数か月前から、理想のコレクションを披露するこの企画の最初の女性ライターになれることを楽しみにしていた。それと同時に、この機会にあることを皆さまに告白しなくてはならないとも思っていた。それは、自分はコレクターではないということだ。自分が魅力的だと思う時計のみ購入してきた。長期間追いかけることもあれば、衝動買いすることもある。筆者が2万4000ユーロで作る理想的なコレクションは、現在欲しいと思っている時計1本と、すでに所有したことのある何本かで構成されている。投資という考え方はしていないし、時計を「flip(転売)」したこともまだ1度もない。買ったものは必ず使う主義だ。時には人に貸し出すこともある。失う可能性のあるもののことは考えない。筆者にとって時計は日用品であり、時計についてなら何時間でも話せて、想像以上に自分がどういう人間かを露わにしてしまうものだ。
ロレックス GMTマスター II バットガール:1万400ユーロ(約170万円)
時計愛好家である筆者にとって、ロレックスはやはりなんとはいえ外せないブランドだ。筆者の思い描く理想のコレクションにおいて、それはGMTマスター II「バットガール」だ。このモデルは今回紹介する時計の中で唯一、筆者がまだ所有しておらず、手にする日を待ち望んでいるものでもある。ちなみに、現在筆者のコレクションにあるロレックスは、ミントグリーン文字盤のデイトジャスト 36だ。理想のコレクションにGMTマスター IIを入れる理由は、ベゼルの色の組み合わせが気に入っているからであり、ジュエリーと組み合わせたときの相性も抜群なのである。そして何よりも、大のコミックファンとして、バットガールと呼ばれる時計ほど魅力的なものは考えられないからだ。
IWC インヂュニア 666 AD:4000ユーロ(約70万円)
IWC インヂュニア 666を初めて見たときのことを今でも覚えている。シャフハウゼンのIWC博物館でのことだった。スイスに住み始めた頃で、時計の世界に足を踏み入れたばかりであったが、それでもこの時計は筆者の目を惹き、冗談でパートナーに「これが欲しい!」と言ったものだ。その後時が経ち、何年にもわたって筆者は何度も美術館を訪れ、当時のまま展示されているこの時計の前に立った。そしてその度に自分が本当にこの時計を欲しいのだと認識するようになっていった。残念ながら、当時筆者はヴィンテージ時計のことを何も知らなかった。そこで、この分野の知識を集め、時計展示会に行ったり、中古時計店を訪れたりして、最終的にはChrono24 マーケットプレイスで現在所有しているマイIWC インヂュニアを見つけたのである。今ではこの時計用に複数のブレスレットを揃えて、間違いなく一番頻繁に着用している(デイトジャストが羨望の眼差しを向けていることだろう。そんなことができれば、だが)。筆者がこの時計を気に入っているのは、筆者の頑固さゆえに手に入ったものだからもあるのだが、とりわけエンジニアというホモ・ファーバー(「道具を作る人間」の意)に焦点を当てているところや、前向きな未来への希望があるところ、この時計自体が進歩を体現しているところも、気に入っている理由である。そして単純に、ダイバーやレーシングドライバーよりもエンジニアの方が筆者が共感しやすいターゲットグループだというのもある。
ユニバーサル ジュネーブ ポールルーター:900ユーロ(約15万円)
この時計も、時計見本市やフリーマーケットで長い間探した末に、状態と価格のバランスが理想的だった個体を見つけて購入したものだ。今皆さまがこの時計を見て、なぜIWC インヂュニア 666 ADに似た時計がもう一つ必要なのかと疑問に思うのも無理はない。だが、答えは簡単だ。筆者はこの時計の背後にあるストーリーが気に入っているのだ。この時計は、ニューヨークまたはロサンゼルスからヨーロッパに直行する北極ルートのために開発されたものだ。北極を越えるとき、強い磁場の中を通ることになる。そこで、航空乗務員のために、この条件に耐えられる時計として開発されたのが、ポールルーターである。また、この時計にはユニバーサル ジュネーブでは標準だが一般的には非常に先進的な、マイクロローターを備えたムーブメントが搭載されていた。筆者のポールルーターには、人類の歴史の一端と時計の歴史の一端が組み合わさっているのである。そしてもちろん、何時間もかけてケースや風防などをクリーニングしたことも含めた筆者の購入のストーリーもだ。
オメガ スピードマスター レディース クロノグラフ:3900ユーロ(約70万円)
筆者の理想のコレクションにはもちろん、筆者が初めて手にした「本物」の時計も含まれる。その時計を購入する1年ほど前に、高級時計の世界を初めて知り、魅力的なストーリーが背後に隠されている時計もあることや、女性用時計というのはダイヤモンドやマザーオブパールの文字盤の時計だけではないことを学んだ。自分用の時計を探しているときに(当時はまだ素朴に、時計は1本だけ所有するものと思っていた)、スピードマスターに出会い、月面で使用された初めての時計の歴史だけでなく、信じられないほどエレガントな時計の存在を知ったのである。まさに自分にぴったりの時計だった。当時はまだ学生でアルバイトしかしていなかったが、この時計は貯金する十分なモチベーションとなった。8か月後、スピードマスターを自分のものにすることができ、何年もの間毎日着けていた。今では毎日着用することはなくなったが、時計愛好家になった頃の初心を思い出させてくれる。また、1本の高級時計を購入するために何か月もかけて貯金をするほど自分が頑固だったことも思い出させてくれる。この時計にそれだけの価値があると確信していたからできたことだ。
IWC パイロット・ウォッチ・マーク XX:4500ユーロ(約80万円)
IWC パイロット・ウォッチ・マーク XXが筆者の実際のコレクションにも、理想のコレクションにも入っているのはなぜかと言えば、父がこの時計の前モデルを毎日愛用しているからだ。これ以上の理由はないだろう。
スウォッチ、カシオ、etc.:300ユーロ(約5万円)
「時計愛好家なのにこんなの着てるの?」カシオやスウォッチを着けて出かけると、こんな風に質問されることがあまりにも多いが、筆者は時計愛好家だからこそ、これらの時計を着けているのだ。高級時計だけでなく、歴史を作ってきた他のモデルにも筆者は魅力を感じる。たとえば、おもしろいセカンドウォッチを持つことを可能にした、スウォッチの画期的なプラスチック時計や、アラームなどの追加機能を備えたカシオの伝説的なデジタル時計。筆者の理想のコレクションには、カシオ、G-SHOCK、スウォッチが含まれているが、すべて日常的に着用しており、手離す気はない。
将来の展望
今回作った理想のコレクションは将来的にも変わらないものだろうか?そんなことはないはずだ。いつかは筆者を魅了する別の時計が現れるだろうし、そのときにはその時計がこの架空のコレクションや筆者の実際のコレクションに収まることになるだろう。ただ、コレクションする時計そのもののキャラクターは変わらないはずだ。それは、背景に物語のある時計であり、投資対象ではなく、時には一風変わったコレクターズアイテムだ。そして、転売はせず、親しい人とだけ共有するための時計だ。