まずは時計市場の状況の簡単な確認から始めよう。Chrono24のYouTubeチャンネルで「Time Is Money」シリーズをチェックしている人なら、ロレックス、パテック フィリップ、オーデマ・ピゲの人気モデルの価格が、二次流通市場およびグレーマーケットで2022年春以来下がっていることをご存じだろう。インフレは進み、仮想通貨は急落し、戦車はウクライナへと攻め込んだ。これらの要因が世界経済に悪影響を及ぼし、高級品市場も例外ではない。時計市場がここ何年か成長し続けた後にこのような経済の落ち込みがやってきたが、物事は確かに上がれば下がるし、同じように下がればまた上がる可能性もある。事実、ここ数週間の間にChrono24では今の状況が好転しそうな兆しを確認している。もちろん、市場の動きを予測するのは難しいものだし、今のように前例のない時代というのはなおさらなのだが、手がかりを得るために、いくつかの表を見ていこう。
まず最初に、あまり良くない知らせを。もしパテック フィリップ ノーチラスやオーデマ・ピゲ ロイヤルオークを売ることを考えているなら、もう少し我慢した方がいいかもしれない。ハイプ中のハイプ時計であるこの2つの時計の供給量はChrono24マーケットプレイスではいまだかなり高く、需要は今のところ低いままである。本当に買い手市場だといえるだろう。現在、パテック フィリップ アクアノート、オーデマ・ピゲ ロイヤルオーク オフショアなどの兄弟モデルたちについても、同じような傾向が見られている。
しかし、例えばデイトナ、GMTマスター II、サブマリーナなどのロレックスのスチール製スポーツウォッチについては、ついに状況が変わり始めているかもしれない。デイトナから見ていこう。現在製造されている116500LNのブラックとホワイトのダイヤル両方のバージョンである。ここでは、2022年の3月からずっとそうであるように、いまだ供給が需要を上回っていること、そして2022年1月中旬のピーク時の需要レベルに達するには長い時間がかかるだろうということを知っておいてほしい。とはいうものの、需要が増える一方で、供給は減りつつあるようだ。現行のGMTマスター II バットマン Ref. 126710BLRに注目すると、供給と需要のバランスが取れてきていることがわかる。ペプシとルートビアの現行世代も、やや勢いがないという違いはあるが、同じ動きを見せている。興味深いことには、スプライトGMTの需要は2023年1月の初めに一時的に供給を上回ったが、同じ月の後半に落ち込んだ。サブマリーナはおそらく、供給と需要の差が一番小さいものだ。現行世代のサブマリーナ ノーデイト Ref. 124060は特に調子がいいようである。もちろん、状況が好転していると大々的に言うことはできない。Chrono24でのトップ10モデルのロレックスやロレックス全体では、需要はゆっくりと増え供給はゆっくりと減っているという、どちらとも言い難いところだ。しかしながら、需要と供給のバランスからは、もしかしたら最悪の状況は脱したのかもしれないという明るい兆しを見て取ることができる。
クリスマスのまとめ:Chrono24でのベストセラーたち
次はクリスマスシーズン中にどの時計が販売数を一番伸ばしたのか振り返ってみたい。腕時計はいつでも素晴らしい贈り物であり、今回も例外ではなかった。サンタクロースは筆者がお願いしたランゲ1 トゥールビヨン パーペチュアルカレンダーを持ってくるのを忘れてしまったようだが、そりから落としてしまっただけなのだと信じている。冗談はさておき、私たちのデータ分析によると、16モデルがクリスマスシーズン中に販売数を100%以上伸ばした。このリストを作成するにあたって、私たちは時計の2022年の通常の販売数と、11月および12月の販売数を比べた。例外や特異なケースを除外するために、少なくとも数十件の販売があった時計のみを選ぶようにした。また、昨年の後半にデビューした時計も、販売データをゆがめてしまう可能性があるとして除外した。そのいい例が8月末にリリースされた39mmのチューダー ペラゴスで、これは弊社プラットフォーム上でクリスマスシーズン中に数多く売買されたが、おそらく多くの時計愛好家が自分自身へのプレゼントに購入したのではないかと予想している。奥さんに見つかって、「この箱?こ、これはサプライズだよ、教えられないんだ…」などと言う場面があったのではないだろうか。
このリストのトップ3は、それぞれが昨年末の時点で200%以上の増加を記録し、3つ全てが日本ブランドのものである。ナンバー1は、 グランドセイコー SBGX261で233%増加。ナンバー2はしばしば200ドル以下で売られているのだが、224%の増加を見せたセイコー5 SNXS77である。そしてナンバー3は214%の増加を見せたセイコー カクテルタイム モヒート SARY167。その文字盤を見て欲しい。筆者ならこれが自分へのプレゼントでもいいと思う。
他にも手頃な価格の時計が販売数を100%以上伸ばしたケースがあった。ハミルトン カーキ フィールズとセイコー アルピニスト、そしてロレックス デイトジャスト、オイスタークオーツ、プレジデントを混ぜ合わせたようなルックスのシチズンなどである。中間価格帯の人気商品にはタンク ヴェルメイユ、現行世代のサントス、36mmのロレックス デイトジャスト、オメガ アクアテラ 、グランドセイコーSBGA211などがある。そして、神に誓って言うが、ロレックス スカイドゥエラー 326934と、ホワイトゴールドのロレックス デイトナ 116519LNもまた、クリスマス中に100%以上の増加を見せたのだ。
スペースレース:どのオメガ スピードマスターの限定版が最高の投資収益率を誇るのか?
では、オメガ スピードマスターを見てみよう。スピマスはオメガの主要モデルとなったが、マーべル映画のように、成功作にはスピンオフがつきものだ。オメガにおける限定版というプログラムは、何十年もの間、非常にもうかる戦略だった。そして、今では限定数のないスピードマスター限定版があるというのが、時計業界内で繰り返されるジョークになっている。別の例を挙げると、定番商品に新しい配色やわずかな変化を持たせ、再び呼び起こした需要から利益を得るという、ナイキのビジネスモデルとそれほどかけ離れたものではない。デザイナーのヴァージル・アブローはこのコンセプトを「3%アプローチ」と呼び、何か新しいものを生み出すには、既にあるもののデザインを3%だけ変えればいいのだとしている。それを考慮に入れて、私たちはどの特別なスピードマスターが、最高の投資収益を上げるだろうかと分析してみた。それでは、注目に値する限定版スピードマスターと過去数年における価格推移について重要なケーススタディをいくつか紹介しよう。このデータは、Chrono24で“非常に良い” コンディションで販売されている中古品時計の価格表を基にしている。
まずはフラテッロウォッチズとのコラボレーションによるエディション、スピーディー チューズデー ウルトラマンだ。2021年2月にはおよそ120万円程度で購入できたものが、今では約210万円となっている。
次は筆者の個人的なお気に入り、ティンティンエディションである。2021年、この時計はChrono24で約162万円ほどで売られていた。価格は2022年7月には253万円まで上がり、しかし2023年2月時点では210万円ほどに落ち着いている。
もう少し手頃な価格帯を見ると、ファースト オメガ イン スペースは2021年には、約56万円ほどで入手できた。今では生産終了となったこのモデルの価格は、80万円をわずかに下回るほどである。
スピードマスター Ref. CK2998の定価は、2018年のデビュー時には5850ドル(約78万円)だった。2021年2月までは約87万円ちょっとの価格でChrono24で売られていた。今では価格は相当上がり、およそ128万円となっている。
このリストの最後から2番目の限定版は、シルバースヌーピーアワードモデルだ。これはこのリストで過去数年中に価格を下げた唯一のスピードマスターである。Chrono24のデータでは、2021年4月時点での平均価格が360万円、そして今ではおよそ309万円と、約50万円も下がっている。
最後に紹介するのは、この分析での最大の価値上昇を見せたモデル、アラスカプロジェクト スピードマスターである。2021年2月時点では170万円ほどあればChrono24で購入できたのである。では今はどうだろう?この時計の価格は平均価格が288万円と、まさに天へ向かっての軌道に乗り、この2年間で2倍近くになってしまったのだ。オメガとオメガファンたちの疑問は、次はどうなるのか?ということだ。これまでオメガは、アニバーサリーや宇宙旅行、オリンピックなどの特別な機会や自社の歴史にインスピレーションを受けた限定モデルを作ってきた。しかし、ムーンスウォッチがこの先の特別モデルのカギとなるのではと予想する人もいる。オメガが可能性を見出し、すでに利益率が高かったに違いないこれらの時計の価格をさらに上げることも考えられる。ムーンウォッチは間違いなく2022年のハイライトであり、もう聞いたり読んだりするのに飽き飽きしていたとしても、とにかくこの時計は大当たりだった。将来のバージョンへの願いを込めてファンアートを作る人たちまでいるのだ。オメガは明らかにここに、ファン層を広げたり、メディア露出を拡大したり、ショップの外に行列を作ったり、大きな利益を生み出したり、スピードマスターのアニバーサリーカレンダーとは関係のない新しい限定版をリリースしたりするチャンスを見出しているだろう。Chrono24が言いたいのは、ムーンスウォッチはこれで終わりではないだろうということである。