2022年04月28日
 6 分

時計の価値は安定していないといけないのだろうか?

Donato Andrioli
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筆者の記事が公開され、編集部がSNSでシェアするたびに、皆さんのコメントや反応を見るのを楽しみにしている。そんな中、最近とあるコメントに出会い、ずっとそのことが頭から離れない。それは筆者が時計の価値の安定性と上昇について繰り返し述べていることに対する批判を含んだコメントだった。確かに、価値の安定性と時計愛とはあまり関係がないように見える。コメントを読んで、この賛否両論あるテーマについて改めて考えてみることにした。正直に言うと、筆者も時計を選ぶとき、価値が安定しているかどうかは重視してしまう。それは時計をコレクションする上で何か間違ったことなのだろうか?それとも良い面もあるのだろうか?そもそも、時計の価値が安定していることは必要な条件なのだろうか。それともそれはまったくどうでもよいことなのだろうか? 

ロレックス デイトナのような価値の安定した時計の存在は、時計趣味にとってプラスかマイナスか

価値が安定している時計を選ぶのは利益のためか、「保障」のためか

もし、純粋に価値の上昇と利益を得ることだけを重視して時計を収集するならば、選べる高級時計はかなり絞られてしまうだろう。オーデマ ピゲ ロイヤルオークのような「パフォーマンス・モンスター」は、そうそうお目にかかれるものではない。ロレックス デイトナパテック フィリップ ノーチラスなど、人気のある時計を正規の定価で手に入れられる人など、実はめったにいない。手に入れられたとしても、すぐに売却するような行為は、これほど人気の高い時計を売ってくれた良い販売店とのつきあいをなくしてしまうことになる。定価で買ってすぐに高値で売る「転売屋」はいるが、我々時計愛好家の多くが「価値の安定性」を求めることとはまったく別のことだ。つまり、せっかく稼いだお金を文字通り窓から投げ捨てたりはしない、という意味に違いない。この意味では高級時計は唯一無二の存在なのだ。車やファッション、宝飾品など他の物質的な趣味では、値崩れが起きるのは普通のことだが、高級時計の場合は程度の差こそあれ、一般的にかなり価値が安定している。どこまでの値下がりを許せるかは、結局のところ時計コレクター自身が判断すべきことなのだ。気に入らなくなった時計を売る時に、どのくらいの損なら許容できるのか。人気のない時計に買い手がつくまでどのくらい待てるのか。それとも、こういった話は問題外で、コレクションした時計を手放して売るつもりなど金輪際ないのだろうか? 

パテック フィリップ ノーチラスほど、価値が上がって得をしている時計はそうそうない。
パテック フィリップ ノーチラスほど、価値が上がって得をしている時計はそうそうない。

そもそも時計愛好家とはどういう人か

しかし、価値の安定性を考えて時計を選ぶコレクターを、果たして本当の時計愛好家と呼べるのだろうか。筆者は同好の士との交流が多く、高級時計の価値を1円たりとも失いたくないという時計ファンも知っている。この考えは非現実的であり、収集する時計候補の選択肢を極端に狭めてしまうものだ。ではこういったコレクターたちの時計への愛情を否定できるだろうか。いや、そういうわけにはいかない。「正しい」や「間違っている」はここには存在しないのだ。筆者は自身のことを正真正銘の時計愛好家だと思っている。偉大な歴史を持ち、象徴的で普遍的なデザインの時計を熱愛し、高級時計に関するものは手当たり次第になんでも読み、調べ抜いている。自分の趣味に合わない時計であっても、長所を見つけることだってできる。しかし正直なところ、もし高級時計の価値が一定程度安定していなければ、そもそも時計を集め始めていなかっただろう。大金を文字通り「ドブに捨てる」ような余裕はないからだ。価値が安定しているからこそ、この世界に足を踏み入れる勇気が持てたのだ。矛盾しているが、筆者にとってはコレクションの中で最も価値が安定していて、すでに価格が上がっている時計こそがまさに売るわけにいかない時計だ。市場価格が後に上がるだろうことは購入時にすでに分かっていても、それが理由で選んだわけではない。単にとても気に入ったから購入したのだ。しかし、価格が将来的にさらに上がるだろうという事実は、気持ちの上で購入を決める最後のひと押しとなった。 

筆者は転売屋ではないが、時計を売ることも時にはある。その時計が気に入らなくなったり、あまり着けなくなっていて、他に気になる時計がある時だ。売却時に購入価格の20%~30%を失ってもまったく問題ない。時計は趣味であり、趣味にはお金がかかるものだ。なにより所有している間は、素晴らしい時計を身につけて使う楽しみも得られたのだ。徹底的に使い込んで、使用傷のひとつやふたつは残しているのだから、売るときに多少損をするのは当然だと思う。通常は、全額失うようなことはなく、時計には一定の価値が残っている。こういうところが時計趣味の非常に魅力的なところだろう。資産価値を重視するか否かに関わらず、それぞれ考え方も経済事情も異なるが、我々はみな、時計愛好家なのだ。 

ロレックス サブマリーナの価値が安定していることで、時計の魅力が台無しになるだろうか?
ロレックス サブマリーナの価値が安定していることで、時計の魅力が台無しになるだろうか?

まとめ:高級時計は価値が安定していないといけないのだろうか?

確かに、新品のロレックスをシールもそのまま、金庫に入れて何年も放置しておくような行為は、時計愛とはかけ離れたことだろう。しかし、本当にそんなことをする人はほんの一握りだ。我々は皆、時計という装飾品を身につけて楽しみたいのだ。多くの愛好家にとって価値の安定性が意味するのは、ハイリターンや手早く儲けることではなく、単にできるだけ価値の下がらない時計を求めているということだろう。高品質な素晴らしい時計で、楽しみながら経験を積むことができ、売却の際には少なくとも相応の価値が残るような時計。それは特に、その時計を気に入らなくなったり、新しいものを手に入れようとしている時には重要なことだ。その時に古い時計の価値がむしろ上がっていれば、それに越したことはない。しかし表題の質問に答えるなら、答えは「ノー」だ。 

時計は価値が安定していなければならないわけではない。安定性が高いからといって、その時計がより良くなったり美しくなったりするわけではないのだ。しかし、価値が安定していればこそ、より多くの人が手にしやすくなり、人気も上がり、ニーズも高まる。高級時計そのものが重要性を持つ。つまり、様々な議論があるにせよ、価値の安定性とは時計界全体に恩恵をもたらす、何かとても素晴らしい特長なのだ。  


記者紹介

Donato Andrioli

チューダー ブラックベイ41という機械式時計を始めて買って以来、機械式時計の虜になってしましました。特に、古くて感動的な歴史を持つアイコン時計が大好きです。

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