完全にサファイアでできた時計のケースがあることをご存じだろうか?それは今日では比較的一般的なものになっているから、ご存じだったかもしれない。しかし一体何人の時計愛好家が、この信じられないほど強固でありながら、悪名高く脆い素材を加工することの難しさを理解しているだろうか。この完全に透き通ったケースのブームとも言えるような現象は比較的最近のもので、ここ10年ほどの間にその生産技術を完成させることができたのはごく少数の製造業者のみである。しかしこれについて知っていた人は、このようなタイムピースが登場するのは時間の問題だったと言うだろう。何百年もの歴史を持ち、最盛期を過ぎたとされている業界としては、機械式時計ビジネスは驚くほどハイテクである。革新的なブランドはその製品を進化・多様化させるために常に新しい方法を模索し、しばしば他の革新的な業界からアイデアや素材までをも借りてくる。
ほとんどの時計愛好家にとって、定番時計に変わるものはない。こういった時計ファンにとっては、豪華絢爛なピンクゴールドのAP ロイヤルオークやヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ、あるいはよっぽど幸運な人ならプラチナ製の複雑なパテックかランゲに勝るものはないだろう。一方、その他大勢の人々はタイムレスなステンレス製のロレックス サブマリーナやオメガ スピードマスターなどで満足しなければならない。チタンやブロンズの時計も過去20年ほどで人気が増してきている。ブルガリのオクト フィニッシモとチューダー ペラゴスなどが前者の好例であり、また今日ではパネライの名前はブロンズ時計とほぼ同義語となっている。
あなたの好みがどうであれ、ケース素材が腕時計の見た目と雰囲気だけでなく、実際の装着感においても重要な役割を果たすことは否定できない。一部の人にとっては、金無垢の腕時計を着けることは何物にも変えがたい。しかしゴールドはスチールに比べて著しく重く、そろいのブレスと合わせればそれはなおのことである。そのうえ、より柔らかい金属であるためにへこみや傷などが付きやすいという面もあるのだ (ウブロのようなブランドは、このあたりに重要な改良を加えたキングゴールドという素材を開発したりしている)。セラミックやチタンなどのハイテク素材はその軽量さや高度な耐傷性など、付加的な利点が多い。しかし、これらの物質は加工をするのに時間がかかり、その結果としてコストが高くなる。一部の人はこういった素材、特にチタンの仕上げはステンレスまたは貴金属などの仕上げほど美しくならないと主張する。
それらを全て踏まえて、私たちはChrono24のデータを詳細に読み込み、時と共に異なるケース素材が商業的な業績に与えた影響を検証してみたら興味深いだろうと考えた。

イエローゴールド
Chrono24のデータによると:
イエローゴールド製時計で最も人気のブランド (2020年の売上数による) :
- ロレックス (デイデイト)
- カルティエ (タンク アメリカン)
- パテック フィリップ (カラトラバ)
イエローゴールド製時計のベストセラー (2020年の売上数による) :
- ロレックス デイデイト18038
- ロレックス デイデイト1803
- ロレックス デイトジャスト6917
分析 :
昔はイエローゴールドは高級腕時計ためにあるものだと考えられていた。ドレスウォッチからスポーツウォッチまで、あらゆる種類のタイムピースがこの暖かい色合いの貴金属で作られていた。全ての有名ブランドのカタログ内でイエローゴールドは目立って取り上げられ続けるものの、ファッションは移り変わり、ケース素材の種類も大幅に増えていった。イエローゴールドはかつてのようには人々の目を惹きつけなくなってしまったのである。これは必ずしも時計の小売価格に反映されるものではないが、その価格推移への影響は中古品市場で確かに見られる。あまり人気のないモデルは予想どおり、ほぼ即座に小売価格から値を下げ始める。とすれば、良い時計がより魅力的な価格で出回っているということだ。とは言っても、全てのブランドとモデルにこれが当てはまるというわけではない。例えば、定番のイエローゴールド製カルティエ タンク アメリカンは、過去数ヶ月間においてその価格が徐々に上がり始めている。

ホワイトゴールド
Chrono24のデータによると:
ホワイトゴールド製時計で最も人気のブランド (2020年の売上数による) :
- ロレックス (デイトナ)
- パテック フィリップ (パイロット・トラベルタイム)
- ブレゲ (ロシア皇帝ツァーリの⽬覚め)
ホワイトゴールド製時計のベストセラー (2020年の売上数による) :
- ロレックス デイトナ116509
- ロレックス デイトナ116519
- ロレックス ヨットマスター42226659
分析 :
ホワイトゴールドは、貴金属製のケースでもイエローゴールドに比べてあまり仰々しくないものを求める多くの時計愛好家たちの間で人気が出ている。この貴金属の素晴らしさのひとつは、見慣れていない人の目には、特に遠目からは、ステンレスと見分けがつかないことがあるという点だ。このことから、派手さを好まない、あまり人目に付きたくない人にとって、この素材は格好の代替案なのだ。しかし一度手首に巻いてみると、ホワイトゴールド製の時計とステンレススチール製の時計との違いには即座に気がつくものである。文字どおりその価値を実際に感じられるということで、ロレックス デイトナ 116509のような時計が非常に魅力的なのである。ホワイトゴールドはまた、手持ちのどんな服装にも似合い、非常に使い勝手の良い時計でもある。

ステンレススチール
Chrono24のデータによると:
ステンレススチール製時計で最も人気のブランド (2020年の売上数による) :
- ロレックス (エクスプローラー II)
- オメガ (スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル)
- セイコー (スピリット SARB033)
ステンレススチール製時計のベストセラー (2020年の売上数による) :
- オメガ スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル 311.30.42.30.01.005
- オメガ スピードマスター リデュースド3510.50.00
- ロレックス エクスプローラー II Ref.16570
分析 :
ステンレススチールは、現代で群を抜いて最も人気の高級時計用ケース素材である。これにはもっともな理由がいくつかある。ステンレスは実に見事な仕上がりを誇る。製造と加工のコストが比較的安価である。タフで頑丈な素材であり、ある程度の傷には耐えること (一部は磨いて消すことも可能)。ロレックスや、少数のAPなどにおいても、ステンレス製のスポーツモデルの人気と価格が鰻登りなのは驚きではない。しかしこれらのモデル以外にも、よく探せばさまざまな種類の、魅力的で素晴らしく、かつ歴史あるステンレス製のタイムピースを非常にリーズナブルな価格で見つけることができるのだ。オメガ スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナルはこれのまさに好例であり、この時計が2020年に最もよく売れたステンレススチール製モデルであったのは当然である。

チタン
Chrono24のデータによると:
チタン製時計で最も人気のブランド (2020年の売上数による) :
- ブライトリング (アべンジャー E13360)
- シチズン (プロマスター アルティクロン)
- ウブロ (クラシック・フュージョン)
チタン製時計のベストセラー (2020年の売上数による) :
- チューダー ペラゴス25600TN
- セイコーSBGA211
- チューダー ペラゴスLHD25610TNL
分析 :
チタンは時計コミュニティ内で賛否両論分かれる素材である。支持者たちはこれが極めて強固で軽量、抗アレルギー素材でもあることを称賛する。一方、チタンに対してあまり熱狂的ではない人々は、仕上げの表面処理ができないこと、あまりパッとしない見た目について不満をもらす。あなたがどちらの側につくのだとしても、チタンの人気は一過性のブームでないことは否定のしようがなく、スポーツウォッチでは人気の選択肢となっている。最近では、ほとんどのブランドが少なくとも1つか2つのチタンのオプションを用意しており、一部のブランドはチタンと他の素材を合成したケースを提供している。商業的な点から見ると、チタンは他の素材に比べてあまり成功しているとは言えないようだ。ステンレススチールのように人目を引く輝きには欠けるし、貴金属であるというわけでもない。それでも、多くの人がチタン製のチューダー ペラゴスを市場最高の機械式ダイバーズウォッチのひとつであると考えている。また、同じモデルのステンレス製あるいは貴金属製モデルよりもかなり安価である。ただ、その価値が当分の間上がることを期待しないようにすべきである。