スティーブ・マックイーンは1960年代から70年代にかけて熱狂的な人気を誇ったアメリカの俳優で、数々の西部劇、冒険映画、アクション映画に出演し、「キング・オブ・クール」として不動の地位を築いた。スクリーン上でのカリスマ的存在感だけでなく、実生活でもスリルを追い求めた彼は、モータースポーツ愛好者としても知られ、1970年のセブリング12時間レースでポルシェ908を駆り、見事2位を獲得した。その一方で、彼が腕時計マニアであったこともまた注目すべきポイントだ。今回は、スティーブ・マックイーンの愛した腕時計と、その魅力を振り返りたい。
目次
- レーシングスポーツの2つの象徴:スティーブ・マックイーンとホイヤー モナコ
- ロレックス サブマリーナ:マックイーンが愛したもう一つの時計
- スティーブ・マックイーンとシュヴァルツヴァルト地方発のドイツ時計:ハンハルト 417 ES
レーシングスポーツの2つの象徴:スティーブ・マックイーンとホイヤー モナコ
時計ファンがスティーブ・マックイーンについて語るとき、必ず思い浮かべるのが「ホイヤー モナコ」であるだ。この時計は、映画『栄光のル・マン』(1971年)で彼が着用したことで、絶対的なレジェンドとなった。この角ばった時計はタグ・ホイヤー カレラほど時代を超越したデザインとはならなかったが、現在でもタグ・ホイヤーの象徴的なモデルの一つとしてカタログに掲載され続けている。

この伝説的なクロノグラフが 「キング・オブ・クール」の手に渡った背景は、幸運な出来事が重なったことによるものだった。モナコの開発に資金を使い果たしてしまい、マーケティング予算がほとんど残っていなかったジャック・ホイヤーは、なんとか低予算でこの時計を宣伝する方法を模索していた。そして、まさにその時スポンサーを探していたF1ドライバーのジョー・シフェールに出逢い、そのチャンスを見い出したのだ。慧眼と言えよう。以来シフェールは、レースでの時計着用だけでなく、レーシングカーやオーバーオールにホイヤーのロゴを着けるようになった。スティーブ・マックイーンの手にモナコが渡ったのは1970年、『栄光のル・マン』の撮影中だ。マックイーンは主役のモデルであり友人でもあったシフェールになりきるため、衣装は細部まで再現された。2012年のフィリップス・オークションでは、この時着用した時計になんと65万ドル(約5100万円)の値がついた。
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ロレックス サブマリーナ:マックイーンが愛したもう一つの時計
「キング・オブ・クール」と呼ばれたスティーブ・マックイーンは熱狂的なレーシングドライバーだったが、好んで着用する時計はダイバーズウォッチだったようだ。セブリング12時間レースに参加したときも、『栄光のル・マン』の撮影中も、ロレックス サブマリーナ Ref.5512を着けている姿が写真に残っている。遺作となった『ハンター』(1980年)でも彼はダイバーズウォッチを着けていた。

彼は生前ロレックス サブマリーナRef.5512とRef.5513を所有し、着用していた。Ref.5513の方は1970年代にスタントマンのローレン・ジェーンズに贈り、Ref.5512も1980年には親しい友人のジミー・ブラカーの所有となっている。
ちなみに、1980年に亡くなったマックイーンが、ロレックス エクスプローラー II Ref. 1655を着用していたとされる話は、おそらく単なる都市伝説だろう。彼がこの時計を着用している姿は目撃されておらず、噂によると、イタリアの卸売業者が宣伝目的で口にしたことらしい。
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ロレックス サブマリーナがお好みであれば、このモデルもきっと気に入るでしょう…
スティーブ・マックイーンとシュヴァルツヴァルト地方発のドイツ時計:ハンハルト 417 ES
スティーブ・マックイーンはロレックスだけでなく、ドイツ南部のシュヴァルツヴァルト地方に本拠地を持つ時計ブランドもコレクションしていた。ドイツ連邦軍初のパイロットクロノグラフであるハンハルト417 ESを所有していたのだ。限定500本という希少性もあり、どのような経緯でマックイーンがこの時計を手にしたのかは謎のままである。

この時計もスティーブ・マックイーンのお気に入りのひとつだったに違いない。戦争映画『戦う翼』(1962年)で着用していただけでなく、プライベートな場面、インタビュー、フォトセッション、バイクレースやカーレースなどでも着けている姿が目撃されている。
1960年代以降忘れ去られてしまっていたが、ハンハルトは2021年にこのモデルを復刻することにした。もしその気になれば、マックイーンが愛用した時計のひとつを、自分のものにすることができる。価格はおよそ48万円で、マックイーンファンのみならず、これから時計趣味を始めたい人にも手が届きやすい一品である。
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