このマガジン記事の焦点は、大金を必要としない、価値を重視した時計についてであることが多い。これにはいくつか理由がある。誰もが大富豪というわけではないし、大富豪でさえも必要以上の出費は好まない。また、内部に何百もの動くパーツが組み込まれている腕時計は小さな芸術品であり、時計収集は当然お金のかかる趣味である。とはいえ、魅力的で信頼性の高い一般の人向けの時計を提供するブランドは数多く存在するため、語るべき内容は尽きない。手頃な価格でヴィンテージウォッチを楽しみたい人にも、小売価格以下のミントコンディションの時計をお探しの人にも、1本ですべてをまかなえる時計をお探しの人にも、Chrono24にはすべてがそろう。とは言うものの、今回は通常の価値重視のアプローチは一旦忘れて、ラグジュアリーな高級時計の世界へ思いきり入って行きたいと思う。具体的には、Chrono24で最も売れている10万ユーロ(約1600万円)以上の時計トップ5をご紹介しよう。明らかに、これは憧れ的なカテゴリーではあるが、それでも宝くじが当たったらどうしようかと考えるのは楽しいものだ。では、リスト入りしたモデルを見ていこう。
1.パテック フィリップ アクアノート 5261R-001
まずはパテック フィリップ アクアノート アニュアルカレンダー 5261R-001だ。これは2023年にデビューした、アクアノートシリーズの最新作である。この時計は、みんながアクアノートについて愛するすべてのものを備え、そこにいくつかの追加機能が加わっているため、価格が高くなっている。これは薄型ケース、夜光塗料を塗布した針とアワーマーカー、防水性の高い「トロピカル」ストラップなど、典型的なラグジュアリーのDNAとスポーティーさのミックスだ。それに18Kローズゴールド製のケースとバックル、自動巻きアニュアルカレンダー キャリバー 26-330 S QA LUが加わっている。この知的さとスポーティーさが組み合わされた時計は、発売と同時に人気を博し、2024年の新作の目玉となったパテックのブルーグレー文字盤の最初の例のひとつとなった。この時計の小売価格は979万円となっているが、流通市場では約1600万円を超える需要がある。
2.リシャール・ミル RM67-01 Ti
驚くなかれ、リシャール・ミルがランクインだ。超富裕層の間でステータスシンボルとして名を馳せてきたこのブランドは、Chrono24でも1600万円以下で取引されるモデルがほとんどないため、トップ5に少なくとも1本が入るのは当然のことだ。チタン製のRM67-01は、まさにRMそのもの。超軽量で、堂々としたスポーティーさ、賑やかな見た目である。しかし、単色使いのカラーと日付コンプリケーションのみという、RM67-01はリシャール・ミルの中では控えめなモデルであることも忘れてならない。おそらく、それがカラフルなバージョンに勝る理由だろう。もうひとつの理由は、この「超薄型」モデルの着けやすさだと思われる。トノー型ケースのサイズは、直径38.7mm、ラグからラグまでの長さは47.5mm。しかし、厚さはわずか7.75mmで、手首にコンパクトに収まる。
3.ロレックス デイトナ 126506
重要なモデルもあれば、重要かつ重いモデルもある。無垢のプラチナから作られたロレックス デイトナ 126506は、イエローゴールドやローズゴールドのような他の貴金属よりも控えめに見える一方で、手首にかなりの重量感をもたらす。この時計は、ロレックス デイトナのスポーティーなレースの伝統を、最も「崇高」な金属のケースとブレスレット、そして印象的なアイスブルーの文字盤という豪華なパッケージで再構築したものだ。ロレックスは以前にもデイデイトにプラチナとアイスブルーの文字盤を採用しており、それは時計愛好家だけが知っている組み合わせだ。ただし、ロレックスは過去にジュエリーメゾンのティファニーとコラボしたことはあるが、これはここ数年よく見られるような、いわゆる「ティファニーブルー」の文字盤ではない点に注意するべきである。多くのオーナーにとって、この時計は憧れの時計であり、おそらくスティール製のデイトナから始まり、イエローゴールド製や特別仕様のデイトナを経て、このプラチナ製に辿り着いたことだろう。市場価格は11万ユーロ(約1780万円)前後となっており、登るには高い山である。
4.オーデマ・ピゲ ロイヤルオーク ダブル バランスホイール オープンワーク15407ST.OO.1220ST.01
名前だけでもお分かりのように、この時計にはたくさんのものが詰め込まれている。ジェラルド・ジェンタがデザインしたオーデマ・ピゲのロイヤルオークは、デビューとともに衝撃的な評判を得た。ベゼル上にビスが露わになっている時計であることは言うまでもなく、スチール製のスポーツウォッチがゴールド製のものよりも高い価格で販売されたのは、時計業界でも初めてのことだった。工場は慌てていたのだろうか?やがてこの時計は、APを世界で最も人気のあるブランドのひとつに押し上げた、価値ある定番時計となったのである。ダブル バランスホイール オープンワークは、ロイヤルオークのアバンギャルドな姿勢をさらに押し進めたモデルだ。特徴的な2つのテンプを備えたマニュファクチュール製キャリバーが、はっきりと見える。例えるなら、スーパーカーのエンジンをむき出しにしてランボルギーニを運転しているようなもので、それは素晴らしいものだ。
5.ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズトゥールビヨン スケルトン 6000V/110T-B935
ヴァシュロンによる、ロイヤルオーク オープンワークへの回答も負けてはいない。スティール製スポーツウォッチ、一体型ブレスレットのトレンドが業界を席巻する中、ヴァシュロンは有名なRef. 222のデザインにジェラルド・ジェンタではなく、ヨルグ・イゼックを起用した。この時計はその後、1990年代にオーヴァーシーズとして生まれ変わり、現在もヴァシュロンの最も人気の高いモデルとしてコレクションに残っている。このケースとブレスレットはスチールのように見えるが、42.5mm径の時計に予想以上の軽さを与えるため、チタンで作られている。この時計のベゼルとブレスレットのシャープなエッジには、鋭角的なファセットが施され、自信に満ち溢れたアグレッシブな個性を放っている。しかし、主役はそれではない。この時計はスケルトン化した文字盤から内部のムーブメントが見えるだけでなく、6時位置にはトゥールビヨンが配され、すべて見えるようになっている。ブランドのシンボルであるマルタ十字ロゴをあしらったトゥールビヨンが、ヴァシュロンならではのスポーティーさと洗練の融合を実現している。