今年のバーゼルワールド2019では、スウォッチグループ全体が著しく不在だったが、それでも例年のように燃え尽きるような1週間が過ぎていった。バーゼルワールド主催者側は事前に、今年の見本市がどのような点で例年と違うかについて、また、展示会期間中にバーゼル市内にある多くの連携ホテルの案内情報を載せたニュースレターを送信していた。そこでは、「出展者と来客者の利益を考え、バーゼル市にある2/3以上に相当するホテルとは展示期間中の宿泊料金について上限を定めた」とあった。これは確かに必須な変更点ではあったが、それでも実際は通常料金の4倍はした。
バーゼルワールド展示会場へ到着すると、その変化に早速気づいた。例年よりだいぶ規模が小さくなっている。いつもなら、スクリーンが展示され新商品が発表される正午、人々はロレックスのブースへ直行する。しかし、前日にそのリリース情報が流出してしまったことにより、多くの反応は肯定的とは程遠いものとなってしまった。タイトなスケジュールの上、40社ほどのブランドが出展しているため、バーゼルワールド全体を一度に視認することは無理だった。観覧途中で他のジャーナリストと何を見たかなどの情報を交換したりしたが、その際はっきりと熱意が欠けていることに気づいた。それでも今年のバーゼルワールドをちゃんと掘り下げようと思う。これ以上このイベントの鈍い雰囲気を伝えて、読者を退屈な気持ちにさせ手はいけないと思う。ここからは、私たちがバーゼルワールドを訪れた当初の課題であった時計について記載しよう!
ヴィンテージからのインスピレーション
2019年、レトロウォッチのトレンドは未だ健在している。そしていくつかの新作は、とても胸をふくらませる。最初に紹介するブランドは、ブライトリング。ブライトリングは、1959年に発売した806ナビタイマーの復興版を発表した。発表される数日前に、私はこの時計を一度目にする機会があったので、多少言えることがある。この復興版は、オリジナルと見事にほぼ同一の時計として再現されている。この1959本限定の時計が欲しいと思う方はすぐにでも行動に移さないと、手遅れになってしまうかもしれない。
チュードルは、1件の大発表で時計業界全体に衝撃を与えた。これまで多方面で噂として語られていた、1960年代に開発された米軍用の試作品を掘り下げたのだ。試作品が作られたというのは、長年噂として語り継がれており、このブランドの伝説となっていた。さらに、そのデザインが正規の時計として製造されたのかどうかは、今まで誰も知る余地がなかった。だが、この重大発表により全ての憶測が消し去られた。当時製造された時計は、2つのクラスプで固定されたベゼルが備えられていたが、最新モデルにはトップラグだけで固定された両方向回転ベゼルが備えられている。この時計が好きであろうがなかろうが、誰にでも興味を沸かせる1本であることは間違いないだろう。
他のブランドもヴィンテージ時計に触発されたモデルを紹介していた。オリスは、自社のビッグクラウン ポインターデイトから、目覚ましいディープレッド・ダイヤルが備えられたいくつかの驚くべきバージョンを発表した。そしてセイコーは、世界初のハイブリッド・ダイビングウォッチである「ソーラー・アーニー」ことセイコーSNJ025を含めた、数々の再リリースとなる時計を公開した。ちなみに、アーノルド・シュワルツェネッガーが、主演した「プレデター」でこの時計を着用していた。
色と素材
これまでと同様に、色と素材には重点が置かれていた。今回はブルーの文字盤が備えられたステンレス製のパテック・フィリップ パーペチュアル カレンダー ムーンフェイズ、またはグリーンの文字盤とラバーストラップが備えられたホワイトゴールドのノーチラスなど、馴染みのあるモデルから新たなバージョンが登場した。ノモスは、メッシュのブレスが備えられた新作をリリースした。オリスは、最新作である65を、ツートーン メタルブレスレットと合う自社初のツートーン ステンレスとブロンズ製時計で発表した。
ブロンズの素材を使用しているのは、長期戦に合わせて扱われているようだ。多数のブランドが発表した新作には、早く色褪せる素材を扱っている。チュードルは、ブロンズ製ケースとスモーキーグレーのグラデーションが効いた文字盤を備えて、意気込みを見せてきた。タグ・ホイヤーは、3針オータヴィアモデルの新作をツートーンで発表した。ホイヤーのこの時計、バーゼルワールド2019ではゴルフ用のスマートウォッチ以外では唯一の新作だった。
クロノスイスは、ファンキー・ブルーの色彩を持つグランド・レギュレーターを見せびらかしていた。ブルーといっても単なるブルーではなく、ケースや頑丈なホーンバックブレスを含め、時計全体が様々なブルーで輝いていた。個人経営ブランドのドゥ・べトゥーンは、独自のブルーの時計で有名だが、黄色い配色が見事なDB28 スティール・ウィールで私たちを驚かせた。さらに、DB27 フォート・エアロも発表した。使用されているローターは3Dプリントされている模様だったが、実情は教えてもらえなかった。しかし、3Dプリントされた時計を販売するミシェル・ホルセンリックスに尋ねたところ、私の予想に対して彼からの同感を得た。
小さめのサイズ
時計業界は、適度のサイズの時計を提供するように戻りつつある。個人的には、40mmの時計が完璧だと思う、といつか記載したが、モデルによっては何mmか上下する。私の手首は比較的大きい方だが、私自身は大きな時計を好まない。手首のサイズがそれほど大きくない人や標準的なサイズを好む人にとって、実際に着用できる時計を多く見れるようになったことは素晴らしいことだ。
最後に感想
5日間を通し、40社ほどのブランドをバーゼルワールドで観覧した中で受け取った主な印象は、多くは無難になってきているということ。時計の在り方を新しい方向へ導き、安全地帯から踏みはずそうと試みているブランドもあったが、結局のところ新作として発表されたモデルの多くは、予想可能なものだった。公平な立場を取ると、なぜブランドは毎年新作を発表しないといけないか、という疑問も浮かぶ。
バーゼルワールドで展示された最も注目すべきタイムピースは、個人経営のブランドによるものが多かった。だが、このような時計は価格が非常に高いため、一部のコミュニティーでしか手に入れることができない。それらは私の予算を大幅に超えているため、バーゼルワールド2019から時計を一本選ぶとすれば、セイコー プロスペックス SPB103J、赤のオリス ビッグクラウン、またはジン 206 アークティスだ。それぞれがお手頃な価格であるだけではなく、入手しやすい。そしてどれも素晴らしいコストパフォーマンスを持つ。
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