ベン・カッファーが2018年に自身の時計ブランド「ノルケイン(NORQAIN)」を立ち上げた時、誰もそれを予想していなかった。カッファーはそれを承知の上で、高品質で革新的な時計を作りたいという強い想いを一途に追求した。その結果、コロナ禍という困難を乗り超え、業界でも指折りの影響力を持つ人物、ジャン・クロード・ビバーの目に留まることにもなった。元ウブロCEOのビバーは型破りな人物として知られているが、同時に、彼の手に触れたものをすべて成功に導くことでも有名だ。そこで本稿ではノルケインについて、ブランドの始まりから成功まで、ジャン・クロード・ビバーとのコラボレーションも含めて詳しくご紹介したい。

ノルケインとは
ノルケインは時計愛好家のために手頃な価格の時計を製造する、数少ない家族経営の独立系ブランドのひとつだ。本拠地はスイスの時計産業の中心地に置かれている。ブランド名はよく架空のものと言われるが、ブランドの価値観を示す言葉の頭文字からきている。
- N = NEW 新しい世界に目を向け
- O = OPEN-MINDED 柔軟な思考と
- R = REBELLIOUS 立ち向かう気概で
- Q = QUALITY TIME 瞬間、瞬間に情熱を注ぎ
- A = ADVENTURE 未来へ挑み続ける
- I = INDEPENDENT 自分らしい生き方を探し求め
- N = NICHE 誰にも似ていないことに誇りをもつ
あまりにも耳障りが良すぎると思われるかもしれないが、そんなことはない。ここには時計業界に関する真に深い知識と、創造への熱意や自然への愛が込められているからだ。
このブランドの強固な基盤となっているのは経験豊かなチームだ。取締役のテッド・シュナイダーは何十年にもわたってブライトリングのオーナーだったファミリーの一員であり、時計業界の仕組みを知り尽くし、確かな人脈を持っている。ベン・カッファーCEOもまた、かつてブライトリングでブランドマネージャーを務めていた。取締役会会長を務める父親のマーク・カッファーは、さまざまなブランドのOEMなどを手がける時計製造会社ロベンタ・ヘネックスで長年CEO兼共同所有者の地位にあった。また、元プロアイスホッケー選手のマーク・シュトライトも取締役に就任している。ノルケインが早くから北米プロホッケーリーグ(NHL)のオフィシャル・アウトフィッターとなれたのは彼の力が大きい。さらにスペングラーカップダボスとも提携し、2022年にはニューヨークシティマラソンの公式タイムキーパーに採用されるに至った。こうしてスポーツ界での優れた業績がノルケインと結びつき、ブランドの謳う価値観をアスリートならびに同社の人間が積極的に実践している。

ブランドと時計の特徴
ロゴを見ても分かるように、スイスアルプスの山々からインスピレーションを受けている。登山への情熱と、それに伴う次なる挑戦へのあくなき探求心はこのブランドのDNAに刻まれている。時計は信頼できるパートナーであるべきで、そのためにノルケインは最高の品質を追求し、製造するのは機械式時計のみだ。2020年にはチューダーのムーブメントメーカーであるケニッシ社と協力して開発した自社製ムーブメントを2つ発表している。それ以降はすべての時計に自社製キャリバーを搭載しており、オープンケースバックからその姿を眺めることができる。
また、このブランドはルーツであるスイスという土地とも密接な関係を保っている。例えば、すべての時計はスイスのジュラ地域の製造拠点で開発し、現地で組み立て、入念にテストしている。生産のパートナーにも地元のスイス企業を選んでおり、こういったことがすべて「カーボンニュートラル」認証の取得につながっている。山を愛する者としてノルケインでは皆が自然保護がなにより大切だと認識しているからだ。
環境への配慮だけでなく、人への支援にも力を入れている。例えば、ネベレストモデルの売上をバタフライ ヘルプ プロジェクトの支援のために寄付している。このプロジェクトはヒマラヤで事故に遭ったシェルパの家族を支援し、その子どもたちが教育を受けられるようにするためのものだ。自然に対して、人に対して、顧客に対して、あらゆる分野で責任ある行動をとることが最優先されている。

ノルケイナー コミュニティ
ノルケインは若いブランドとして存在感を示す方法をよく知っている。当初はまだポスターで時計の宣伝をしていたが、時を経ていわゆる「ノルケイナー」と呼ばれるブランドアンバサダーの存在が重要さを増している。ティナ・ワイラターやフェリックス・ノイロイターのようなスキー界のスター選手、他分野のプロスポーツ選手、さらにはミュージシャンや作家もいる。彼らに共通しているのはノルケインの掲げる「my life, my way」の精神を体現していることだ。中でも最も有名なのはライオンと強い絆で結ばれた野生動物保護活動家で人気インスタグラマーのディーン・シュナイダーだ。彼との協力活動を進める中でノルケインのブランドとしての動物愛護への取り組みも一層明確になっていった。例えばディーンとのコラボレーションで生まれた時計の売上の一部は、彼が創設した動物保護区ハクナ ミパカ オアシスに寄付されている。また、ノルケインはさらに一歩進んで、新しい時計にはアニマルフリーでヴィーガン認証を受けたストラップのみを装着して販売していく。「my life, my way」は常に地球への配慮の上に体現されるべきものだからだ。このコラボはブランドアンバサダーが実際に事業に参加し、何かを変えられることを示す最も素晴らしい例といえるだろう。
さらに、ノルケイナーは時計を世界でただひとつの自分だけのオリジナルにすることができる。ストラップのバリエーションが豊富なおかげで外観で個性を出すことが可能だが、ノルケインプレートを使用するという、控えめで目立たないパーソナライズの方法も用意されている。ノルケインの時計にはすべてケースの左側にプレートが取り付けられており、結婚式の日や特別な登山をした日など、スペシャルな出来事を刻み込むことができる。記録のすべてが時計と一体となり、自分だけのノルケインが完成する。
ティナ・ワイラターの時計、ノルケイン アドベンチャー スポーツ レディ
コレクション
現在ノルケインにはアドベンチャー、フリーダム、インディペンデンスの3つのコレクションがあり、それぞれが独自のスタイルを持っている。
アドベンチャーは自然を愛する冒険家のためのラインだ。山頂であれ波間であれ、人間が挑戦する場においてこの時計は理想的なパートナーだ。文字盤の「NORQAIN」のロゴ、優れた防水性、回転ベゼル、堅牢な構造など、身につける人と同様、どんな冒険にも対応できるように考えられている。特に、このラインには女性向けのモデルも多いのが嬉しい。女性たちもスポーツで最高のパフォーマンスをするために、パートナーとしてふさわしい時計を持っていてしかるべきなのだ。筆者はこれまでにノルケイン アドベンチャー スポーツ37mmを着けて何度か山に登ったことがあるが、常に頼りになる相棒だった。

フリーダムラインはヴィンテージな魅力を放ち、自然を生き自然を守りたいすべての人向けの時計だ。ハイカーであれ、探検家であれ、このラインのモデルを着用する人にとって自然は最高の美の源だ。個人的なハイライトはなんといっても逆パンダ文字盤のモデルだ。ひとつには、筆者好みのレトロスタイルであること。もうひとつには、その配色が、我々が保護すべき絶滅危惧種にちなんだものであるという事実。もちろん、この時計を購入することで、直接的に種の保存に貢献するわけではないが、身につけることで、環境に優しい行動を選択するよう常に意識することになる。行動だけでなく日々このテーマについて考えること、それが私たち全員の「my life, my way」の根底にあるはずだ。

インディペンデンスラインは情熱を込めて設計され、自身の情熱を追求するすべての人のための時計を目指している。それにふさわしく、例えばスケルトンウォッチもラインナップされている。だがこのラインの目玉といえばなんといっても「ワイルド ワン」である。以下に詳しく紹介しよう。
ノルケイン インディペンデンス ワイルド ワンはまさに革命的
ジャン・クロード・ビバーの助言のもと、真に新しく革命的なことに挑戦したのが、完璧なスポーツウォッチ「ワイルド ワン」の開発だ。時計だけでなく素材も先進的だ。ワイルド ワンには特許取得のカーボンファイバー素材「NORTEQ(ノルテック)」が使用されている。この素材を使うことでスチールの6分の1の軽量化が可能になった。200m防水と完璧な耐衝撃性で、水中・陸上を問わずあらゆるスポーツに対応できる。衝撃吸収性能を備えたケースがそれを実現しているが、同時に美しさもおろそかにはしていない。レーザーカットで加工された黒い文字盤には曼荼羅を思わせる模様が施されている。3層構造で、針はスケルトン。感動的な眺めだ。
しかも、文字通りの「swiss made(スイス製)」でもある。この時計の製造のためにノルケインが提携しているのはすべてスイス出身のサプライヤーだ。また、革新的な技術を実現しても昔からの原則は守られている。つまり、この時計にも5000ユーロ以下(76万6700円)のモデルが用意されているのだ。手の届かない高級品とはならず、予算の少ない時計愛好家にとっても良きパートナーとなり得るのだ。

まとめ
ノルケインの登場は時計マニアにも初心者にも非常に魅力的な出来事だ。皆様もノルケイナーの世界への誘いに是非乗ってみて欲しい。ノルケインとともに未来を手にすることができるのだ。