時計愛好家の多くにとって、スケルトンウォッチの露わになった内部構造はうっとりするような芸術品だ。しかし、文字盤がごちゃごちゃしすぎて時刻が読みにくいという人もいる。ダイバーズウォッチやパイロットウォッチ、その他のクラシックなデザインの時計のように大勢の人を魅了する時計でないのなら、一体なぜ多くのブランドが、いまだに少なくとも1つはラインナップに入れているのだろうか？普段の生活ではあまり見かけないが、スケルトンウォッチというものは、時計業界で重要な役割を果たしている。意見が分かれることが多い時計ではあるものの、今回は背景にある歴史や職人技とともに、女性用と男性用両方のスケルトンウォッチから最高峰レベルの素晴らしい時計を紹介したい。
究極の職人技を表現
スケルトン化という技術の発祥は1760年にまでさかのぼるが、スケルトンウォッチが本当に売れ出すようになったのは1970年代だった。この時代は、クオーツ危機という非常に困難な状況の真っ只中でなんとか生き残ろうともがくスイスの時計製造業界にとって、暗く、しかしながら極めて重要な日々だった。言うまでもなく、スイスの時計メーカーはそれでも、市場にあふれる革命的な（そしてより正確な）クオーツ式時計よりも優勢であった。それは優れた職人技と、由緒あるオート・オルロジュリーの伝統への揺るぎない献身だった。伝統あるブランド各社は、生き残りをかけて強みを生かさなければならなかった。そしてそのためには、自らの芸術的才能を文字通り表現する以外に良い方法はなかったのである。
スケルトンウォッチとは何か？
スケルトンウォッチの原理は比較的シンプルだ。内部で機能するムーブメントを見せるために縮小された文字盤を持つ時計である。原則としてはシースルーケースバックに似て分かりやすく聞こえるかもしれないが、スケルトンの見た目を実現するためにムーブメント自体も縮小されなければならない。そうすることで文字盤を完全に、あるいは部分的にスケルトン化できる。部分的にスケルトン化されたものや “オープンハート” ダイヤルでは、内部機構の一部（通常はテンプ）を眺めることができるが、他のデザイン要素のために十分なスペースを残している。フルスケルトンの文字盤では、盤全体をシースルーにするため、それぞれの構成要素は最小限まで削ぎ落とされている。どこにも余分なスペースはない。最終的に、さまざまな度合いの魅力的な複雑さというものが実現され、機械や熟練の時計師による手仕事で仕上げられている。また、複雑さの度合いによって価格も変わってくる。価格帯別に比較をしてみると興味深く、この後いくつか紹介をしていきたい。
なぜスケルトンウォッチを買うのか？
先に述べたように、スケルトンウォッチは全ての人が好むものではない。機械部品が見えることは度が過ぎたもの、あるいは気が散るという時計愛好家もいる。また、スケルトンウォッチはどちらかというと機能性よりも驚異的なルックスにフォーカスする傾向が強く、多くの人は実用的な時計に求める全ての機能を備えていないと感じている。しかし、何か特別なものを探している人にとっては、ユニークで精巧なデザインを持つスケルトンウォッチは、素晴らしいステートメントピースとなる。そして一般に信じられていることとは反対で、複雑で露出したムーブメントだからといって、通常の機械式時計より壊れやすいということは決してない。キャリバーは通常通りサファイヤクリスタルで保護されているため、防水面で影響を受けることもない。多くのモデルはシースルーケースバックという妥協案に落ち着いているが、時計の最高のポイントを覗き見るのに、本当にいちいち時計を外したいと思うだろうか？
では、スケルトンウォッチについて簡単に紹介したところで、価格帯別に最高峰レベルのスケルトンウォッチを見ていこう。
1. ハミルトン ジャズマスター ビューマチック
スケルトンダイヤルがごちゃごちゃと入り組んでいるというのは、全くそのとおりだ。そうはいっても、ハミルトン ジャズマスター ビューマチック Ref. H42555751はチャプターリングとまとまりのある配色のおかげで、ある程度の統一感がある。ハミルトンは、自動巻ムーブメントこそがスターであることを理解しており、シルバーのダイヤ型インデックスと針は比較的目立たないようになっている。したがって時間によっては、時針を探すのに数秒かかってしまうこともあるのだが、これも楽しみの一部なのだ。
ハミルトンはこのジャズマスター ビューマチックの女性用も作っており、同じように壮麗な自社製自動巻キャリバー H-10-Sを観察することができる。これらの時計のもうひとつの素晴らしい点は価格だ。スケルトンウォッチは、しばしば複雑なデザインと特別な製造プロセスを持つために、通常の文字盤を持つ時計よりも高額である。しかしハミルトンは、機械式時計に込められた類まれな職人技の素晴らしさを理解する多くの時計愛好家たちへ、1本15万円前後でスケルトンウォッチを提供しているのだ。アメリカにルーツを持つ、良心的な価格のブランドが展開するスケルトンウォッチ。まさに文句なしの1本なのではないだろうか。
2. ゼニス デファイ 21
ゼニスに触れずにこの記事を書き進めていくことはできない。というのも、このブランドはこれまで人気を博したスケルトンウォッチを作ってきたことで知られているからだ。同社のデファイコレクションは、一度見たら目を離すことが非常に難しい複雑なデザインを持つスケルトンダイヤルを誇るものだ。ゼニス デファイ 21は、スケルトンウォッチにも “普通の” 文字盤を持つ時計と同じことができるのだと証明している。インダイヤルごとに微妙に違う色が使われ、経過時刻と現在時刻を確認するのが（比較的）簡単になっている。そして、伝説的なエル・プリメロキャリバーが動くのを目の前で見るのは、真の目の保養である。ケースは44mmとかなり大型であるため、もう少しコンパクトなものをお探しの女性には、ゼニスがユニセックスウォッチとして展開しているデファイ スカイライン スケルトンを代わりにお勧めしたい。
3. カルティエ サントス スケルトン
カルティエの人気は近年ますます上昇中である。この現象の理由は数多くあるものの、主に同社の長い歴史と、長年かけて彼らが市場にもたらした男性・女性向けモデルの幅広さによるところが大きいだろう。このフランス産ジュエラー・時計ブランドは、カタログにいくつかのスケルトンモデルもそろえており、中でもカルティエ サントス Ref. WHSA0019が、この記事で取り上げる最高のものである。このタイムピースには約350万円という価格が設定され、もう1段階上の価格帯に属している。カルティエ定番モデルのこのバージョンは、9611 MCムーブメントのおかげでバランスよく洗練されているのがわかるだろう。このムーブメントはタンク MC スケルトンにも採用されている。筆者がカルティエのデザインに関して特に好きなのは、ローマ数字インデックスがスケルトン化にうまく取り入れられていたり、ビスに2トーンカラーが反映されていたりするところである。
もちろん、世の中にはもっとたくさんのモデルがある。オメガ スピードマスターのスケルトンバージョンもあることをご存じだろうか？スケルトンウォッチはまさに勢いを得ており、LVMH ウォッチウィーク 2023では新作モデルのリリースがあったことで、おそらくより多くのスケルトンウォッチモデルがすぐに発表されるだろう。
人気急上昇中のスケルトンウォッチ。みなさんは正統派の文字盤の時計とスケルトンウォッチのどちらが好みだろうか。
