今年は、明らかに、私たち全てが望んでいた、あるいは予期していたような1年ではなかった。新型コロナウィルスのパンデミックはいまだに世界中で猛威をふるい、私たちはみな、おそらく自分が望んでいた以上に多くの時間を自宅で過ごしている。だがそれは、映画やテレビドラマを見るための時間がより多く取れるということでもある。あなたはこれまでにさまざまなヒット映画を見ながら、それに出てくる時計に注目していたことはあるだろうか?今回は、私たちが時計愛好家におすすめする映画のリストをご紹介したい。これらの映画はそれぞれ、ストーリーの中、あるいは映像の中に時計が登場するものである。
ジェームズ・ボンドシリーズ: ロレックス サブマリーナとオメガ シーマスター
残念ながら、新しいボンド映画、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』はまた公開延期となってしまった。今度はどうやら2021年春の公開となるようである。これにより、これまでのボンド映画の全てを見て、それぞれのアイコニックな時計をチェックするための十分な時間ができたことになる。私は以前、こちらの記事に別のボンドウォッチについて書いた。しかし簡単に言ってしまえば、ボンドウォッチの歴史は詰まるところロレックスかオメガか、ということになるのだ。
1962年の『ドクター・ノオ』でボンド役を努めたショーン・コネリーは、初めてボンドを演じた俳優である。彼は初期のロレックス サブマリーナ ref. 6538を着用していた。この時計の選択に関してはいくつか論争がある。というのは、イアン・フレミングは原作小説の中で、サブマリーナではなくロレックス エクスプローラーを選んでいると多くの人は議論しているのだ。そうではあるが、コネリーはサブマリーナをオリジナルのボンドウォッチへと変えてしまった。彼は自分が出演した全てのボンド映画でこの時計を着用した。続くボンド俳優、ジョージ・レーゼンビーとロジャー・ムーアはロレックス サブマリーナを忠実に受け継いだ。が、ムーアはいくつかの改造されたセイコー時計も使用した。
ティモシー・ダルトンは『リビング・デイライツ』でタグ ホイヤーを着用したが、『消されたライセンス』ではロレックス サブマリーナへと戻っている。そしてこれが、ボンドがロレックスをスクリーン上で着用した最後となる。ピアース・ブロスナンがボンド役となると、この有名なスパイはオメガへと鞍替えしたのだ。ブロスナンは、その4本のボンド映画全てでオメガ シーマスター プロフェッショナル 300Mを着用。最初はクオーツバージョン、それ以降の3本は自動巻モデルだった。
ダニエル・クレイグがボンド役を引き継ぐと、007の時計セレクションは増えた。彼は『カジノ・ロワイヤル』でコーアクシャル シーマスター プロフェッショナル 300Mとシーマスター プラネットオーシャンを着用した。続く『慰めの報酬』と『スカイフォール』では、引き続きプラネットオーシャンではあったが、異なるモデルに変更した。反対に、『スペクター』においてボンドは限定版のオメガ シーマスター 300 スペクターを採用。これから公開される新作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』では、素晴らしい最新のシーマスター プロフェッショナル 300Mの特別版を着用する。
アポロ13: オメガ スピードマスター
このリストの中でどうしても見逃してはいけない1本は、『アポロ13』である。1995年に公開されたこの大ヒット映画は、NASAのアポロ13号ミッションの実話に基づいたものだ。この映画の最大のスターは、間違いなく、オメガ スピードマスターである。
1970年4月11日、宇宙飛行士のジム・ラヴェル、ジャック・スワイガート、フレッド・ヘイズは月面着陸ミッションのため出発する。しかし、機械船の液体酸素タンクが爆発のため故障し、ミッション開始から2日後に月面着陸を断念せざるをえなくなった。宇宙飛行士のミッションの旅の技術的な詳細についてはあまり気にせず、とにかくこの映画を見て欲しい。彼らが地球へ無事帰還するために、オメガスピードマスターが極めて重要な役割をはたすのだ。
地球の大気圏へ再突入するためには、メインエンジンをきっかり14秒間、噴射する必要があった。宇宙船のデジタルタイマーは故障しており、ジム・ラヴェル船長が地球の地平線を指標として宇宙船を操縦する間、ジャック・スワイガートはこの非常に重要な14秒を自身のオメガスピードマスターで計測しなければならなかった。1970年4月17日、3人の宇宙飛行士はスピードマスターのおかげで無事に地球に帰還。エンディングの分かっているストーリーではあっても、時計好きならば絶対に見ておきたい映画である。
バットマン トリロジー: ジャガー・ルクルト レベルソ
バットマン映画は2つの時代に分けることができる。最初の時代にはジョエル・シュマッカーによる1980年代に作られた作品が含まれる。私はこの時代のバットマン映画はあまり好きではないが、2000年代に入ってクリストファー・ノーラン監督が、よりダークで現実的な、もっと良いバットマン3部作を制作した。その億万長者ブルース・ウェイン役で、クリスチャン・ベールはジャガー・ルクルト レベルソをダークナイト トリロジー全ての3作で着用している。この上品な時計は彼のような地位の高い人にはぴったりのタイムピースである。
最初の2作、『バットマン ビギンズ』と『ダークナイト』で、ブルース・ウェインはジャガー・ルクルト レベルソ グランドテイルを、3作目の最終作『ダークナイト ライジング』ではジャガー・ルクルト レベルソ グランドデイトを着用している。レベルソは素晴らしいクラシックウォッチの選択肢であるだけでなく、このキャラクターの持つ2つの人格にもよくフィットしている。
読者のほとんどがおそらく知っているように、レベルソは風防を保護するためにそのケースを反転することができるということから、その名が付けられた。もともとはポロの試合のためにデザインされ、デリケートな風防を衝撃から守るために、簡単にケースを裏返してしまえるというものだ。この2つの面を持つデザインが、ブルース・ウェインとバットマンという2つの人格を実にうまく表現している。そのため、ジャガー・ルクルト レベルソはこのトリロジーにとって最高のチョイスなのである。
栄光のル・マン: ホイヤー モナコ
1971年のクラシック映画、スティーブ・マックイーン主演の『栄光のル・マン』を抜きにしてこのリストは完成しない。この映画はホイヤー モナコをアイコンへと変えた。ホイヤー モナコは1969年に初めて発表された。それは即座にヒットとはならなかったが、スティーブ・マックイーンが劇中で着用するやいなや、形勢は一変した。
この映画の時計の選択にまつわる逸話こそ、本物のストーリーが始まるポイントだ。『栄光のル・マン』の小道具方、ドン・ナンリーは、この映画の全ての撮影備品を選ぶ責任者であった。ナンリーはティソ、オメガ、ブローバ、ロレックス、ホイヤーの複数の時計をマックイーンに提示した。マックイーンは初めにオメガを選んだが、ナンリーはすでにホイヤーの記章を付けたレーシングスーツを選んでしまったと伝える。彼は、マックイーン演じるマイケル・ディレイニーは、ホイヤーの記章がついたスーツを着るならオメガは着用しないはずだと指摘する。それによりマックイーンは、すぐさまホイヤーの4本の時計のみに注目する。そして彼は、4本のうち特徴的なブルーの文字盤とホワイトのサブダイヤルを持つ、スクエア型のモナコを選んだ。
撮影には合計で6本のモナコが使用された。すぐに1本はなくなり、ブラックのストラップの1本は劇中で実際にマックイーンが着用した。そして残る4本は、マックイーンの時計に何かあったときのためのバックアップとして用意されていた。ナンリーは1本をいわゆる「ヒーローの時計」として、宣伝や映画スチール撮影などに使用した。このため、時計は新品同様の状態を保ち、はっきりとホイヤーモナコであると見分けられることになった。とは言っても、そのアイコニックなフォルムと配色からすれば、その時計を見分けることはもともと難しくはなかったのだが。
この他にも素晴らしい時計が使われている映画は数多くある。動画配信サービスでアイコニックな時計が登場する良い映画を見つけたら、ぜひおすすめを教えて欲しい。