2021年12月28日
 10 分

過去5年間で価格上昇率の高かった時計ベスト5

Troy Barmore
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今日私たちが知るところの時計収集は、広く認められていることには、1980年代にイタリアで始まった。他の人々はまだ気づいていなかったが、当時のコレクターたちが理解していたのは、機械式時計には単なるジュエリーよりも高い価値を持たせるための本質的な魅力が備わっているということだった。時計収集とはただある人がいくつかの時計を所有するということだけには留まらず、意識・計画的に監修されたポートフォリオともなり得る。この視点を考慮に入れて、高級時計は投資家にとってワインや美術品と同じような、オルタナティブの投資対象品となったのである。

しかし近年、この投資中心の考え方は、時計自体に対する情熱をしのぐとはいかないまでも、同じくらいにまで増えており、オークションに次ぐオークションで驚異的で気が遠くなるような価格がはじき出され、前回の記録を上回るということが起こっている。間違いなく、ある特定のタイムピースがその先頭に立っている。そういった一部のレアな時計やブランドが天文的な売り上げを記録し続けるにつれて、一般的な時計愛好家・コレクターたちは途方に暮れて、次はどの時計の番なのだろうかと見回すばかりなのだ。

万事において (しかし特に投機的な問題について)、見通しは重要だ。時計市場のような感情の入り乱れる場所では、傾向を読み解くためにはデータが極めて重大だ。最大の時計オンラインマーケットプレイスとして、Chrono24は、その内部の物価指数を通して傾向を読み取ることができるユニークな地位にある。というわけで、過去5年間を見て、具体的にどのタイムピースが大幅に価格を上昇させたのか、それも単に価格がいくらかというだけではなく、相対価格によって大幅に価格が上昇したものを見ていきたいと思う。結局のところ、もしこれから市場がどちらへ向かうのかを理解したいのなら、まずはこれまでの傾向をしっかりと理解しなくてはならないのだから。

1. パテック フィリップ ノーチラス

パテック フィリップ ノーチラス

時計市場にほんのわずかしか興味のない人でも、このタイムピースには絶対に誰も驚かないであろう。過去5年間で最も価値が上昇したタイムピースはパテック フィリップ ノーチラスであり、その価格上昇率はおよそ163%である。パテック フィリップ ノーチラスの実質的に全ての異なるリファレンスとバージョンが、最近の時計業界で極めて破壊的で強大な力を持っているということには、ある種の美しさがある。ある意味では、パテック フィリップ ノーチラスは1976年に市場デビューを果たして以来ずっと、トラブルメーカーであり続けているのだ。

オーデマ・ピゲでのかつてない大成功もまださめやらぬジェラルド・ジェンタは、パテック フィリップから2度目の奇跡を起こすように依頼された。この時点で時計業界全体が、ステンレス製ラグジュアリースポーツウォッチによって具体的に市場に何が起こったのかを目撃しており、誰もがそれに一枚加わりたいと思っていた。オーデマ・ピゲ ロイヤルオークのそっくりコピーというわけではないものの、ノーチラスの全体的なデザインにはいくつかの重要な類似点がある。明らかにジェンタはボートの窓から外を眺めるのが非常に好きだったらしく、舷窓がデザインの主要なインスピレーションとなっている。そして今日、パテック フィリップ ノーチラス、特にref. 5711は、ほぼ間違いなく最大の人気を誇る現代のタイムピースである。もちろん、パテック フィリップがこの時計を生産中止とすると2021年の初めに発表した際には、火に油を注いだだけだった。

2. パテックフィリップ アクアノート

パテック フィリップ アクアノート

さらにもうひとつのパテック フィリップによるラグジュアリースポーツウォッチがこの価値を急速に上げている時計のリストに登場する。パテック フィリップ アクアノートは昨年の高い価格上昇を見せた時計のトップに入っていたものの、過去5年間での価格上昇率は125%である。パテックのスポーツウォッチに関してはノーチラスが歴史的に注目を浴びてきたが、アクアノートにも多くのファンがいる。主にその特徴的なラバー製ストラップ付属で販売されているにもかかわらず、ノーチラスと同じようなスポーティーでモダンな雰囲気を持ち、まるでもともとは同じひとつのモデルから生まれたかのようである。つまり、アクアノートは独自の魅力とスタイルを持ってはいるものの、その人気と価値が上昇したことは他のことと全く無関係というわけではない。

十中八九、このモデルの人気は特定のあるひとつの要因によるものではなく、むしろさまざまな要因が合わさった結果なのだ。疑いようもなく、一方のヒットは他方の人気に影響する。ノーチラスを購入できないなら、パテックの他のステンレス製スポーツウォッチ、例えばアクアノートはどうだろうか?それでも、一体型のブレスレットとレトロな70年代の雰囲気が欲しいなら、ジェンタの他の独創的なデザインのものはどうだろう?ロイヤルオークは既に入手済みなのなら、パテックのセットを全て集めてしまおうではないか。こうして果てしなく金銭的なフィードバックは繋がり続け、火をかき立てていくのである。このような代表的な時計は、絶えずお互いの人気に貢献し続けていく。この傾向はどれだけ続くのだろうか?それは時がたたねばわからないことである。

3. オーデマ・ピゲ ロイヤルオーク

オーデマ・ピゲ ロイヤルオーク

もし最初のタイムピース2本が驚きでなかったなら、おそらくはこのタイムピースにも驚かないだろう。過去5年間、ステンレス製スポーツウォッチというカテゴリー全体に熱狂的な人気があり、毎年、その前年の勢いをしのぐかのようなのだ。事実、オーデマ・ピゲ ロイヤルオークは2021年に最速で価格が上昇している時計のひとつであり、過去5年間において同じ傾向が継続しているものの、その期間で見るとこのモデルの価格上昇率はおよそ120%となっている。この一体型ブレスレットを持つ大ヒット時計は価格と人気の両方において急速に上昇したが、その結果として入手可能性が落ち込んだのは非常にもっともな話である。

しかし、ここで投げかけるべきより興味深い疑問は、パテック フィリップ ノーチラスとオーデマ・ピゲ ロイヤルオークの一体何が、その人気をここまで爆発的なものにしたのだろうかということだ。理論上は、ロイヤルオークもノーチラスも、それぞれのブランドのカタログにそろうモデルと比べて並外れたものではない。どちらも美しい装飾が施されてはいるが比較的シンプルな自動巻ムーブメントがステンレススチール製のケースに収められている。全体的な仕上げはそのムーブメントに対する期待に調和してはいるが、それでも革命的なものではない。では一体何なのか?確かに、ロイヤルオークはまさに最初の1本だった。それは単なるトレンドセッターではなく、当時のトレンドを吹き飛ばした。しかし、なぜより最近になって人気が急上昇したのだろうか?再び、ここで重要なのは見通しだ。おそらくその回答は、さらにもうひとつのステンレス製ラグジュアリーウォッチの価値の上昇に関連しているのではないか。

4. カルティエ トリニティ

カルティエ トリニティ: 価格が上昇しているクォーツ式時計

カルティエは間違いなく、今日存在する中で最も謎めいた時計ブランドのひとつである。長く豊かな歴史を背景に持つ会社であり、カルティエ タンクなどの史上最もアイコニックな時計のいくつかを生み出してきた。そのうえ、同社は史上初の男性用専用腕時計 (そして厳密に言えば世界初のパイロットウォッチ) であるカルティエ サントスを作ってさえいるのだ。しかしそういった輝かしい歴史とワールドクラスの経歴を持つ同社のタイムピースであれば、オークションで新記録価格を樹立すると思うだろう。実際のところはというと、ごく最近まで、アンティーク&中古品マーケットにおいて、同社のほとんどの時計は大体にして人気がなく、過小評価をされてきている。

というのは、カルティエの時計づくり部門へのフォーカスの量は、何十年もの間で盛衰を繰り返してきた。一部の人によれば、その期間の多くは、あまり時計学的に優れていないタイムピースに費やされたのだという。それにもかかわらず、人々はカルティエが常に感動的な時計を作ってきたという事実に同調する。結局、数字は嘘をつかない。カルティエ トリニティはこのパリのジュエリー会社から連想される最初の時計ではないだろうが、過去5年間でおよそ90%も価格を上昇させたのである。では、すべての読者が急いでカルティエ トリニティを買いに行くべきだという意味なのだろうか?もしその時計が好きでないのならば、それは違う。しかしこれが意味するところは、カルティエのカタログには信じられないほどに魅力的なまだそこまで注目されていないたくさんのタイムピースが、今はまだ、驚くほどに手頃な価格で載っているということなのだ。

5. セイコー スピリット

セイコー スピリット

セイコーは、カルティエと同じく、最も過小評価をされていながら世界で広く知られる時計メーカーのひとつだ。世界中のほぼ誰もがセイコーの時計とはどんなものなのかを知っている。それは、低価格で実際に入手可能であり、万能かつなかなか良い日本の時計だ。しかし、ほとんどの人々が知らないのは、この説明が時計業界におけるセイコーの重要性について、ほとんど何も触れていないということなのだ。事実、セイコーは史上最も革新的な機械式時計のいくつか (例えば、ほぼ間違いなく史上最初となる自動巻完全一体型クロノグラフムーブメント、セイコー 6139など) を生み出し、そしてまた電池式のクォーツムーブメントの発表をもって時計づくりの世界全体を屈服させもしたのである。

クォーツ式時計の人気は確かに機械式時計ほどの人気の高さまで (今のところは) 上がってきていないものの、いくつかのセイコーのタイムピースの人気は上がり始めてきている。そうしたタイムピースの一例がセイコー スピリット、クラシックで控えめな、どこで何をするにしてもぴったりな時計だ。この時計は過去5年間で約92%価値が上昇している。ところで、“スピリット” というニックネームは、何年もの間いくつかの異なる時計シリーズの名称として使われているのだが、中でもSARBシリーズがセイコーの熱狂的ファンと一般的な時計コレクター両方の間でカルト的な人気を誇っている。例えばSARB033は、ロレックス エクスプローラー Ⅰとの比較として取り上げられることが多い。2018年に廃盤となってからは、SARBシリーズはゆっくりと、しかし着実に価格を上げてきている。

しかしロレックスはどうなのか?

前述のロレックス、あるいは事実、多くのロレックスの時計が過去数年でも大きなニュースになっているものの、めざとい読者はこのリストにそういったモデルが一切ないことに気づいたことだろう。なぜこうなったのかについては特定の理由をあげることは難しいものの、時計関連の集まりやオンラインフォーラムなどで聞かれるのは、ロレックスの価値は中古品市場において、どんどん希少になってきているという一般的な感覚がコレクターコミュニティーにあるようなのだ。そのため、コレクターたちはこれまで見過ごされてきた時計がないか、より遠い場所を探し回るようになった。その目的で、投機的な理由であろうとコレクションへの純粋な情熱のためであろうと、おそらくセイコーに勝るこれから研究すべきブランドは他にないだろう。


記者紹介

Troy Barmore

私は幼い時から時計ファンでした。その熱中が始まったのは、兄のジラール ペルゴ クロノグラフを買うという目的のためだけに夏休みのアルバイトを引き受けた時です。それ以来、私の好みはヴィンテージ ツールウォッチや現代的な独立系ブランドにまで及んでいます。

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