2019年12月27日
 7 分

時計業界の2019年を振り返る

Tom Mulraney
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時計業界の2019年を振り返る

時計ファンにとって、今年はかなりのアップダウンがあった1年だった。年明け早々にSIHHバーゼルワールドという主要な見本市で1年はゆっくりとスタートしたが、それは本当の意味で業界を賑わすことなく終了してしまった。事実、この先の見本市からは手を引くという各ブランドの発表の方が、新作リリースよりも注目を集めた。複数の大ブランドの今年の意向は、ごく少数の真に大胆かつ面白みのある新作をリリースするだけで安全に行きたいというものだったと言える。例えば、最も話題を呼んだロレックスの新作時計はツートンカラーのシードゥエラーだった。全体的に、どの会社も歴史の焼き直しに焦点を当てているようで、特にヴィンテージモデルの再現というトレンドはまだ止まるところを知らないようである。

 

Rolex Sea-Dweller
ロレックス シードゥエラー

 

もちろんいくつかの明るい兆しはあった。異常なくらいに複雑なヴァシュロン・コンスタンタン トラディショナル・ツインビート・パーペチュアルカレンダー、信じられないくらいに薄いブルガリ オクト クロノグラフGMTなどである。またパテック フィリップは既存モデルに新しい文字盤カラーや他のバリエーションを加えることに大部分を集中しながらも、レトロなカラトラバ・ウィークリー・カレンダー5212Aというサプライズを発表してみせた。より最近になって、ドイツの時計メーカーA.ランゲ&ゾーネは、オデュッセウスという名前の同社初めてのスチール製時計シリーズを発表した。どんな機会にも着用できるランゲのデイリーユース時計という触れ込みであったが、発表当初は賛否両論だった。だが現在ではコレクターたちもだんだんと好意的になっているようである。

 

Patek Philippe Calatrava Weekly Calendar
パテック フィリップ カラトラバ・ウィークリー・カレンダー

 

またオーデマ・ピゲも、実に長い長い期間を経てついに新作コレクションを発表した。残念ながら、新しいコード11.59は彼らが望んでいたような高評価を受けてはいないが、少なくとも他とは異なるものとして一線を画した。同じようにチュードルは、同社が1960年代後半にアメリカ海軍用に開発したコンセプトウォッチを元にしたブラックベイP01を発表し、市場を驚かせた。しかしこれは、より一般的なサブマリーナの再現を望んでいたチュードルファンたちをがっかりさせたことで、評価は大きく分かれることとなった。 

もうひとつの市場のキートレンドは、スチール製ラグジュアリースポーツウォッチへの飽くことのない欲求である。最も注目に値するものに、オーデマ・ピゲ、パテック フィリップ、ロレックスのものがある。当然のことながら、他のブランドもこの最新の流行で利益を得ようとこの競争に参加した。ベル&ロスは都市を探検する者への時を刻む計器として、新しいBR05 コレクションを発表した。航空機にインスピレーションを得たスクエアのシリーズBR03の後継機とも言えるこの時計は、スチール製のケースがむしろ八角形のベースで、部分的に保護されたリューズに向かって広がっている。防水性は100mで、もちろんポリッシュ&サテン仕上げの一体型スチール製ブレスレットが付いている。

Bell&Ross BR05
ベル&ロスBR05

ショパールは、現共同社長カール=フリードリッヒ・ショイフレによって初めて作られた時計、1980年のサンモリッツの現代版をリリースした。アルプスの精神にインスパイアされたアルパイン イーグルのケースは、特別な超耐性を誇り光を反射するルーセント スティールA223という金属で作られている。この時計には一体化されたスチール製ブレスレット、ショパールのクロノメーター認定ムーブメントを採用している。しかし最も意外だったのは、新たなウルバン ヤーゲンセンのONEコレクションのローンチだ。貴金属製の高級ドレスウォッチでよく知られるこのブランドは、スポーツウォッチ分野においての経験はゼロである。しかしそれでも真に見事な時計を作り上げた。防水性120mの7つのパーツで構成されるケースには一本の直線もなく、すべてが医療用の1.4441ステンレススチール製だ。美しい仕上げの文字盤と高品質の自動巻ムーブメントが備わるこの時計は、間違いなくこの分野での最高にルックスのいい1本である。

2019年の3番目のトレンドは、過去の重要な出来事を祝うということである。もっとも、それはトレンドというよりは、単に実際の時の経過によるものであるのだが。1969年は時計業界に限らず、いろいろな出来事が起こった年だった。最も注目すべきは人類史上初の月面着陸であり、それは同時に伝説のオメガ スピードマスター ムーンウォッチを生み出すこととなった。この偉大な功績を讃えるべく、オメガはニクソン大統領とスピロ・アグニュー副大統領への2本を含めた1,014本限定の特別なオメガスピードマスターモデルをすべてゴールドで作った。それから50年後、同社は月面着陸50周年を記念して、このアイコニックなモデルに複数の重要なアップデートを加えて再現した。

 

Omega Speedmaster Apollo 11 50th Anniversary Limited Edition
オメガスピードマスター50周年記念特別エディション

 

今年祝われたもうひとつの注目すべき50年記念は、自動巻クロノグラフムーブメントの誕生である。実際、3つのブランドが1969年当時、画期的な独自のムーブメントを発表した。まずは、ゼニスが1から完全に作り上げたエル・プリメロ クロノグラフムーブメントである。これに続いたのが、タグ・ホイヤー、ブライトリング、ハミルトン・ビューレン、そしてクロノグラフの専門家デュボア・デプラによる共同体で、クロノマティック/キャリバー11を生み出した。セイコーもその競争に参戦し、同年、キャリバー6139をリリース。当然のことながら、これら3社とも、それらのムーブメントがデビューした当時の時計の限定版を作った。ゼニスは1年間かけて、複数のA384シリーズのバリエーションのほかにもいくつかのコラボを発表し、大々的にこの記念の年を祝った。同じようにタグ・ホイヤーは、それぞれが10年間、全部で50年となるように、5種類の異なるモナコウォッチを発表した。逆にセイコーは、セイコー自動巻クロノグラフ50周年記念限定モデルSRQ029のヴィンテージリイシュー1本のみを発表した。

おそらく2019年最大のサプライズは、収益金がデュシェンヌ型筋ジストロフィー研究へ寄付されるオンリーウォッチ・チャリティーオークションの成功だろう。2019年のこのオークションのためだけに作られた、世界に1本だけのステンレススチール製パテック フィリップ グランドマスター・チャイムが、気の遠くなるような3100万ドル(約34億円)で落札された。これにより、2位に大差をつけ、この時計がオークション史上最高額で競り落とされた腕時計となった。ちなみにオンリーウォッチ・オークションではバイヤーズプレミアムはないので、この時計はあのポール・ニューマン デイトナのほぼ2倍の金額で売れたことになる。それもそのはず、この時計には20ものコンプリケーションが詰め込まれているのだ。それにはグランソヌリ、プチソヌリ、ミニッツリピーター、永久カレンダーなどが含まれ、開発には10万時間以上かかったという。その上、流行のサーモンピンクの文字盤には“The Only One” の文字が刻まれている。

さて、2020年はどうなるだろうか?おそらく大手ブランドは来年のためにエキサイティングで革新的なリリースを控えているのだろう。もしくは、同じような傾向がこのまま続くかもしれない。つまり、より多くのヴィンテージのリイシュー版、より多くのスチール製ラグジュアリースポーツウォッチ、そして少数の素晴らしい時計がひっそりちらほらと発表される、というように。別に不満があるわけではない。結局のところ、よく探してみようとさえすれば、今年だって時計業界ではたくさんの興味深い発展が見つかったのだから。

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