ある時計メーカーによる革新的技術などが、そのメーカーの競争相手と思われるいくつかのメーカーによって突然起用されることに疑問を感じたことはないだろうか。なぜ一部のブランドがSIHHのみに出展するがバーゼルワールドへは不参加、またはその逆のことが起こっているのか?これらはあなた一人が抱える疑問ではない。高級腕時計の世界に新参入する方々は、ある特定のブランドが合同で活動していることにすぐに気づくだろう。さらには、高級時計業界がそれぞれ独自のストーリーと製品を提供する多数の小さな時計メーカーから成る世界である、という前提に反しているのではないかと思ってしまう。しかし、実際にそうであった時代もあったのだ。
ブランドなどが統合されるようになったのはクォーツ危機から始まり、その後数十年間続いた。そして現在、多くのファンを抱える有名ブランドの大半が、少数の多国籍なラグジュアリー業界におけるコングロマリットによって運営されている。そう、あなたが真の独立ブランドだと思っていたブランドでさえも。
キープレイヤーは誰か?
欧州で主要なグループ:
- LVMH モエ・ヘネシー: ブルガリ、ウブロ、タグホイヤー、ゼニス
- ケリング: ジラール・ペルゴ、ジャンリシャール、ユリス・ナルダン
- リシュモン: ランゲ&ゾーネ、ボーム&メルシエ、カルティエ、IWCシャフハウゼン、ジャガー・ルクルト、モンブラン、オフィチーネ パネライ、ピゲ、ピアジェ、ロジェ・デュブイ、ヴァシュロン・コンスタンタン、ヴァンクリーフ&アーペル
- スウォッチ・グループ: ブランパン、ブレゲ、サーチナ、グラスヒュッテ・オリジナル、ハミルトン、ハリー・ウィンストン、ジャケ・ドロー、ロンジン、ミドー、オメガ、ラドー、スウォッチ、ティソ、ユニオン・グラスヒュッテ
アジア圏における2つの主要なグループ:
- シチズンウオッチグループ: アルピナ、アーノルド&サン、ブローバ、シチズン、フレデリック・コンスタント
- セイコーグループ: クレドール、グランドセイコー、オリエント、セイコー
(注記: 上記に述べたほとんどの企業グループは、他のブランドも傘下に入れている。だが、それらは必ずしも「高級」腕時計のカテゴリーに入らないので、ここでは除いた。)
アメリカにもいくつか大きな企業グループが存在する。おそらく最も有名なグループは、フォッシルとモバードだろう。だが、どちらともラグジュアリー業界のコングロマリットには属さない。
上記のリストを見て、いくつかのビッグネームが述べられていない、とおそらく気づいただろう。それらは、おそらく全ての主要なグループ企業が喉から手が出るほど取得したい時計ブランドである。最も顕著な (そして有力な) 3つのブランドは、2018年に54億スイスフラン (約58兆円) の推定売上があるロレックス (チュードルも傘下に入れている)、パテック フィリップ (約16兆円)、そしてオーデマ・ピゲ(約11兆円) である。最近もあったが永続的な噂にも関わらず (特にパテック)、これらのブランドが近年売りに出される可能性は低いと思われる。
ショーの運営者は誰か?
ラグジュアリー業界のコングロマリットの傘下にある多くのブランドは、独自のCEOと経営陣を持って自律的に運営されている。少なくともそのように推測できる。他の業界と同じく情熱と感情が注がれているが、実際に誰が陰で糸を引いているのか、多くの憶測がある。公平性を保つために言うと、一部の幹部は他の幹部よりもはるかに知名度が高く、そういった有名幹部は強い影響力を持っている印象を受ける (その良し悪しは別として)。驚くことに、幹部が業界内でブランドを転々とすることは一般的だ。おそらく耳にしたことがあるだろう、または無いかもしれない業界幹部をここで紹介する:
ジャン=クロード・ビーバー (JCB): 時計業界で正真正銘のレジェンドであるJCB氏は、今日の時計産業において最も影響力を持つ人物の一人と見なされている。彼は現在、LVMHグループ時計部門の社外取締役、そしてウブロとゼニスの会長を務めている。彼の最も有名な功績は、ウブロのブランドを世界規模で成功させたことだ。彼は1980年代にブランパンを復活させ、1990年代にオメガが正しい軌道に乗った際には大きな役割を果たした。
ティエリー・スターン: パテック フィリップを経営するスターン家の4代目であるティエリー・スターン氏は、時計業界の巨匠である。2009年にパテック フィリップの社長として後を継いで以来、ティエリー氏は伝統的なデザインを受け継ぐ高級腕時計ブランドとして、誇り高い伝統を守ってきた。また、同ブランドのコレクションには、アラーム トラベルタイム Ref. 5530Pなどいくつかのサプライズを投入させた。さらに最近発表されたホディンキーのインタビューでは、非常に高い需要があるにも関わらず、自社のステンレス製モデル ノーチラスの生産量を大幅に増やすつもりはないと述べ、反響を呼んだ。彼は生産量を増やすのではなく、パテックのディーラーネットワークの量を約3分の1に減らし、ブランドに多く依存しているディーラーの動揺を誘った。
レイナルド・アッシュリーマン: レイナルド・アッシュリーマン氏は、2016年にオメガの社長兼CEOに就任した。それ以降、彼はオメガ・ブランドをより高いレベルに導くキーマンとなっている。オメガは、自社の高い機能と精度をさらに高めることに専念するようになった。時計製造技術に進化がもたらされたオメガは、最も深い潜水を成し遂げたダイビングウォッチを作り上げ、2019年7月には月面着陸50周年を祝う新たなスピードマスターの限定モデルを発表した。スウォッチグループに加入したことにより、オメガ時計の部品開発へメリットを与えたことは間違いない。そして、アッシュリーマン氏自身の意欲や魅力も評価すべきである。彼は世界中のオメガイベントにて撮影されており、時計業界に携わるすべての幹部の中で最もアクティブな移動スケジュールを持つ一人であることがわかる。
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ジョージ・カーン: ジョージ・カーン氏は、弱冠36歳にしてIWCシャフハウゼンのCEOに就任し、リシュモングループ最年少のCEOとなった。15年をかけ、彼は狭い視野を持つニッチ時計メーカーから、普遍的な魅力を持つグローバルブランドへとIWCを変貌させることに成功した。彼は売上げを約43億円から約864万円へと増やし、リシュモングループで最も優秀なパフォーマンスを誇るブランドの一つへと成長させた。2016年末に大規模なグループ改革が行われたあと、彼は新たに作られた時計製造、マーケティング、およびデジタル部門の責任者に就任された。業界に衝撃に与えたのは、就任4カ月後に辞任したことだ。その1週間後、彼はブライトリングの新たなCEOおよび少数株主に就任した。それ以降、彼は航空機にインスパイアされているこのブランドを、バランスの取れたパワフルな時計ブランドとして見事に変貌させた。時計業界は、彼のあらゆる動向を監視している。
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シャビー・ノウリ: シャビー・ノウリ氏は、リシュモングループにとって史上初の女性CEO、そして高級腕時計業界においてCEOの地位に就任した数少ない女性の一人である。彼女がピアジェのトップに指名されたことは、暖かく迎え入れられ、当然のこととして受け入れらた。彼女は、同ブランドのインターナショナル・マーケティング&セールス マネージャーとして参画し、ブランドの継続的な成長と成功に対して重要な役割を果たしてきた。彼女は昨年、時計業界史上最も薄い機械式時計である2mmのピアジェ アルティプラノ アルティメート・コンセプトを発表し、世界中で注目を浴びた。さらに彼女は、わずか4.3mmの厚さで世界最薄の自動巻き時計、ピアジェ アルティピアノ アルティメート・オートマティック 910Pを制作するようにとチームを促がした。
今回紹介したリーダーたちは、高級腕時計業界を鼓舞し極めて魅力的にさせる先駆的な人たちのほんの一部にすぎない。情熱と革新のコンビネーションが、私たちが常に時計を追い求める理由であるということを彼らは理解している。そんな彼らに感謝する。