グラスヒュッテ、オメガ、ロンジン、ティソ | 19.8% |
リシュモン | カルティエ、ジャガー・ルクルト、A.ランゲ&ゾーネ、IWC、ヴァシュロン・コンスタンタン、パネライ | 19.5% |
LVMH | ウブロ、ブルガリ、タグ・ホイヤー、ゼニス | 6.5% |
パテック フィリップやオーデマ ピゲなどの高級ブランドや、オリスなど、表に挙げられていないブランドは、現在まで独立したままの数少ないブランドとなっている。
ロレックスを所有しているのはハンス・ウィルスドルフ財団で、これはハンス・ウィルスドルフ自身によって設立された非営利団体だ。ハンス・ウィルスドルフの財産を保管するこの財団は、特に芸術、学術、教育、慈善活動を振興することを目的としており、エベレストなどの環境保全や、俳優やハリウッド監督であるジェームズ・キャメロンとのパートナーシップなど、さまざまな形で社会と関わっている。
最も有名なスイス製高級時計は?
成功した多くのスイス時計ブランドの中には、有名ブランドも数多く名を連ねる。今回は、モルガン・スタンレーによるレポート「スイス時計業界の現状 2022年(State of the Industry – Swiss Watchmaking in 2022)」と、Chrono24の2022年のデータから、トップ10ブランドを見ていきたい。
時計ブランド | 有名モデル | 売上高(スイスフラン) | 市場シェア | Chrono24での 流通取引総額(ユーロ) |
ロレックス | サブマリーナ、GMTマスター | 93億 | 29.2% | 14億8000万 |
カルティエ | タンク、サントス | 27億5000万 | 7.0% | 1億2100万 |
オメガ | スピードマスター、シーマスター | 24億7000万 | 7.7% | 3億9100万 |
オーデマ ピゲ | ロイヤルオーク | 20億1000万 | 4.7% | 1億9300万 |
パテック フィリップ | ノーチラス、カラトラバ | 18億 | 5.1% | 2億4800万 |
リシャール・ミル | RM 11-04 ロベルト・マンチーニ | 13億 | 2.7% | 1760万 |
ロンジン | ハイドロコンクエスト、スピリット | 12億1000万 | 3.9% | 2660万 |
IWC | インヂュニア、ポルトギーゼ、パイロット | 9億800万 | 2.6% | 1億2000万 |
ブライトリング | ナビタイマー、スーパーオーシャン | 8億6000万 | 2.6% | 1億7700万 |
ヴァシュロン・コンスタンタン | オーヴァーシーズ、パトリモニー | 8億2500万 | 2.2% | 5050万 |
出典:モルガン・スタンレー / Chrono24
この表から分かる通り、ロレックスは90億ユーロ以上の年間売上によってカルティエを20%以上リードし、世界で最も人気の高い高級時計ブランドの座に輝いている。
スイス時計はなぜこれほどまでに高価なのか?
日本製のグランドセイコーなど、スイス以外の国でも高価な時計は作られているが、それでもスイスは長年にわたって高価な高級時計の代名詞となっている。しかし、スイス時計の非常に高い価格を決めている要素は何なのだろうか。
- 職人技と品質:スイス製高級時計は素材も精度も最高峰レベルだ。内製率は極めて高く、一貫した品質保証体制が築かれている。すべてのメーカーが時計のすべての部品をスイスで製造しているわけではないが、サプライチェーンは時計の全主要部品がスイスで生産されるように管理されている。トップ10に名を連ねているブランドは、実質的にすべての部品を自社で製造しているメーカーとしてみなされている。最終プロセスとして時計は経験豊かな時計師と宝石細工師によって組み立てられ、厳しい最終検査を受けることになる。
一方で、マニュファクチュールとして製造を行っていないスイス時計メーカーは、スイスのサプライヤー産業からケースとムーブメントを調達している。有名なムーブメントメーカーにはETA(スウォッチグループ)やセリタなどが挙げられ、時計ケースでは同じくスウォッチグループ傘下のルーディンが多くの有名時計ブランドに供給している。一般的に、「Swiss Made」を名乗るためには、製造コストの最低60%および主要な製造工程がスイス国内で行われている必要がある。
- 名声と歴史:人気の高いスイス時計の価格には、ブランドの名前、歴史、ステータスも含まれている。ロレックス サブマリーナの歴史を考えてほしい。実際にはブランパン フィフティ ファゾムスの方が先であったが、それでもサブマリーナは元祖ダイバーズウォッチとしてみられている。第一次世界大戦で使用された戦車を想起させるカルティエ タンクは、量産された世界初の腕時計だ。オメガは人類史上初の月面着陸と切っても切れない関係にあるスピードマスター プロフェッショナル ムーンウォッチや、映画の中でジェームズ・ボンドが身につけているオメガ シーマスターをコレクションにラインナップしている。
- プレミアム感、供給量、需要:多くのスイス時計ブランドは時計の生産本数を厳しく制限することで、時計のプレミアム感と価格を高めている。しかし、量産モデルであっても決まった本数しか生産されない場合がある。ロレックスは人気モデルのステンレス時計を何十万本も生産しているが、それでも世界的な需要はまだ満たされていないようだ。その結果、海外の一部の正規販売店などでは長いウェイティングリストができており、自由市場では純粋に投機的な価格が付けられている。パテック フィリップやリシャール・ミルなどのブランドは、販売する場所や顧客を厳選しており、数少ないブティックまたは地域でのみ販売が行われている。そして、これが価格をさらに高めることになっている。
- 研究と開発:名門スイス時計マニュファクチュールは自社の時計をより進化させるために、多くの時間と資金を新しい技術や素材の研究開発に投資している。トップ10に名を連ねるブランドの中では、リシャール・ミルがカーボンTPTやクォーツTPTなど、革新的なケース素材およびムーブメント素材の開発に関して先駆的存在となっている。ロレックスはパラフレックス ショックアブソーバやクロナジーエスケープメントなど、自社の一連の革新技術に関する特許を取得している。独自のゴールド合金であるエバーローズゴールドも同じくロレックスの発明だ。
最高のスイス時計ブランドは?
このトップ10リストに入っているブランドがスイス時計産業の最高峰にあるブランドであるとしても、絶対的な「最高のブランド」を挙げることはできない。また、ランキングに含まれていないが、同等の品質と革新を提供している高級時計メーカーも数多くある。個人的な好みと要求はデータとして計測できるものではないが、同じく決定的な役割を果たしている。これは音楽チャートのトップ10に例えるとわかりやすいかもしれない。チャート1位がその音楽の成功を表していることは間違いないが、それが必ずしも作品の高い音楽性を意味しているわけではないのだ。
高級時計ブランドもそれぞれ独自の強みを持っており、もちろん重なる部分もあるが、特定のタイプの時計に特化している。そのため、スイス時計を買う際は、自分自身が時計に求めるものや好みを考慮し、自分に合ったブランドとモデルを見つけるために入念なリサーチを行うことが大切になる。
最も高価なスイス時計は?
これまでに最も高い価格で販売されたスイス時計はパテック フィリップ グランドマスター チャイム Ref.6300A-010だ。この時計は2019年にジュネーブにあるクリスティーズのオークションで3100万スイスフラン(2023年では約46億円相当)で落札された。これはパテック フィリップが創業175周年を記念して7本限定で生産した特別エディションだ。グランドマスター チャイムは史上最も複雑な腕時計で、パーペチュアルカレンダー、チャイムによるアラーム、5つの異なるメロディーを持つチャイム機構を含む、20種類ものコンプリケーションを搭載している。
5月初旬時点でChrono24で売買された最も高価な時計トップ5はすべてパテック フィリップのモデルであった。2位と大きな差をつけて1位となったのは、パテック フィリップ グランドマスター チャイム グランドコンプリケーション 6300G ダブルフェイスで、その価格は840万ユーロ(約12億3000万円)。そして6位はリシャール・ミルの限定モデル RM056 サファイア トゥールビヨンで約520万ユーロ(約7億6000万円)であった。
最も古いスイス時計ブランドは?
18世紀から19世紀にかけてスイスでは数多くの時計ブランドが誕生した。しかし、そのすべてがスイスの有名ブランドとして生き残っているわけではない。最古の時計ブランドを3つは以下の通りである。
- ブランパン 1735年
最古のスイス時計ブランド、それはブランパンだ。ブランパンは1735年にジャン・ジャック・ブランパンによってベルン州にあるヴィルレで創業され、それによって最も古いスイス時計ブランドとなっている。ブランパンはとりわけダイバーズウォッチシリーズのフィフティ ファゾムスで知られている。この時計のオリジナルモデルはサブマリーナが登場する1年前の1953年に発表された。
- ファーブル・ルーバ 1737年
世界で2番目に古い時計ブランドがファーブル・ルーバであることを知らない読者の方々は多いかもしれない。このブランドは1737年にアブラハム・ファーブルによって創業され、1980年代にクォーツショックが起こるまで最も名の知られたスイス マニュファクチュールの1つであった。ファーブル・ルーバはその後「休眠」を経て、2000年代に復活を遂げた。
- ジャケ・ドロー 1738年
現在の高級時計ブランドであるジャケ・ドローは1738年にピエール-ジャケ・ドローによりホールクロックの工房として創業された。その後、ジャケ・ドローは振り子時計に施す(特に鳥をモチーフとした)精巧な装飾を専門的に行うようになった。現在、ジャケ・ドローはスウォッチグループの傘下にあり、芸術的なデザインが施されたトップクラスの腕時計として知られている。
2022年のレポートを中心に、トップ10のブランドや価格について紹介したが、スイス時計ブランドは革新的な技術とその創造性でこれからも時計ファンをますます魅了することだろう。皆さんが思う「最高のブランド」はどのブランドだろうか。