2022年04月27日
 10 分

ロレックス GMTマスターが表す人物像

Sebastian Swart
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ペプシ、コーク、ルートビア、バットマンなど、GMTマスターのモデルにも多くのロレックス時計と同じくファンによって特徴的な愛称が付けられている。GMTマスターは製造年による外観の違いがまったくないため、ベゼルカラーは各モデルを区別するために重要な唯一の特徴となる。ロレックス GMTマスターの色は、おそらく単にそれが気に入ったからという理由で選ばれている。しかし、潜在意識の中では購買動機や自身の性格について物語る過程が起こっているとも考えられる。GMTマスターの着用者はどちらかといえば俗物なのだろうか?それとも、異端児または大胆な無鉄砲者なのだろうか? 

以下でGMTマスターが表す人物像についてより詳しく見ていきたい。 

GMTマスター “ルートビア” 好みの問題

ロレックス GMTマスター “ルートビア” を愛用している方は、おそらく50歳以上であり、以下の理由でこのモデルを購入している。 

1970年または1980年代、まだ時計にまったく興味を持っていなかった頃に、辿り着いたのは米国だった。日本ではロレックス時計がまだエキゾチックで、ほとんどの人にとって手の届かないものであったが、米国ではマクドナルドでドアの開け締めをしていたホームレスでさえもロレックスの時計を身に着けていた。そこに住む多くの人々はあっという間に出世したが、同じくらい早く転落もした。マイホーム、家族、キャデラック。すべてを失い、ロレックスだけが手元に残った。 

ブラウンの文字盤、ゴールドの針とインデックス、マッチした色のベゼルとブレスレット。年老いたヒッピーが身に着けていた異色のコンビ時計を見るなり、すぐに虜になってしまった。その後、この時計について知るためにリサーチを始めたのだが、当時はまだインターネットが一般的に普及していなかったため、図書館で調べ物をしたり、人に聞いたりするしか方法はなかった。 

この時計がロレックス GMTマスターのRef.16753であることは、すぐに調べ出すことができた。しかし、このモデルはなぜ「ルートビア」という奇妙な愛称で呼ばれているのだろうか?この名前から連想するのは、湿布のような味の清涼飲料水だけ。そう思ってこのドリンクの写真と時計をよく見比べてみると、文字盤とベゼルの色がダークブラウンのドリンクの色と似ていることに気づいた。これで謎は解けた。想像力を持つことは大事なのである。 

さらに調べてみると、ハリウッドスターのクリント・イーストウッドもGMTマスター “ルートビア” を愛用しており、映画の中でも着用していることを発見した。すべてのパズルのピースがぴったりとはまった。この時計の着用者は、マッチョで粗暴な警官ダーティハリーとして有名になったクリント・イーストウッドと時計の趣味を分かち合い、それによって少なくともアウトローなキャラハン刑事と同じくらい勇敢であることを示している。 

A cult favorite that might push the limits of good taste for some: the Rolex GMT-Master ref. 16753
紙一重でおしゃれなデザイン、だからこそカルト的人気を誇る、ロレックス GMTマスター Ref.16753

GMTマスター “ペプシ”&“コーク” コーラ戦争

ルートビアを好んで飲んでいるのは北米の一部の人たちだけだが、ペプシとコカ・コーラは何十年も前から世界中のメインストリームにある。カナダからチリ、ノルウェーからオーストラリアまで、この黒い飲み物は至るところで人気を博している。これは、2つのGMTマスターモデル、“ペプシ”(赤 / 青)と “コーク”(赤 / 黒)にも当てはまる。しかし、アディダスとプーマ、マイクロソフトとアップルなどと同じく、ここでも2つの同じような時計の二者択一に迫られる。どちらもスニーカーであり、コンピューターであり、わずかな違いがあるだけだ。 

1970年代からコカ・コーラとペプシがお互いを標的として比較広告活動を行ったコーラ戦争を、まだ覚えている人もいるだろう。当時、ペプシは業界最大手のコカ・コーラに過激なCMで戦いを挑んだ。コカ・コーラもその挑戦に応え、経済的および芸術的な対決が繰り広げられ、現在に至るまで世界中の人々を楽しませている。あなたはどちらのコーラがお好みだろうか? 

ペプシタイプ

ロレックス GMTマスター “ペプシ” の着用者がメインストリームに属するか、それとも挑戦者に属するかは、2つの観点から見ることができる。ロレックスが1950年代初頭に米国のパンナム航空の依頼を受けてリリースした初代GMTマスターのベゼルは、赤 / 青であった。これを理由にペプシを身に着けているのであれば、それは同調性、伝統主義、そしてある種の俗物性を持っているということかもしれない。「ベンツしか買わないのは、自動車を発明したのがカール・ベンツだから」というようなタイプで、危険を冒すよりも安全な選択肢を好む。 

その一方で、ペプシはコカ・コーラに戦いを挑み、威勢よく市場に参入した会社。その点では、反逆児といってもいいほどである。あるいは、ダニエル・クレイグ、シルヴェスター・スタローン、そしてとりわけトム・セレックがペプシのファンであることも、ペプシが好きな理由であるかもしれない。トム・セレックは米国のテレビドラマ『私立探偵マグナム』の中でクールな私立探偵トーマス・マグナムとして、アロハシャツに合わせてさりげなくRef.16750を着用していた。しかし、お似合いの口髭、デトロイト・タイガースのベースボールキャップ、赤いフェラーリ308なしでは、マグナムほどクールにはなれないだろう。 

La montre de Thomas Magnum : la Rolex GMT-Master 16750
トーマス・マグナムの時計:ロレックス GMTマスター Ref.16750

コークタイプ

ロレックス GMTマスター “コーク” を着用している人は、どちらかというと遅咲き型である。なぜなら、ロレックスが赤 / 青ベゼル付きのモデルを発表したのは1983年になってからのことであったからだ。また、Ref.16760にはその通常より厚みがあるケースによって “ファットレディ” という愛称が付けられている。この時計を選んだ方は、ロレックス GMTマスターの着用者の中でも変わり者であり、それによってコーラ戦争の勝者がコカ・コーラであるということを表明している。もしくは、同じくロレックス GMTマスター “コーク” を所有していたマーロン・ブランドに自分を重ねているのかもしれない。その他の点では、GMTマスター “コーク” はどちらかといえば退屈なタイプの人の時計である。 

はみ出しもののGMTマスター “コーク”:Ref.16760 “ファットレディ”

バットマン ダークナイトのGMTマスター

ロレックス GMTマスター “バットマン” の着用者にはっきりといえることが1つある。それは、ゴッサムシティを舞台に悪者から世界を救う、ダークなヒーローにあこがれているということだ。 

ロレックスが黒 / 青ベゼルを搭載したGMTマスター Ref.116710BLNRを2013年に初めて発表した時、心の中でブルース・ウェインになるという空想が湧き起こった。身長は188cmで体重は95kg、黒髪で青い瞳を持っている。出身はニュー・ジャージー州で、誕生日は1976年2月19日。キリスト教を信仰しており、独身で、職業はCEO。これがブルース・ウェインのプロフィールだ。 

約270万円する時計に、なぜ「バットマン」という愛称が付けられているかご存じないという人もいるだろう。バットマン(本名はブルース・ウェイン)はアメリカンコミックの登場人物で、架空の町、ゴッサムシティを守っている。ウェインは犯罪が発生すると無敵のバットマンに扮して悪と戦う。それがロレックス GMTマスターと一体何の関係があるのかと思われるかもしれない。バットマンのコミックは黒と青の配色で出版される。そこから考えてみれば、GMTマスターモデルのRef.116710BLNRとRef.126710BLNRに「バットマン」という愛称が付けられている理由が自ずと見えてくる。 

これらのGMTマスターモデルに「バットマン」という愛称が付けられた理由を今まで知らなかった方にとって、名前の由来はどうでもよく、重要なのは資産価値の上昇である。時計を購入する際に、どの有名人が “バットマン” を愛用しているのかも非常に重要であった。つまり、この時計を身に着けることで、シンガーソングライターのジョン・メイヤーやテニスプレーヤーのロジャー・フェデラー、クロアチア人サッカー選手のルカ・モドリッチのようになりたいのだ。自分がスポーツの才能も音楽的才能も持ち合わせていないことは、仕方がないと諦めるしかない。 

Tout droit sortie de Gotham City : la Rolex GMT-Master II Batman (réf. 126710BLNR)
ゴッサムシティのヒーロー:ロレックス GMTマスター II “バットマン” Ref.126710BLNR

GMTマスター LHD グリーンランタンになる素質あり?

最近リリースされたロレックス GMTマスター II Ref.126720VTNRに一目惚れした方は、左利きで、スーパーヒーローであるグリーンランタンのファンであるに違いない。しかし、技術的にはすべて同じまま、見た目だけがすべて逆になったこのロレックスの突然変異は、どのようにして起こったのだろうか? 

慢性的に退屈していたロレックスのデザイナーは2020年4月に学術誌『Psychological Bulletin』を偶然目にした時、世界中で行われた大規模な調査によって全人類の10.6%が左利きであることが初めて明らかになったと知った。そのデザイナーは「これだ!」と感じたが、問題は革新を生み出しながら、このターゲットグループにアプローチするための方法であった。GMTマスター IIを巡る熱狂を演出しなければならないことは明らかだった。この時計はロレックスでおそらく最も成功を収めているモデル。そして、奇抜なデザインと巧みな配色はきっとファンを喜ばせる。ファンは時計に合った愛称を見つけるのが大好きなのだ。  

ソフトドリンクブランドやマーベルヒーローの名前は愛称としてすでに何度も使われているため、今度はDCコミックスから探す必要があった。ロレックスは、左利き用のGMTマスター IIのベゼルを黒 / 緑でデザインしたら、このモデルはファンによって「グリーンランタン」という愛称が付けられるだろうと予想した。今のところこの予想は正しかったといえそうだ。後、着用者が考えなければいけないのは、どのグリーンランタンになりたいかだけ。アラン・スコット?それともハル・ジョーダン?しかし、1つ忘れてはいけないことがある。それは、左利きのグリーンランタンは悪役シネストロだけであり、シネストロはイエローランタンとなり黒 / 黄のスーツを着ているということだ。  

まとめ 

ルートビア、ペプシ、コークのどれが好きなのか、またはバットマンやグリーンランタンになりたいのかに関係なく、ロレックス GMTマスターの着用者は大胆で優れた時計の趣味を持っていることを示している。各モデルは互いに同列で、それぞれに独自の魅力がある。GMTマスターが配色に関係なく最終的にメインストリームとなったことは、状態の悪い個体に対してさえも付けられているとんでもない価格の多くが証明している。Ref.126710BLNR “グリーンランタン” は、ロレックスがデザインにおいて初めて大胆さを見せたモデルである。世界中にいる10.6%の左利きの人々が実際にこの時計を買うかどうかは、ロレックスにとっておそらく重要ではない。なぜなら、このモデルのウェイティングリストは右利きの人々によってもすでに埋まっているに違いないからだ。


記者紹介

Sebastian Swart

すでに数年前からChrono24のサイトを時計の買取と販売、そして時計について調べるのに使っていました。私は子どもの頃から時計に興味を持っており…

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