2018年08月21日
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クロノグラフとクロノメーターの違い

Tom Mulraney

もしあなたが機械式時計の世界に足を踏み入れたばかりなのであれば、様々な専門用語にしばしば混乱しているかもしれない。まったく異なる響きを持つ用語が本質的に同じ意味を持っていたり、はたまたほとんど同じ様に見える言葉がまったく異なる意味を持っていることもある。

後者の例として、クロノグラフとクロノメーターが挙げられる。それもそのはず、クロノグラフが同時にクロノメーターである場合もあるし、またその逆もある。そのような紛らわしさを解決するために、ここでは両者の意味と違いをわかりやすく説明し、いくつかの例を紹介したいと思う。

まずは、クロノグラフとクロノメーターのシンプルな定義から始めよう。

クロノグラフ

タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ

タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ 写真: Bert Buijsrogge

クロノグラフ – まず始めに理解しなければいけないのは、クロノグラフは時計を表す言葉ではない、ということだ。正確に言うと、それは時計の追加機能のことで(機械式時計の世界ではそれをコンプリケーションと呼ぶ) 、定められた時間にわたって経過時間を時間、分、秒で独立して計測し表示することを可能にする。つまり、ストップウォッチである。

クロノグラフでは必要に応じて少なくとも1つの針をスタート、ストップ、リセットできる必要があり、それによって1/5秒、1/10秒、さらには1/100秒で経過時間を計測することができる。クロノグラフ機能を搭載した文字盤のレイアウトにはある程度の変化を持たせることができるが、通常は分と時間を計測するための2つのサブダイヤルがあり(大抵の場合30分と12時間)、そこで中心にあるクロノグラフ針(秒数を計測する針)の回転数が合計される。

シンプルなクロノグラフの定番モデルと言えばオメガ スピードマスター プロフェッショナルだ。このモデルには様々なバリエーションがあるが、大抵は基本的なクロノグラフ表示のレイアウトとなっている。3時位置には30分積算計が、6時位置には12時間計が、そして9時位置にはスモール・セコンドが配置されており、中央にはクロノグラフ秒針がある。そしてリューズの上下にはそれぞれボタンが配置されており、上のボタンはクロノグラフ機構をスタートおよびストップし、下のボタンは表示をリセットする。

オメガ スピードマスター '71

オメガ スピードマスター 写真: Bert Buijsrogge

この基本的なクロノグラフ機能の他に、もう少し複雑なバリエーションもある。例えば、モノプッシャーは単一のボタンだけでクロノグラフ機能のストップ、スタート、リセットを行うことができる。また、ラトラパンテ・クロノグラフやスプリットセコンド・クロノグラフは、同時に始まり別々に終了する2つの出来事の時間差を計ることができる。これはスプリットセコンド針と呼ばれる針がクロノグラフ針と同時に重なって進み、それを別々に停止(スプリット)することで中間タイムの計測を可能にする。そして時間を読み取った後に右側のボタンを再度押すと、スプリットセコンド針は一瞬でクロノグラフ針に追いつく。最後に、フライバック機能はクロノグラフプッシュボタンを一度押すだけでクロノグラフ針をゼロ位置にリセットし、それと同時にすぐにスタートすることを可能にする。

クロノメーター

クロノメーター – クロノメーターは、クロノグラフと非常に響きが似ているが、コンプリケーションや時計の追加機能ではない。それは秒表示を備えた高精度機械時計を表す用語で、そのムーブメント精度は中立な公的機関によって数日間にわたり異なる姿勢や温度などの条件下で検査される。ISO3159またはそれと同等の精度基準を満たす機構にのみ公式クロノメーター検定書が発行される。

検査はスイスにあるスイス公式クロノメーター検定協会(COSC)で実施される。COSC認定クロノメーターの名は、COSC公式試験施設での15日間以上にわたる検査において、その精度基準を満たした時計にのみ与えられる。そこではケースに収められていないムーブメントが5つの姿勢と異なる温度で検査され、その平均日差が-4/+6秒であったことが証明されている。

いくつかのメーカーはこのクロノメーター検定のコンセプトをさらに先へと推し進めた。有名な例としては、ロレックス社独自の高精度クロノメーター検定がある。COSC 認定をすでに受けているロレックスのムーブメントを、ケースに入れた後に特別に開発した技術で再度テストするのだ。そのため、ロレックス高精度クロノメーターは日差-2/+2秒の精度を誇る。

ロレックス デイトナ 写真: Bert Buijsrogge

ロレックス デイトナ 写真: Bert Buijsrogge

もう驚かないと思うが、ロレックス コスモグラフ デイトナは世界で最も有名かつ人気のあるクロノグラフであり、同時にクロノメーター検定を受けている時計でもある。しかし、これはロレックスだけに当てはまるのではなく、パネライ マーレ ノストゥルム 42mm PAM00716やブライトリング・ナビタイマー8 B01もクロノメーター検定を受けたクロノグラフである。

中には、「クロノメーター」ラベルを持つクロノグラフのみが本当に正確な時間を計ることができる、と主張する純粋主義者もいる。しかし、COSC認定を受けているスイス時計は1年間に製造される時計の3%でしかなく、クロノグラフはその内のさらに少数となる。各個人それぞれ異なる意見もあるが、少なくともクロノグラフとクロノメーターの違いについては、これから自身を持って説明できるようになっただろう。


記者紹介

Tom Mulraney

1980年代~90年代にオーストラリアで育った私にとって、時計業界は身近なものではありませんでした。住んでいた町に高級時計を扱う正規販売店は1件しかなく…

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