パテック フィリップの製品カタログには、2022年末時点でちょうど150種類のモデルが掲載されている。パテックは年間約6万8000本しか生産していないことを考えると、これは相当な数だ。新しいモデルのために場所を空けるには、定期的に既存モデルを生産中止してラインナップから外す必要があるだろう。まだ人気があったとしてもだ。最近ではノーチラス5711の生産終了が最も大きな事件だったと言えるだろう。何しろカルトな人気を誇るステンレスバージョンだけでなく、シリーズ全体を引退させたのだから。
しかし、この1年でラインナップから外されたモデルはノーチラス5711だけではない。2022年には合計29モデルが外されたのだ。そして、新規に追加されたモデルは21にとどまる。
そうなると2023年には何が起こるのかと興味が湧いてくる。そこで、パテックが来年のために何を準備しているのか、あえて予想してみたい。ただし、同社は会社やモデルの方針については秘密主義で知られているため、ここでの予想はもちろん純粋に単なる推測に過ぎない。あくまで予想であり、未来にならないとわからないという意味では、どれもすべて願望の顕れと言えるだろう。
ノーチラスはどうなるのだろうか?
ノーチラス5711の生産中止は多くの時計愛好家に衝撃を与えた。特に、ステンレスバージョンだけでなく、ゴールドバージョンまでもラインナップから外したのだからなおさらである。しかし、パテックのティエリー・スターン社長は憤慨する時計関係者に対して適切な後継モデルを提供すると約束した。そして2022年秋、ホワイトゴールド製の新型ノーチラス 5811/1G-001を発表したのだ。ただ、これを新型というのは正確ではないかもしれない。41mmケースとエクステンションシステムを備えた新しいフォールディングクラスプを除けば、5811は先代モデルとあまり変わらないからだ。
今後も5811/1 G-001以外に5811のバリエーションは発表されないというのはまず考え難い。2023年に少なくともレッドゴールドのモデルが出てこなかったら、その方が却って驚くべきことだ。プラチナ製バージョンや別仕様の文字盤のリリースも考えられるだろう。
ただし、ステンレスやチタン製の5811は望めない。こういった素材を好まないことにティエリー・スターンは過去に繰り返し言及している。さらに、ステンレス製のノーチラス5711/1Aが大成功したことも、ノーチラス5711が終焉を迎えた大きな理由のひとつなのだ。スターンはこの時計がブランド唯一の看板モデルになってしまっていることを好ましく思っていなかった。だからこそ我々としては、ノーチラス5811は当面貴金属でしか考えられないと思うのだ。
パテックのカタログにステンレス製のノーチラスが全く無いかというと、そうではない。ノーチラス5712シリーズと5726シリーズでは、2022年11月時点でもステンレス製のモデルが販売されている。問題はそれがいつまで続くかである。結局のところ、どちらも基本的には5711に複雑機構を追加したものなのだ。したがって、パテックがこれらの時計もラインナップから外し、若干の改良を加えたモデルに次第に置き換えていくと考えるのが、理にかなっていると言えるだろう。
アクアノートにチタンモデルが投入される可能性はあるだろうか?
パテック フィリップ アクアノートは2022年に25周年を迎えた。多くのファンがアクアノートのアップデートや、少なくともアニバーサリーエディションの登場を期待していた。なんとはいえ、リファレンス5167は2007年からパテックのプログラムにラインナップされているのだ。20周年を機に発表されたリファレンス5168ももう5年も頑張っている。
2022年に発表されたアクアノートの新モデルが、レディースウォッチのアクアノート ルーチェ 《レインボー》 クロノグラフ 7968/300R-001だけだったことは多くの時計愛好家を失望させた。男性用の3針時計は少なくとも外見的にはなんの変化もなかった。内部についてはこれまで使用されていたキャリバー324 S Cに代わり、2022年からキャリバー26-330 S Cが搭載されている。つまり、ストップセコンドを搭載したアクアノートがついに登場したということだ。
2023年のアクアノートはどうなるだろうか。もちろん、ノーチラスをめぐる興奮がやや冷めてから新しいモデルを発表する可能性もある。もしかしたら、アクアノートで他の新しい素材も試してみるかもしれない。チタン製のモデルを待望するファンは多く、パテックがいつまでこの希望を避けて通っていられるかだ。ロレックスでさえ、最近になってディープシー チャレンジという初のチタン製モデルを発表している。大手の中でチタン製時計をまだリリースしていないメーカーは今や残り少なくなっているのだ。
だが、2023年にパテックが新作アクアノートでチタンの流行に乗ってくる可能性はむしろ低いのではないかと思われる。その代わりもしかしたら、年次カレンダーとムーンフェイズを搭載したアクアノートが登場するかもしれない。また、2017年にアクアノート トラベルタイム 5650G-001を発表した時のように、アドバンスドリサーチ部門からもうひとつアクアノートを発表して、我々を驚かせることも考えられる。
カラトラバで何かサプライズはあるだろうか?
カラトラバシリーズはエレガントなドレスウォッチの代名詞とされている。それにふさわしく、このコレクションの時計は世界中の時計愛好家から支持されている。
2022年の春、パテック フィリップは特に人気のあったモデル、カラトラバ5196の生産中止を決定した。イエロー、ホワイト、ローズゴールドの3つのバージョンだけでなくプラチナ製の姉妹モデルもだ。この結果、2022年末にはスモールセコンドを搭載したカラトラバはリファレンス6119のみとなる。だがこのモデルは5196に代わるものとはいえない。直径39mmと5196より2mmほど大きく、《クルー・ド・パリ》ベゼルを採用しているため、遊び心を強く感じさせるモデルなのだ。
そうなると、2023年には5196の後継機を発表する可能性があると考えるのが妥当だろう。最も簡単な方法は間違いなく、6119のポリッシュベゼル・バージョンを市場に投入することだろう。いや、もしかしたら全く新しいモデルで驚かせてくれる可能性もある。
複雑機構を搭載した時計なら何が考えられるだろうか?
コンプリケーテッドウォッチは伝統的にパテック フィリップの製品カタログの大部分を占めてきた。そのため、当然ながらここが最も動きのある分野である。昨年、パテックは17のモデルをプログラムから外したが、ほとんどを妥当な後継モデルに置き換えた。多くの場合、文字盤の色が変わっただけであったり、ケースがイエローゴールドからホワイトゴールドに変更されたという具合だ。
2023年を水晶玉で占うと、特に2つのモデルが見えてくる。まずひとつはリファレンス 5373P-001である。プラチナ製でスプリットセコンド、ムーンフェイズ、永久カレンダーを備えたモノプッシャークロノグラフで、同じ装備を持つリファレンス5372P-001および 5372P-010の後継となるものだ。ただ、この2つの時計とは異なり、5373P-001は左利き用だ。そして左利き用の時計は通常、売れ筋商品ではない。そのため、パテックは5372をゴールドケースのバージョンで再びコレクションに加える可能性も十分にある。
来年注目すべき2つ目のリファレンスはワールドタイム フライバック クロノグラフ 5935A-001だ。パテックは2022年にステンレス製を発表し、同時にホワイトゴールド製のワールドタイム クロノグラフ 5930Gを生産中止にした。かつてパテックは、複雑時計のシリーズを締めくくるのに、ステンレス製モデルを発表することがよくあった。したがって、5935A-001はこのシリーズがまもなく生産中止となるか、新シリーズに置き換わる可能性を示しているのかもしれない。
パテック フィリップはゴンドーロやゴールデン エリプスなどに新作を投入するだろうか?
ゴンドーロ、ゴールデン エリプス、レディースウォッチのTwenty~4などのコレクションは、常に有名な姉妹コレクションの影に隠れてきた。それだけに、このシリーズに新作が投入されることもあまりなかった。しかし、パテックは時折、特別に見事な仕上げの文字盤や精巧な装飾を施したケースで驚かせることがある。2023年にそのようなモデルが登場する可能性がないとは言えない。
まとめ
ノーチラスであれ、カラトラバ、グランド コンプリケーションであれ、パテック フィリップの新作といえば時計好きなら誰もが注目する。このジュネーブの人気ブランドが2023年に投入する新作を予言者になって予想してみるのは面白かった。我々の予想はどのくらい当たっているだろう。もしかしたらパテックは、まったく思いもよらないモデルで喜ばせてくれるかもしれない。楽しみにしていよう。