2023年01月19日
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若い世代の時計愛好家がリシャール・ミルやウブロを好む理由、そしてこれが重要なのはなぜなのでしょうか?

Jorg Weppelink
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時計業界は基本的にとても伝統的な場所だ。ブランド、製品から業界に属する個人まで、伝統が物事のやり方に大きな役割を果たしている。中には18世紀や19世紀まで歴史がさかのぼるブランドがあり、何世紀もの間存在する複雑機構が現在も使用され、過去に根付くデザインが今でも人気を維持しており、そして多くの人々がこの業界の伝統的な価値を称賛する。これ自体には全く何も問題はない。それどころか、これは時計業界をこれほど活気に満ちた場所にしている素晴らしいストーリーを守り楽しむ機会を与えてくれる。 

しかし活気といえば、何度も時計業界の伝統的な体制を揺さぶってきた、より新しいブランドがいくつかある。タイムピースの製作資金を別の方法で調達する小規模な独立系ブランドや、時計のデザインと技術を再定義する未来的なハイエンドブランドから、新しいオーディエンスをターゲットにして従来の境界を押し広げるブランドまで、これらの時計メーカーはじっとは立ち止まっていない。しかしそうすることのために、これらのブランドの多くが伝統的な時計ファンからひんしゅくを買っているようなのだ。  

その代表的な例が、ウブロリシャール・ミルである。両ブランドとも、伝統的な時計づくりの限界を押し上げ、新たなオーディエンスにアピールする独自の方法を見つけることに成功している。大部分は、そのオーディエンスはこれらのブランドのいずれかのタイムピースをぜひ所有したいと思う若者で構成されている。素晴らしい製品を作り出すということに加えて、この2つのブランドのマジックはそのマーケティング戦略にあり、そのすべてが大規模なより若いファンのグループを惹きつけることに成功している。そこで、このマジックが一体どんなものなのか、そして、若い人々がこれらのブランドを選ぶことが重要な理由を探りたい。 

Richard Mille – a brand that divides opinion among watch enthusiasts
リシャール・ミル – 時計愛好家の間で意見が分かれるブランド

ウブロの理解 

まずは、2つのブランドのうちより歴史が古いウブロから始めたい。去年、著者はウブロを現在のブランドへと進化させた天才的なマーケティング戦略についての記事を執筆した。復習となるが、初のウブロの時計はイタリア生まれのカルロ・クロッコによって1980年に発表された。ウブロ クラシック・フュージョンは、イエローゴールドのケースに一体型のラバーストラップという、当時まだ見られていなかったコンビネーションを備えていた。ラバーは高級素材とみなされていなかったため、これをゴールドと組み合わせることは批判を浴びた。それにもかかわらず、この素材のフュージョンは有名な俳優、スポーツスターや王室の間でヒットした。  

ビバーの魔法の手 

その後2004年に、業界のベテラン、ジャン・クロード・ビバーがウブロのCEOに就任した。ビバーは新しい “Art of Fusion” のコンセプトを考案した。このアイデアは、2005年のウブロ ビッグ・バンのようなユニークなタイムピースにつながった、予想もしない素材の組み合わせの使用を続けるというものだった。しかし、ビバーがその天賦の才を発揮したのは製造に関することではなかった。彼は、“new rich”(成金)と呼ばれる潜在的な時計ファンから成る新たなオーディエンスをターゲットにしようと決断したのだ。 

伝統的な高級品の新たな役割 

ビバーはこの新たなターゲットオーディエンスの要望を理解していた。彼らは革新的な素材、大胆なスタイル、そして派手なカラーを用いた大きめの時計を欲していた。伝統的なスイスの高級ブランドは新興富裕層のニーズに応じることを避ける傾向にあったが、ウブロは世界中のサッカークラブやラッパー、フォーミュラ1のチーム、そしてSNSのインフルエンサーと喜んで提携し、これにより若い人々を惹きつけることに成功したのだ。過去10~20年間、より若い世代は幅広いラグジュアリー業界における物事のやり方について、伝統的なアイデアにあまり妨げられなくなった。ルイ・ヴィトンによるスプリームとの提携、ジョーダンブランドのディオールとのパートナーシップなど、20年前では考えられなかったコラボレーションが行われている。これらの結果は伝統から抜け出す用意のできている人々にとって特に魅力的なものであり、ウブロもまさにその参加者の一部だ。   

Breaking with tradition – the Hublot Classic Fusion
伝統を破る – ウブロ クラシック・フュージョン

同オーディエンスは、フランスのサッカー選手、キリアン・エムバペ、セルビアのテニススター、ノバク・ジョコビッチ、世界的なインフルエンサー、キアラ・フェラーニなどのスーパースターの手首に装着されたウブロの作品を見てとても喜ぶ。SNSは明らかに多くの若者の生活において大きな役割を果たしており、そこで誰がどのモデルを着用しているのか、多くの人が確認しているのだ。いつか、これらのファンは十分な資金を貯蓄したのちにウブロを自分のものにする。一方で伝統的なファンは、ブランドのデザインや、多くの場合、その巨大なサイズ、大胆なカラーやそれに関連する個人を敬遠する。しかし、ビバーは限定版の力についても理解していた。ウブロは間違いなく限定版の重みを極限まで押し上げており、彼らのターゲットオーディエンスはそれがたまらなく好きなのだ。ここでは、その独占性が鍵である。  

リシャール・ミルの理解 

独占性といえば、リシャール・ミルほどこれをうまくやっているブランドはないだろう。リシャール・ミルは全く別の種類の時計メーカーだが、同ブランドは基本的に、ウブロと同じマーケティング戦術を用いている。弊社の記者であるパスカルは、リシャール・ミルの背後にある熱狂について、何が同ブランドを特別なものにしているのかについて完璧に捉えた長文の記事を執筆した。リシャール・ミルが2001年にRM 001で業界入りした際、さまざまな要因ですぐに目立つようになった。まず第一に、時計は未来的なトノー型のケースで全く異なるユニークな外観を備えていた。第二に、その時計製造芸術のレベルの高さは驚くべきものだ。RM 001にはトゥールビヨンが搭載されているが、これは、繊細なため通常スポーツウォッチでは見られない複雑機構である。  

ビッグネームが持つ力 

当初からリシャール・ミルはF1、テニス、サッカーなど、最も困難な状況に耐えることができる極めて頑丈かつ軽量で、そして非常に複雑なタイムピースを製作してきた。これらは、リシャール・ミルがラファエル・ ナダル、オデル・ベッカム Jr.、フェリペ・マッサ、そして現在のマクラーレン F1 のドライバーといったアンバサダーを見つけた場所であり、彼らは皆、ハイエンドの時計が過酷なスポーツ環境で着用できることを証明している。それから間もなく、ジェイ・Z、ファレル・ウィリアムス、エド・シーラン、ドレイクなどの有名スターが手首にリシャール・ミルの時計を装着しているのが目撃された。  

Richard Mille RM 27-02 Tourbillon Rafael Nadal
リシャール・ミル RM 27-02 トゥールビヨン ラファエル・ナダル

独占性の再定義 

控えめに言っても、これらはカラフルな時計だ。ブラックのストラップが付いたオリジナルのチタン製ケースには、最終的に現在のコレクションを定義するさまざまな明るいカラーが加わった。一貫性が維持されているのは、すぐにそれとわかるスタイル、軽量素材、そして見事な高級時計製造技術だ。ご想像のとおり、すべてのモデルは限定個数で生産され、莫大な費用がかかる。当初からリシャール・ミルは独自の高級セグメントを作り始めていたのだ。  

8桁の価格のブランド 

リシャール・ミルは、その価格から日本円で8桁の価格のブランドとして知られている。価格と在庫の両方における独占性は、ファンにとってのブランドの全体的な魅力に大きな貢献を果たしており、そのファンの多くは若い世代だ。パスカルが述べたとおり、35歳未満の人々がChrono24におけるリシャール・ミルの検索の60%を占めており、若いオーディエンスをターゲットにした成功は計り知れない。繰り返しになるが、マーケティングやSNSの力を介して若者とつながることは多大な影響をもたらしているが、これは業界全体にとって何を意味するのだろうか?  

ウブロとリシャール・ミルの重要性 

ウブロやリシャール・ミルの多くのファンを持つ成功したブランドとしての明らかな関連性に加えて、これらのブランドは業界全体にとってより重要で複雑なものを象徴している。まず第一に、この2社は機械式時計に興味を持ち始めてきたより若い客層を惹きつけている。これにより、時計への生涯の情熱につながる種をまいているのだ。その種がどのようにまかれたとしても、私たち全員が共有する情熱が、新しい世代に確実に受け継がれていることを保証する。より若い客層を惹きつける上で大きな役割を果たしているブランドはもちろん他にもある。例えばロレックス、オーデマ・ピゲ、パテック フィリップといったより伝統的なブランドも、若年層を惹きつける上でその役割を果たしている。とは言っても、リシャール・ミルのようなブランドが若者に与える影響力には驚くべきものがある。  

これらのブランドは業界にも影響を与えている。彼らは時計製造の未来を形作っているのだ。ウブロとリシャール・ミルは、新しい素材の使用、新しい時計学的なコンセプトの試み、現代の一流アーティストとのコラボレーション、従来のマーケティング形態からの脱却といった面で常に限界を押し広げることにより、その習慣的なやり方を変えることで成功を収めることができることを見せつけた。これらのブランドが行うことを好ましく思う必要はないが、その文化的関連性と業界への影響力は確かなものだ。それこそが、私たち皆が愛する、この広い時計界の探求に若年層が興味を持ち続けている理由であり、業界の未来が明るいことを確認するためにまさに必要なものなのだ。  


記者紹介

Jorg Weppelink

こんにちは、ヨルグです。2016年からChrono24で記者として執筆しています。しかし、Chrono24との関係はそれ以前からあって、時計好きになったのは2003年頃からです。私の友人 …

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