2022年06月03日
 8 分

10万円の時計と100万円の時計の違いは何か

Donato Emilio Andrioli
Rolex-Datejust-vs-Tissot-Gentleman-2-1

現在の時計の価格高騰を目にして、自分の収入で手に入るアイコニックな時計とはいったいどれなのか考え込んでしまうのでないだろうか。Chrono24マガジンはその疑問に応えるべく、10万円前後の安価なエントリーレベルの時計と、時計界のこれぞアイコンウォッチという時計とで究極の比較をしてみた。安価なモデルが張り合えるのだろうか?  

What’s the difference between a $1,000 entry-level watch and a $10,000 luxury watch?
10万円のエントリーレベルの時計と100万円の高級時計の違いは何だろうか。

10万円 VS 100万円:同じデザインなのに低価格?

ティソ ジェントルマン オートマティック パワーマティック80ロレックス デイトジャスト 41 Ref.126300は、見た目がこれ以上ないほど似ている。しかし、ティソのエントリーレベルの時計が10万円前後で手に入るのに対し、ロレックスのアイコンウォッチの現在の価格は100万円を超えている。今回はこの2本の時計を比較し、10万円の入門的なモデルと100万円の高級時計とは何が違うのかという疑問に決着をつけたい。 

全体のデザインからすると、この2本は双子のようなものかもしれない。ケースや文字盤のデザインがそっくりなのだ。ドーム型ベゼル、部分的にポリッシュ仕上げを施したブレスレット、右側に配置された日付表示と、どちらも日常使いに最適な時計だが、特別な場でも素晴らしい存在感を発揮する。サイズもまた同様だ。ティソ ジェントルマンは直径40mm、厚さ11.5mmで「ラグ・トゥ・ラグ」(時計の縦方向の長さ)は48mmだ。一方、ロレックス デイトジャスト 41では一見しただけでは分からないことがある。名前が「41」なので誰も予想しないことだが、実際のところ直径は39.5mmしかなく、ラグ・トゥ・ラグは47.5mmなのだ。そのため、全体的に見るとロレックス デイトジャスト 41は実はティソのモデルよりも若干小さいのである。厚みは11.7mmとロレックスの方がわずかに厚いが、全体的にロレックスのオールラウンダーのサイズは安価なティソ ジェントルマンよりも調和がとれていて、よく考えられていると思う。ティソの入門機は自社製ムーブメントを眺められるガラスのケースバックになっていることで、理屈上は100万円以上するロレックスよりも魅力的な要素を多く揃えていることになる。デイトジャスト 41は透明なケースバックを採用していないが、これはロレックスの時計一般に言えることだ。時計ファンの中にはそれをつまらないと思う方もいるかもしれない。筆者個人的には、見た目が美しくないガラスのケースバックよりも、退屈なステンレス製ケースバックの方が良い。ティソ ジェントルマンのムーブメントは眺めて見ることができるとはいえ、それほど美しいわけではない。筆者個人的には、ティソがエングレービングを入れたステンレス製の裏蓋を選んでくれていれば、格段によかっただろうと思う。ティソ ジェントルマンは本当に個性的なのだが、2本のオールラウンダーのデザインは見間違えるほどによく似ている。唯一、ロレックス デイトジャスト 41のサイクロップレンズだけが見間違えようもなく、最も主張のある独自のセールスポイントとなっている。 

At first glance, one might mistake the Tissot Gentleman for a Rolex Datejust.
一見しただけでは、ティソ ジェントルマンはロレックス デイトジャストと見間違えかねない。

10万円 VS 100万円:ロレックスは品質も10倍優れているのだろうか? 

時計の品質にかけては、ロレックスは他の追随を許さないと思う。特に手触りということでは、高級時計の世界でもロレックスに及ぶ者はいない。この2本を品質で比較することにそもそも意味があるのだろうか?いや、意味はある。ティソ ジェントルマンには意外なほど多くの魅力があるのだ。なによりも、ケースの質感が非常に良い。デザインはやや異なり、ロレックス デイトジャスト 41のケースサイドはすべて鏡面仕上げされているが、ティソはマットな仕上げを選んだ。上部のポリッシュ仕上げの斜角面は視覚的にも印象的で美しい。その好印象は細部にまでこだわって仕上げられた文字盤にも言える。インデックスはステンレス製のアプライド。日付窓にも内周にステンレスの縁取りが施されている。ティソ ジェントルマン オートマティック パワーマティック 80の文字盤の仕上げは入念であり、見た目にも本当に美しい。この価格帯の時計ではなかなか珍しいことだ。 

これに対し、ロレックスのロゴとインデックスはホワイトゴールドだ。このような細かいディテールは、これだけ高価な高級時計では欠かせないものだが、肉眼ではほとんど分からない。ブレスレットの品質の点では明らかにティソが劣っており、ロレックスのブレスレットとはまったく比べ物にならない。ロレックスのブレスレットは極めて堅牢でありながら、メタルの肌触りはシルクのような柔らかさだ。クラスプは完璧そのもので、つけ外しの際には大きく豊かな音がして、純粋に気持ちがいい。細かいディテールについては、ロレックス デイトジャスト 41はティソ ジェントルマンとはまったく別の次元で勝負している。しかし、もう一度考えてみてほしい。ロレックスは100万円以上で、ティソは10万円前後なのだ。そう考えるとオールラウンダーのティソ ジェントルマンは驚くほど良い仕事をしている。特にケースと文字盤は素晴らしいと思う。

When it comes to quality and haptics, nothing beats Rolex.
品質と手触りにかけてはロレックスは他の追随を許さない。

10万円 VS 100万円:ティソ ジェントルマンはロレックス デイトジャストと張り合えるのだろうか?

当然といえば当然だが、技術に関してはロレックス デイトジャスト41は非の打ち所がない。そのため、この点についてはティソ ジェントルマン オートマティック パワーマティック 80の方を集中的に見ていきたい。技術的にも納得できる時計なのだ。まず防水性だが、ロレックス デイトジャスト 41の150mには及ばないとはいえ、100mの防水性は日常使いには十分すぎるくらいだろう。ロレックスの時計と同様、ティソは傷のつきにくいサファイアガラスを採用している。ETA社製を改良したムーブメントはロレックス デイトジャストよりも10時間長い80時間という驚異的なパワーリザーブを実現し、シリコン製ヒゲゼンマイを使用するムーブメントは耐磁性を備えている。  

しかし、総じて言えばこのムーブメントはロレックス自社製キャリバーに対抗することはできない。また、ティソには時計をつけて快適に日々を過ごすための繊細な工夫も今ひとつ欠けている。残念ながら、ロレックスのブレスレットのイージーリンク機能のような実用的なものは存在しない。しかし、ティソのこのオールラウンドプレイヤーが持つ長所はすべて、この価格帯の時計として見れば十分立派なものだ。ティソがこの時計の仕様として提供しているものはどこに出しても恥ずかしくない。ロングパワーリザーブやシリコン製ヒゲゼンマイなどは、もっと上の価格帯の時計であっても決して当たり前に備わっているものではない。ETAムーブメントは信頼性が非常に高く、メンテナンスも容易なため、オーバーホールに多額のコストがかかることはない。これは特に10万円前後のエントリーレベルの時計としては極めて重要な長所である。ティソもETAもスウォッチ・グループに属しているため、一種の自社製ムーブメントと言うこともできると思うが、言い過ぎだろうか?   

The Tissot Gentleman has a lot to offer in the technical category, even if it gets several deductions in style points.
ティソ ジェントルマンには小さな減点があるとしても、技術的には魅力的な要素を数多くもっている。

10万円の時計と100万円の時計の違いは何だろうか?

素材、自社製ムーブメント、品質、手触りなど、ロレックス デイトジャスト 41のクラスには及ばないにしても、ティソ ジェントルマンはエントリーレベルの素晴らしい時計で、試着した時には本当に驚かされた。ケース、文字盤、インデックスなどどれも非常にクオリティが高く、納得のいく仕上がりだ。ムーブメントは十分すぎるほどのパワーリザーブを備えており、100m防水とサファイアガラスで日常使いに最適だ。ロレックスと同様、あらゆるシーンで活躍する完璧なオールラウンダーといえるだろう。ただ、ブレスレットとクラスプに関してだけは明らかに品質が劣る。一方、ロレックス デイトジャスト 41はあらゆる点で完璧そのものだ。最高級の素材、完璧な外観、他の追随を許さない装着感、そして細心の注意を払って開発された自社製ムーブメントは少なくとも10年間はオーバーホールをせずに使用できる。しかし、なんといってもロレックスには偉大な歴史、有名な高級ブランドの背後にある威信があり、そして時計を身につけたときに感じる素晴らしいエモーションが特別だ。結局のところ、これが10万円前後の時計と100万円以上のモデルを分ける最も大きな違いなのだ。ホワイトゴールドのロゴやインデックスといった愛すべきディテールが肉眼ではほとんど分からないとしても、このような歴史ある時計を身に着けたときに、すべての人が感じる感動に値段はつけられない。初心者向けの10万円クラスの時計にはまねのできないことだ。しかし、10万円前後で購入できる入門機の中では、ティソ ジェントルマンはおそらく最高の選択肢だろう。 

The Rolex Datejust 41: the go-to watch for perfectionists
ロレックス デイトジャスト 41は完璧を求める人のためのデイリーウォッチだ

記者紹介

Donato Emilio Andrioli

チューダー ブラックベイ41という機械式時計を始めて買って以来、機械式時計の虜になってしましました。特に、古くて感動的な歴史を持つアイコン時計が大好きです。

記者紹介

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