2020年10月07日
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時計業界の最新情報

Tom Mulraney
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時計業界の最新情報

新型コロナウイルスが私たちの生活に入り込んできてから6ヶ月以上たち、いまだ世界的なパンデミックはおさまる気配を見せない。むしろ各国政府は、状況が改善される前にもう一度非常に悪くなるだろうと警告している。新型コロナウイルスによって引き起こされた惨事と、それに続く全国的な都市封鎖の影響を受けていない産業はほとんどない。特に大きな被害を受けているのが、サービス業と小売業だ。しかし高級時計を含む小売業は、オンラインでの販売ルートに重点を置くことでこの被害をいくらか弱めることができている。とは言うものの、今年の初めと現在では、物事が大幅に変わってしまっていることは否定できない。

だが、全てが悪いことだというわけではない。例えば、時計ブランドや業界全体が余儀なくされた変化は、ある意味では世界の時計愛好家コミュニティにとってはプラスに働いている。では、何が変わったのだろうか?

まず第一に、ブランド各社が新作リリースを発表する方法が変わった。一部においてはかなり著しい変わり様である。ほとんどの国で大勢の人が集まることは禁止されているため、バーゼルワールドやWatches & Wonders (旧SIHH) などの主要なイベントはまず延期となった。そして後者が完全なオンライン開催を成功させたことは、こちらの記事で報告した通りである。反対に、バーゼルワールドは新型コロナウイルス以前からすでにいくつかの問題に直面しており、運営側は開催をキャンセルせざるを得なくなった。事実、1917年から続いてきたこの見本市は、完全に終止符が打たれることとなったのだ。代わりに、同じ運営チームによるHourUniverseという新しい時計と宝飾の見本市が、20214月にバーゼルで開催される。

Impressions Baselworld 2019
バーゼルワールド2019の印象

まだこの見本市が実際にどうなるのかについてコメントするには早すぎるが、これまでのところ業界はあまり熱心な反応を示していない。これにはいくつか理由があるが、主なものとしては、パテック フィリップ、ロレックス、タグ ホイヤー、ブルガリ、ウブロを含む前イベントの有力ブランドのほぼ全てが撤退し、来年ジュネーヴで新しいイベントの開催を発表したことである。また同じように、多くの人がバーゼルでの開催に固執することについて疑問を呈しているが、それはまた別の記事に譲ろう。ここでは業界の一部は前進しており、一部はそうではない、と言うにとどめておく。

もうひとつ、興味深い新作発表フォーマットがこのパンデミックの間に生まれた。ブルガリ (このアイデアの発案者)ブライトリングデ・べトゥーンジラール・ペルゴを含む複数のブランドがジュネーヴ・ウォッチ・デイズに参加した。それは、小売業者と報道関係者を8月の数日間にわたってジュネーヴに集め、市内に分散した形で一連の小規模なイベントを開催し、そこで新作を発表するというシンプルなものだった。これにより、通常の大規模な見本市よりも、小規模でより親密かつリラックスした雰囲気のイベントが開催可能となった。また、この方法を採ることで、密を避けて互いに距離を取りながらも、各ブランドが新作の実物を紹介することができたのだ。全ての参加者の話ではジュネーヴ・ウォッチ・デイズは大成功であり、年間を通じて新作の発表を分散させていくということもできるのだという、将来のやり方に関する洞察を示すこととなった。

ジュネーヴ・ウォッチ・デイズ 2020
ジュネーヴ・ウォッチ・デイズ 2020
ジュネーヴ・ウォッチ・デイズ 2020でのブルガリ オクト フィニッシモ オートマティック、ref. 103431
ジュネーヴ・ウォッチ・デイズ 2020でのブルガリ オクト フィニッシモ オートマティック、ref. 103431

現状を考えると、ブランド各社は新作発表をオフラインイベントに頼ることはできない。ある意味、厳しいイベントの日程から解放されたことは自由になって良いことなのかもしれない。ひとつのイベントによって邪魔されることなく、自分自身のタイミングで新作時計の発表ができるのだ。この最近の良い例が、新しいチューダー ブラックベイ フィフティエイト ブルーである。このチューダーで人気のダイバーズウォッチのブルーバージョンは、ブランドから公式な発表があった同じ日に、すぐさま店舗で購入が可能だったのだ。これはファッション業界ではよくある戦略だが、時計業界ではほとんど取られてこなかったやり方である。これにより、チューダーは購入者がたくさんのリストショットを投稿しているときに、新作時計の公式な詳細情報を自身のソーシャルメディアにアップできたのだ。結果として、しばらくの間、全ての時計愛好家の間で話題となったのはブラックベイ フィフティエイトだけのようだった。

チューダー ブラックベイ フィフティ-エイト、ref. 79030B
チューダー ブラックベイ フィフティ-エイト、ref. 79030B

もちろん、皆がこのやり方に賛成したというわけではない。一部の人はこの話を少々不自然で、ブラックベイ フィフティエイトばかりをあちこちで見かけることを、うまくできすぎていると感じていた。どちらにしろ、これがチューダーと小売販売店パートナーにとって大成功だったことは間違いなく、よってそのファミリーブランドであるロレックスが、数ヶ月後に似たようなやり方で自身の新作モデル発表を行ったことは驚きではなかった。同じ日に多数の人が大量に同じ時計の投稿をするということはなかったが、公式な発表からわずか数日後、確かにかなりの人が自分の新しいロレックス時計の写真をシェアしていた。

もちろん、この新作がすぐに入手可能になるということは、ブランド各社が数ヶ月余分に新作を生産する時間が持てるという事実によるところが大きい。これまでの通常のサイクルは、それぞれのブランドは新作モデルを毎年の初め、伝統的にはWatches & Wondersまたはバーゼルワールドで発表し、8月または9月頃から市場に時計を出し始めるというものだった。新型コロナウイルスがおさまったらまたこのサイクルに戻るのかどうかは、まだわからない。この方法にも確かにいくつかのメリットはある。例えば、報道関係者と小売業者が1つの場所に集まり、多数の異なるブランドからの複数の新作を一度に見ることができる。しかし、それら新作が実際に販売されるようになるのを何ヶ月も待たなければいけないというのは、もはや時代遅れとなりつつある。

状況・地域に合わせたイベントとデジタルメディアの組み合わせに注目が集まってきているということは、より多くの時計愛好家がより簡単に新作モデルを入手できるということを意味している。ブランド各社がこれにより生み出される需要から利益を得たければ、即購入できるように商品在庫を用意しておく必要がある。とは言うものの、時計業界はあまり大規模な変化を喜んで採用したがらない。したがって、これらの新しい方法はこのまま定着するのか、それともこの非常に難しい時期のみの一時的なものなのか、様子を見るしかないだろう。

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記者紹介

Tom Mulraney

1980年代~90年代にオーストラリアで育った私にとって、時計業界は身近なものではありませんでした。住んでいた町に高級時計を扱う正規販売店は1件しかなく…

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