2021年08月06日
 7 分

「安定した価格を持つ60万円以下の時計3本」を再検証する

Donato Emilio Andrioli
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「安定した価格を持つ60万円以下の時計3本」を再検証する

時計の価格を安定維持し、さらには上昇させたりする要因は何だろうか。ロレックスパテック フィリップオーデマ ピゲ以外で投資価値があるのはどの時計だろう。すべての時計は価格が崩れないものなのだろうか。こういった質問に対する答えを、「ロレックス以外の安定した価格を持つ60万円以下の時計3本」という記事で昨年紹介した。今回は、1年経った今この3本の時計がどうなっているのか検証してみたいと思う。勝者は誰か、敗者は誰か。いずれも価格を維持しているのか、あるいは上がっているのか。ここで総括してみたい。  

オメガ スピードマスター: 月旅行 

オメガ スピードマスターは昨年の記事で紹介した時計の中では、文句なく勝ち組だ。昨年にはもう、ヘサライトガラスを使用したリファレンス311.30.42.30.01.005と、サファイアガラスの風防、ケースバックを使用したリファレンス311.30.42.30.01.006が製造中止になるという噂が広まり、そして実際そうなった。今年の初め、オメガはスピードマスター プロフェッショナルの新バージョンを発表したのだ。このモデルは新しいスチール製ブレスレットと、スイス連邦計量・認定局 (METAS) 認定の新しいムーブメントを備え、その他にも改良・改善がなされている。最新技術を搭載し、前モデルよりも高い価格帯に位置づけた。これは昨年の記事で取り上げたムーンウォッチにとっては非常に有利なことだ。価格が極めて安定するだけでなく、上昇する可能性すらあるのだから。 

昨年の時点では、ムーンウォッチは新品・未使用でも60万円以下で手に入れることができたが、1年後の今はもうそれは不可能だ。中古品も昨年より数万円値上がりしている。この動きはリファレンスの製造中止と関係がある。あるリファレンスが製造中止になると人気が上がり、価格も上がることはよくあることだ。加えて、メーカーは新しく発売するリファレンスの価格を上げてくる。そうすると前モデルも自動的に値段があがるのだ。新しいスピードマスターの場合、デザイン変更はすべてのコレクターや時計愛好家に歓迎されない部分もあった。例えば、ブレスレットとクラスプは明らかに改善されてはいるものの、誰もが好むようなものではなかった。また、付属品の内容も最小限に限られた。宇宙飛行士仕様の素晴らしい特製ムーンウォッチボックスもなければ、高級感あるオメガNATOストラップ2本セットなどのボーナスコンテンツも新作のボックスには入っていない。その上、価格は旧モデルよりも高くなっているのだ。そうなると新モデルの購入を躊躇するコレクターもいるだろうし、旧モデルの方を選ぶかもしれない。ケースや文字盤自体はマイナーチェンジのみなのだから、なおさらだ。オメガ スピードマスターは去年紹介した3本の時計の中では明らかに勝者であり、今年最も大きく価格が上昇した時計だ。 

このリファレンスの製造中止以来、ムーンウォッチの価格はますます上昇している。
このリファレンスの製造中止以来、ムーンウォッチの価格はますます上昇している。

オメガ シーマスター 300M: 変わらぬ安定感 

製造中止になったわけでも、新しいモデルがリリースされたわけでもない。そのため、価格推移という点では、オメガ シーマスター300Mにはスピードマスター プロフェッショナルほどの変化はない。ではこの時計は、価格的にはあまり安定した推移をしなかったのだろうか?おすすめできない投資先なのだろうか?いや、そんなことはまったくない。Chrono24のWatch Collectionを見れば分かるように、シーマスター300Mの価格は今年も良好に推移している。特に2021年初めに価格が上がり、現在は2020年の値段よりも少し高くなっている。 

なぜこのように価格が上昇したのだろうか。それについては前回の記事で述べたが、1年経った今もそれは変わっていない。サブマリーナがどちらかといえばデザインも控えめで、価格はほぼ変わらずに高く、多くの初心者にとっては手の届かない市場価格を維持しているのに対し、オメガには依然としてシーマスター 300Mという独自の選択肢が用意されている。モダンなデザインで人々を魅了し、技術的にはむしろ上を行く面すらあり、その上いまだに60万円以下で購入できる。だからこそ、2021年も優れたダイバーズウォッチとして活躍している。サブマリーナに100万円以上も出せないが、有名なブランドの高品質なダイバーズウォッチがほしいという初心者もこのモデルなら購入できるし、シーマスター 300Mの独特なデザインを好むベテランコレクターにも手が届く。また、すでにサブマリーナを持っていて、コレクションに加えたり、バリエーションとしてこの時計が欲しいという方もいるだろう。オメガ シーマスター 300Mは1年経っても価格を維持し、サブマリーナに代わるユニークで素晴らしい時計だ。 

1年経っても変わらぬ安定感と変わらぬ素晴らしさ: オメガ シーマスター 300M
1年経っても変わらぬ安定感と変わらぬ素晴らしさ: オメガ シーマスター 300M

チューダー ブラックベイ フィフティ-エイト: 人気者の低迷 

チューダー ブラックベイ・フィフティエイトは愛好家からの絶対的な人気を誇るモデルだ。ブラックベイ 58の成功の一番の要因は、チューダー社がファンの声に耳を傾けたことだ。39mm径という小さめのサイズと、一段と薄くなったスリムなボディが、標準的なブラックベイよりも多くの時計コレクターの心を掴んだ。標準モデルも確かに非常に人気はあるが、コレクターからはこれまでもそれほど重要視されてこなかった。アンティークな外観とデザイン性の高さも成功に一役買い、まさに時代の感覚にマッチした。こういったことすべてを総合して、フィフティエイトはコレクターの人気を勝ち得ているのだ。 

しかし実際には、ブラックベイ 58は昨年紹介した3本の中では唯一の敗者であり、2021年現在むしろわずかに価格が落ちている。なぜだろうか。記事を執筆した時点では、販売されているブラックベイ 58にはバリエーションはひとつしかなかった。しばらくして、ブルーのバージョンが発売され、コロナ禍で飢餓感のあった時計業界に大反響を呼び、それ以来、ブラックベイ 58シリーズは惜しみなくラインナップを広げてきた。これまでに、おなじみのスチールバージョン2つに加え、ゴールドバージョン、シルバーバージョン、そして先日発売されたばかりのブロンズバージョンが登場した。チューダー社のこのようなやり方は理解できるし、時計コレクターにとっても選択肢が増えることは喜ばしい。しかし、他のバリエーションの目新しさから、オリジナルモデルはあまり注目されなくなる。その結果、オリジナルのブラックベイ 58の価格の安定性はやや損なわれることになった。とはいえ、ブラックベイ 58はそれでも価格が安定しており、今年の推移は芳しくなかったものの、悪い投資先ではない。長い目で見れば、オリジナルのフィフティエイトこそが最高のパフォーマンスを見せるようになるとすら筆者は思っている。初代モデルであり、色もブラックで普遍性があり、他のバージョンに比べて腕時計としての汎用性も高い。今年の価格推移がふるわなかったとしても、それは主に、フィフティエイト・シリーズが拡大したことによるもので、ブラックベイ 58が価格の安定した時計であることに変わりはない。

ブラックベイ 58は今年バリエーションを増やした。
ブラックベイ 58は今年バリエーションを増やした。

まとめ 

スピードマスターはリファレンスの製造中止によって、価格がかなり上昇した。シーマスター 300Mはほぼ変わらず、ブラックベイ 58はシリーズにモデルが多数追加されたことにより、やや低調。とはいえ、昨年紹介した3つの時計はいずれも、2021年にも価格の安定した時計であることに変わりはなく、今後さらに人気が上がることは間違いない。 

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記者紹介

Donato Emilio Andrioli

チューダー ブラックベイ41という機械式時計を始めて買って以来、機械式時計の虜になってしましました。特に、古くて感動的な歴史を持つアイコン時計が大好きです。

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