2022年01月12日
 10 分

9つの機能を1本の時計に。ニバダの「スーパークロノグラフ」

Sebastian Swart
Nivada-Grenchen-Chronomaster-2-1-CAM-2093-

1本の腕時計に9つの機能を搭載する。1960年代の初めにそれを実現していたのはニバダ グレンヘン クロノマスター アビエーター シーダイバーだけだった。今でも人気のあるこの時計が、あらゆる分野の時間計測に対応していることは、やや長い名前からもうかがえる。ニバダは1970年代半ばまでクロノマスターを比較的多く生産していたため、市場には保存状態の良い時計も十分に出回っている。近年、高品質なアンティーク時計の需要が目に見えて高まっており、それに伴ってこのクロノマスターの価格も上昇している。

2018年に復活したブランド「ニバダ グレンヘン」は、2020年に現代の技術を搭載したクロノマスターの新モデルを発表した。喜ばしいことに、見た目もプロポーションも旧モデルからほとんど変わっていなかった。その結果、このクロノグラフはデザインの魅力に加えて、精度や日常生活での使いやすさを重視する時計ファンから注目されることとなった。クロノマスターのアンティークモデルや復刻モデルについて、知っておくべきすべてのことをここでご紹介しよう。

ニバダ クロノマスター アビエイター シーダイバーはスーパークロノグラフだ。

ニバダは1961年に、9つの機能を備えた多機能ツールウォッチとして、見た目にも美しいクロノグラフ「クロノマスター アビエーター シーダイバー 」を初めて発表した。このクロノマスターは100m防水性を持ち、タキメータースケール付きのストップウォッチ、ダイバーズウォッチ、パイロットウォッチ、タイマー、ヨットタイマー、GMT表示を備えた世界で初めての時計だった。その上、現在の時刻を読み取るのにもまったく問題なく、視認性に優れていた。当時の雑誌広告でニバダは「スーパークロノグラフ」「世界で最も多忙な時計、その機能は計り知れない」というキャッチコピーでクロノマスターを宣伝していた。

クロノマスターを着用した著名人は少ないが、アメリカの映画俳優ブライアン・ケリーが1966年のSF映画『海底世界一周』やテレビドラマシリーズ『わんぱくフリッパー』でニバダ クロノマスターを着用していたことが分かっている。

時計メーカーのモバード社との商号権の問題から、ニバダは1930年代以降、アメリカではクロトンという名前で時計を販売することになった。クロトンウォッチカンパニー社は1873年にニューヨークで設立された会社で、スイスやアメリカ製の部品を使って時計を製造し、アメリカ国内で販売することに特化していた。

もし、あなたがニバダ クロノマスター アビエーター シーダイバーを気に入り、購入を検討しているときに、クロトンという名前に遭遇したとしたら、それは米国市場向けに生産された全く同じモデルのことだ。また、ピエール・ヴァリー、ルドルフズ、オースティン、ギルドクレスト、サセックス、ル・マルクなどの名前で存在し、今日まで数十年にわたって生き残ってきた非常に珍しいモデルも同じものだ。

Nivada had to sell watches under the name Croton in the US.
ニバダはアメリカではクロトンという名前で販売しなければならなかった。

ニバダ クロノマスターのアンティークモデルの詳細

製造期間が約15年ということもあり、クロノマスターには非常に多くのリファレンスがあり、文字盤のバリエーションも50種類以上ある。しかし、ほとんどが文字盤や針のデザインといったディテールの違いであり、ニバダのクロノマスターであることはすぐに分かる。

すべてのバリエーションに共通して、文字盤は3時と9時にインダイヤルを配したバイコンパックスとなっている。文字盤の色は6世代以上にわたって黒が主流だったが、第2世代以降は、白またはシルバーの文字盤に黒いインダイヤルを組み合わせた、いわゆるパンダダイヤルのリファレンスもいくつかあった。さらには「ポール・ニューマン」ダイヤルもクロノマスターに採用された。ロレックス デイトナ ポール・ニューマンと同様に白を基調とし、モデルの特徴であるタイポグラフィを採用した黒いインダイヤルを備えている。

この時計はすべて約38mm径のステンレス製ケースのみで製造されており、デザインは一見するとほとんど変わっていなかった。ケースには、第5世代までは後付け型だった直線的なラグがついている。しかし、さまざまに異なるキャリバーと適宜合わせる必要があり、時計の厚みとケースの断面を見るとその違いが分かる。

ニバダは初代モデルのキャリバーにヴィーナス210を採用していたが、1962年には早くもバルジュー92が搭載されるようになった。1960年代半ばには第3世代がバルジュー23に替わり、その後、ランデロン248、バルジュー7733へと進化していった。この2つのキャリバーを搭載したモデルは第4世代から第6世代まで、そして1970年代半ば頃まで生産されていた。しかし、いずれもクロトンの名前でしか販売されなかった。

The Chronomaster Croton ref. 105/903006 powered by the Landeron 248 (fourth generation).
クロノマスター クロトン リファレンス105/903006、ランデロン248搭載 (第4世代)

その頃、日本から高精度の新型クォーツ時計がヨーロッパ市場に押し寄せ、いわゆるクォーツショックが起こった。その結果、機械式時計は一夜にして需要がなくなり、その後何年もその状況が続いた。これはスイスの伝統的な時計メーカーの「大量死」につながり、残念ながらこの運命は1970年代末にニバダ グレンヘンの身にも降りかかったのである。

最も重要なアンティーク・リファレンスと価格

ニバダ クロノマスターで最も有名なモデルは第1世代 (1961年) のもので、リファレンスナンバーは「8221」だ。ヴィーナス210を搭載し、黒い文字盤に黒いインダイヤル。3時位置のインダイヤル (30分積算計) のカウントダウンタイマーにだけ、赤いカラーアクセントがついている。このタイマーはクロノマスターのほとんどの後継モデルに共通するものだ。8221をはじめとする第1世代、第2世代のモデルはその幅広のアロー針が特徴だ。

人気の高いアンティーク時計のほとんどがそうであるように、このモデルの価格も近年急激に上昇している。8年ほど前は、非常に良い状態の8221でもおよそ8万円~10万円で購入できたが、今では25万円を大幅に超える価格も決して珍しくない。状態や付属品にもよるが、販売業者が50万円前後の価格を要求してくることもある。こういった価格が実際に成立するかどうかは、買い手の交渉力にかかっているだろう。第2世代の後継機 (Ref.105/x) はバルジュー92を搭載しており、価格も同程度だ。

The Chronomaster ref. 8221, first generation, powered by the Venus 210 and featuring broad arrow hands.
クロノマスターRef.8221、ヴィーナス210と幅広アロー針を備えた第1世代

もうひとつの人気モデルはリファレンスナンバー85004/4076。「オレンジボーイ」の愛称でも親しまれているクロノマスターで、バルジュー23を搭載している。愛称の由縁は、3時位置にあるインダイヤルのオレンジ色のヨットタイマーと、オレンジ色の三角形のクロノグラフ秒針にある。また、旧型のクロノマスターと異なる視覚的な特徴は、グレーのインダイヤルや時、分、インダイヤルのペンシル針だ。このリファレンスは希少であり、非常に人気が高い。状態にもよるが、40万円から55万円程度の価格を想定しておいた方がいいだろう。

バルジュー23を搭載したリファレンス85004/3730も同じく人気が高い。この時計ではヨットタイマー部分とロリポップ針全体の赤いカラーアクセントが目を惹く。こちらも「オレンジボーイ」と同様の価格だ。また、パンダダイヤルのニバダ クロノマスターは黒い文字盤のモデルよりもかなり希少価値がある。そのため、キャリバーや状態によってやや高額になる傾向がある。

The Chronomaster ref. 85004/3181, second generation, powered by the Valjoux 23 and featuring lollipop hands.
クロノマスターRef.85004/3181、バルジュー23、ロリポップ針、第2世代

2020年、クロノマスター復活

レトロなデザインに現代的な技術を掛け合わせた時計は何年も前からトレンドになっている。ロンジン、タグ ホイヤー、ブランパン、ブライトリングなどの大手メーカーは、自社の過去のアイコンにインスパイアされたか、あるいは完全にそれにならって作られた新しい時計を定期的に発表している。クロノマスターのアンティークモデル人気がますます高まっていることから、若い起業家であり時計ブランド「William L. 1985 (ウィリアムエル1985)」の創業者であるギヨーム・レデ氏 (Guillaume Laidet) は、2018年にニバダブランドを復活させ、その後まもなくクロノマスターを再び世に送り出した。

クロノマスターは好きだが、アンティーク品は普段使いには向かない、あるいは、値段が高すぎるという方には、2020年に発表された復刻版を見てみて欲しい。ニバダは、セリタ社製キャリバーSW510 M BH bを搭載した手巻きモデルを合計10種類発表した。さらに4つのモデルにはセリタ社製キャリバーSW510 BH bを搭載しているので、自動巻きクロノグラフがお好きな方でも満足できるだろう。文字盤の色や針の組み合わせのバリエーションに加えて、購入者はホワイト スーパールミノバとダークなヴィンテージ夜光のどちらかを選ぶことができる。

いたずらにレトロなデザインを膨らませる多くの時計メーカーとは異なり、ニバダはステンレス製ケースの直径をきっかり38.3mmに設定している。文字盤デザイン、インデックス、針、ベゼルも同じく、ほぼ完全に1960年代、70年代のオリジナルデザインのままである。ただし、プレキシグラスだけは、今の時代に合わせてサファイアクリスタル製のガラスに変更されている。当時も今も、100m (10気圧) の防水性を備えている。

それぞれのバリエーションには、ステンレス製のさまざまなブレスレット、レザーストラップ、ラバーストラップとの組み合わせが用意されており、選択肢は非常に広い。そのため、その中からこれという一本を決めるのはなかなか難しいかもしれない。

黒い文字盤と幅広のアロー針を備えたリファレンス86014Mと86007Mは、1961年のアンティークモデル8221に最も近いモデルだ。86012Mはオレンジボーイ85004/4076を再解釈したもので、86010Mはパンダルッを採用している。リファレンス86011Mは、ロリポップ針を持つアンティークモデル8500/3730に代わる選択肢となり得る最良のモデルだ。

The current Chronomaster 86012M is a reissue of the Orange Boy 85004/4076.
現行のクロノマスター86012M、オレンジボーイ85004/4076の復刻版

その仕様を考えれば、価格は適正であり財布にも優しい。スチール製ブレスレットの手巻きモデルはすべて20万円前後であり、自動巻きモデルは22万円強だ。唯一の難点は、この時計はスイスから出荷されるため、ドイツでは関税がかかってしまうことだ。

まとめ

ニバダ クロノマスター アビエイター シーダイバーはアンティークモデルも新品も、クオリティーでは有名ブランドのモデルに引けを取らない、個性的で魅力的なクロノグラフだ。アンティークモデルは人気があり、状態が良ければコレクションするだけの価値が間違いなくある。購入条件と価格がすべて合えば、ぜひ購入すべきだろう。このモデルが大幅に値落ちすることはないだろうし、多くのコレクターの間ではずいぶん以前からカルトな人気を誇る時計となっているのだ。

復刻版では普遍的な美しいデザインを実質そのまま残し、新しいミレニアムへの移行を見事に果たした。しかし、さらに素晴らしいことに、オリジナルのサイズ、オリジナルを忠実に再現したケース、後付け型のラグによって、サファイアガラスを採用していたり、日常生活での使用に適していたりするにもかかわらず、純粋なアンティーク感が伝わってくる。他のメーカーもレトロウォッチではニバダの本物志向を見習うべきだろう。例えばタグ ホイヤー、そしてオータヴィアなどのように。


記者紹介

Sebastian Swart

すでに数年前からChrono24のサイトを時計の買取と販売、そして時計について調べるのに使っていました。私は子どもの頃から時計に興味を持っており…

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