2023年07月04日
 6 分

HYTの時計と時計製造技術の未来

Donato Emilio Andrioli
HYT-2-1

HYT、またはハイドロ・メカニカル・オロロジスト(Hydro Mechanical Horologists)と呼ばれるこのブランドは、時計製造において、「オートオルロジュリー4.0」という独自の理念を掲げている。この記事で皆さんにHYTというブランドを紹介していく中で、これが意味することがきっとわかってもらえるはずだ。2012年に創立されたばかりの若い時計ブランドでありながら、画期的なブランドであるHYTについて見ていきたい。

HYT Moonrunner Supernova Blue Titanium
HYT ムーンランナー スーパーノバ ブルー チタニウム

H1と呼ばれる時計がHYT初のモデルで、同年のバーゼルワールドで発表された。(このモデルについては、以下で詳しく説明したい。)また、同年HYTはジュネーブウォッチグランプリ2012でイノベーション賞を含む3つの栄誉ある賞を受賞している。現在HYTが独自の技術によって、世界中の高級時計ファンの心をつかんでいることを考慮したら、これはそれほど驚くことではないだろう。HYTは、時刻を液体で表示する世界でたった1つの時計ブランドだ。色の付いた液体が、キャピラリーチューブを通して文字盤の周りを動くことで時間を表示する。分や秒の表示には従来の針が採用されている。2020年のパンデミック時には、売上が40%減少し倒産を余儀なくされたが、ロレックスの兄弟ブランドであるチューダーのブランドイメージを刷新した実績のある当時のダビデ・チェラートCEO(現ブレモンCEO)は、HYTの存続のためにブランドの再生に着手。以降、ラインナップには常にワクワクするようなモデルが揃っている。HYTは時計業界の未来と言えるのだろうか。

HYT コニカル・トゥールビヨン ブラック・エクリプスは、手首に身に着ける恒星系のような時計だ

直径48mm、ラグからラグまでの長さが52.30mm、そして25.15mmもの厚みがあるHYT コニカル・トゥールビヨン ブラック・エクリプスは、ほぼ怪物のような大きさの時計だ。しかし、革新的な技術を詰め込み、数多くの驚きに満ちた桁違いとも言えるこの時計には、巨大なサイズは必要不可欠だ。HYT コニカル・トゥールビヨン ブラック・エクリプスは、日常生活で何気なく着用できる時計ではない。むしろ、これは自分が時計愛好家であると言わんばかりのステートメント的な時計だと言える。66のパーツから成るマットケースはカーボンファイバーとブラックコーティングされたチタン製だ。もちろん、HYTはここでも独自のセールスポイントを欠かしていない。液体を使った時間表示だ。ベローズの機構により、2つの液体が混ざることなくチューブに送り込まれ、正確な時刻が表示される。グリーンの夜光数字はグリッド状の構造の上に取り付けられ、マットブラックの小さな針が分を表示している。この時計の絶対的なハイライトは、拡大レンズなしで見ることができ、30秒ごとに時計回りに回転するというコニカル トゥールビヨンだ。緑色の3つの回転ボールが、時計回りに異なる速度で回転するという印象的な動きを見ることができる。HYT コニカル・トゥールビヨン ブラック・エクリプスは、533個の部品からなる手巻き式キャリバーT01-TCを搭載し、40時間のパワーリザーブを備えている。ケースの裏盤からは、印象的でユニークな技術が垣間見える。全体的な配色に合わせて、この時計にはグリーンのステッチを施したブラックのラバーストラップが付属している。まるで手首に惑星や小惑星をまとっているかのように見える魅惑的なこの時計は、世界限定8本で、価格はなんと6000万円を超える。

Eine außergewöhnliche Uhr: Die HYT Conical Tourbillon Black Eklipse hat eine limitierte Auflage von gerade mal 8 Stück.
8本のみの限定生産 HYT コニカル・トゥールビヨン ブラック・エクリプス

HYTの定番 – HYT H1

次に紹介するのは、先の紹介したモデルに比べると手頃な価格のモデルだ。HYT H1は、二次流通市場での価格は “わずか” 300万円ほどとなっており、HYT時計の定番モデルとされている。というのも、これはHYTがバーゼルワールド2012に初めて公開し、時計業界に旋風を巻き起こしたモデルなのだ。水時計のアイデアはファラオの時代にまで遡り、3500年以上前に時間を測定するために使用されていた。しかし、H1を実現するのは容易ではなく、当時のHYTのデザイナーと時計師にまったく新たな課題を突きつけることになったが、その結果として、一夜にしてHYTを有名にし、名誉ある賞を獲得した時計が誕生したのだ。チタン製のHYT H1は直径48mm、厚さが18mmある。時間はHYTの典型的な緑色の液体で表示されるが、H1では分表示に大きなインダイヤルが使用されている。秒表示は右側にあり、必然的に水車を連想させる。パワーリザーブインジケーターは反対側にあり、パワーリザーブは65時間もある。印象的なムーブメントはサファイアクリスタルケースバックから確認でき、きっと何度もこのアイコン時計の裏盤を眺めたくなることだろう。100mの防水性を備えたHYT H1は、少なくとも着用する勇気があるならば、普段使いにも最適だ。

Der Klassiker unter den HYT-Uhren: Die HYT H1
HYTの時計の中でも定番のHYT H1

HYT H0 – HYTにしては少し控えめな時計

最後に紹介したいのは、HYTの他のラインアップと比較すると控えめにも見えるHYT H0だ。特に印象に残ったのは、いわゆるレッドカーキのバージョンだ。アンスラサイトDLCコーティングされた48.8mmのステンレススチール製ケースは、カーキの文字盤、カーキグリーンのラバーストラップを備えている。これは、時計業界ではあまり見かけないカラーコンビである。特に時間を示す赤い液体が筆者のお気に入りだ。また、分、秒、そして65時間のパワーリザーブ表示はインダイヤルに表示され、文字盤の下部からはムーブメントの一部をわずかに垣間見ることができる。また、時計を裏返すとすぐにその素晴らしさを存分に楽しむことができ、サファイアガラスの裏蓋からはキャリバーの動きを確認できる。レッドカーキバージョンのHYT H0は中でも非常に珍しい時計で、世界限定25本となっており、市場価格は現在およそ400万円となっている。

Kommt für HYT-Verhältnisse fast schon zurückhaltend daher – die HYT H0 in der auf 25 Stück limitierten Red Khaki Version
HYTの基準で見るとほぼ控えめにも見える、世界限定25本のレッドカーキバージョン HYT H0

HYTは時計製造技術の未来なのか?

時計業界が創造的なアプローチで私たちを驚かることを、喜ぶべきだと思わないだろうか?HYTの時計は芸術品であり、同ブランドは型破りで大胆なデザインを好むすべての時計ファンを魅了する術を知っている。ただ、筆者の意見ではあるが、HYTのような技術が今後の時計業界を完全に制覇するとは思ってはいない。これを行うにはモデルが特異で主張が強すぎる。しかも、HYTはその価格設定によって比較的少数の顧客のみをターゲットにしており、顧客も他の高級時計ブランドにはないような、ユニークで希少な作品を望んでいる。液体で時間を表示する方法に関しても、筆者は未来的とは思っていない。独創的ではあるものの、従来の時針の方が読みやすいということもある。しかしながら、HYTのようなブランドは見逃せない。時計業界では、シンプルにできること対して、複雑で革新的な技術が必要になる場合もあるのだ。

こちらの記事もぜひご覧ください:超究極の時計トップ10


記者紹介

Donato Emilio Andrioli

チューダー ブラックベイ41という機械式時計を始めて買って以来、機械式時計の虜になってしましました。特に、古くて感動的な歴史を持つアイコン時計が大好きです。

記者紹介

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