何年も前に、私はハイエンドな独立系ブランド、オートランスの時計を非常に良い価格で入手するチャンスを得た。これはいくつかの頼み事を聞き、さらに将来にもいくつか便宜を図るという約束をすることで得られたものだった。多くの読者はおそらく、オートランスという名前にあまり馴染みがないだろう。確かにこのブランドはまだ存在しているが、私の意見では2010年〜2015年あたりが彼らの頂点だったと思う。これは同社が、H.モーザーを所有するMELBホールディングスに買収された頃のことである。このブランドは現在ではあまり注目されていないかもしれないが、かつては大人気で最も革新的な独立系ブランドのひとつであり、HL2.0のような回転式の立体化した脱進機を持つ、極めて複雑な時計を作っていたのだ。
オートランスはこれまでも、そして現在でも、ユニークなジャンピングアワーとレトログラードミニッツディスプレイを備えたテレビのような形状のケースで最もよく知られている。これは常に自社製ムーブメントを搭載し、非常にアヴァンギャルドなスタイルで設計されていた。しかしオートランスにとっての難しい課題は、他の多くの高級時計ブランドと同じように、その作り出す作品が少々複雑であり、価格が購入者の期待とは一致しないということ (つまりは、彼らの時計は飛び抜けて高いということ) だった。2012年に新たなオーナーを迎えて、同社はカタログを洗練させ、ブランドを再構築し始めた。この新しい戦略の一部として、自社製ムーブメントを使わない初めてのモデルを作ったのだが、ここが私の時計失敗談のスタートである。
デスティネーションは、オートランスの新しい「Signature」コレクションの最初のシリーズだ。Signatureシリーズは基本的に、同ブランドが他社製のムーブメントを搭載する量産モデルにおいて、第三者サプライヤーと協力するために作られた。これにより、このブランドが誇るレベルの仕上げと素晴らしいスタイルを保ちながらも、時計の価格をより抑えることが可能になったのだ。例えば、デスティネーションは自動巻のソプロード9351/A10-2ムーブメントを搭載しており、デュアルタイム機能を持つスタンダードな時刻表示を搭載している。
デスティネーションのもうひとつの重要な特徴は、人気のテレビ型をしたケースの復活だった。オートランスは当時、より伝統的な丸型ケースの導入を試してみていたのだが、それにはやはり同じような魅力はなかった。ケースはスチール製またはチタン製、そしてDLCコーティングのオプションを付けることが可能だった。しかし、オートランスにとって全く新しい領域を開拓したのは、その文字盤だったのだ。ブランドの歴史上初めて、彼らは従来の2針による時と分の表示というスタイルを採用。画期的というわけではないが、それは当時では非常に重大なことだったのだ。ナイトアンドデイ表示と合わせて、第2タイムゾーンは6時位置のサファイアディスクに表示される。それはOrigineコレクションのジャンピングアワーに似たデザインで、より単純なもののようだった。ビッグデイト表示に、「宙に浮かぶ」アラビア数字が備わり、この時計に良い深みを与えている。全体的に見て、これは実際、非常に魅力的な時計だったのだ。
全体的に、デスティネーションは非常によくできた時計で、テレビ型のケースという大きな思いがけない特典付きだったため、私はまんまとはまってしまったのだ。しかし問題は、少なくとも純粋主義者の観点からすると、これは本来のオートランスではないということだった。このブランドは、その自社製ムーブメントによって駆動するジャンピングアワーとレトログラードミニッツディスプレイで有名だった。当時、私はより複雑なモデルを入手するオプションもあったのだが、余分なお金を費やすことに尻込みをしてしまったのだ。死ぬまで気に病むような後悔ではないが、今振り返ってみると、あのとき本当に違う選択をしていたらと願わずにはいられない。私にはオートランスの時計はこうあるべき、というはっきりした考えがあった。そしてデスティネーションはそれに決してかなわなかったため、私はそれを心から喜んで着用することができなかった。結果として、その時計は引き出しの中で長い時間を過ごすことになり、最終的には私のコレクションからトレードに出されてしまったのだった。
確かなことは言えないが、もしあのとき違った選択をしてジャンピングアワーのモデルを入手していたら、きっとその時計はいまだに私の着用腕時計のローテーションの中にあっただろうと思う。しかし、これも楽しみの一部なのだ。少なくともこの経験は私に、重要な購入決断をする前に自分が時計に求めるもの、あるいは特定のモデルが本当に自分に訴えかけてくるものについて、じっくりと考えるべきだということを教えてくれた。