2019年02月21日
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世界で最も薄型の時計を巡る競争

Tom Mulraney
世界で最も薄型の時計を巡る競争
世界で最も薄型の時計を巡る競争

最近までブルガリは、とりわけイタリアの高級宝飾品ブランドとして有名であった。ブルガリの時計部門はそれほど有名ではなく、これは変えていかなければいけない問題であった。ブルガリはそのために人々、特に本格的な時計愛好家たちの注目を集めるための方法を模索していた。ブルガリは、同社の最高級ジュエリーと同レベルの、魅力的な高級時計を作る能力を有することを証明する必要があったのだ。そこでブルガリが他の多くのブランドと同様に選んだ方法、それは記録への「挑戦」であった。

ピアジェ キャリバー 9P
ピアジェ キャリバー 9P

薄さへの挑戦

薄い時計自体は目新しいものではない。1930~40年代の時計の多くは薄いケースを搭載していた。1950年代になってロレックスがツールウォッチの分野に進出してから、時計のケースは段々と厚みを増し、より頑丈になっていった。

とはいえ、中には非常に薄い時計 (そして内部の薄型ムーブメント) の製造に特化したブランドもある。よく知られているメーカー名としては、ジャガー・ルクルトやヴァシュロン・コンスタンタンなどが挙げられる。しかし、薄型の機械式時計を製造しているブランドで最も有名なのはピアジェである。

ピアジェは1950年代後半から極薄のムーブメントを製造している。初めに発表されたのは、1957年の厚さ2mmしかない手巻きキャリバー9Pで、1960年には厚さわずか2.3mmの極薄自動巻きムーブメントである12Pが続いた。それ以来、ピアジェは20を超える極薄ムーブメントを発表してきた。そして、常に世界最薄記録を更新し、これらのムーブメントを上品なドレスウォッチに搭載することは、このブランドの伝統となった。

記録を塗り替えること、それがブルガリが名声を上げるために掲げた挑戦であった。

3つの時計、3つの記録

ブルガリは第一に宝飾品ブランドとして有名であるが、同社は数年前に時計界において大変に有名な2人の人物と契約を結んだ。最高級時計芸術を生み出す有名時計技師、ダニエル・ロートジェラルド・ジェンタを傘下としたのだ。これによってブルガリは、自社ムーブメントの開発に必要な人材と技術を手に入れた。さらに、ブルガリはただのムーブメントの製造ではなく、初めから世界記録を超える極薄ムーブメントの製造に焦点を当てた。

2014年、ブルガリはキャリバーBLV268を搭載する世界最薄のトゥールビヨン時計を発表した。この手巻きムーブメントはフライングトゥールビヨンを搭載しており、厚みは1.95mmしかなく、5mm厚のオクトケースに収められている。この薄さを実現するためには、ムーブメントのすべての部品を可能な限り小さくし、部品の間のスペースも最小限に抑えなければいけなかった。複数の可動部品には宝石の代わりにボールベアリングを使用している。例えば、3つのボールベアリングが香箱を回転し、それによって空きスペースを最適化している。また、フライングトゥールビヨンは基板から支えられており上部のブリッジを必要としないため、必要なスペースは通常のフライングトゥールビヨンよりも少ない。

ブルガリ オクト フィニッシモ トゥールビヨン
ブルガリ オクト フィニッシモ トゥールビヨン写真: Bert Buijsrogge

ブルガリ オクト フィニッシモ トゥールビヨンが発表された時、多大なセンセーションが巻き起こったといっても言い過ぎではないだろう。しかし、それはブルガリが作り出す記録破りのシリーズの序章にすぎなかった。2016年には世界最薄のミニッツ・リピーター搭載時計であるオクト フィニッシモ ミニッツ・リピーターが発表された。BVL 362 キャリバーは362個の部品から構成されているが、厚みはわずか3.12mmしかない (時計全体の厚みは6.85mm)。ここでもブルガリの時計師たちは、スペースを節約するためのあらゆる手段を駆使する必要があった。これが、全体の厚みを抑えるためにムーブメントにフラットなスプリングバレル、「吊り下げ式」のメインスプリングバレル、そしてクラウンホイールが使用されている理由である。

ブルガリ オクト フィニッシモ トゥールビヨン
ブルガリ オクト フィニッシモ トゥールビヨン写真: Bert Buijsrogge

2017年にブルガリはオクト フィニッシモ オートマティックを発表した。3作目であり最新作であるこのモデルは、ピアジェおよびその他のスイス時計メーカーに大きな衝撃を与えた。この信じられないほど薄い時計は、世界最薄自動巻きムーブメントであるキャリバー BVL138を搭載している。そしてわずか2.45mmしかない厚みは、それまでヴァシュロン・コンスタンタンのキャリバー 1120が保有していた最薄記録の2.45mmを更新した。この時計の全体の厚みは5.15mmとなっていて、サファイアガラス製の裏蓋を通して内蔵されているプラチナ950製のマイクロローターを眺めることができる。また、このマイクロローターによって、時計は驚きの60時間パワーリザーブを誇っている。

応酬

多くの人々にとってこのブルガリの行動は、ピアジェが支配していた極薄時計の市場への直接対決であるように感じられた。オクト フィニッシモ オートマティックは日常的に着用できる時計で、ピアジェのアルティプラノ コレクションと比較することができる。それまで基本的にピアジェは、世界最薄時計の記録を同じリシュモングループの傘下企業であるジャガー・ルクルトと競い合っていた。

2013年、JLCは世界最薄の手巻きムーブメントを搭載したマスター・ウルトラスリム・ジュビリーを発表した。このムーブメントの厚みはわずか1.85mmで、ケース全体の厚みを4.05mmに抑えることに成功している。それに対して、2014年にピアジェは革新的なアルティプラノ 900Pを発表した。この時計にはケース裏蓋と一体化した手巻きムーブメントが搭載されており、最終的な時計の厚みは3.65mmとなっている。しかし同年、JLCはケース厚が3.6mmのマスター・ウルトラスリム・スケルトンで応酬した。

しかし、これらの時計はすべて手巻きムーブメントを動力としている。さらに、両ブランドとも同じ企業グループに属し、何十年にもわたる経験と専門的知識を有している。それに対して、ブルガリが本格的なオート・オルロジュリー時計を作り出したのは約10年前のことである。

ブルガリには何かする必要があったのだ。

ピアジェの反応は素早く、はっきりとしていた。900Pのムーブメントにマイクロローターを追加することで、4.3mmの薄さを実現したアルティプラノ アルティメート オートマティックを生み出した。この時計はすぐに世界最薄自動巻き時計の名をものにした。しかし皮肉なことに、この時計ではケース裏蓋が219個の部品を固定するムーブメントプレートとして使用されるため、機構自体の厚みも4.3mmとなる。つまり、現在世界で最も薄い自動巻きムーブメントを製造しているのはブルガリのままであるということだ。

しかし、ピアジェは2018年に世界最薄の機械式時計を発表しているため、上記のこともさほど気にかけていないかもしれない。ピアジェ アルティプラノ アルティメート・コンセプトと名付けられた時計の厚みは、信じられないことに2mmしかない。ただ、この時計はまだ市場で販売されていない。この時計の開発においてピアジェは5つの特許を取得している。世界最薄時計を作り出す終わりなき戦いにおいて、今後ピアジェがどのようにこの革新的な技術を次の世代のモデルに組み込んでいくのか、非常に興味深い。

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自社ムーブメントとは?

自動巻き時計とその仕組み

トゥールビヨンとのその機能について。


記者紹介

Tom Mulraney

1980年代~90年代にオーストラリアで育った私にとって、時計業界は身近なものではありませんでした。住んでいた町に高級時計を扱う正規販売店は1件しかなく…

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