ファンには大きな喜びだろう。ドイツ発ブランドのノモスがついに2024年の新作を発表したのだ。普通はないことだが、今年の新作は時計ファンの間でこれまでにないほどの激しい議論の種になっている。この記事では2024年秋に発表されたノモスの新作をすべてご紹介しようと思う。もちろん、渦中の新作、ノモス タンジェント 2デイトについても取り上げるつもりだ。事前に少しネタバレしておくが、我々時計愛好家は今回のリリースで何か見落としているのではないかと思っている。
ノモス クラブ スポーツ 34
とにかく話を始めよう。クラブ スポーツは、グラスヒュッテに本拠地を置くドイツのメーカー、ノモスの大ヒット作となった。そのため、このブランドが今年、新色で34mmバージョンを発表したのも肯ける。新しいサイズは女性をターゲットにしてはいるが、手首の細い男性にとっても見るべき価値があるはずだ。チューダーにとってのスノーフレーク針と同様に、ラグの長さがノモスのデザインの大きな特徴だ。しかし、そのラグのせいでこれまでは手首の細い時計愛好家にちょうど良いサイズが見つけづらかったのも事実だ。今回サイズが小さくなったことで、このオールラウンダーを身に着けられるターゲット層が広がった。34mmのクラブ スポーツの発表は地球を揺るがすような目新しさこそないが、人気シリーズの拡大に成功したことは間違いない。
新作のクラブ スポーツ 34で人気のクラブ スポーツ・コレクションに新しい文字盤カラーと小さめサイズを展開
ノモス オリオン&タンジェント ネオマティック ドレ
皆様のお住まいの地域ではどうか分からないが、ここドイツではゴールドウォッチとその着用者はある種のイメージと結びつけられることが多く、とにかく目立ってしまうのだ。新しいオリオンとタンジェント ネオマティック ドレがノモスフォーラムに出席していたジャーナリストたちに披露された時、筆者は少しニヤついてしまった。ノモスが発表したのは、針とインデックスに繊細で控えめ、かつ非常にスタイリッシュなゴールドのパーツを配するという、極めてドイツ的なゴールドの取り入れ方をしたステンレス製ウォッチだったのだ。ブラウンのレザーストラップが素晴らしくマッチしており、全体的な外観を完成させている。見た目が非常に美しく、2つの定番モデルにゴールドの輝きを与えながらも、やりすぎにならないバランスを保っている。真の主役は自動巻きムーブメントDUW 3001で、美しく演出された姿はサファイアガラスのケースバックから眺めることができる。このリリースは画期的とまでは言えないが、ノモスを象徴する2つのモデルにバラエティを与えたと言える。ゴールドのアクセントが効いたクラシックなドレスウォッチをお探しなら、この2つの時計をおすすめしたい。
ノモスの定番モデルにゴールドの輝きを与えたオリオン&タンジェント ドレ(写真提供:ノモス )
ノモス タンジェント 2デイト
ノモス タンジェント 2デイトはノモスの新作の中でも最大の目玉であり、発表と同時に時計ファンの間で大きな反響を呼んだ。理由は、日付表示を2つ搭載しているところだ。この複雑機構を搭載した意味がファンには理解しがたく、実際誰も求めていなかったからだ。どういうことなのか、そしてこの時計に対する筆者の個人的な意見についても、順番に紹介していこう。タンジェントはノモスのアイコンウォッチであり、ブランドを代表する人気モデルだ。そのため、今回もケースの造形や全体のデザイン言語は基本的には何も変わっていない。数字とバーインデックスの組み合わせや6時位置のスモールセコンドなど、タンジェントらしい特徴はすべてそろっている。すぐ下にある日付表示窓も同様だ。しかし、文字盤の縁に見える窪みはまったく新しいもので、1~31までの数字が記されている。これは2つ目のデイト表示で、アナログ形式で日付を表示し、今月のどのあたりに現在いるかを視覚化したものである。白文字盤バージョンでは日付を赤い色で強調し、青文字盤バージョンでは白で強調する。この時計の真の主役は、人気の高いタンジェントでも日付を素早く調整できるようになった、真新しい自社製ムーブメントDUW 4601だ。サファイアガラスの裏蓋を覗くと、ノモスの新しいムーブメントが細部にまでこだわって装飾されていることが分かる。見た目は驚くほど美しく、ムーブメントの厚さは2.8mmとさらにスリムになり、5気圧防水と52時間のパワーリザーブを備え、さらにパワフルになった。ノモスはデザインや複雑機構に関してはそこまで深く追求していないかもしれないが、技術や品質に関しては一切の妥協を許さない。高い評判を得ているブランドであれば当然と考えられる条件をすべて満たしている。
大きな反響を呼んだノモス タンジェント 2デイト(写真提供:ノモス )
ノモス タンジェント 2デイトで我々が見過ごしていること
実際のところ、ノモス タンジェント 2デイトは日付を2度表示する初めての時計だ。これは我々時計ファンが望んでいた機能なのだろうか?そんなことはまったくない。この新機能には意味があるのだろうか?それも違うと思う。多くの時計ファンが失望するのも無理はないのだ。人々はこのブランドをとても高く評価しており、ノモスという名前が象徴する、なじみある伝統と耐久性の高さから逸脱した方向に進むと、面食らってしまうのだ。私見だが、ノモスはデイデイトのような複雑機構を搭載する機会を逸してしまったように思う。その方が日付表示を2つ搭載するよりも理にかなっていたし、より好意的に受け止められていたはずだ。だが、こういったもっともな評価の中でも見落とされていることが一つある。それはタンジェントにはすでに多数のバージョンが存在しているということだ。クラシックなものが好みなら、クラシックなバージョンがある。タンジェントの真面目な新作が必要なわけではないのだ。そうではなく、ノモスはむしろ新しい道を模索中であることを示しているのであり、また、時計の世界のすべてが常に伝統的で、常識的で、生真面目でなければならないわけではないことも示してみせたのだ。スマートフォンで時刻や日付や曜日を確認できる現代において、時計は何よりもまず楽しく、見た目が好みであるべきだ。ノモスは時計ブランドとして伝統と価値観を新しいアイデアと融合させ、ファッション業界に目を向けることを恐れない。ファッション界のブランドの歴史も長いが、この業界でもすべてが常に意味があって伝統的であるとは限らない。ノモスは自分たちのルーツをよく分かっているが、非常にオープンで実験的なことにも挑戦するブランドだ。日付表示が2つあっても実際はあまり役に立たないかもしれないが、新しいことをする勇気、細部へのこだわり、そして一部の時計ファンには知られていないかもしれないが、ノモスをユニークで魅力的なブランドにしているノモスならではの繊細で控えめなユーモアがここに表れているのである。まだまだあちこちで埃をかぶっている機械式時計の世界ではなかなかお目にかかれないものだ。この時計が万人向けでないことは確かだが、そうありたいと望んでいるわけでもないのだ。