2019年07月25日
 6 分

時計業界の重要人物: 浅岡肇

Jorg Weppelink
06_EN

Faces of the Industry: Hajime Asaoka

この「時計業界の重要人物」シリーズで、私たちは世界中で最も素晴らしい時計職人たちを取り上げてきた。今回の記事では、独学で時計作りを学んだ日本人時計技師、浅岡肇に注目したい。今や熟練の名人として知られる時計師は、いくつかの信じられないような時計を作り上げてきた。浅岡氏の作品には、議論の余地なく製作が最も難しいとされる時計のコンプリケーション、トゥールビヨンさえも含まれている。というわけで、浅岡氏の物語を追い、何から影響を受けて彼がワールドクラスの時計職人になったのかを探ってみよう。

浅岡肇は1965年、神奈川県に生まれた。1990年に25歳で東京藝術大学美術学部デザイン科を卒業。大学教育を受けたプロダクトデザイナーとして、浅岡氏は常に会社の歯車になることを拒んでいた。そのため、1992年に浅岡肇デザイン事務所を設立した。彼はまず、家具類と家電製品のデザインから始めた。また、仕事には高級ファッション雑誌のレイアウトなども含まれていた。そして、その過程で時計について理解を深めるようになる。1997年までには彼の中で時計の美しさに対する真の理解が生まれ、時間があればこの繊細な機械の作り方を学ぶようになった。彼はプロダクトデザイナーの仕事を続けることで、この新しい趣味の資金を捻出したのだが、これが実際、浅岡氏にとって新しいキャリアのスタートとなったのであった。

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しかしながら、浅岡氏の行く手には大きなハードルが立ちはだかっていた。彼は教えを請える日本人時計技師を一人も知らなかったうえ、外国人時計技師に助けを求められるほど英語に堪能でもなかったのだ。浅岡氏が幸運だったのは、ジョージ・ダニエルズの著書『ウォッチメイキング』を読めるくらいの英語力はあったということだ。こうして基本を学んだ後、彼は2002年に必要な時計づくりの道具をDIYショップやオンラインオークションなどで購入。彼の正式な時計作りへの第一歩は、2005年にシチズンのムーブメントを自作のケースに収めたことだった。その後すぐに、浅岡氏は時計作りに熱心に打ち込むようになっていった。

2007年、彼はすでに2本目のタイムピース、トゥールビヨン時計の製作に取りかかっていた。ほとんどの時計職人がトゥールビヨンを時計づくりの頂点と見なしていることを考えれば、これは非常に驚くべきことである。しかしくじけることなく、浅岡氏は自身の素晴らしいスキルを発揮し、3本のプロトタイプを作り上げた。そしてこれが最終的に、彼が初めて売ったタイムピースである、2011年のトゥールビヨン 1へと繋がったのである。その時計により、浅岡氏は一躍スポットライトを浴び、反抗的かつ野心的な時計職人という評判を得た。しかし、それは浅岡氏にとっては十分ではなかった。彼は常に向上心を持ち、さらに次のレベルを目指しているのである。

浅岡肇のコレクション

彼の現時点でのコレクションは4つの主要モデルから成る。最も有名なものが、37mmの3針時計であるTSUNAMI。この時計の魔法は、15mmという大型テンプ、そして大型の香箱が収まる見事なムーブメントの眺めを楽しめるその裏蓋だ。浅岡氏は東京の工房で、このムーブメントを自身で設計・製造した。

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次のモデルはトゥールビヨン ピュラだ。名前から分かるように、浅岡氏はこのモデルにおいてピュアでクリーンなデザインを追求した。表側も裏側も、どちらも非常にすっきりとしている。この時計の中心を成すのは40mmのケース内部に搭載されたムーブメントである。トゥールビヨン ピュラのムーブメントは全ての部品を収めるのにプレートを使っており、高い正確さを誇る。トゥールビヨンキャリッジは、航空宇宙産業でも利用される、軽量かつ耐久性の高い合金A7075ジュラルミン製だ。

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3番目のモデルはもうひとつのトゥールビヨン時計、プロジェクト T トゥールビヨン。このモデルは、浅岡氏、航空・宇宙産業に携わる由紀精密、高品質工具メーカーOSGによるコラボレーションの賜物である。彼らの最も野心的な目標は、世界最小のトゥールビヨン用ボールベアリングを含む、13個のボールベアリングを使用するムーブメントを作ることだった。ボールベアリングを利用することにより、トゥールビヨン時計にとっては特に重要なムーブメントの耐久性・耐衝撃性が向上している。

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最後のモデルはHajime Asaoka クロノグラフである。1950年代と1960年代のクロノグラフ時計の大ファンである浅岡氏が自分自身のクロノグラフを作り上げるのは、時間の問題だった。この時計はオープンダイアルで、クロノグラフの機構が動く様子を楽しむことができる。複雑な機構の見える文字盤とシンプルな裏蓋のコントラストが、浅岡氏の時計デザインに対する斬新なアプローチをうかがわせる。

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浅岡肇のデザインスタイル

浅岡氏は独立時計師の典型だ。彼は業界全体と、彼の時計作りへの革新的なアプローチを絶賛するファンたちから尊敬を勝ち得た。浅岡氏のバックグラウンドを考えれば、デザインそのものに人気があることも驚きではない。事実、浅岡氏自身も彼の時計のデザインのほとんどがアール・デコの影響を受けていることを認めている。とあるインタビューで、彼はトゥールビヨン 1のルックスは、1930年代のきらびやかなドラージュ&ドライエのクーペから着想を得たと述べた。また、浅岡氏は自分自身の時計に対する概念的思考に多大な影響を与えた人物として、19世紀後半にジュネーヴに移り住んだアメリカ人時計職人のアルバート・ポッターをあげている。これら全てが、浅岡の独立精神を証明している。そして、浅岡肇のような類まれなキャラクターこそが、時計業界を非常にエキサイティングなものにしている。実際、私たちは浅岡のように想像の限界を押し広げ続ける存在をもっと必要としているのだ。

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こんにちは、ヨルグです。2016年からChrono24で記者として執筆しています。しかし、Chrono24との関係はそれ以前からあって、時計好きになったのは2003年頃からです。私の友人 …

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