多くの時計を見てきた愛好家ならば、おそらく1つ以上のロゴが文字盤に刻印されている時計を何度か目にしてきたのではないかと思う。この記事ではそのような時計に焦点を当て、どのような経緯で文字盤という時計の重要な位置に、複数のロゴが刻印されることになったのかを見ていきたい。
ロレックス エアキング ドミノピザ
「努力は報われる」という言葉があるが、この「報酬」は時代とともに様々な形に変化している。例としてドミノ・ピザを挙げてみよう。ドミノ・ピザは高い業績を上げた社員に、その報酬として文字盤にドミノ・ピザのロゴが刻印されているロレックス エアキングを与えている。ドミノ・ピザはピザハットに次ぐ世界最大のピザ ファーストフードチェーンの1つであり、同社はマネージャーの意欲を引き出すためにあらゆる努力を行っている。
ドミノ・ピザは1960年に創業した。そして、その7年後にフランチャイズ1号店をオープンし、その10年後には200店舗にまで事業を拡大した。創業者のトーマス・モナハンは70年代に彼自身が着用していた時計を初めて社員に贈った。そしてその後、文字盤にドミノ・ピザのロゴが刻印されたステンレス製のロレックス エアキングが作られるようになった。この時計の目的は、マネージャーがより高い意欲を持って仕事に取り組むためのモチベーションを高めることであった。そして、4週連続で2万5000ドル以上の週売上を上げたマネージャーに対して、この時計を与えている。このプロモーションが始まった当時、4週間の週売上は2万ドルであった。毎日どれだけのピザが焼かれていたかを想像してみてほしい。
ドミノ・ピザのロゴが刻印されたロレックス エアキングには複数のモデルが存在する。初期のモデルには、ドミノ・ピザの有名なロゴが文字盤に45度または90度の角度で刻印されている。より新しいモデルでは、ステンレスのロゴがオイスターブレスレットの6時位置の下に付けられている。
ロレックス エアキング プールインタエアドリル
ロレックス エアキングは多くのブランドに選ばれている時計のようだ。あまり知られていないモデルとしては、プールインタエアドリル モデルがある。この時計も社員への報酬であり、石油リグのマネージャーや保安要員に対して、彼らのリグが一定期間事故を起こさずに稼働した後に贈られた。プールインタエアドリルは1970~80年代に大手石油会社に部品や労働力を供給する主要なサプライヤーであった。この特別モデルでは、文字盤上にプールインタエアドリルのロゴが付けられており、ケース背面に受賞者の名前が刻印されている。
タグ・ホイヤー モナコ ガルフ レーシング
時計とモータースポーツのファンは、タグ・ホイヤー モナコ ガルフ レーシングの発売に歓喜の声を上げた。タグホイヤーもガルフも、モータースポーツの世界において長い歴史を持っている。1971年のル・マンにおける、ガルフレーシングストライプがデザインされた白いレーシングスーツに身を包むスティーブ・マックイーンの象徴的な姿は、だれもが知っているだろう。そして、そのスーツを着たマックイーンの腕にはホイヤーが巻かれているのだ。
ガルフレーシングストライプが50周年を迎えた2017年、タグ・ホイヤーとガルフには、タグ・ホイヤー モナコの特別エディションを共に作る十分な理由があった。ガルフにインスピレーションを受けた他の時計はすでに作られていたが、ガルフのカラーとロゴがデザインされた時計はまだなかったのだ。
ロレックス コメックス
コメックス社のロゴが文字盤に刻印されたロレックスのダイバーズウォッチも、同様にアイコニックで人気が高い。コメックス (COMEX) はCompagnie Maritime d’Expertisesの略称であり、長い歴史を持つフランスの潜水専門会社である。コメックスは世界をリードするエンジニアリング・深海潜水専門会社であり、ロレックスとパートナーシップを結んでいた。また、コメックスは深海のNASAと呼ばれることもある。
ロレックス コメックス ダイバーズウォッチは、コメックスの社員にのみ提供されていた。この時計は少量しか生産されなかったため市場に現れることは稀で、手に入れることは非常に難しい。そして、この希少さがすでに高額なヴィンテージ時計の価格をさらに高価にしている。
ロレックスは1970年代初期から1990年代後半まで複数のコメックス時計を製造し、サブマリーナとシードゥエラーの様々なモデルにコメックスの刻印がある。
これらの時計は文字盤に他のブランドや会社のロゴを持つ時計の、ほんの数例にすぎない。すべてが十分に検証されているわけではないが、この種の時計は他にも多くある。オメガ シーマスター TCDCはその一例であり、この時計の文字盤にはトルコ国鉄のロゴが刻印されている。また、ドクターペッパーのロゴが付けられたセイコー時計もある。ダブルネームの時計の選択肢は多くあるのだ。
この記事で紹介した時計はユニークで非常に人気が高く、標準モデルよりもはるかに高価になっている。そこで問題は、その金額に見合うだけの価値があるかどうかだ。多くの人が量産時計を身に着けている中で、他人とは違う時計を身に付けることは楽しい。そして「美は見る人の目の中にある」という格言もある。特別な物語を持つ時計の所有は、より魅力的な体験となるだろう。