ブライトリングとロンジンはスイスの有名時計ブランドとして広く知られている。いずれも伝統あるメーカーであり高品質な時計を製造しているが、ターゲット層や求められるニーズには違いがある。ブライトリングは個性の強いパイロットウォッチやダイバーズウォッチで知られているのに対し、ロンジンはクラシックなエレガンスとスポーティーさを兼ね備えたスタイルを特徴としている。両ブランドはともに長い歴史を有し、世界的に高い評価を得ている。この記事ではこのライバル2社を詳しく紹介する。皆様はどちらのブランドがお好きだろうか。
ブライトリング VS ロンジン:ブランドの歴史
ブライトリングは1884年にレオン・ブライトリングによって設立され、精密なクロノグラフの専門メーカーとしてその名はすぐに広く知られるようになった。長年にわたり、先進的なストップウォッチ機能付き時計の発展に大きな影響を与え、1915年にはブランド初の腕時計型クロノグラフを発表した。1932年にはレオン・ブライトリングの孫であるウィリー・ブライトリングが経営を引き継ぎ、1938年からはパイロットウォッチの製造を開始した。それ以降、同ブランドは民間および軍用の航空時計の代名詞となった。1940年代から50年代にかけて、ウィリー・ブライトリングの指揮のもと、現在も広く知られるクロノマット、プレミエ、ナビタイマー、スーパーオーシャンといったシリーズが誕生した。彼が会社を去ったのは1979年、いわゆるクオーツ危機の流れを受けてのことだった。パイロットであり実業家でもあったエルネスト・シュナイダーが経営を引き継いだ後は、1990年代末までクオーツ時計のみを製造していた。2000年前後に機械式時計の人気が再び高まると方針を転換し、スイスのムーブメントメーカー、ETA社の機械式キャリバーを搭載した時計を再び製造するようになった。2017年には投資会社のCVCキャピタル・パートナーズに買収され、経営をIWCのCEOとして時計業界ですでに実績のあったジョージ・カーンCEOが担い、まったく新しいブランドイメージを築き上げた。

ロンジンは国際登録されているブランド名としては最も古く、その歴史は驚くほど長い。1832年にオーギュスト・アガシによって設立され、早くから精度とエレガンスの代名詞としての地位を確立した。ブランド名のロンジン(Les Longines)はフランスの古語で「細長い野原」を意味する。1889年にはブランド名と翼の付いた砂時計でお馴染みのブランドロゴが正式に登録された。ロンジン初の腕時計型クロノグラフは1913年に発表されたもので、ブライトリングより2年早い。1920年代半ばにはGMT機能を備えたブランド初の3針時計を発表。フライバック機能を備えた初のクロノグラフがリリースされたのもこの時期だ。1931年にはついにロンジン リンドバーグ アワーアングル ウォッチが発表され、1940年代から50年代にかけては多くの技術革新がなされ、現在でも知られるモデルが次々と登場した。そのうちの一つは1959年に登場し、現在ではレジェンドダイバーとして知られている。ロンジンは1969年にウルトラクオーツという名の時計を発売したが、クオーツ危機の影響を免れることはできず、1983年にスウォッチグループに買収された。現在、ロンジンは主にマスター、コンクエスト、スピリット、ヘリテージといったコレクションで知られている。2020年からは、かつてハミルトンやラドーで活躍していたマティアス・ブレシャンがCEOを務めている。

ブランドイメージ は「伝統と革新の融合」
ブライトリングといえば、今でもある種派手なイメージのある、大振りで「マッチョ」な時計を思い浮かべる人が多いだろう。実際、1980年代から2000年代にかけて、コンビカラーやゴールドの派手なパイロットウォッチでまさにそうしたイメージを培ってきた。高級車メーカーのベントレーと提携し、ブライトリング フォー ベントレーを発表したことで、過剰で押しの強いキャラクターがさらに強調された。ジョージ・カーンCEOのリーダーシップの下、このイメージは2017年以降根本的な変貌を遂げ、その変化は現行のコレクションにもはっきりと表れている。企業の発信するメッセージでは、インクルージョン(包摂)や持続可能性といった価値観が前面に押し出され、女性もマーケティングの中心に据えられるようになった。提携関係にあったベントレーが姿を消し、代わってアフリカなどでの社会貢献プロジェクトが実施され、ブラッド・ピットやシャーリーズ・セロンなどのブランドアンバサダーも洗練された都会的なイメージを演出している。ブライトリングはすべての時計ファンに向けた「ジェネラリストブランド」として、2017年以降は自らの歴史に立ち返りながら、自社の製品をモデルに男女問わず楽しめるレトロスタイルの新作を次々と発表している。ナビタイマー、クロノマット、プレミエといったコレクションに特にその姿勢が反映されている。

ロンジン:手頃な価格のラグジュアリーウォッチ
ロンジンは清廉で堅実、上品ながらもややお堅いイメージを漂わせている。突出した個性を強調することなく、控えめで目立たない。このイメージはおそらく、馬術競技やテニスといった分野でパートナー企業を務めるブランド戦略によるところが大きいだろう。たとえば、ロンジン グローバル チャンピオンズ ツアーやロンジン ローザンヌマスターズなど、世界中で開催される競馬で公式タイムキーパーとなっている一方、国際スキー連盟(FIS)との提携ではもう少し冒険心が感じられる。ブランドアンバサダーには、イギリスの俳優ヘンリー・カヴィルやモデルのバーバラ・パルヴィンなどが名を連ねている。ロンジンはレディスウォッチもメンズと同様重視しており、豊富なラインアップにその姿勢が表れている。ブライトリングと同様に、ロンジンの製品カタログにも初期の時計のデザインを再解釈したさまざまなレトロモデルが掲載されており、伝統と革新の間でバランスの取れたブランドイメージを維持している。また、ブランドとしてはミドルレンジのラグジュアリー市場に位置づけられながらも、手頃な価格を保つことにも配慮している。

ブライトリングとロンジンの人気モデル
ブライトリングで最も有名なのは、間違いなく1952年に発表されたナビタイマーだ。もともとプロのパイロット専用のツールウォッチとして開発されたこの時計は、何十年にもわたって時計愛好家の間で確固たる地位を確立しており、指折りの人気を誇るクロノグラフだ。中でも特にオリジナルに忠実なモデルが、ナビタイマー REF. 806 1959 リ・エディションだ。また、1943年にはプレミエコレクションの初代モデルを発表している。このシリーズは主に、スタイルに敏感なユーザーを対象とした機能的でエレガントなクロノグラフで構成されており、このシリーズの上位モデルには、トゥールビヨンやスプリットセコンド機能などの複雑機構が搭載されている。その象徴ともいえるクラシックなモデルが、いわゆるサーモンダイヤルのプレミエ B01 クロノグラフ 42(Ref. AB0145331K1P2)だ。

スーパーオーシャン ヘリテージコレクションには、1950年代に登場した初期のスーパーオーシャンの精神を受け継ぐ多彩なダイバーズウォッチが揃っており、古典的なデザインの3針時計に加え、クロノグラフもラインアップされている。その代表が、スーパーオーシャン ヘリテージ II B01 クロノグラフ(Ref. AB0162121G1S1)である。3針タイプで人気の高いモデルはスーパーオーシャン ヘリテージ B20だ。
ロンジンの人気時計
ロンジンの人気コレクションのひとつがコンクエストシリーズだ。その中には、2007年に初めて登場したハイドロコンクエスト コレクションのダイバーズウォッチが含まれている。ハイドロコンクエスト Ref. L3.742.4.56.6は初代モデルであり、手頃な価格のダイバーズウォッチを求めるユーザーの間で、瞬く間に人気を集めた。2024年には、Ref. L3.890.4.56.6のようなGMT機能を備えたハイドロコンクエストも登場している。

ヘリテージ コレクションには、ブランドの伝統を軸としたモデルが数多くそろっている。2007年には、1959年に発表されたロンジンのダイバーズウォッチを再解釈したレジェンドダイバーが登場し、さまざまなバリエーションで展開されている。Ref. L3.774.4.50.9はオリジナルにあたるモデルだ。2005年に発表されたマスターコレクションもロンジンファンの間で人気が高い。このコレクションの主軸はクロノグラフで、ムーンフェイズを搭載したモデルもある。その一例のRef. L2.629.4.78.3はバイコンパックス クロノグラフで、Ref. L2.673.4.78.3にはムーンフェイズ表示も搭載されている。
価格設定と資産価値
ブライトリングは高級時計の上位カテゴリーに位置づけられており、エントリーモデルでも価格は約65万円からとなる。貴金属製や自社製ムーブメント搭載モデルになると、さらに高価だ。資産価値はモデルごとに異なるが、ナビタイマー REF.806 1959 リ・エディションのような限定モデルは資産価値が高い。一方、ロンジンは高品質ながら手の届きやすい価格帯のラグジュアリーウォッチを展開しており、価格はおよそ13万円から。ブランドとしてはコストパフォーマンスの良さを重視しているが、資産価値はブライトリングよりも低い。ただし、こちらも希少モデルや限定版は例外だ。どちらのブランドもロレックス、パテック フィリップ、オーデマ ピゲのような資産価値の上昇を期待することはできない。
まとめ
こうして比較してみると、ブライトリングとロンジンは価格帯もターゲットとする市場も異なり、顧客層も違うことが分かる。ブライトリングが上位のラグジュアリーゾーンに位置づけられているのに対し、ロンジンはより手頃な中価格帯で展開している。ブライトリングは自社製キャリバーB01などを多くのモデルに搭載することで、高い品質基準へのこだわりを示している。一方、ロンジンはETA社のムーブメント技術を活用している。ETA社はロンジン同様にスウォッチグループ傘下の企業だが、キャリバーはロンジン専用に製造されたもので、品質と精度の点では自社製キャリバーに勝るとも劣らない。どちらのブランドも非常に高い品質基準をクリアしているが、価格設定からいってもブライトリングがやや上をいくと言えるかもしれない。最終的に、どちらを選ぶべきかは個人の好み、用途、予算によって決まる。