ティソは偉大な歴史を持つスイスの時計会社だ。若い人たちはブランドの豊かな歴史について知らない人が多いかもしれないが、おそらく40代以上の時計ファンの方はこのブランドについてよくご存じのことだろう。そのルーツはブランドがスイスのル・ロックルでシャルル-フェリシアン・ティソと息子のシャルル-エミール・ティソによって創立された1853年にまでさかのぼる。ル・ロックルはスイスの時計製造の中心地であり、この地で多くのブランドが創業し、現在に至る。著名なブランドには、ミドー、ゾディアック、ユリス ナルダン、ゼニス、モンブラン、サーチナ、そして今回紹介するティソなどがある。
初期のティソ
高品質で信頼性の高い懐中時計で、早くから名声を得たティソ親子。時計の人気は上昇し、ティソという名前は時計界で誰もが知るほどとなった。また、会社が創立された同年には、世界初となるデュアルタイムの懐中時計を開発している。製造においては父のシャルル-フェリシアンはケースを、息子のシャルル-エミールは時計づくりを担当した。その後、シャルル-エミールの子供たちが事業を継ぎ、ブランドをさらに拡大。ティソは、19世紀終わりごろから20世紀の始めにかけて特にロシアで人気となった。
当時ロシアで人気があった時計には、例えばティソ “バナナ”などがある。カルティエのデザインにインスパイアされ、文字盤にアールデコスタイルの数字を施したこの時計は、1916年に発売されるとすぐに成功を収めた。しかしそのわずか1年後、2月革命により皇帝が退位、結果としてロシアとの貿易は違法となってしまう。1919年、ティソはトノー型ケースを備えたティソ ポルトを発表。これもまた素晴らしいアールデコスタイルのステートメントピースであり、現在でも時計デザインのインスピレーションとなっている。例えば、フランク・ミュラーのタイムピースを見てみると、ポルトのデザインと密接なつながりがあることが分かるだろう。
何世代にもわたる家族経営の後、ティソはオメガとともに1930年にSSIH社の傘下企業となった。同年、同社は世界初の耐磁性能を持つ時計、ティソ アンチマグネティックをリリース。これはティソの初となる革新的な時計ではなかったが、同時に最後ではないことも明らかだった。第二次世界大戦後から1970年代初期のクォーツ革命まで、ティソは繁栄し続けていた。ティソは最も有名なスイスブランドの1つであり、ティソ ナビゲーターなどの素晴らしいタイムピースを生み出した。これは、24のタイムゾーン表示を備えた初の大量生産された時計だ。Chrono24でも、これらの個体を約40万円～80万円ほどで見つけることができる。
オメガとレマニアがムーブメントを共同開発したことで、ティソも恩恵を受け、1950年代～1960年代にかけて名作を次々と世に送り出した。これは、ティソ シースターの名前が現れたのと同じ時代であり、その名前は現在でも使用されている。ヴィゾデート、キャンピング、カラトラバは当時のコレクションにも使用されていたもので、なかでもカラトラバはパテック フィリップの有名なシリーズと同じ名前だ。
第二次世界大戦後の素晴らしい展開
ティソの名作の一部は1950年代および1960年代のクロノグラフだ。伝説的なモデルの1つにはティソ 808aがある。文字盤には、有名なポール・ニューマンデイトナの文字盤を手がけたシンガー社製のものが使用されている。また、内部には有名なムーンウォッチのオメガ キャリバー 321と関係の深いレマニア キャリバー 1281を搭載していた。この正真正銘のクラシックなモデルは非常にお手頃な約33万円ほどで入手できる。
他にもティソのシーマスター クロノグラフを忘れてはならない。基本的にはクロノグラフ機能付きのダイバーズウォッチであり、デザインを見れば、なぜコレクターが喜ぶものなのかがすぐにわかる。36mm径のスポーツウォッチケースは全体のデザインにぴったりで、カラフルな文字盤は見ていてとても楽しい。内部には、レマニア キャリバー 1277が搭載されている。状態にもよるが、価格は13万円～26万円ほどになるだろう。紹介した2つのクロノグラフは、1950年代～1960年代にかけてティソが発売した多くの素晴らしい時計のごく一例にすぎない。
クォーツ革命後のイノベーション
クォーツ革命が起こった際、ティソも多くの影響を受けた。その結果、ブランド戦略を再考する必要があった。1970年代初期に主にクォーツ式時計の生産へと切り替えた後、イノベーションに再フォーカスした。しかしながら、クォーツに切り替える直前の1971年には、世界初のプラスチック製の機械式時計、ティソ アストロロン、別名IDEA 2001を発売している。クォーツ式時計に置き換えられた後も、ティソはさらに新しい素材を探求し続けた。
1985年、ティソは高山の花崗岩からできた人気のロックウォッチをリリースした。筆者もティソがこの時計ために数多くの印象的な広告で宣伝を行ったことを鮮明に覚えている。その翌年には、別の新たな定番タイムピースとなるトゥータイマーをリリース。これは、アナログとデジタルの時間表示両方を搭載した初の時計だ。ユニークな素材を求め続けた結果、ティソは1987年にパールウォッチ、1988年にウッドウォッチを発表している。
現代のティソ
この25年間、ティソは2つの方向性でもってブランドを発展させてきた。1つ目は1999年のティソ T-タッチの登場である。この時計は、タッチスクリーンを搭載し、機能がアナログとデジタルの両方で表示される。T-タッチシリーズは今日ではブランドのスマートウォッチコレクションへと成長し、ティソはスイスが誇る有数のブランドの中でも、最新の現代技術を取り入れた数少ない1つとなった。近年では、アンジェリーナ・ジョリーや映画シリーズ、『ミッション：インポッシブル』のサイモン・ペッグといった有名映画スターを含む多数の著名人がT-タッチのタイムピースを着用したことで知られている。
もう1つは、伝統的な機械式時計作りへの敬意である。ブランドのアーカイブからは多くの名作がリリースされ、最近の例には、PRXがある。この人気のモダンなスポーツウォッチは、ティソが一体型ブレスを備えたシースターを発売した1970年代にルーツを持つ。PRXはこの時代のシースターをデザインの着想としており、機械式とクォーツ式両方のバージョンが用意されている。35mmおよび40mmのサイズ展開があり、男性と女性のどちらでも着けることができる。圧倒的な存在感を放つPRXは、品質やコストパフォーマンスの面でも評価が高い。
ティソは、誰もがお気に入りを見つけられる素晴らしい時計を提供している。過去のアイコンスタイルがお好きであれば、ティソ ヘリテージのコレクションをチェックしてみてほしい。モダンなシースターのような優良なダイバーズウォッチが好みであれば、スポーツコレクションを選択すれば間違いない。現在のティソのポートフォリオにはメンズとウィメンズの両方に多くのコレクションがあるが、同ブランドはそのルーツも忘れてはいない。ブランド創業当初の懐中時計をベースにしたヴィンテージ風の懐中時計も購入可能となっている。ティソはまさに万能なブランドなのだ。
スポーツ分野におけるティソ
ティソはスポーツ分野でも活動的だ。ティソは1958年からカーレースと関わっており、その後、プロサイクリングだけでなくMotoGPなどのオートバイレースも含めて活動の幅を広げた。さらに、NBA、WNBA、そしてバスケットボールのスイス代表チームのパートナーでもある。こういったパートナーシップは、ティソが時計の歴史に詳しい業界内の仲間にだけ通用するブランドではないことを、間違いなく証明している。ティソのNBAコレクションについて、詳しくはこちらをご覧いただきたい。
全体的に、ティソは最も多作なスイスブランドの1つだが、その名前を実際に聞いたこともなく、その歴史も知らないという若い人もまだまだたくさんいる。豊かな伝統を持ちながらも、手頃な価格で時計を提供するティソは、この世界への入門に最適であると言える。ぜひこのブランドをチェックして、ティソ PRXやブランドのラインナップにある他の多くの素晴らしいタイムピースの1つを手にしてみてはどうだろうか。きっとその価値はあるはずだ。
