セイコーの歴史は、1881年までさかのぼる。服部金太郎が東京に時計店を創業したのがその始まりだ。その後、1892年に掛時計の製造を行う時計工場「精工舎」を設立。1920年代半ばに「セイコー」というブランド名を冠した最初の腕時計が発売され、その後数十年の間にセイコーは時計製造におけるパイオニアとして時計業界を牽引する存在へと成長した。その功績の一つが、1969年に大衆市場向けに発表された世界初のクオーツ式腕時計であり、スイスの競合ブランド、ロレックスを追い越したほどだった。現在、セイコーは日本やアジア諸国に複数の生産拠点を持つなど、複数のブランドや会社を保有するグループ企業となっている。スウォッチグループと同様に、セイコーもターゲットごとに異なるブランドを展開している。
- グランドセイコー:セイコーの独立したハイエンドブランド
- クレドール:セイコーの独立したラグジュアリードレスウォッチブランド
- セイコー:幅広いラインアップで様々なブランドを展開
- ローラス:セイコーがヨーロッパで展開する低価格帯のブランド
- パルサー:セイコーが海外で展開する低価格帯のブランド
- オリエント:依然は日本の独立系時計メーカーだったが、現在はセイコーグループに加わっている
セイコーでは、高品質なモデルはすべて日本国内で製造しており、安価なモデルの場合、一部が中国で製造されている。しかし、すべてに共通しているのは、部品も含めすべてセイコーの工場で一貫生産されているという点だ。

セイコーのコレクションと有名モデル
セイコーは、さまざまなニーズや好みに対応する幅広いコレクションを展開している。最も人気なのは、本格的な機能を搭載するスポーツウォッチコレクションのプロスペックスだ。タフなダイバーズウォッチも人気のアルピニストも、どれも信頼性の高い時計ばかりで、ダイバーズウォッチでは1000m防水、アルピニストでは簡易方位計を内蔵するなど、高度な機能が特徴だ。また、2019年にリブランディングされ復活した5スポーツも人気で、コストパフォーマンスに優れた自動巻き時計を展開している。そのムーブメントは精度に優れ、日付と曜日表示機能という便利な機能を搭載している。さらに、モデルやデザインのバリーションが豊富で、誰にでも合う1本を見つけることができるのも魅力だ。

その他にも機械式ムーブメントのみを搭載したエレガントなプレザージュや、クラシックなデザインと現代的なテクノロジーが融合したプルミエ、GPS機能を搭載したアストロンやラグジュアリーなキングセイコーといったコレクションも一見の価値がある。セイコーと言えば、手頃な価格の時計で知られているが、天文台クロノメーターのように、かなり高額で取引されるものもある。天文台クロノメーターは、1960年代の終わりに226本限定で生産された希少なヴィンテージモデルであり、現在ではコレクターズアイテムとなっている。また、クレドール ノード スプリングドライブ ミニッツリピーターは、定価が3000万円を超えるなど、発売当初最も高額な時計だった。価格設定の背景には、さまざまな要因があるが、セイコーが高い時計製造技術を有することを証明するものだと言えるだろう。
卓越した時計製造技術
セイコーのセールスポイントは、完全な自社一貫生産という点にある。ムーブメントから文字盤、インデックスに至るまで、すべてのパーツを自社で生産している世界でも数少ない時計ブランドの一つだ。また、グランドセイコーに独自の厳しい品質規定を設けていることでも知られている。ムーブメントは、6つの異なる姿勢と3つの異なる温度のもと、様々な条件下で17日間にわたってテストされ、その規格は、クロノメーター認定よりも厳しいとされている。これまで、時計史に数々の功績を残してきた同社だが、なかでも特に印象深いのは、以下に挙げる3つと言える。
- 1969年:世界初のクォーツ式腕時計「アストロン」を発表
- 1999年:クォーツ時計の精度と機械式時計の力強さを合わせたスプリングドライブ技術を発表
- 2012年:世界初のGPSソーラーウォッチを発表

日本の美を表現したデザイン
セイコーは、世界のトレンドと日本の豊かな伝統文化を融合させたデザインを得意としている。たとえば、プレザージュでは文字盤に日本の伝統工芸である七宝焼を採用し、特別な深みを与えるとともに、日本的なミニマリズムやシンプルな美しさを感じさせる仕上がりとなっている。また、1970年代には、世界的に有名な映画のボンドウォッチに採用されたり、現在のテニス界のスーパースターノバク・ジョコビッチとのコラボレーションモデルを発表したりと、そのラインアップには世界のトレンドも反映されている。

セイコー VS グランドセイコー
グランドセイコーとセイコーはともにセイコーグループながらも、時計製造の異なる2つの世界を表現している。高級時計ブランドとして位置づけられているグランドセイコーは、品質や仕上げ、デザインなどさまざまな面で上質を極め、日本のクラフツマンシップの最高傑作と言っても過言ではない。限られた本数を丁寧に国内で仕上げている。セイコーがさまざまなターゲットに向け幅広いデザインの時計を提供する一方で、グランドセイコーは洗練された美しさに重きを置き、日本の自然からインスピレーションを得たシンプルでエレガントなデザインが特徴だ。独自の技術であるザラツ研磨による鏡のように滑らかで美しいケースは特に印象深い。グランドセイコーとセイコーの最大の違いは価格と言え、その価格はセイコーのものよりもかなり高額に設定されている。しかし、品質や高級感、革新的な技術を考慮すれば、納得できる価格差だろう。そして資産価値という点では、セイコーのものよりも優れ、投資対象としての可能性も秘めている。
