高級時計に特別感を与えるのは、そのディテールだ。文字盤の見え方が光の加減によって変わる場合、その理由は多くの場合サンバースト仕上げによるもので、おそらく時計業界で最もよく知られた装飾仕上げである。少し隠れた存在であるものの、人気なのが”ジュネーブストライプ” であり、主に時計のムーブメントに施されている装飾仕上げのことをいう。直接目に見えるか見えないかに関わらず、装飾仕上げは時計の世界で大きな役割を果たしており、時計に特別な輝きと価値を与える。そこで、今回は時計の装飾仕上げについて紹介したい。
サンバースト仕上げ
サンバースト仕上げは、円形の表面で最も人気の研磨方法だ。はっきりと見え、美しい効果を生み出すことから、歯車によく施され、文字盤にも用いられる。サンバースト仕上げの文字盤を回すと、反射した光が円を描くように動き、美しい効果を生み出す。この装飾によって、すべての時計にエレガントさが加わり、文字盤に命が吹き込まれる。機械による加工が可能なため、セイコーのクォーツ時計などといった入門レベルの時計にも見られる。
サンバースト仕上げは、高価格帯の高級時計にもよく用いられているが、その場合は手作業で行われる。放射線状の模様は金属ブラシと研磨剤で作られるため、高い技術が求められる。その結果、パテック フィリップのグランドコンプリケーションコレクションの時計に見られるように、機械で研磨された文字盤よりも驚くほど精巧で、繊細な輝きを放っている。
ジュネーブストライプ
コート・ド・ジュネーブとしても知られるジュネーブストライプは、ムーブメント部品の装飾仕上げとして最も一般的なものだ。回転式の、わずかに斜めに傾いた工作機械が、研削する部品を平行な線で移動させる。その結果、幅広のストライプ同士がわずかに重なり合うことで、波のような模様が生まれる。あまり見かけないが(そして不可能でもない)、文字盤にも見られ、シンプルかつエレガントな印象を放つ。特にジャケ・ドローは、この装飾仕上げを印象的に仕上げる事で知られている。
ペルラージュ
ムーブメント部品に用いられる装飾仕上げの定番はペルラージュだ。この技法では、表面に丸い渦巻きが施され、それが重なり合って模様を形成しており、安価なモデルでも見ることができる。この手法には機械が使用されるが、高級モデルでは手作業で行われる。個々の渦模様の配置とそれらの重なり具合が完璧に均一である必要があるため、渦模様の配置を決めるだけでも非常に重要となる。さらに、それぞれの模様を付ける強度も同じでなければならない。そのため、ペルラージュはごく限られた職人のみが習得できる技術である。手作業によるペルラージュで特に有名なのは、ショパールのL.U.Cモデルだ。手作業で仕上げられたペルラージュは二つとして同じ仕上がりにはならないため、愛好家にとって特別な魅力がある。
ペルラージュに関しても例外があり、ショパールではミッレミリア クロノグラフの一部のモデルで、文字盤にもこの技法を採用している。
その他の装飾仕上げ
真鍮の部品を加工するための円模様など、繊細な円を描く技法は他にも多数あり、その種類を把握するのは困難だ。特に高級時計の場合、それぞれの時計に特徴を持たせ、ユニークさを引き立てるために、独自の研磨技術が用いられる場合が多い。もちろん、どのように加工して研磨するかは、素材にもよる。時計業界では新しい素材がどんどん登場している中、今後どのような新しい技法を時計に見ることができるのか、興味深いところだ。
鏡面仕上げ
厳密には研磨ではないが、鏡面仕上げ、またはブラックポリッシュとも呼ばれるこの技術はとても特殊なため、ぜひ紹介しておきたい。鏡面仕上げでは、表面を非常に強く磨くため、全面で光を吸収したり、光沢を放つ。またその表面は、光の加減に応じて黒光りすることがある。鏡面仕上げの技術には、高度な職人技と、何よりも根気が必要となるため、トゥールビヨンのブリッジなどの部品に使用されることが多い。
ギョーシェ装飾とレーザー刻印
ここでご紹介していない文字盤の装飾を思い浮かべることはできるだろうか?それはおそらく研磨ではなく、ギョーシェ装飾(細い線の彫刻)、またはレーザー刻印だ。
まとめ
さまざまな技法により時計のムーブメントやその他のパーツをより美しく仕上げる装飾は、それ自体がまさに一つの世界だ。時計の装飾技法について、ぜひ知ってほしい。もちろん、多少の時間とリサーチは必要だが、それだけの価値はある。まずはお手持ちの時計に触れてることから始めてみてほしい。どのような仕上げ技術が用いられたのか、確認してみてはどうだろうか。仕上げの技法について学ぶことで、それぞれにどれほどの時間と労力が注がれているのかが理解でき、時計の価値をもっと感じられるようになるだろう。