一部のコレクターは、認めたがらないかもしれない。だが、腕時計は日常生活用品である。腕時計は日常的に使用され、所有者の手首で何年間も時を費やすことは珍しくない。長く使用されている時計は、見た目もそれ相応となる。特に1950年代、1960年代、1970年代に発売されたヴィンテージ時計はそうだ。これらの時計は、多くの事を体感してきている。特にツールウォッチとして着用されてきた時計は、風防が擦れていたり、ケースが多少破損していたり、金属ブレスレットがすり減ったりしている場合がある。針と文字盤に新鮮感はなくなってしまっている。要するに、一部のヴィンテージ時計は「デイリーユースされてきた」感がかなりあるということだ。
時計愛好家がこのような時計が販売されているのを発見すると、彼らにはまず次のような疑問が浮かぶ。この時計は購入可能か、またはこの時計を購入すべきか?このような時計は比較的安価で入手できることがほとんどなのも、かなり傷んでいる時計の状態を考慮すれば普通だ。それでも特売品を狙うハンターたちにとっては、魅力的な商品である。では、どういった点に注意すべきだろうか?
ここからは、私自身がどのように「デイリーユースされてきた」ヴィンテージ時計を見定め分類するか、その方法をいくつか紹介していく。
擦れ傷のついた風防: 見た目が悪くても心配無用
まずはプラスのことから始めよう。擦り傷のついた風防については、そこまで問題視する必要はない。風防を交換することやそれにかかる費用の面で、苦労することはないはずだ。素材がプレキシガラスか「本物」のガラスかどうかに関わらず、代用となる適切な風防を見つけることは比較的簡単である。私個人としては、その時計メーカーによる高価なオリジナルガラスである必要はないと思う。
いわゆる「アフターマーケット」で販売される商品の数は非常に多く、しぶとく検索さえすれば、リーズナブルな価格で代用品となる風防用のガラスを見つけることができる。多くの場合、数千円の価格で見つけることが可能で、また時計職人に交換を依頼してしも、そこまで値段はかからない。唯一の例外は、特殊な形状や丸みを帯びた風防、またはオメガ スピードマスター マーク 2の (ミネラル) ガラスのように内側から収められた風防だ。これには、1万円を超える値段を見込む必要がある。もし適切なガラスを探す手間を省きたいというのであれば、特注するという手もある。丸くて平らなガラスであれば、費用的にもそこまで問題にはならないはずだ。サファイアクリスタルは、もちろんミネラルガラスやプレキシガラスよりも値段は高くなる。だが、ヴィンテージ時計にサファイアクリスタルが使用されていることはほとんどない。無難な選択をしたいのであれば、事前に簡単なリサーチをお勧めする。
ヴィンテージ時計を購入する際に考慮すべきこと: 風防に擦り傷がある時計は、実際よりもはるかに使用感が強いように見えてしまう。もし可能であれば、擦れた風防については無視して、時計自体を評価してみよう。この方法で、私は特売品を何度か手に入れることができた。
ケース: 角が擦れて丸みを帯びている
傷や凹みなど、時計のケースは色々損傷する。ではどんなダメージは許せるのか?簡単に言うと、もし時計のケースが激しい摩耗や多くの研磨によってオリジナルの形状を失っている場合、またはエッジや輪郭がはっきりと「丸みを帯びている」場合、私はその時計に手を出さない。その時計にどんな魅力的な値段がつけられていてもだ。そういった時計のケースは素材がすり減りすぎており、通常の改修作業はほとんどできない状態だからだ。最悪の場合、ケース全体を交換することしか解決策はないかもしれない。私個人的には、丸みを帯びてしまった悪い状態のケース、またはかなりの摩耗が見られるゴールドケースはお勧めしない。素材がすり減りすぎており、復元させるのは困難または不可能だからだ。
オルフィナ ポルシェ デザインやジンによる一部の古い時計のブラックコーティングは、簡単に修復できる。発売された当時のコーティング品質は良好でなかったため、現在これらの時計の状態を見るとかなり老化しているように見える。ここで改修するのに役立つのが、耐性の強い新しいDLC (ダイヤモンドライクカーボン) コーティングだ。価格は数万円程度で、時計を擦り傷や摩耗などから保護できる。これは価値ある投資となるはずだ。少なくとも私があとからブラックコーティングを施したジン 144で経験した限りでは、とても意義ある出費だったと思う。
一般的に傷や凹みに関しては、思っている以上に修復方法は存在する。簡単な傷などは研磨することができ、深い傷や凹みに関してはレーザーで修復できる。
ケースの個々のパーツは、レーザー溶接と言う手法で実際に修復できる。この手法で修復された時計を見た時、私はその美しい仕上がりにとても驚いた。特に人気のあるヴィンテージ時計に関しては特に、このような美容手術をする価値がある。またはメーカーにオーバーホールを依頼した際に、これを一緒にお願いするのも良い。メーカーによっては全体のオーバーホールに含まれていることもあり、あるいは追加料金でこのようなサービスを提供している。
ベゼル、インサート、失われたルミナスポイント
文字盤や針のように、 (回転) ベゼルもオリジナルであればあるほど良い。ベゼルやインサートは、使い古びていても問題ない。しかも老化によって価値が上昇することもある。古くなったベゼルやインサートは、もちろん新しいものと交換することができるが、ロレックス サブマリーナやオメガ スピードマスターなどの人気のあるヴィンテージ時計の場合は、時計自体の価値を下げてしまう恐れがあるので、交換しない方がよい。また、古い部分と新しい部分のバランスが合わないことがよくある。なので交換する場合は、その時計の年齢に相当するオリジナルの部品と交換することをお勧めするが、もちろんそれに応じた費用が必要だ。
他にも注意すべき点は、ベゼルの12時位置に輝くルミナスポイントが無くなっていないかどうかだ。
なぜなら、オリジナルの部品 (主にトリチウム) を発見し、交換するのが難しいからだ。この場合、そのまま失っている状態の時計で我慢するか、ここでも時計の年齢にあった代替品となるベゼルインサートを探す旅に出るかの選択肢がある。
いつものステンレスまたは金属ブレスレット
人によってはとても重要なトピックが、ブレスレットだ。中には、ステンレスまたは金属製ブレスレットをヴィンテージ時計の重要な一部として考える人もいれば、重要なのは時計自体 (ヘッドだけ) と考える人もいる。後者の方々は、ブレスレットを単にアクセサリーとして、または「あっても損はしない物」として捉えている。いずれにせよ、金属ブレスレットは比較的簡単に修復できる。また、ロレックスやオメガのヴィンテージ時計によく見られる「伸びてしまった」ブレスレットでも同じだ。2万5000円ほどで、このようなブレスの修復ができる (詳細はこちら) 。オリジナルのブレスレットと交換する費用に比べると、修復してもらう方が断然安い。ただここで注意を払わなくてならない事は、ヴィンテージ時計の金属製ブレスの長さが適切であることだ。なぜなら、ブレスリンクの交換品を発見するのにかなりの時間がかかるのと、発見できてもその価格が驚くほど高いからだ。ゴールドブレスに関しては特にそうだ。
時計にはレザーまたはNATOストラップしか装着しないという方は、何かしらの (オリジナルではない) ストラップが備えられた安価の時計を入手し、好みに合わせてストラップを交換すればよい。
文字盤と針: 美容手術はしない方がいい
一言で言うと、文字盤は (ヴィンテージ) 時計の顔と言える。この部分に関しては、妥協するべきではない。文字盤は、適切なものである必要がある。それは、老化していても構わない。だが、目立つ (大きすぎる) 損傷などはない方がいい。個人的な経験から言うと、着用する際にいつもそれに目が行ってしまい、気になってしまう。
針に関しては、多少「寛大」になってもいいと思う。針は、文字盤と同じ感じに老化していることが理想的だ。新しいオリジナルの針 (スーパールミノバ) が古いトリチウムの文字盤上で回転していても、さほど違和感はない。少なくとも、落ちついたヴィンテージ時計のコレクターにとってはそうだ。だが、その場合は、値段を適切に交渉した方がいい。
私が恐らくほとんどの確率で手を出さないであろう時計は、改装された文字盤を持つ時計だ。なぜなら改装された文字盤は、時計の価値を大きく下げること (もはやオリジナルではない) を意味する。また修復が必要な場合は、丁寧にそれを扱える職人がごくわずかしかいないからだ。私は、美容手術が失敗した、または幾度も行われた時計をたくさん見てきている。何もせずにそのままにしておけばよかったのに、と思う時計を。古い時計の場合は、過度に輝きを放つ新しい文字盤よりも、ごまかしのない上品に老化した文字盤の方が魅力的である。磨き上げられた文字盤には、単にマイナスイメージが付きまとうことがほとんどだ。特に文字盤の色がメーカーが考慮したものではない、または生産したものでもない場合はそうだ。
ムーブメント: 汎用ムーブメントが時として良い
ここで時計の中心部に迫ってみよう。ムーブメントが稼働していることは、もちろん理想的だ。それが可能な限り正確に稼働していればなおさらである。少し前に初めてオーバーホールが行われたものでも構わない。多少ムーブメントに欠陥がある時計でも、特売品を探している人にとっては、興味深い時計と感じるものだ。搭載されたムーブメントが、バルジューまたはETA 7750や2824-2といった、いわゆる汎用ムーブメントの場合は特にそうだ。なぜならこれらのムーブメントは、多くの時計に使用されているので、スペアパーツの在庫が充実しており、問題があっても修理できるかどうか心配する必要がないからだ。これらのムーブメントのオーバーホールにかかる値段は、個人経営の時計職人に依頼すると、約2万5000円から4万円 (スペアパーツを除く) である。この価格帯を念頭に置くことは、後々便利になるはずだ。時計のオーバーオールに長時間かかる、または時計の状態が不明の場合、これらのコストを購入価格に加算して考えるか、時計の価格を交渉するために考慮しておくと良い。
とても古くてレアなムーブメントや、多くの複雑機構を搭載したムーブメントでは、話は別だ。この場合、唯一役立つことは、本当に修理することができるのか、または修理する価値があるかを把握するために、とことんリサーチをすることだ。一般的には、錆や水による破損がはっきりと見える時計には手を出さないことをお勧めする。
私が (デイリーユースされてきた) ヴィンテージ時計を購入する際に注意する点は以上だ。ここで述べた点が、近い将来ヴィンテージ時計を探す際に、いくつか役に立つことを願う。残念ながら、全ての時計に通用する一般的な経験則は存在しない。だが、この記事を読んで分かっていただきたいのは、例えば風防ガラスの状態はさほど重要視することではないが、文字盤、ムーブメント、そしてケースの状態は重要視するべきだということ。最終的には、誰もが自分独自のリサーチをし、どの中古時計が特売品なのか、またはそうでないかを見極めなくてはならない。ただ、少しでも疑問があったり情報が不足している場合は、手を出さないことをお勧めする。それでもいずれまた、次のヴィンテージ時計が現れるはずだから。