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ヴァシュロン・コンスタンタン:灰の中から蘇る不死鳥のようなブランド

Pascal Gehrlein 著
2025年4月7日
12 分
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ヴァシュロン・コンスタンタン:灰の中から蘇る不死鳥のようなブランド

ヴァシュロン・コンスタンタンは古くから継続して操業する時計メーカーの一つであり、1755年の創立以来最高峰の時計製造技術と洗練されたスタイルを追求してきた。このブランドがパテック フィリップやオーデマ ピゲと並んで高級時計界の「雲上御三家」と称されているのにはそれ相応の理由があるのだ。近年では「レ・キャビノティエ」コレクションのような、職人の手によるユニークピース(一点物)や、1970年代のスタイルに大きな影響を与えたモデル「222」の復刻版など、革新性とコレクター心をくすぐる感性で人々を魅了してきた。時計作りの伝統と現代の技術を融合させることで、ヴァシュロン・コンスタンタンはラグジュアリーウォッチ界の先駆者となり、時代を超えた卓越性と腕元に宿る生きた歴史の象徴でもある。

ヴァシュロン・コンスタンタン:ブランドの歴史

現在もなおブランドを代表するモデルとして君臨するオーヴァーシーズ。
現在もなおブランドを代表するモデルとして君臨するオーヴァーシーズ。

ヴァシュロン・コンスタンタンはジャン=マルク・ヴァシュロンによってジュネーブ(スイス)に設立された。ジュネーブは18世紀には高級時計製造の中心地としての地位を確立した町で、現在もロレックス、パテック フィリップ、フランク ミュラー、ショパールといったブランドが集まっている。1755年、ジャン=マルク・ヴァシュロンは時計のムーブメントとケースの製造を開始し、長い伝統の礎を築いた。 1770年には、署名入りムーブメントを搭載した初の時計を設計した。これはブランドにとっても業界全体にとっても画期的な一歩だった。なぜならこの時計は世界で最初の複雑機構を備えた時計とされているからだ。ブランドの先駆的な取り組みはこれだけにはとどまらない。1819年にフランソワ・コンスタンタンが加わり、社名を「ヴァシュロン&コンスタンタン」に改称し、特に欧州や米国での事業拡大を進めた。1870年代には、世界初のワールドタイムウォッチを発表。複数のタイムゾーンを同時に確認できる腕時計で、時計界に革新をもたらした。1955年には「キャリバー1003」という技術の傑作を世に送り出した。わずか1.64mmの世界最薄の機械式ムーブメントであり、ヴァシュロン・コンスタンタンを超薄型ムーブメントのパイオニアとして世界に知らしめることとなった。1990年代、同社はリシュモングループの一員となったことで、国際的な地位を固めると同時に、伝統と革新を融合させた現代的なブランドアイデンティティを確立した。しかし、それはまた、多くのブランドを抱えるグループの中の一つのブランドとして組み込まれたことを意味する。業界関係者の中には、それ以降パテック フィリップやオーデマ ピゲなどと比べて、ヴァシュロンの人気と独自のセールスポイントが損なわれてしまったと考える人もいる。今日、(再び)ヴァシュロン・コンスタンタンはその精巧な職人技と、トゥールビヨン、パーペチュアルカレンダー、ミニッツリピーターといった複雑な時計の開発でその名声を取り戻し、オーヴァーシーズ や近年人気の222ラインといった、スポーティーさを追求するコレクションの展開によって、再びトップブランドの一角を占める存在へと回帰しつつある。

主要モデルとコレクション

1. ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ

ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ
ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ

オーヴァーシーズコレクションは、1970年代のラグジュアリーなステンレス製スポーツウォッチブームに対するヴァシュロン・コンスタンタンの答えとして誕生した。特にこの5年間で、オーヴァーシーズは競合他社との差を縮めることに成功したと言える。その背景には、ノーチラスやロイヤル オークの飽和状態と過剰供給があり、多くの時計愛好家にとってオーヴァーシーズは魅力的な選択肢となった。特に、小ぶりなヴィンテージモデルは比較的手の届きやすい価格なこともあり、人気が高い。特徴的なデザイン、一体型ブレスレット、高い機能性を兼ね備え、現在同ブランドの中でも目玉となるコレクションである。ステンレス製でも貴金属製でも、ステンレスブレスレットでも、ラバーストラップでも、オーヴァーシーズはブランド特有のエレガンスとスポーティーさを兼ね備えており、クロノグラフやワールドタイムといったさまざまな複雑機構を搭載したバージョンを展開している。

2. ヴァシュロン・コンスタンタン パトリモニー

ヴァシュロン・コンスタンタン パトリモニー 6675 18K サブセコンド

ミニマルでクラシックでありながら、極めて洗練されたデザイン。パトリモニーコレクションは無駄を省いたエレガンスと最高の時計製造技術を象徴している。1950年代のクラシックなデザインにインスピレーションを得たこのコレクションは、完璧なプロポーションと最高級の仕上げでヴァシュロン・コンスタンタンの美学を体現している。ケース素材には主にイエローゴールドやホワイトゴールドが用いられ、手巻きムーブメント搭載モデルや、超薄型の自動巻きモデルが特に人気を集めている。さまざまなバリエーションがあり、古典的な3針時計から、永久カレンダーやトゥールビヨンなどの複雑機構を搭載したモデルまでと幅広く展開している。パトリモニーを購入する人は、目立たず控えめなことを好みながらも、最高にラグジュアリーな時計を身に着ける。まさに「クワイエット・ラグジュアリー(静かなる贅沢)」の極みだ。

3. ヴァシュロン・コンスタンタン ヒストリーク・222 ゴールドまたはステンレス

ヴァシュロン・コンスタンタン ヒストリーク・222 ステンレス
ヴァシュロン・コンスタンタン ヒストリーク・222

222はヴァシュロン・コンスタンタンの長い歴史と革新力を象徴するモデルであり、同社内でのオーヴァーシーズのライバルともいえる存在だ。 このモデルは長い沈黙が続いていたが、2022年に初代222の45周年を記念して、ヒストリーク・222として蘇った。この復刻版は初代のデザインコンセプトを忠実に守りつつ、現代的なアレンジと技術面での改良が加えられている。たとえば、自動巻きムーブメントのキャリバー2455/2を搭載しており、パワーリザーブは40時間だ。さらに、2025年1月には通称「ジャンボ」(37mm)のステンレスバージョンが登場。復刻版はコレクターの間で大きな話題を呼んだ。ゴールドモデルはレトロな魅力を放つ一方、新たに加わったステンレスモデルはモダンな雰囲気で、スポーティーなエレガンスを好むファンに人気だ。

4. ヴァシュロン・コンスタンタン ヒストリーク・アメリカン 1921

ヴァシュロン・コンスタンタン ヒストリーク・アメリカン 1921
ヴァシュロン・コンスタンタン ヒストリーク・アメリカン 1921

このシリーズはその名の通り1920年代にアメリカ市場向けに開発されたもので、クッション型のケースと斜め45度に傾いた文字盤レイアウトが特徴だ。自動車のドライバー向けに特別に開発されたもので、運転中でもハンドルから手を離さずに時刻を確認できるように考えられている。リューズもケースの左上という変わったレイアウトだ。アメリカン 1921は2009年に復刻され、現在ではヴァシュロン・コンスタンタンのラインアップの中でも特に個性的な一本となっている。ヒストリーク・アメリカンのデザインはパトリモニーのクラシックなケースと、オーヴァーシーズや222のスポーティーで印象的なケースと両方の要素を取り入れており、その独特の造形美によりコレクターから愛されている。多くの人にとってはまだ知る人ぞ知る存在で、「収集品」としてはいわゆる眠れる巨人とされている。コレクターの多くは市場に大量に出回っていない、奇妙で風変わりなデザインを好むものであり、カルティエのクラッシュ ドゥ カルティエやトーチュとも並ぶ存在だ。

5. ヴァシュロン・コンスタンタン フィフティーシックス

価格以上の価値があるヴァシュロン・コンスタンタン フィフティーシックス・オートマティック
ヴァシュロン・コンスタンタン フィフティーシックス・オートマティック

2018年に初めて発表された「フィフティーシックス」は、1956年に登場したリファレンス6073を現代的に再解釈したモデルである。6073はヴァシュロン・コンスタンタン初の自動巻きムーブメント搭載モデルで、同社にとって大きな節目をもたらした。エレガンスと職人技を組み合わせた、モダンでありながらクラシックなデザインへと移行した新時代の幕開けを象徴する存在だ。現在の「フィフティーシックス」はより幅広い層、特にヴァシュロン・コンスタンタンの世界に足を踏み入れようとする若い時計愛好家をターゲットとして開発されている。そのため、他のコレクションと比べると比較的手が届きやすい価格設定となっている。ただし、新しいユーザーにアピールする要素はそれだけではない。日常使いのしやすさも重視されている。ケース径は38mmとコンパクトで普段使いにもフォーマルなシーンにも適している。文字盤はシルバー、ブルー、ブラウンなどさまざまなカラーバリエーションがあり、素材は主にローズゴールドまたはステンレスだ。自動巻きバージョン(永久カレンダーなし)にはキャリバー1326が搭載されている。ただし、このムーブメントは本格的なヴァシュロン・コンスタンタン社製ではなく、同じリシュモングループであるカルティエのキャリバー1904を使用している。コストを削減して価格を抑えるための苦渋の選択だ。とはいえ、3針時計であれ、フルカレンダーやムーンフェイズ搭載機であれ、すべてのムーブメントには美しい装飾が施され、シースルーのケースバックを通して鑑賞することができる。まさにこれこそがヴァシュロン・コンスタンタンというブランドの世界への入り口だ。

技術とデザイン

ヴァシュロン・コンスタンタンは卓越した職人技だけでなく、技術的な偉業と先駆的な革新性でも知られており、トゥールビヨン、ミニッツリピーター、永久カレンダー、さらには「グランド・コンプリケーション」まで、あらゆる複雑な技術を極めている。2024年には、63の複雑機構を搭載したレ・キャビノティエ ザ・バークレー・グランドコンプリケーション を発表し、2015年に自ら打ち立てた最も複雑な機械式ムーブメントの世界記録を更新した。搭載機構にはグレゴリオ暦と中国暦のパーペチュアルカレンダー、トゥールビヨン、グラン・ソヌリとプチ・ソヌリ、アラーム機能などが含まれている。そして話はこれだけではない。もう一つ話しておきたい。ヴァシュロン・コンスタンタンは長年にわたり、さまざまなモデルで青い文字盤を採用してきたが、コレクションごとに異なる独自の色合いの青を使用しているのである。オーヴァーシーズのブルーはオーヴァーシーズ トゥールビヨンのブルーとは異なり、オーヴァーシーズ トゥールビヨンのブルーは新作のヒストリーク・222のブルーやフィフティーシックスのペトロールブルーとも異なる。こういった色調の違いは、ガルバニック加工(電解メッキ)やPVD加工(物理蒸着)によって生まれるものだ。

ヴァシュロン・コンスタンタンを身に着けているのは誰か?

ヴァシュロン・コンスタンタンは、通好みの「クワイエット・ラグジュアリー(静かな贅沢)」を愛する人のためのブランドだ。他の高級時計メーカーがスポーツやポップカルチャーの分野でのメディア露出が多く、ブランドアンバサダーを通じて多かれ少なかれ積極的にプロモーションを行っているのに対し、ヴァシュロン・コンスタンタンはオート・オルロジュリー(高級時計製造)の真の愛好家向けの控えめな存在であり続けている。愛用者として知られる有名人には、元フランス大統領シャルル・ド・ゴール、音楽界のレジェンド、エリック・クラプトン、俳優ブラッド・ピットなどがいる。ヴァシュロン・コンスタンタンを身に着つける人は、派手なステータス性や一時的なブームではなく、控えめなスタイルと最高の品質を重視する。ヴァシュロンの時計を選ぶことで、控えめなスタイルを貫きつつ、もし望むなら他との差別化ができる。また、ヴァシュロン・コンスタンタンは近年、ソーシャルメディア上でコレクターの注目を集め、ロイヤル オークやノーチラスに代わる手頃な選択肢とされているオーヴァーシーズのヴィンテージモデルなどによって、新たなターゲット層を開拓しつつある。小型時計のトレンドもこの流れを後押ししている。

ヴァシュロン・コンスタンタン:筆者の結論

それで結局、ヴァシュロン・コンスタンタンは不死鳥のように灰の中から蘇ったのだろうか、それとも時計界の空に消えた星なのだろうか?筆者の考えでは、ヴァシュロンはヒストリーク・222の発表以降、よく言われる「勢い」を味方につけ、高級時計業界において独自の地位を確立した。このブランドのヴィンテージモデルは真のコレクターズアイテムとしての潜在力を増しており、ブランドの持つ多様性はまだ「ほとんど」開拓されていない。いずれにせよ、筆者はまだパトリモニーやオーヴァーシーズといったモデルに飽きてはいない。他のブランドにはない魅力があるのだ。多くの時計愛好家は、ヴァシュロンが実験や派手なデザイン開発、コラボレーションに慎重な姿勢を貫いている点を評価している。数年前までは古臭く保守的すぎるというイメージが広く行き渡っていたが、近年は成長する勇気を適度に示し、いまや堂々と誇れるラインアップを揃えるに至った。ケースサイズの小型化、過去のモデルの再解釈、ラバーストラップなどの現代的な素材の導入などは、競合他社も行っていることではあるが、ヴァシュロンは適切なタイミングで、適切なモデルとカラーを市場に投入してきた。やりすぎず、目立ちすぎず、ブランドの本質を見失うこともない。ヴァシュロンはパテック フィリップやオーデマ ピゲに飽きたコレクターたちにとっての新たな選択肢となりつつある。今後業界でどんな存在になっていくのか、注目したい。

記者紹介

Pascal Gehrlein

Pascal Gehrlein

こんにちは、パスカルです。初めての「高級時計」を探してChrono24のサイトを何時間も見ていた際に、Chrono24の本社が自分の家のすぐ近くにあることを発見しました。…

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