こちらにデイトナ、あちらにはスピードマスター。気をつけないとロイヤルオークを見落としてしまいそうだ。時計愛好家なら、休暇の旅行先で、国によって時計の好みがまったく違うのに気づいたことがあるだろう。まさに、「所変われば品変わる」だ。所変わればレストランやカフェや海岸で目にする時計もブランドも変わる。
筆者は高級時計の世界最大のマーケットプレイスのスタッフとして、様々な国を訪れ、現地の人がどんな時計を身につけているのか見てきた。実際は、理論上や数字ベースで見た、ということになるが。今回は、世界のさまざまな地域で高級時計ファンのテイストがどんなに違うかを知るために、社内の統計を見てみた。
イタリア: ロレックス、ロレックス、そしてまたロレックス
デイトナの一択。イタリアではどうもそういうことらしい。社内の統計を見ると、ロレックスのクロノグラフやコスモグラフほど人気のある時計は他にない。基本的に、イタリアほどロレックスの優位性がはっきりしている国はない。しかし、なぜ王冠マークのこのブランドが、イタリアでは誰もが認める王者たり得ているのだろうか。
筆者はイタリア人ではない。SNSで様々な意見について議論するのもよいと思うが、イタリアではファッションや美意識が重要な意味を持ち、文化の一部であることは誰もが知っていることだと思う。我々ドイツ人に対してよく言われている、車への情熱に匹敵するものだ。また、時計コレクターのコミュニティーや時計情報メディアは、購入を考えるお客様に対して非常に大きな影響力を持っている。ポール・ニューマン デイトナという名前は、イタリアの時計愛好家コミュ二ティーと販売業者のネットワークが最初につけたものだとさえ言われている。
このコミュニティーもまた、ジャンニ・アニェッリのようなファッションリーダーたちの影響を受けているし、これまでも受けてきた。特に70年代にアニェッリが他の人たちと共に働きかけたことで、多くの販売業者がロレックスを専門に扱うようになった。コレクターのコミュニティーが拡大し、ブランドや販売業者が高級時計の多大な需要に応えようとしたことが、現在のイタリアのヴィンテージ市場の強さにつながっている。ロレックスや時計全般の供給とアクセスの良さが、王冠マークの同ブランドが支持される理由として侮れない事実だろう。結局のところ、イタリア人にとって時計は、太陽、色彩、素敵な物に感じる喜び、そして時代を超えて生き続けるスタイリッシュな物たちといった、生きる喜びの一部なのだ。
アラブ首長国連邦: オーデマ ピゲ、パテック フィリップ、あるいはやはりロレックス?
イタリアからアラブ首長国連邦 (UAE) へ話を進めよう。これまで筆者が分析してきたどの国でも、ロレックスは文句なしのナンバーワンだが、イタリアとの違いは、統計上の2位と3位に特に顕著に表われている。UAEでは周知のように、少なくとも一部の人々については、財布の中身が非常に充実している。これは、ロレックスに僅差でオーデマ ピゲとパテック フィリップが続いていることからも分かる。筆者が思うに、この3つのブランドの人気の理由は、ロイヤルオーク、ノーチラス、デイトナが物語るように、価格とステータスにある。
各ブランドはもちろん首長国連邦の購買力を認識しており、地元のショッピングモールやホテルに数多くの旗艦店を設けているほか、モデル自体 (特にロイヤルオークのゴールドや宝石入りのモデル) も、まさにこの市場に向けて展開している。また、ドバイ ウォッチ ウィークのようなイベントも、高級時計の注目度を高めている。高級時計の魅力は、西洋世界やポップカルチャーを象徴する高級なシンボルだというところにもあると筆者は思う。しかし、アラブ世界での時計が「新しい」現象だと思っている人には、ロレックスを中心に「中東ダイアル」として知られ、コレクターの間で人気のあるヴィンテージウォッチがあることを知っておいてほしい。例えば、デイトナ6263や、UAEの軍のロゴをあしらったデイデイト18238などだ。
アメリカ: スポーティーでエレガント。ウォール街からマイアミビーチまで
次はアメリカ。高級時計を含む高級品の最大の販売市場だ。そして、ここでも変わらず1位を獲得したのはロレックスだ。しかし、モデルに関しては、アメリカ人はロレックス デイトジャストやサブマリーナが好きだということが分かる。誤解を恐れずに言えば、人気の理由は、これらの定番モデルが持つステータスと、「この時計を選んでおけば間違いない」という事実の両方だろう。ファッション性にこだわらず、スーツやスポーティーなカジュアルウェアに合う時計を探している人にも、このスチール製のロレックス スポーツモデルはお勧めだ。デイトジャストもサブマリーナもバリエーションが豊富で、ニューヨークのウォール街でも、マイアミのビーチでも、身につけることができる。筆者がここで思い浮かべるのは、青文字盤のサブマリーナ コンビモデルだ。
アメリカ人とスポーティーな時計との相性の良さは、オメガ シーマスターが人気ランキングの第3位に入ったことにも表われている。これは、スポーティーなアンダーステートメントを表現する時計だ。もうひとつの理由は、広告との相性。そしてアメリカ市場が輸入品に対してオープンなことが、スイスの高級ブランドであるオメガにとってはもちろん、ターゲットを絞って製品を展開しやすいところにもあると筆者は考えている。例えば、パンナム航空とロレックスがコラボして、GMTマスターモデルのプロモーションを行ったことがある。従来的な意味での推薦ではないが、アメリカの大統領たちがロレックスを身につけていることは知られており、それが富裕層や有力者のブランドとしてのステータスをさらに高めている。つまり、ロレックスはイタリアでと同様に、文化、スポーツ、政治にしっかり根ざしているのだ。とはいえ、アメリカではブランドはトレンドやファッションをあまり意識しない。その姿勢は確かにスマートで、ブランドの戦略的アプローチを示してもいる。
スウェーデン: アンダーステートメントと機能性
周知のように、北欧諸国では名声やステータスなどがあまり語られず、誇示されることもない。本来、名声やステータスのシンボルである時計についても同様だ。北欧諸国では控えめであることが重要とされており、スウェーデンの例が顕著に示すように、それはデータにも表われている。スウェーデンではオメガの人気度がロレックスの人気度に接近しており、シーマスターはエレガントでタイムレスなロレックス デイトジャストと競い合っている。シーマスターシリーズにはシーマスター300、300M、そしてクラシックなシーマスター ヴィンテージ (アンティーク) など、さまざまなモデルがあるが、スポーティーで革新的な、「わざとらしい」「見せびらかすような」贅沢さを抑えたブランドイメージは、このシリーズのすべてのモデルに受け継がれている。
水に囲まれ、北欧独特の航海や海洋に関係する環境から、オメガ、特にシンプルで堅牢な外観のシーマスターとのつながりは自然であるように筆者は思う。また、イタリアと同様に、この国でも時計はファッションと密接な関係があると思う。派手でなく、贅沢でなく、大げさでもないが、歴史があって、質が高く普遍的なアクセサリーという観点からもファッションと関係があるだろう。また、北欧の国々の購買力や安定した経済も、おそらく少なからず影響していることだろう。
中国: ロレックスとリシャール・ミルの出会い
今回の旅の最終地は中国だ。中国市場は、今後最も大きく成長し、最も大きな販売市場となる可能性を秘めており、高級ブランドは熱い視線を向けて狙っている。なぜなら、世界の他の地域では状況が低迷し、中には雲ゆきがあやしくさえなる中、中国市場は多くのブランドにとって救いの星となっているからだ。中国では、ますます増え続け、ますます裕福になる中産階級にとって、高級品が重要な意味を持つことは、ここで改めて説明するまでもないだろう。しかし、興味深いのは、欧米で特に「盛り上がって」いて、外向的で、スポーツビジネスや音楽ビジネスで見かけることが多いモデルやブランドが好まれているところだ。
ロレックスの他、オーデマ ピゲ、パテック フィリップ、さらにはChrono24で中国からの問い合わせが特に多い、スターやスポーツ界に人気のブランド、リシャール・ミルも、中国の時計ランキングに入っている。ブランド認知度の高さ、ステータスの高さ、そしてある種アグレッシブな宣伝は、中国でも時計ビジネスの成功を保証しているようだ。やはり、人は「自分は成功した」「一流のものを知っている」とアピールしたいものなのだ。
もちろん、1回限りの記事では世界のすべての国や地域を網羅することはできないので、また時々こうやって国別のデータに目を向けていこうと思う。