2022年01月25日
 10 分

ノモス グラスヒュッテのムーブメントの進化

Tim Breining
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すべての時計ファンを結びつけているのは時計に対する情熱であるが、筆者を特に魅了しているのは時計の機構である。以前にEta 2824-2とその歴史で時計業界の汎用ムーブメントに焦点を当てた後、筆者に最も深い感銘を与えたムーブメントについてよく考えてみた。印象に残っているムーブメントは数多くあるため、その中から1つを選び出すのは容易ではない。そのため、この記事では筆者が最も長く愛用している時計であるノモス グラスヒュッテのムーブメントと、同ブランドのいくつかのムーブメントの発展について書くことに決めた。

ノモス タンゴマットからネオマティックキャリバーへ

筆者が初めて購入した本格的な機械式時計はノモス タンゴマットであった。端正なデザインと高い内製率、そしてとりわけそのフェアな価格によって、機械式時計を初めて購入する多くの人々においてと同じく、ノモス グラスヒュッテはすぐに筆者のウイッシュリストの最上位にその名を連ねるようになった。

それから数年後、タンゴマットにもう1つ別のノモスが加えられた。今回は、筆者が市場に投入されてからずっとチェックしていたムーブメントである、完全に新しく開発されたネオマティックキャリバーの1つを搭載するモデルであった。筆者が機械式時計にどんどんのめり込んでいった最初の1年目に、ノモスはそれまでのムーブメントの設計に基づかない、初めての自社製キャリバー世代を開発していたのだ。

ノモスは筆者が機械式時計に興味を持ち始めて以来ずっと追いかけているブランドであるため、この機会にその時計ムーブメント開発における発展と節目について思い返してみたい。供給ムーブメントから始まり、カスタムキャリバーを経て、ハイエンドの少量生産キャリバーやネオマティックキャリバーに至るまで、ノモスは多くの印象的な機構と独創的なソリューションを市場に投入してきた。

ノモス タンゴマットは筆者の初めての機械式時計であった。
ノモス タンゴマットは筆者の初めての機械式時計であった。

ノモス タンジェント: 慎ましやかな始まり

成功を収めたモデルであるノモス タンジェントに最初に搭載されていたキャリバーは、今ではあまりお目にかかれないETA社製のプゾー7001であった。クラシックな形の7001は、典型的なグラスヒュッテ時計のイメージにぴったりと合うわけではない。4分の3プレートの代わりに輪列のブリッジと香箱のブリッジが2分割されており、角張ったエッジが付けられている。ノモス タンジェントが発表された1992年から2005年にかけて、ストップセコンド機能、長いゼンマイを持つグラスヒュッテ式コハゼ、そしてグラスヒュッテ様式の4分の3プレートなど、ノモスは7001に少しずつ独自の変更を加えていった。2005年からは、上記の変更が加えられた7001のレプリカである「自社製」アルファキャリバーが、時計に搭載されるようになった。

グラスヒュッテ様式の4分の3プレートを持たないプゾー7001搭載の初期ノモス タンジェント
グラスヒュッテ様式の4分の3プレートを持たないプゾー7001搭載の初期ノモス タンジェント

コンプリケーションに関しては、自社製キャリバーに切り替える前から積極的に開発されていた。パワーリザーブ表示と日付表示を備えたアルファのバージョンの1つであるノモス デルタの、特許を取得しているパワーリザーブ表示はその一例だ。これは長年の開発担当マネージャーであるティエリー・アルベルト氏によって考案され、この独創的な設計によってベースキャリバーの厚みをそのままに保つことが可能となった。

ノモス タンジェント: 自社製自動巻きキャリバー イプシロン

ノモスは自動巻きモデルのタンゴマット用キャリバー イプシロンによっても新領域を開いた。イプシロンは7001に自動巻きモジュールが追加されたキャリバーで、このモジュールは目立つ位置に配置されているためその動きをはっきりと見ることができる。両方向の巻き上げはノモスが「Wippbewegungsgleichrichter」と呼ぶスイッチングロッカー式の機構によって行われる。広く普及しているETA 2824-2やロレックスのキャリバーで採用されているような一般的な切替車とは異なり、この部品は忙しく左右に行ったり来たりしているが、この動きがスイッチングロッカー式の機構を特に魅力的にし、ノモスらしさを作り出している。香箱の変化は見た目からはわからないが、ローターは完全に巻き上げられても動き続け、ゼンマイを巻き上げるため、スリップさせることでゼンマイを保護するスリッピングアタッチメント付きの構造へと切り替えられている。また、ローターを完全に重金属 (タングステン) 製にすることで、巻き上げ効率を高めている。一般的にはローターの外縁部を重金属にすることが多いが、ノモスは一体鋳造のローターを採用しており、それは今でも変わっていない。

イプシロンには、とりわけタンゴマットGMTやチューリッヒ ワールドタイマーに搭載されているキャリバーXiなど、より複雑なバージョンも存在する。

スウィングシステムとネオマティック

ノモスの歴史における次の節目は、テンプ、ヒゲゼンマイ、ガンキ車、アンクルを含む自社製調速機構の導入であった。この若いブランドは、オート オルロジュリーブランドであっても簡単ではないことを、価格を大幅に上げることなく成し遂げたのだった。

「スウィングシステム」と呼ばれる自社製調速機構の導入によって、ノモスは仕様を変えたキャリバーに新しい名前を付けるようになった。キャリバーの名前はギリシャ文字ではなく、「DUW」と各キャリバーの数字コードの組み合わせに変更された。DUWは「Deutsche Uhrenwerke (ドイツの時計機構)」を意味しており、ノモスはこれによって大きな自負心と情熱を持って、自社が高い内製率を誇る本物のマニュファクチュールであることを宣言しているのである。ノモスによるとスウィングシステムの開発には7年の年月が費やされており、ドレスデン工科大学とフラウンホーファー研究機構との協力によって実現された。この協力においては知識だけでなくスタッフもトレードされた。スウィングシステムの開発におけるキーパーソンであったルッツ・ライヒェル氏は、ドレスデン工科大学で博士号を取得した後、そのままノモスに入社した。

メトロ デイトに搭載されたDUW 4101
メトロ デイトに搭載されたDUW 4101

3針時計の革命: ノモス DUW 3001

さらなる時計やキャリバーへのスウィングシステムの導入を拡大し始めた一方で、ノモスはすでに革新的なキャリバー世代を準備していた。口火を切ったのは、新しい時計モデルであるミニマティックと同時に2015年に発表された3針自動巻きバージョンのDUW 3001。厚みが3.2mmしかないため、オリオンなどのそれまで手巻きキャリバーしか搭載できなかったような薄さのモデルにも、初めて自動巻きキャリバーを搭載できるようになった。ネオマティックシリーズはノモス初の自動巻きキャリバーであるイプシロンの開発責任者でもあったミルコ・ハイネ氏と、設計マネージャーであるテオドール・プレッツェル氏によって主に開発された。

DUW 3001の厚みは自動巻きキャリバー イプシロンをなんと1.1mmも下回っていた。これは約26%の薄型化である。イプシロンはプゾー7001 (またはノモス アルファ) をベースとするモジュール式であるが、DUW 3001はゼロから設計されているため、この比較はフェアではないかもしれない。すべて自社設計することにより自動巻きユニットを4分の3プレートの下に格納することが可能となり、DUW 3001を一般的な手巻きキャリバーの厚みへとサイズダウンすることに成功している。これに対して製造公差は約半分になり、ゼンマイばねは細くなったが、これは輪列機構の効率を92%以上にまで高めることで補われている。

DUW 4101 ― ノモス グラスヒュッテ ドイツの時計
DUW 4101 ― ノモス グラスヒュッテ ドイツの時計

キャリバーの名前にもう一度焦点を当てよう。DUW 4000番台はスウィングシステムを搭載したアルファベースのキャリバーで、5000番台は長年作られているスウィングシステム搭載自動巻きキャリバー、3000番台は最初のネオマティック世代である。

しかし、1000番代と2000番台はなぜないのだろうか。この疑問には以下で答えたい。

ノモスのオート オルロジュリー ムーブメント

ノモス タンジェントを愛用する人が増えている一方で、ノモスの2つのハイエンドモデルであるラムダラックスを目にすることはあまりない。ラムダはラウンド型でツインバレルと長いパワーリザーブを備えており、ラックスはトノー型のケースとそのケースにフィットする形状のキャリバーを持っている。ねじ留めされたシャトン、上品な仕上げ、ハンドエングレービングによって、ノモスは通常貴金属製でしか手に入れることができないこれらの時計を最高級のタイムピースに仕立て上げている。

厳密に言うならば、この2013年に発表されたキャリバーは、ネオマティックシリーズが登場する何年も前にすでに市場に存在した、ノモスの真の自社製キャリバーである。しかし、100万円を超える価格が付けられたモデルの売れ行きは控えめで、この価格帯での評価はあまりよくないと言わざるを得ない。

ノモス クラブ デイト
ノモス クラブ デイト

ノモスが一度発表した非常に手頃なステンレス製ケース搭載の限定モデルは、またたく間に品切れとなった。ノモス ラムダやラックスは素晴らしい品質の時計であるが、売れ行きに関して同ブランドの強みが40万円以下の価格帯にあることは間違いない。

ノモスの手頃なモデルだけではなく、ラムダやラックスについても聞いたことがあるという人も、ノモスがすでに2006年においてドイツの宝飾店ヴェンペの時計コレクションのために、トゥールビヨンなどを搭載した高級ムーブメントを設計および製造していたということは知らなかったに違いない。これらのムーブメントの名前は「Theta」および「Jota」と呼ばれていた。Thetaはミルコ・ハイネ氏、トゥールビヨンを搭載したJotaはティエリー・アルベルト氏によって試行錯誤して開発された機構であった。

ノモスの次のステップは?

現在、ノモスのホームページに掲載されているほとんどすべてのモデルにスウィングシステムが搭載されている。しかし、「古い」自動巻きキャリバーは引き続きネオマティックキャリバーと並行して製造されるのだろうか?もし、すべてのムーブメントが非常に薄型のネオマティック構造に切り替えられるとしたら、一部のコンプリケーションを設計変更、または再設計しなければならない。これは費用対効果の問題でもある。

筆者が最も気になっているのは、いつかノモスがクロノグラフを発表する日が来るのかということ。これはテクノロジーに関する当然の次のステップであると思われるが、ブランドのアイデンティティーに相応しいだろうか、という疑問も生じる。文字盤の複雑性はノモスのミニマルなラインに対するコントラストとなる一方で、クロノグラフはスモールセコンド付きの時計 (: ルイ・エラール モノプッシャー クロノグラフ) より必ずしも雑然となってしまうわけではないということも示すだろう。そのため、筆者はノモスが自社製クロノグラフキャリバーを製造することを大いに期待している。そして、もしリリースされることになれば、間違いなく購入するだろう。


記者紹介

Tim Breining

2014年に工学部の学生であった際に、時計への興味を見いだしました。初めはちょっと興味があった時計というテーマは、徐々に情熱に変わっていきました。Chrono24 …

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