時計サイズの基準は時代とともに変化してきた。現在において小型な時計と言えば、少なくとも男性用モデルでは通常39mmまたは38mmのケース径を意味し、34mmなどのそれよりも小さな時計は一般的に女性用時計として見なされている。しかし、特にロレックスにおいて、以前の尺度は違っていた。
時計に詳しい人であれば、50年代の初代サブマリーナ (Ref. 6204) が37mmと驚くほど小さかったことを知っているだろう。また、有名なロレックス デイトナ ”ポール・ニューマン” のケース径も同じく37mmであった。さらに、現行のエクスプローラーの先行モデルであり、1953年にエドモンド・ヒラリーが史上初めてエベレスト登頂を果たした際に身に着けていた時計であるロレックス オイスター パーペチュアル Ref.6098 のケース径は、34mmしかなかった。
これは今日的な視点から見て、男性用エクスペディションウォッチ、ダイバーズウォッチ、またはクロノグラフにはほとんど考えられないサイズである。1950年代および1960年代のより上品な男性用モデルにおいても、ケース径は同様に33~36mmが一般的であった。
レス・イズ・モア ― 紳士のための時計
結局のところ、紳士の時計は見せびらかしたり注目の的になるためにあるのではなく、上品に時を示し、役目を終えた後は再び静かにシャツの袖口の下に隠れるべきなのである。
もちろん、そのためには大型な時計よりもスリムな時計の方が都合がいい。そして、この記事ではまさにこの「小型」なヴィンテージ時計、さらに正確に言うと注目すべき小型ヴィンテージロレックスに焦点を当てる。
比較的手頃で現代でも身に着けられる時計
小型ヴィンテージロレックスモデルの優れている点は、まだあまり知られておらず、少なくともサブマリーナなどのその他のロレックスモデルに比べ比較的手頃であるところだ。これらの時計のケース径は少々小さいと思われるかもしれないが、実際のところ現代の男性にも非常によく似合う。
ここで重要な役割を演じるのが、上品でありながらも比較的コンパクトなオイスターケース。このケースのデザインコンセプトは何十年も前からほとんど変わっていない。
オイスターケースは小さなロレックスを実際よりも少々大きく、私の経験では2mmほど大きく見せる。つまり、34mmのロレックスは手首に着けられた時に36mmであるかのような印象を与え、36mmのロレックスであれば38mmの腕時計にように見えるのだ。
はっきり言って、普段43mm以上の腕時計しか身に着けない方にとって、以下のアドバイスは役に立たない。しかし、40~42mmサイズの腕時計を身に着けている方にとっては、きっと有意義なアドバイスとなるだろう。もちろん、現在人気が高まっている38~39mmの時計に注目している方であれば、いわずもがなである。
それでは、まずは比較的「手頃」なロレックスから始めよう。
入門者向け: ロレックス オイスターデイト プレシジョン ― Ref. 6694
オイスター プレシジョンはヴィンテージロレックスの世界に足を踏み入れるために最適な1本であると思う (この時計は私の最初の1本でもあった)。現在、このモデルは状態と付属品に応じて約23万円で手に入れることができる。これは (ヴィンテージ) ロレックスとしては比較的手頃な価格である。
プレシジョンについて知っておかなければいけないのは、日付クイックチェンジ機能を持たない手巻き式ムーブメント (キャリバー1225) を搭載しているということ。その直径は34mmで、製造期間は1960年代初頭から1980年代末まで。つまり、十分な選択肢があり、お望みの時計もしくはモデルを見つけられる可能性が高いということだ。
ロレックスに典型的なサイクロップレンズ付き風防の素材は、傷がついたとしても安価に交換できるプレキシガラス。この風防は交換する代わりに自分で研磨することもできる。また、この記事で紹介する他の時計にもすべてプレキシガラスが使用されている。
オイスター プレシジョンに話を戻そう:
ラグの幅は19mm。これは中間サイズであり、交換バンドを探すのに時間がかかる場合があるため、知っておく必要がある。ロレックス純正バンドを買うのであれば別だが、その場合コストは少々高くなる。これに関してはヴィンテージロレックスを購入する際に、追加で注意しなければいけない。
先述したとおり、このモデルは私の初めてのロレックスでもあり、数年前に購入した時のこの時計の価格は10万円もしなかった。そして、このような小型でシンプルなヴィンテージロレックスであってもある程度の価値上昇を見せている。少なくとも悪い投資でないことは確かだ。
ロレックス エアキング: 空の王様 ― Ref.5500
先に紹介したプレシジョンを気に入ったけれど、手巻き式であることだけが難点という方には、ロレックス エアキング オイスター パーペチュアル Ref.5500 をおすすめしたい。ロレックスにおいて「パーペチュアル」とは自動巻きムーブメントを意味している。そして、このモデルには製造年に応じてロレックスキャリバー1520または1530が搭載されている。
その名が示しているとおり、エアキングは第二次世界大戦にルーツを持つパイロットのための腕時計であった。「キング」の名はこのモデルのサイズ (34mm) に由来している。というのも、1930/40年代においてこのサイズは大型として見なされていたからだ。
初期エアキングはまだ手巻き式であった。そのためここではRef.5500に焦点を当てる。このモデルは1957年から1989年までと非常に長く製造されていた。この長い製造期間は、このリファレンスの中でお気に入りの1本を見つけ出せる可能性を高めてくれる。
大雑把に言って、エアキングは自動巻きムーブメントを搭載し、より整然としているプレシジョンである。拡大ルーペと日付表示は非搭載。機能が少ない代わりに、より上品で端正な文字盤と言えるだろう。また、文字盤上では6字位置の上に「PRECISION」、さらに12時位置には弧を描くような「Air King」の文字を見ることができる。
状態と付属品 (メタルバンド、箱・保証書の有無) に応じて、エアキング Ref.5500には現在23万円から35万円までの価格が付けられている。
今日的な視点で見れば、エアキングはより安価なプレシジョンよりも価格・性能に関して優れた選択肢であると言わざるを得ない。要するに、ここでの決め手は予算なのだ。予算が十分にあり日付表示を必要としないのであれば、自動巻きのエアキングが気に入るに違いないだろう。
初期のエクスプローラー ― Ref.1016
先に挙げた2つのロレックスモデルは、小さなオイスターケースを持つヴィンテージロレックスの隠れたおすすめであったが、これはRef.1016には残念ながら当てはまらない。特に異なるのは約115万円から始まるこの時計の価格である。
ところで、ここで取り上げるのは初代エクスプローラーであるRef.6610ではないが、おそらく最も人気の高いモデルであるRef.1016。このモデルの現在の価格と高い人気は、おそらく米国の有名時計ブログによって数年にわたって定期的に特集され、有名になったことによって作り出された。
ロレックス エクスプローラー Ref.1016について知っておかなければいけないのは、1963年から1989年まで製造されていたこと、ケース径は36mmでそれ以前に発表されたモデルよりも大きかったこと、時計内部には製造年に応じて自動巻きキャリバー1560もしくは1570が搭載されていることである。
基本的にこのモデルにはブラックの文字盤が搭載されていた。しかし、先述した米国のブログによると非常にレアなホワイトバージョンも存在するらしい。また、このエクスプローラーに特徴的なのはアワーマーカーで、12時は三角形によって、3時・6時・9時はアラビア数字によって示されている。
先述したとおり、このモデルの価格は相当な上昇を見せた。2009年にはまだ58万円以内で手に入れることができたが、現在このモデルには年式と状態に応じて115万円~230万円の価格が付けられている。
それどころか中には350万円以上の値が付けられているものもある。今後これ以上の価値上昇が起こり得るかは、判断し難い。どちらにせよ、1016が美しい人気の時計であることは確かだ。
次は、小さなオイスターケースを備えたミステリアスで非常にレアなヴィンテージロレックスを見てみよう。
ミステリアスな時計 ― ロレックス オイスター コマンドー Ref.6429
この時計を分かりやすく言い表すとしたら、上記のヴィンテージモデルのミックスである。このモデルはエクスプローラーの文字盤と、34mmのオイスターケース (少なくとも大抵の出典によれば) を備えている。しかし、初期の出典では33mmと書かれているものもある。そして、この時点ですでにコマンドーの謎めかしさが始まる。
さらに、同一の記事に写真が出ているRef.6429は、一般的に販売されているコマンドーとは全く異なる時計針を持っている。これも謎の1つだ。
調査できる限りでは、コマンドーは1960年代末 / 1970年代初期における米軍向けの特別仕様モデルであったようだ。民間販売はおそらくアバクロンビー&フィッチによって行われたことを、古い新聞広告が示している (出典: Mondani)。
そして、このモデルにはおそらく2種類の文字盤バリエーションがあった。一方には「6」の上に「Commando」の文字が記され、他方にはこの文字を見ることができない。この時計は比較的知られておらず、いくつものはっきりとしない説が流通しているため、十分なリサーチを行い、ロレックスに関する豊富な知識がある場合にのみ、慎重にこの時計を購入し、少しでも疑念がある場合は手を出さない方が良いだろう。この時計にこれまで8125~2万5000ドルまでの価格が付けられたということも、当然チェックしておくべきである。これほどにレアで情報に乏しい時計の場合、簡単に高価な投資ミスを犯してしまう恐れがある。
また、フラテロウォッチ (Fratellowatches) のブロガーも以下の記事で同じく慎重にこのテーマを扱っている: Rolex Commando Ref.6429 – Extremely Rare, Worth The Risk?
以上が小さなオイスターケースを持つヴィンテージロレックスに関するトピックである。
まだ物足りないという方には、デイトジャスト、オイスタークォーツなどのヴィンテージ ロレックスモデル、そして34~36mmサイズのロレックスモデル全般をチェックしてみてほしい。きっとお気に入りの1本が見つかるはずだ。