2021年11月02日
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クリスティーズとフィリップスが1億円クラスのロレックスを出品: その特別な時計の歴史と代替モデル

Donato Emilio Andrioli
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Photo: Philipps

11月5日から8日にかけて、ジュネーブは時計ファンにとってエキサイティングな舞台となる。オークションハウスのクリスティーズとフィリップスは、ダイバーズウォッチの歴史を語る上で欠かすことのできないユニークな時計、ロレックス ディープシー スペシャルをそれぞれオークションにかける。フィリップスは、この歴史的なダイバーズウォッチの価値を約1億4800万円から2億9700万円と見積もっている。一方、競合他社であるクリスティーズは、リファレンスナンバーが「1」であるこのモデルについては、推測を控えている。 

しかし、このロレックスのダイバーズウォッチをそれほど特別にする要素は何なのだろうか?また、平均的な予算で、希少価値は低いかもしれないが、このモデルに劣らず興味深い歴史を持つ時計を見つけるにはどうしたらよいのだろうか? 

記録を破るために作られたロレックス ディープシー スペシャル

ロレックス ディープシー スペシャルは、その外観からもわかるように、普段使いに適した時計ではない。むしろ、ロレックスの時計はどんな挑戦にも耐えられるということを証明するために開発されたものだ。この時計が実際に何本作られたかは断言できない。一般的には、1953年から1960年にかけて製造された7本の試作品が、潜水実験に使用されたと言われている。この試作品の第一弾であるディープシー スペシャル ナンバー1は、まさに来週クリスティーズでオークションにかけられる時計である。  

Photo: Philipps 

1953年9月30日、この歴史的なディープシー スペシャルは、地中海のポンザ島付近で、潜水艇「トリエステ」の船体に取り付けられ、物理学者のオーギュスト・ピカールと息子のジャックとともに水深3150mまで潜り、無事に生還した。しかし、ロレックス初のダイバーズウォッチにとって、これは「ウォーミングアップ」に過ぎなかった。 

Photo: Philipps

しかし、1960年1月23日、この時計がマリアナ海溝の最深部に到達したときに、これらの潜水実験の本当の挑戦は起こった。ジャック・ピカールとアメリカ海軍将校のドン・ウォルシュは、今回の「トリエステ」で最深部の1万916メートルに到達し、世界記録を達成した。潜水カプセルの外側には、現在スミソニアン研究所に展示されているディープシー スペシャル ナンバー3が装着されていた。7本の試作品以外にも、展示会や見本市で使用された「ディスプレイモデル」と呼ばれるものがいくつか製造された。ディープシー スペシャル ナンバー35はこのようなディスプレイモデルであり、すなわち今週末にフィリップスでオークションに出品される時計である。7つの試作品と後に製造された展示品は、スチール製のものもあれば、ゴールドの部品を使用したものもあるなど、それぞれ少しずつ違いがあり、高さも異なる。そのため、ナンバー1のプレキシグラスは、後のモデルの表面よりもやや “平ら” になっている。しかし、すべてのディープシー スペシャルモデルに共通しているのは、偉大な歴史の一部を成す、極めて希少な作品であるということだ。これでようやく、オークションハウスのフィリップスがこのモデルを約2億9700万円まで見積もっている理由が明らかになったはずだ。 

ロレックス ディープシー スペシャル: より安価で身につけやすい代替モデルとは

きっと皆さんも、大きな関心を持ってこのオークションを見ていることだろう。このようなイベントは、時計ファンにとって、本当の意味で私たちの趣味の素晴らしい歴史に浸れる機会なのだ。しかし、これらのイベントはエキサイティングなものの、オークションに出品された時計を手に入れる余裕がある人はほとんどいない。では、低予算で、希少価値はそれほど高くないかもしれないが、少なくとも興味深い、エキサイティングな歴史を持つ時計を見つけることはできないだろうか。  

ディープシー スペシャルの歴史 – ロレックス シードゥエラー ディープシー D-Blue Ref.126660

ジャック・ピカールとドン・ウォルシュの伝説的なダイビングから52年後、その歴史は繰り返されている。2012年、映画監督であり熱狂的なダイバーでもあるジェームズ・キャメロンは、深海潜水艇「ディープシー・チャレンジャー」で2度目の有人潜水に成功した。また、海面下1万898メートルのチャレンジャー海淵の底への初の単独潜水でもある。深海艇の外側に取り付けられたロレックスは、2008年に発売されたシードゥエラー ディープシーをさらに進化させた、ロレックスの “ディープシー・チャレンジ” である。これは、1950年代のディープシー スペシャルを彷彿とさせるもので、ジェームズ・キャメロンのダイビングの際にも、ある種のオマージュとして乗船していた。 

厚みはおよそ29mm、直径は52mmで、まさに極限の時計だ。1万2000mの防水性を備えているため、無傷でのダイビングに耐えることができたのだ。しかし、私が実際にご紹介したい、そして読者の皆さんも購入できる時計は別のものだ。ファンの間では「ジェームズ・キャメロン」とも呼ばれて親しまれている、ロレックス シードゥエラー ディープシー “D-Blue” である。文字盤には、ロレックスでは珍しいコーティングが施されている。ブルーからブラックにわたる色は、海の深さを象徴していると言われている。一方、緑色の「Deepsea」の文字は、潜水実験の潜水艦の色を彷彿とさせる。この時計は、監督と2012年3月26日に行われた伝説的なダイビングへの愛のこもったオマージュだ。ロレックス ディープシー “D-Blue”は、視覚的にはこの遠征時の時計と非常によく似ている。それに対してこのモデルは、普段使いにも適している。堅牢性と3900mの防水性を備えたこの時計は、本当に何でもできるのだ。ただし、直径が44mm、厚みが18mm近くあるため、非常に大きなサイズになっている。このような歴史的背景を持つ時計が好きな方には、ロレックス シードゥエラー ディープシー “D-Blue”は、約265万円以下で手に入る、1億円クラスのオークションウォッチに比べれば手頃な価格の、素晴らしい代替モデルと言えるだろう。 

ジェームズ・キャメロンと彼の潜水艇「ディープシー・チャレンジャー」へのオマージュである ロレックス シードゥエラー ディープシー "D-Blue"
ジェームズ・キャメロンと彼の潜水艇「ディープシー・チャレンジャー」へのオマージュである ロレックス シードゥエラー ディープシー “D-Blue”

ディープシースペシャルの民間バージョン: ロレックス シードゥエラー 1665

1960年に行われた伝説的なダイビングで、がっしりと分厚いディープシー スペシャルが残した印象は大きく、そして永続的なものだった。1967年、ロレックスはディープシー スペシャルの民間版と言っても過言ではないモデルを発表し、今でもこの時計なしではロレックスのコレクションは考えられない。一見普通のロレックス サブマリーナのようだが、見かけによらないのが特徴だ。シードゥエラーの初代のバージョンでも、ダイバーには欠かせない2つの機能が追加されていた。Ref.1665では、610mの防水性能を実現した。しかし、サブマリーナに対する最大のメリットは、COMEXと共同で開発したヘリウムバルブだった。これにより、サブマリーナがよく直面していた問題であった、圧力室での減圧時にガラスが飛び出すのを防止することができた。ロレックスのRef.1665は、日付表示を搭載しているが、有名な拡大レンズはない。当初、このモデルにはプレキシガラスが使用されていたが、ロレックスは後のモデルでサファイアクリスタルに変更し、このモデルをより強固なものにした。シードゥエラーは、ディープシー スペシャルのDNAとサブマリーナの着用感を融合させたモデルで、直径40mmのサイズは毎日の生活に最適だ。Ref.1665の価格は大きく異なり、またそれぞれの文字盤によっても異なる。例えば、2行の文字が赤表記の「ダブルレッド」バージョンを見てみよう。  

The first Sea-Dweller ref. 1665.
シードゥエラーの1世代目であるRef.1665。

このモデルは時計コレクターの間では非常に人気が高く、570万円以上の価格で取引されている。一方、COMEXのロゴが入ったモデルは非常に希少価値が高く、約2280万円~5700万円の価格で取引されている。特別なロゴや文字が入っていない一般的なモデルであれば、265万円~398万円、運が良ければ265万円以下で購入できる。シードゥエラーは、現在でもロレックスの最も重要な時計の一つだが、Ref.1665は特別なものだ。このモデルはまず、ディープシー スペシャルの精神を自らに吹き込んだのだ。 

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記者紹介

Donato Emilio Andrioli

チューダー ブラックベイ41という機械式時計を始めて買って以来、機械式時計の虜になってしましました。特に、古くて感動的な歴史を持つアイコン時計が大好きです。

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