2020年01月30日
 8 分

フライバックとラトラパンテ クロノグラフとは?

Tim Breining
Flyback-Rattrapante-Chronographen-2-1

フライバックとラトラパンテ クロノグラフとは?

誰もが欲しがるクロノグラフのコンプリケーションについては、他の記事でもこれまで述べてきた。そこではその基本的な機能とクロノメーターとの違いから、優れたモデルがどのように開発されたかという歴史に至るまで紹介した。そして、ストップ機能は特に人気が高い上に、バリエーションも豊富だ。時計の世界にまだ馴染みのない方にとって、すべてを把握するのは簡単ではない。クロノグラフの中で最も重要な2つのフォームであるフライバックとラトラパンテについては、今まで数行だけであるが個別に述べてきた。これらクロノグラフのタイプに馴染んでいただくためにも、この記事では技術的および歴史的背景、最も重要な用語、そして顕著なモデルをいくつか紹介していく。

 

なぜクロノグラフには異なるタイプがあるのか?

機械式時計が多くの時計着用者にとって依然として精密機器であった時代に思いを馳せてみよう。その時代には、数多くの職業分野において時計が持つ機能性が必要とされており、これは特に軍事航空分野においても言えることであった。コックピットでその精度の高さが証明されたクロノグラフには、正確で堅牢であるだけではなく、当時そこまで快適ではなかったコックピットの中で、効率的な操作が可能であることが求められた。今日では一般的であるが、当時のコックピットとしては暖房付きの与圧されたは夢のような話であった。パイロットは、常に重い服に厚い手袋を着用していた。一つのプッシュボタンしかないクロノグラフの操作の扱いにくさは、スタート、ストップ、0位置の切り替えに手間がかかる事にあった。1932年、ブライトリングは2番目のプッシュボタンをゼロポジション用に導入する事により、この問題への改善に至った。だが、それでも操作性の最適化は万全ではなかった。

 

Longines Flyback Chrono 13 ZN
ロンジン フライバック クロノ 13 ZN

 

フライバック機能とその技術的背景について

1936年にロンジンは、今日では「フライバック」で知られる機能を搭載した13ZNのムーブメントを発表した。通常2時位置のボタンでクロノグラフを停止した場合のみに、針を0位置にリセットできるが、この時計では4時位置に備えられた2つ目のプッシュボタンによって、この操作がいつでも可能となっている。時計が停止した状態で行うと、全てが通常通り機能し、クロノグラフが0に戻る。リセット用のボタンをクロノグラフが起動中に長押しすることでも、0の位置に戻る。ボタンを離すと、クロノグラフが再び起動し始める。これにより使い易さが優れて向上し、わずか数秒で再度時間を測定することができるようになった。リセット用のプッシュボタンを離すだけで新しい測定が開始されるため、あるイベントが開始される合図などと、時間差無しに同期させることができる。

もちろん、フライバック機能を搭載するためにはムーブメントを改造する必要がある。普通のクロノグラフで、クロノグラフが起動中に0位置へリセットすることができないのには理由がある。なぜなら、クロノグラフ針に付いたハートカムを叩き0位置へ戻すリセットハンマーは、クロノグラフ機構が外れている場合のみに損傷を起こすことなく機能するからだ。フライバック クロノグラフでも、クロノグラフ機構が外されるが、これは永続的にではなく、個別のレバーによって0位置へリセットする間の短時間のみとなる。

 

Breguet Type XX
ブレゲ タイプXX クロノグラフ

 

他の名称と重要で代表的なモデル

「フライバック」という名前の由来は、針が素早く戻る、あるいは針が飛ぶように戻るということから来ている。この機能は他にも「Retour en Vol (レトゥール・アン・ヴォール)」と呼ばれており、これはフランス語で「飛行中に戻る」という意味だ。フライバック クロノグラフは今日ではレアな時計で、ほとんどのモデルには高価格がつけられている。フライバック搭載の時計は、その機構の独占性を明確にするように、「Flyback」の文字が文字盤に刻まれていることは珍しくもない。例えば、非常に稀なレトゥール・アン・ヴォールは、もともとフランス軍用に設計された象徴的なブレゲ タイプXXの一部のモデルで採用されている。ドイツ語での「パーマネント・ゼロポジション」と言う用語はほとんど使われていないが、2番目のプッシュボタンが永続的に使用可能ということを強調するような用語となっている。第二次世界大戦中にグラスヒュッテに拠点を置くウロファ社が、チュチマのパイロットクロノグラフに使用した用語「テンポストップ」は、もっと魅力的に聞こえる。ブランドとして復活したチュチマは、自社製ムーブメント搭載のテンポストップモデルを現在再び提供している。

ロンジン、ブレゲ、チュチマやハンハートによる歴史に残るモデルは、この機能の軍事的ルーツを明確に示している。現在、フライバック クロノグラフの機能は、A.ランゲ&ゾーネ、ショパール、ウブロ、パテック フィリップ、フレデリック・コンスタント、そしてその他数え切れないほどのブランドで扱われている。だが、最も安いモデルでも約60万円となっており、「通常」のクロノグラフよりも大幅に高い。

 

Hanhart Flyback Chronograph
ハンハート フライバック クロノグラフ

 

ラトラパンテ クロノグラフ – その扱い方法とヴァリエーション

ラトラパンテ、またはスプリットセコンド クロノグラフは、スタートからの経過時間を計測することができる。扱い方は多様にあるが、これを使用する理想的な場面は徒競走のようなレースだ。2人のランナーが走る時間を計測したいとする。普通のクロノグラフでは、1位のランナーがゴールをした時間しか時計を止めることができない。残念ながら、2番目にゴールをしたランナーの時間は測れない。もちろん、2つのクロノグラフを同時に使用することもできるが、その場合は2つの時計を完全に同時期に操作しなくてはならない。

ここでラトラパンテ クロノグラフの出番がやってくる。文字盤側では、このコンプリケーションが何なのか見当が付かないようにまず見える。よく10時位置に備えられているボタンを押すと秒針が止まるのだが、その秒針の下にあるので見えなかったもう一つの秒針が止まらず動いていることに気づく。そしてもう一度そのボタンを押すと、停止した秒針が移動中の秒針にすぐに追いつくようになっている。「ラトラパンテ」という用語は、「追いつく」というフランス語が語源でその機能を説明している。この機能は使用すれば、時間測定を中断したり、クロノグラフが起動中に不正確な推定時刻などに頼ることもなく中間タイムを簡単に測定することができる。中間タイムの時間差がそこまでなく、他の誰かがそれらの時間を記録することができれば、この機能では2つ以上の時間を計測することが可能だ。

 

A. Lange und Söhne Doublesplit
A.ランゲ&ゾーネ ダブルスプリット クロノグラフ

 

ただし、中間タイムが1分以上離れている時間を計測するのは難しい。これを可能にするためには、分積算計または時積算計にも同じ機能を設ける必要がある。このような非常に稀な機能に対しては、ダブルスプリットやトリプルスプリットという名称が与えられている。両方とも、A.ランゲ&ゾーネが得意とする機能だ。

 

ラトラパンテ・クロノグラフの背景にある洗練されたテクノロジー

トリプルスプリットでも、「普通」のラトラパンテ クロノグラフにしても、各針のペアに対する技術的な難易度は同じである。唯一の違いは、それ相当のスペースが文字盤に必要になることと、ムーブメントに加えられる複雑機構の増加である。では、針を停止させ、動き続ける針の位置に関係なく針を再び追いつかせるようにするにはどうするのか?

通常の操作では、ボタンを押すと分離する二つの針の間に、しっかりとした接続が必要だいうことは明らかだ。この接続するものは、動き続ける針にしっかりと接続された窪みのあるハートカムによって固定されている。もう一本の針は、バネによってハートカムの窪みの位置に強要されることにより、この動き続ける針と共に動くようになる。そしてラトラパンテ針が操作されていない場合、クロノグラフは通常のクロノグラフのように作動し、2本の針はお互いに被さって動く。

ラトラパンテ針を動かすボタンを押すと、時計の機構側ではよく認識できるはさみが上部の針を掴み、強制的に動きを停止させる。バネと動き続ける針に接続されたハートカムにより、実際のタイムは失われない。ボタンを再度押すと、はさみが開き、上部の針がリリースされ、もう一本の針の位置に跳ね戻るようになっている。このようにして繰り返し時間を計測することができる。

 

Breitling Navitimer Rattrapante Chronograph
ブライトリング ナビタイマー ラトラパンテ クロノグラフ

 

ラトラパンテ クロノグラフは、主要なコンプリケーション機構の一つではなくとも、特に繊細の上に組み立てと調整するのにかなりの技術が要求されるため、望ましい機構である。ラトラパンテ クロノグラフを入手するためには、多くの金額を見積もっておく必要があり、IWCシャフハウゼン (IWCではダブルクロノグラフ)、パテック フィリップ、A.ランゲ&ゾーネ、またはブライトリングなどのコレクションで見つけることができる。

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