2017年06月20日 | 更新日: 2021年08月23日
 10 分

ETAムーブメント: 評価は良いがその真実は?

Robert-Jan Broer
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エテルナから独立したETA社は、何十年も前からスウォッチグループの傘下にある。ETAの目標は、比較的安価なクォーツムーブメントから、機械式ムーブメント、さらにはカレンダー機能やクロノグラフ機能を搭載する複雑ムーブメントに至るまで、様々な種類の時計ムーブメントを開発し、時計ブランドに供給することだ。

ETAムーブメント VS 自社ムーブメント

ETAムーブメントの大半は、スウォッチ、サーチナ、ティソなど、スウォッチグループの傘下に入っている時計ブランドに供給される。その多くは、複数のブランドによって共通に使用される汎用ムーブメントだ。しかし、例えばロンジンなど、ETAはそのメーカーだけに特別にムーブメントを製造することもある。またスウォッチグループ以外でも、多数の時計ブランドの異なるモデルにETAムーブメントが使用されている。その主な理由は、ブランドが抱える技術的、あるいは経済的な理由により、自社内でムーブメントを開発・製造することが難しいから。これは、小規模 (独立ブランドやマイクロブランド) のみでなく、大手の有名ブランドにも言えることだ。

その一例として挙げられるのが、オメガ のコーアクシャル クロノグラフ ムーブメント Cal.9300である。オメガがETAやその他のムーブメントメーカーからの受注を打ち切り、新しく自社ムーブメントの開発に取り組み始めた際、その投資額は1億2000万円を超えた。世界的に有名なオメガにとっても、これは非常に大きい出費だ。

ETA: 長い経験による価値の実証

タグ・ホイヤーキャリバー 7 ETAベース ムーブメント

ETA ムーブメント搭載タグ・ホイヤー カレラ 写真 : Bert Buijsrogge

メーカーが自社内で独自に開発するムーブメントの方が、ETAなどの外部ムーブメントよりも良いものなのか、という疑問が頭をよぎるかもしれない。しかし、ブライトリングIWCオメガなどの大手ブランドが長年採用し、信頼を置いているETA 2892-A2を例に挙げると気付くことがある。これらの汎用ムーブメントは、何百個、何千個と製造され、世界中の時計に使用されることによって、欠陥の除去や改善の過程がすでに長い年月繰り返されてきている、ということだ。このスケールの大きさと長い経験のおかげで、ETA社は確実に機能し続けるムーブメントを開発することができるのだ。

それでは、まだ実際に時計内で使用された経験が浅い、ブランドによる新型の自社ムーブメントはどうなのか?ブランドから発表される新しい自社ムーブメントの多くは、その価値を実証するまでにいくらかの期間を必要とし、その後も色々な経験を積み重ねていく必要がある (いくつかの時計メーカーにとっては変更の流れを把握することが負担になるだろう)。

ETA: さらなる利点

IWC シャフハウゼン 自社ムーブメント

IWC シャフハウゼン 自社ムーブメント  写真: Bert Buijsrogge

もちろん、自社ムーブメントで駆動される時計はそれなりに雰囲気が良いし、より特別感がある。汎用のパーツを使用して組み立てた時計より、マニュファクチュールが自社の時計のためだけに開発・製造したムーブメントを使った時計の方が魅力的だ。しかしこの点に関して念頭に置いておくべきことは、「自社ムーブメント」という言葉は、この概念が大好きな時計ファンやコレクターを惹き付けるためによく使われるマーケティング用語であるということだ。

つまり、自社ムーブメントがあなたにとって本当に価値あるムーブメントなのか、あるいはその名だけに意味があるのか、考えていただきたい。自社ムーブメントのすべてが外部から受注したムーブメントよりも優れている、と言えないことは明らかなのだから。「論より証拠」と言われるように、ムーブメントの価値が実証されるには、2年くらいかかる。

ETAムーブメントの使用にはさらなる利点がある。小さなブランドの自社ムーブメント搭載モデルを買う場合、そのブランドが今後もメンテナンス・修理を行う技術的・人材的なキャパシティを持ち続けられるかどうかを考慮に入れなければならない。しかし、ETAムーブメントはこの点に関して有利だ。ほとんどの時計ブランドはETAムーブメントを扱っており (時計技師の職業学校でも必須科目だろう)、部品を注文する際にブランドの特別証明などは必要なく、量産品のためコストも比較的安い。

自社ムーブメントの良さ

ノモス 自社ムーブメント

ノモス 自社ムーブメント  写真: Bert Buijsrogge

これまでの内容を読むと、自社内で開発されたムーブメントにはそれほどメリットが無いように思われるかもしれない。しかし、自社ムーブメントを使用した時計を買うべき理由もたくさんあるのだ。まず、自社ムーブメントは時計ブランドの職人的技量を表す。これは、自社内で独自のムーブメントを開発し、ムーブメントの「一般的事項」に対処できるブランドの能力を示している (例えばサイズの変更や、時計技師の作業をより簡単にするモジュラー構造の導入など)。

例えば時計ブランドがクロノグラフムーブメント ETA/バルジュー7750を採用する場合、特定の文字盤レイアウトと、ムーブメントがぴったりとはまるケースの厚みが必要となる。文字盤を新たにレイアウトすることもできるが、このような変更によってムーブメント自体の機能に問題が出てくる可能性もある。自社でムーブメントを開発・製造することは、自らが考案する時計にジャストフィットするものを仕立てることを意味する。それだけではなく、脱進機、ホイール構造、制御機構などにおいて一般的なやり方を選ぶ必要はなく、自らが好む機能的なソリューションを優先できる。自社ムーブメントに敬意が払われる理由は多くあり、これらは時計界の注目の的となる。これに対してETAなどの汎用ムーブメントは、時計ブランドからは「一時的なもの」として扱われることが多い。

注目すべきETAムーブメント

タグ・ホイヤー カレラ ETAベース ムーブメント

ETAベースムーブメント搭載タグ・ホイヤー カレラ  写真: Bert Buijsrogge

ETAが時計ブランドに供給している、最も注目すべきムーブメントに焦点を当ててみよう。場合によっては、ムーブメントの型番が各時計ブランドのナンバリングに変更されており ETAベースのムーブメントを採用しているか不明瞭なことがあるので注意が必要だ。チューダー2824 (ETA2824-2に相当) のように明白な場合もあれば、IWC79320 (ETA7750) のようにまったく異なる型番が付けられることもある。多くの場合、IWCやチューダーなどはベースのETAのムーブメントを大きく改造し、独自の (高い) 基準で完成させている。

概要に入る前にもう一つ言っておきたいのは、ETAによるムーブメントは様々なグレードで提供されている、ということだ。このグレードは、ETAが保証できる精度レベルによって分類される。ETAはスタンダード、エラボレーテッド、トップ、クロノメーター、といったような用語を使い、ムーブメントの精度がどのように調整されているかを示している。全てのETAムーブメントにすべてのグレードがあるわけではない。また、グレードは精度に関係するだけではなく、ムーブメントの装飾 (仕上げ) の程度も示している。

ETA2824-2

ティソ ヘリテージ ヴィソデイト ETAベース ムーブメント

ETAベース ムーブメント搭載ティソ ヘリテージ ヴィゾデート  写真: Bert Buijsrogge

チューダーの時計に採用されている基本的なムーブメントとして先ほど簡単に紹介したが、これはその他多くのブランドでも頻繁に採用されているETAムーブメントの一つだ。この自動巻きムーブメントには21個の受け石が使用されており、毎時2万8800回で振動する。ETA2824-2は多くのブランドのいくつもの時計を駆動しており、確実に機能する機構が必要な場合に「これぞ」と言われるムーブメントだ。そして、クロノメーター認定を受けている。

ETA2892-A2

チュードル ヘリテージ クロノグラフ ETA2892ベース ムーブメント

ETAベースムーブメント搭載チューダー ヘリテージ クロノグラフ

ETA2892-A2は数十年前から市場に出回っており、(大手ブランドの) 高級時計に多く採用されている。IWC、オメガ、ブライトリングや他多数の有名ブランドが、長年このムーブメントを扱っているか、過去に扱っていた。またこのムーブメントは、1999年に発表された初代オメガ コーアクシャル シリーズとそれ以降のムーブメント (オメガ Cal.2500) のベースとなっている。ETA2892-A2は自動巻きで、毎時2万8800回で振動。受け石の数は21個で、42時間駆動する。チューダーはETA2892-A2を、ヘリテージクロノなどのクロノグラフのベースとして採用し、ETA2892-A2の上にクロノグラフ モジュールを取り付けている。これはプッシュボタンとリューズの配置で見分けられ、プッシュボタンがリューズより高い位置にある場合、モジュール構造の「ピギーバック」ムーブメントが使用されている。

ETA7750

ロンジーン コンクエスト ETA 7750ベース ムーブメント

ロンジーン コンクエスト ETA 7750ベース ムーブメント 写真: Bert Buijsrogge

ETAキャリバー7750は、クロノグラフのムーブメント専用に作られており、クロノグラフのために設計と構成が施されていることとなるが、上で述べた「ピギーバック」ではない。バルジュー社がその後ETA社の一部になったため、ETAキャリバー7750は1973年以降、バルジュー7750という別名を持っている。これは、1970年に開発され発表された(伝説的な)バルジュー7733の手巻きクロノグラフムーブメントを基本として設計されている。ETA7750は自動巻き版で、いくつかの異なる装いで提供されている。

ETA7750にはクロノグラフ機能の他に、曜日と日付表示が搭載されている。ETA7751では、それに加え月表示とムーンフェイズが搭載されている。他の有名なバリエーションはETA7754で、EA7750とほぼ同じだが追加で他のタイムゾーンが表示されている(24時間)。ETAキャリバー7750は市場では最も信頼できるクロノグラフ ムーブメントとして認められており、多くのクロノグラフで見受けることができる。13万円以下の時計から高級時計まで、ETA7750が採用されている時計の多くは美しく装飾されているか、スケルトンケースバックで眺められるようになっている。

IWC79320はETA7750のバリエーションの一つで、IWCパイロット クロノグラフで使用されている。他にETA7750を採用している (またはしていた) メーカーには、パネライ、ブライトリング、オメガ、ジン、ポルシェ デザイン、タグ・ホイヤー、ロンジン、オリス、ティソ、ハミルトン、ラドー、ショパールなどがある。さらには、ピーター・スピーク・マリンやアラン・シルベスタインなどもっと小規模なブランド (知る人ぞ知るブランド) の時計にも使用されている。

ETA社はクロノグラフムーブメント ETA7750 (及びそのバリエーション) を、各時計メーカーの要望に応じて異なるグレードで提供している。


記者紹介

Robert-Jan Broer

フラテロ・マガジンの創業者であるロバート=ヤンは、2004年以降時計に関して執筆しています。しかし、時計ファンになったのはそれよりずっと前です。彼の初めての機…

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